ホントウの勇者

さとう

酒の町バッカスビル④/カクテル・意外な訪問



 《ようジュート…最高のカクテルが出来たぜ》
 「ええ、全てアグニ様のおかげです」


 店に入った俺とリプラを待ち受けていたのは、アグニのこんな一言だった


 「そ、そりゃよかった…」
 「お父さん、大丈夫?」


 フィガロさんは目の下にクマを作っていた。新装開店前に倒れられても困る、今日はゆっくり休んで貰おう


 「フィガロさん、掃除は俺たちがやるんでゆっくり休んで下さい」
 「いや…しかし」
 「いいから!! お父さんは休んで!!」


 リプラのお叱りは効いたらしい。フィガロさんはすごすご2階に上がっていった
 ちなみに店の2階は掃除して生活スペースになっている。そんなに広くは無いが3部屋あり、家族2人で暮らすには十分な広さだ。なのでスラムのあの家は引き払い、引っ越しをしたのだ


 俺とリプラ、ついでにアグニで掃除をする
 アグニが逃げようとしたので酒を人質、いや酒質をとり掃除させた


 《ったくなんでオレが掃除を……》
 「お前も散らかしたんなら掃除しろよ、クロに怒られるぞ?」
 《グッ……確かに》


 アグニはクロに頭が上がらない。これも今までの付き合いでなんとなく分かった


 掃除が終わるとアグニは帰ってしまう
 とりあえず今日は休んで、フィガロさんの仕込み状況で開店日を決めるか


 「リプラ、今日はどうする?」
 「はい。今日はお父さんと一緒にいます。起きたらご飯を作らなきゃ!!」


 リプラも役に立ちたい、と言うので簡単な料理を教えた。最近の食事はすべてリプラが作っていた


 「じゃあ俺は帰るか…また明日来るから、じゃあな」
 「はい。おやすみなさい」




 俺はリプラの頭をひと撫でして宿に帰ることにした




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 というワケで次の日…〔バー・リプラ〕の朝


 フィガロさんは朝起きて買い物・仕込みを済ませて準備を終え、着替えも済ませていた
 服装は新しく買ったシャツにベストにスラックス、蝶ネクタイもして髪も整えた


 「な、なんだか恥ずかしいな」
 「お父さん、かっこいいよ!!」


 リプラに言われてまんざらでもなさそうだ


 というわけで時間は夕方4時くらい…〔バー・リプラ〕はオープンした


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 「……うーん、来ないな」
 「ですね……」


 開店して30分……お客は来ない
 外に新しく立て看板も設置してある。「静かに酒を楽しみたい方、女性の方、そんなあなたにオススメのお酒があります。ぜひどうぞ!!」って感じの文章で作った


 ちなみに俺もフィガロさんと同じカッコをしてる……自分で言うのも何だが似合ってる気がする
 とにかく…お客を待とう。そうだ、チョットだけ外の様子を見てこよう


 「フィガロさん。チョット外の様子見てきます」
 「ああ。行ってらっしゃい」


 俺はドアを開けて外に出た


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 外は薄暗いが雪は降っていない。この町は除雪が行き届いてるので雪が積もる事はあまりない。道路も綺麗だし、町を歩いてる人も沢山いた


 そんな中、俺は見覚えのある二人組が歩いてくるのを見かけた


 「あれ?……お前等」
 「あっ」
 「え!?」


 コイツら、俺をはめた二人組の女魔術師だ


 「よう、相変わらずカモを探してんのか?」
 「ち…違う、もうアレは卒業した!!」
 「そうよ、今はマジメに冒険してるんだから!!」


 そーですか……そうだ、コイツらに第一号になって貰おう


 「お前ら、ヒマか?」
 「え?……まぁ、帰るトコだけど」
 「うん。これから夕食」
 「ふーん、じゃあ酒は飲めるか?」
 「まぁ…強いのはダメだけど嫌いじゃない」
 「あたしは平気だけど、男達がやかましいから一緒はイヤ」


 ほうほう…やっぱり需要はあるな。


 「夕食がてら飲んでいかないか?…俺のおごりだ」


 そう言って店を指さす…二人はそこで俺の服装に気がついた


 「……あなたのお店?」
 「いや、手伝いだ」
 「ふーん……おごりか、どうする?」
 「いいんじゃない? でも、うるさいのはなぁ…」
 「安心しろ、まだお客はいない…お前達が最初だ、それに…きっと気に入る」
 「う~ん…そこまで言うなら」
 「ええ、いいわよ」


 お二人様ごあんな~い!!


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 ドアを開けるとカランカランと音がする


 「いらっしゃいませ」


 フィガロさんの渋い声が出迎えの、シックなBGMが店内を満たしている


 「え?……ここ、酒場…だよね?」
 「ああ、とりあえずカウンターにどうぞ」
 「は、はい……」


 思わず敬語になってる2人…辺りをきょろきょろ見てる


 「さて、お飲み物はいかが致しますか? 当店オススメのカクテルがございます」
 「か、かくてる?」
 「えっと、なにそれ?」


 まぁそうだよね、分からないよね…たしか


 「え~っと、アンタは強いのでいいか? そっちは甘めにしとくか?」
 「え、あ…お願い。あとあたしはレムよ!!」
 「私もいい、私はノンよ」


 2人あわせてノンレムか…よく眠れそうだ。レムは甘めでノンは強め、フィガロさんは手早く作る


 「どうぞ…お召し上がり下さい」


 2人の前にカクテルが出される。レムの前には大きめのグラスに緑色の液体が注がれ、中に様々な果物が入っている。グラスと一緒にスプーンが出されて最初に酒を飲み、途中で果物を口にすると伝えた


