ホントウの勇者

さとう

酒の町バッカスビル②/お節介・酒場再生



 男の人は路地裏のぼろい建物に入っていった。悪いけど俺は声を掛けて勝手に入らせて貰う


 「な、なんだアンタ……ここには何も無いぞ!!」
 「あの、宿屋であなたを見た者です。勝手に入ってスミマセン。子供を見せていただけますか?」


 俺は子供を探す…いた。ぼろいソファの上に寝かせられている
 10歳くらいの女の子でボロボロの服に髪もボサボサ、頬はやせこけて見るからに栄養失調だ。身体からは汗を吹き出し、辛そうに呻いている。たぶん…抵抗力が無いから身体がウイルスに負けてるんだ…よし


 「【白】の上級魔術、【完全なる状解ディスオール・ヘレナ】」


 怪我を治す上級魔術が【無垢なる光セイファート・ライフ】に対し、この魔術は病気に対する上級魔術だ。身体の中のウイルスを駆逐し、魔力を栄養素に変えて投与する…これで一時しのぎにはなる


 女の子の呼吸が安定し、寝息もおとなしくなった……もう大丈夫だ


 「とりあえず治りました。栄養のある物を食べさせてあげて下さい」
 「お。おおお…おおおおお!!」


 男の人は膝から崩れ落ちて泣き出した


 「あ、あなた様は一体……なぜ娘を救ってくれたのですか?」
 「え?…だって苦しそうだったじゃないですか?」


 なんでそんなこと聞くんだ?


 「あ、ありがとうございます…あなたはまるで、聖人だ。聖女なんて目じゃない!!」
 「あ、ど…どうも」


 なんか調子くるうな……でも、聖女か…気になるな




 「あの…聖女って何なんですか?」




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 おじさんの話を聞くと、聖女はこの【白の大陸】を回りながら治療活動をしてるらしい。病気や怪我を治しその美貌と笑顔から周囲は崇拝しているが、実際は高額な治療費を取り、貧乏人は相手にしない。病気で行き倒れてる浮浪者などを見てもそのまま素通りする事も珍しくないそうだ


 しかし、金を払えないのはごく一部で、実際はかなりの人間を救っているらしい。なので王都では聖女として祀られて、専用の教会まであるそうだ···うーん


 俺はなんとも言えない気持ちだった。金を払えないから治療が受けられない···それは当たり前のことだ。たとえ俺のいた世界でも、行き倒れの浮浪者に手を貸す人間はどのくらいいるのだろうか


 この聖女が間違っているのか? それとも聖女の思惑とは別の意志があるのか? 聖女は利用されてるだけなのか?······考えるとキリがない


 俺はどこかで【特級魔術師】は全員いい人間という固定観念に捕らわれていた。クロの言ったとおり、そうじゃない人間もいる···一度話してみるか、いや···どんなやつか話してみたいな


 俺の意識は、【白の特級魔術師】に向けられていた






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 「う···ん、お父さん?」
 「リプラ⁉ 大丈夫か⁉」


 女の子が起きたようだ···が、顔色はまだ悪い


 「お父さん···お仕事は?」
 「お前を放って行けるワケないだろう⁉」


 ああちくしょー···こんなの見せられて、はいサヨナラなんて出来るわけない。助けてやりたい


 「えと、とりあえずご飯でもどうです?」
 「え···お客さん?」


 この子に栄養を取らせなくちゃな、まずはそこからだ




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 俺はひたすら遠慮するおじさん···フィガロさんを黙らせて、女の子···リプラの相手をお願いする。その間に余り使われてないキッチンを掃除して食事を作った


 リプラのメニューは細かい野菜を入れたお粥、俺とフィガロさんはパンと肉野菜炒めとスープだ。リプラはまだ弱っているので消化の良い物にした


 「出来ましたよー」


 食事をテーブルに並べて席に着く。リプラはまだフラフラだったので、テーブルをベッドの側に移動させて食事をした


 「あ、あの···お代は」
 「いいですから、冷めちゃいますよ?」


 みんなで食事を始める······ああ分かってる···ただの自己満足だ。この二人を助けたい、本当にそれだけだ。やるからには最後まで面倒見てやるさ


 「お、おいしい·········うう」
 「リプラ···ゆっくり噛んでな」


 泣いたリプラをフィガロさんが優しくなだめる


 俺はその光景を眺めていた


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 リプラは食事を終えるとまたぐっすり眠ってしまった。俺とフィガロさんは食事の片付けをして一息つく


 「本当にありがとうございました。貴方のような方がいるとは思いませんでした」
 「いやいやそんな、気にしないで下さい。あのー···失礼ですがお仕事は宜しいんてすか?」
 「はい、どうせ店を開けた所でお客は来ませんから···」


