ホントウの勇者

さとう

酒の町バッカスビル①/お酒・募る不安



 魔導車を走らせること数日…ついに見えてきた


 《おほーっ!! あそこが酒の町かぁ、くぅーっ興奮してきたぜ!!》
 「お前、頼むから人前に出るなよ? 酒どころじゃなくなるぞ?」


 そう、俺の隣には興奮したアグニが座っている…酒の町が楽しみすぎて我慢できないらしいのだ


 「ったく…好きな酒山ほど買ってやるからおとなしく引っ込んでろよ。いいだろクロ?」
 《仕方ないワネ…ただし、買うのと飲むのは別ヨ》
 《わーってるっつの…ぐふふ》


 ほんとにわかってんのかよ…不安だ


 《じゃあ頼むぜジュート、お前の様子はずっと見てるからな!!》


 そう言い残してアグニは消えた。やれやれ…どんだけ酒好きなんだよ
 アグニはともかく…酒の町か、俺でも飲める酒があるかな?


 ほんの少し期待しつつ町へと進むのだった




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 この【白の大陸】はほとんどの地域が雪が降る寒冷地で、どの家庭にも必ずと言っていいほど暖房器具と除雪道具が常備してある。ここに住む人たちの基本食は肉とパン、野菜などは一部のものしか育たないので小麦などと一緒に仕入れをしている


 それと一番多く仕入れをしているのはコメやブドウ、麦などの酒の材料だ。体を温めるのは暖房器具だけではなく、酒を飲むことにより体の中から温まるのもよしとされ、自分好みの酒や焼酎、ワインにビールに果実酒にウイスキーなど、いろいろな酒を造り飲む


 それが一番栄えているのがこの〔酒の町バッカスビル〕なのだ


 町には酒蔵っぽい建物や蒸留所などがあふれ、とりわけ多いのが酒屋と酒場。この世界には法律があってないようなものなので、子供でも飲めるような甘い酒も販売してる。おつまみにはモンスターの腸詰め、お漬物、乾き物なども充実してるため飽きることがなく、目的がなくてもこの町に集まる冒険者や傭兵は多い


 そんな大人の町に俺は足を踏み入れた


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 町の中は陽気なお祭り騒ぎだった


 誰もが楽しそうに笑い、周囲は笑顔で溢れている。辺りからは酒の匂いが漂い歩くだけでも酔っ払いそうだ。肩を組んで歌っている冒険者や、ケンカをしている傭兵、座り込んで船をこいでる人もいればベンチに座って寝てる人もいる


 とりあえず宿を探して買い物、それから観光かな


 しばらく歩き町の中心に行くと、各ギルドに商店や大きな酒場や酒蔵がある。とにかく大きめの宿屋に入り部屋を押さえることにした


 〔酒の楽園〕という名の宿屋に入る…そこは1階部分が酒場になっていて既に何人かの冒険者が酒を飲んでいた。俺は先に部屋を押さえるために受付に行く


 「スミマセン、部屋をお願いします」
 「はいよ、えーと…最上階しか空いてないね」
 「大丈夫です、お願いします」


 最上階はスイートルーム、今の俺ならどんな部屋でも楽々泊まれる。支払いを済ませ5階のスイートルームへ……おお、なかなかの部屋だな


 部屋は5階の約半分がスイートルームになっていてかなり広い。ベッドも大きいし、調度品も豪華な物ばかりだ。さらに酒が並んだ棚も付いていてお酒も楽しめそうだった


 さて、町の探索と買い物に行くか……そうだ


 「クロ、ホントにいいのか?」


 俺は誰もいないが思わず口に出してしまう


 《エエ…この町はワタシにはキツいワ…〔セーフルーム〕でおとなしくしてるワ》


 クロは町に入ってすぐに引っ込んでしまった。どうやら町の酒の匂いで酔っ払ってしまいそうなので、この町では探索を俺に任せるそうだ


 《じゃあわたしとお昼寝だね!! もうすぐティルミファエルが来ちゃうから、今のうちにいっぱい一緒にお昼寝しよーね!!》
 《ハイハイ……先行きが不安だワ》
 《もぐ……》
 《もちろんトレパモールもね!!》
 《もぐ!!》


 あっちはどうやら平和そうだ。じゃあたまには1人で行きますか!!


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 《ちっくしょ~…オレも一緒に町を歩きたいぜ……》
 《アグニードラさん。ドンマイ》
 《テメェ……ケンカ売ってんのか?》
 《何でそうなるんすかっ!?》


 うるせぇ……頭の中で騒ぐなよ
 アグニ、どんな酒がいいんだ?