 ノンの前にはロックグラスが出され、丸く削った氷が入り、その中に赤い液体が注がれている。さらに付け合わせにチーズやクラッカーが小皿に出された


 「「………」」


 2人は目の前の酒を見つめて固まってる。初めて見る飲み物だし、どうすればいいのか分からないんだろう


 「ほら、早くのめよ」
 「あ、はい…いただきます」
 「いただきます」


 レムはグラスの中の果物をこぼさないようにゆっくりと飲み込み目を見開き、スプーンを掴んで果物を食べ始める。ノンは匂いを嗅いで少し口に含み、顔をしかめてチーズを食べた


 「「おいしいっ!!」」


 そしてハモった……


 「おいしい…これ、甘いけどちゃんとお酒だ…しかも果物もお酒が染みこんでスッゴく美味しい!!」
 「これキツイわぁ…でもなんかクセになりそう……おいしい」


 ノンレムは満足してる……よかった


 「料理も出すからな。今日のオススメはカレーだ、どうする?」
 「か、かれー……初めて聞いた」
 「おいしいの?」
 「ウマいぞ、辛いけどな」


 「「お願いしますっ!!」」


 ノンレムは満面の笑みで答えた


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 カレーも大好評だった。おかわりもしたし


 「おいしかったぁ……大満足!!」
 「ほんと…いいお店見つけちゃった!!」
 「ここは静かに吞みたい人や騒ぐのが苦手な女性なんかをターゲットにした店なんだ。良かったら知り合いをつれてまた来てくれ……今度は金払って貰うからな」


 「「はーい。ごちそうさま」」


 2人は大満足で帰って行った。もちろん俺が支払った
 若い女性相手でもかなりの好感触だ。これはイケるな


 「いやぁ···苦労して考えて作ったお酒を、あんなに嬉しそうに飲んでくれるなんて···いいものだね」


 「ですね······」




 この日のお客さんはノンレムだけだったが、まぁいい。これからきっと繁盛するだろう




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 次の日から徐々に忙しくなっていった


 ノンレムが友達の冒険者を連れてきたり、口コミでカクテルが広まっていき、店は忙しくなっていった。


 店はそんなに広くないのでフィガロさんだけでも対応できるし、リプラも手伝いをしたいと言うことで簡単な料理を作らせたりしてだいぶ楽になった。リプラはフィガロさんから店で出す料理全てを学び、カクテルはフィガロさん、料理はリプラと分担して作業した


 男のお客さんも来たが、店のダークな雰囲気に当てられて、騒ぐ人は出ず、静かな場所で厳かに酒を飲む···という未だかつてない試みは大成功となった


 フィガロさんの提案で店の奥に小さな個室を設け、予約したお客さんに料理とカクテルを提供することを始めたら、瞬くまに予約が殺到···一ヶ月待ちになった。このお客さんはほとんどカップルで、店の噂を聞きつけ美味しい酒と料理を個室で食べる雰囲気が素晴らしいと大絶賛だった


 バーには合わないと思ったが、一応マスターから貰ったケーキのレシピもフィガロさんに渡した。ケーキの数は4種類ほど···マスターなら今頃もっとスゴいレシピを作ってるよね


 ケーキの登場で店はさらに忙しくなった。昼にランチの時間に取り入れ、夜はバーの営業···しかし、席が少ないので負担はそんなにかからない。程よく疲れる程度の忙しさだ


 お客さんは八割が女性だった。男性の二割は個室の予約の男性だ。オシャレな雰囲気に合う男性はこの街にはあんまりいないみたいだ


 俺の仕事もここまでかなぁ···


 営業再開から二週間···店は大成功だった




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 「こんばんはー」
 「こんばんは」
 「よう、ノンレム。まぁ座れよ」
 「だから繋げんなって‼」


 ノンレムはすっかり常連だ
 モンスター討伐の依頼や、薬草や鉱石採取の依頼を受けて順調にランクを上げてるらしい。コイツらに関しては俺は敬語を使うつもりはなかった


 「今日はBレートのモンスター退治の依頼だったの、疲れた〜」
 「ま、楽勝だったけどね‼」
 「へぇ〜、やるじゃん」


 この二人の相手は俺、フィガロさんも混ざって話す事がけっこう多かった


 「そういえばさ、今日、町の中央の宿屋にまた聖女が来てたよ」
 「そーいえばそうだね。前にここ出て近くの村で治療をしてたらしくて、これから王都に戻る為の補給だって聞いたよ?」
 「······そうなのか」


 俺はフィガロさんの様子を見る


 「·············」


 フィガロさんは無言でグラスを磨いている
 リプラを見殺しにしたこと···まだ許せないみたいだ


 ノンレムの話を聞き、たまに相槌をつきながらサービスを続ける······そして、ドアが開く音がした


 「いらっしゃ······⁉」


 フィガロさんが固まった···なんだ?


 俺はドアを見て、そこにいる人物を見て驚いた








 「こんばんは。いいお店ですね」








 そこにいたのは【聖女】






 【白の特級魔術師 ウィゼライトク・クラック】だった





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