 なるほどね、店を経営してるのか


 「あのー、どんなお店なんですか?」 
 「え? ああ、酒場です。でも···町にはもっと良くてキレイで大きい酒場がたくさんありますので、私の汚くて狭い店など誰も求めてませんから」


 うーん、結構追い詰められてるな···どうしたもんか
 マスターのケーキみたいに起死回生の一手で店を再興させるって手もあるけど、問題が1つある······それは




 俺には酒の知識がない




 どうすりゃいいんだ?
 こんなんじゃどうしようもないぞ···うーん。まさか大金を置いてサヨナラするなんてことは出来ないし、根本的な解決にならない


 とりあえず···店を見てみようかな? 何かアイデアが浮かぶかも


 「あの、フィガロさん。俺に店を手伝わせて貰えませんか?」
 「ええ?···しかし、賃金などは···」
 「いえ、要りません。その代わりに色々試させて下さい」
 「試す?······はぁ、どうせ閉めようと思っていた店なので、構いませんが」
 「ありがとうございます。その代わり、生活費などは援助させて頂きます」


 俺の提案にフィガロさんは同意した。恐らくもう諦めているのだろう


 酒場か······うーん、どうすればいいかな?




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 次の日の朝、動けるようになってきたリプラと一緒に朝食を食べる


 「おいしい。ジュートさんは料理が上手なんですね」
 「そうかな? 男の手料理なんてこんなもんだぞ?」
 「いやぁ、なかなかですよ。私も仕事柄料理はしますが、ジュートさんはいい腕をお持ちだ」


 褒められて悪い気はしない···ちょい照れるが
 食事の片付けをして家をでる。リプラも行きたがっていたが、今日は遠慮してもらった。もう少し元気になったらな


 「それではご案内します、こちらです」


 フィガロさんに案内してもらい町を歩く
 周りには西部劇に登場しそうな大きくて派手な酒場がたくさんあった


 「私の店もこのくらい大きければ······」


 フィガロさんの悔しさが伝わってくる。仕方ないよね
 そのまましばらく歩き、町のやや外れにそれはあった


 「こちらです···笑って頂いて構いませんよ?」
 「············」


 住宅の間に挟まれた、横幅5メートルほどの2階建ての木造建築。ドアは一般的な開き戸でなかなかしっかりした作りだ。中に入ると埃っぽい、カウンター席が5つに2人がけ席が3つだけの店で、奥行きはあるが幅が狭く、大人数で来れるような店ではない


 店内はボロいランプ魔道具だけの明かりで薄暗く、カウンターの後ろは酒の管理スペースだが、酒は全くない。一応小さな魔道冷蔵庫と水場にコンロは設置されてるがほとんど使ってなさそうだ。これは大衆酒場よりバーの雰囲気だな




 「へぇ···なんかバーみたいなお店ですね、ここではカクテルなんかも出すんですか?」




 俺はなんとなく質問したが、予想外の答えが返ってきた






 「えっと···ばー?···かくてる?···って、なんですか?」






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 どうやらこの世界にはバーもカクテルもないみたいだ。フィガロさんに聞いて見ると、冒険者や傭兵は酒を浴びるように飲むため味のこだわりはないらしい




 ·········まてよ?




 酒を飲むのは男だけじゃない。女の人も飲むよな? この町にあるような大衆酒場じゃなくて、もっとオシャレなカクテルを飲めるような静かなバーみたいな雰囲気の店があれば······


 ターゲットを男じゃなくて女の人にする。もちろん男もが来てもいい。もしかして······イケる?


 でも······カクテルなんてわかんねーぞ? 確か···リキュールだのジンだの色々あるんだよな?······ちくしょう、こんな時にパソコンがあれば調べられんのに


 「どうかしましたか?」


 「あの〜···一応アイデアがあるんですけど···」




 俺はこのアイデアをフィガロさんに話してみることにした




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 「········素晴らしい。考えもしませんでした、まさかターゲットを女性にするとは······」


 「はい、でも···カクテルがなぁ、俺は酒の知識がないのでなんとも······」


 「それは私にお任せ下さい。私もプロです、酒と酒を混ぜ合わせ新たな味を作る···やってみましょう」


 なんだろう、ものすごい気合を感じる


 「そこでお願いが······どうか資金援助をお願い出来ないでしょうか?···必ずお返し致しますので、どうか‼」


 「わかりました。じゃあとりあえずコレを」


 「ええ⁉ いいんですか⁉···全く迷いがありませんでしたよ⁉」


 「はい。じゃあカクテルはお願いします。俺は店の外観、内装をいじってみます」


 「·········は、はい」






 フィガロさんは手にゴルドカードを握ったまま頷いた。よし、酒場再生プロジェクト、いざ開始だ‼





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