 《決まってんだろ? 全種類を沢山だ!!!》
 《うわー……》
 《おいクライブグリューン…今アホっぽいって思っただろ?》
 《えっ!?…そ、そんなワケないっすよ……?》
 《よし、今日のツマミはおまえの唐揚げだ。楽しみにしてろや!!》
 《ヒっひぃぃぃ!? シャレになんないっすよぉぉぉ!?》


 だから……わかった、俺が選んで適当に買うよ


 最初に入ったお店はワインのお店だった。この世界でも赤、白とちゃんと種類が分かれている。俺に酒の知識は無いので、高級ワインを赤白3本ずつと樽で100本ずつ買った。店員は驚いていたが支払いを済ませて酒を準備して貰い、店員が目を離したスキに亜空間に収納して店を出た。このやり方はあんまり好きじゃない


 《おお~…来た来た。ん?…おいジュート、この瓶は何だ?》


 ああ、それは高級ワイン。生産数が少ないから1年に2~3本しか作れないんだって、大切に飲めよ?


 《ほお~……よし、おいお前等も飲もうぜ!! クロシェットブルム、少しくらい付き合えや》
 《エエ~……うーん、チョットだけヨ?》
 《おう、じゃあこのお猪口で…おい、ルーチェミーア達も来いよ。ジュートの買ってきた高級品だぜ!!》
 《そうなの?…じゃあチョットだけ》
 《もぐもぐ?》
 《じゃあおいらも…》


 アグニも優しいな、酒はみんなで飲んだ方がうまいもんな


 次は日本酒…この世界だと〔コメ酒〕って言うらしい
 店主の話だと、各大陸で作っているコメの種類が違うし、環境で味が変わるため種類はかなりあるという。こちらも高級品を何本かと樽で100本ほど購入した。例の方法で収納し店を出る


  日本酒は強すぎてクロ達は吞まなかった。これはアグニ専用の酒だな


 次は果実酒、こちらは樽ではなくビンで売っていた。果物を皮ごと強いお酒に漬け込んで作るみたいだ。当然、果物によって味が違う。柑橘系や甘みの強い物など沢山種類があるが、知識が無いのでわからない。適当に何本か買ってアグニ達に送った


 果物だけあってルーチェがチョットだけ吞んだが、アルコールが強すぎて一口で断念した。アグニは口直しに飲む酒なのでそんなに量はいらないそうだ


 次はビール、〔麦酒〕というらしい。これはそんなに味は変わらないので近いところで沢山買った。アグニはさっぱりした味が好きなので、ビールはよく飲むそうだ。気がつくとすぐに無くなるので多めに買っておいた


 次はウィスキー。これもよく分からないので、大きめの酒屋でビンを大量に購入した。何本か高級品を混ぜて買い、さっそく異空間に送る


 これらはキツいので、ちびちび飲むのが好きらしい。一口吞んでつまみを頬張り、また一口吞んで…を繰り返しながらゆっくり吞むのがアグニ流だ


 最後は焼酎。これもビンをまとめて購入、種類も豊富で大きさもいろいろあった
 焼酎は強く、ロックで吞むのがアグニは好きらしい。


 酒はこのくらいにして、後は道具屋で食材、つまみを大量に購入した。




 買い物は…このくらいでいいか。腹もへったしメシにしよう




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 町中を散歩しながら辺りを見回すと、露店が沢山ある
 それぞれ片手で食べられそうなものばかりだが、俺は迷わず串焼きを購入。焼きたての肉がジュワッといい音を立て、頬張ると肉汁が溢れてくる……うまい


 飲み物も適当にジュースを買いしばらく散歩していると、後ろから超えを掛けられた


 「スミマセン、ちょっといいですか?」
 「あのー、困ってるんです」


 女の子の二人組だ。二人とも魔術師っぽい服装で、なかなかかわいい。年代は俺と同じくらいで、困ったような表情をしていた


 「はぁ、何か用ですか?」


 俺は首をかしげながら答える……すると


 「あの、あっちで仲間が倒れちゃって…宿に運ぶのに手を貸していただきたいんですけど」
 「お酒の飲み過ぎで……」


 なるほど、この町ではあり得そうな話だ
 まぁそのくらいなら別にいいか


 「いいですよ。どこですか?」
 「コッチです」
 「ありがとうございます!!」


 俺は女の子二人についていった


 
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 「ここです……」


 着いたのは町はずれの路地裏。人通りも全くないし、どことなくスラムっぽい


 「あ、あそこです」
 「ホントだ……大丈夫かな?」


 路地に男の人が倒れていた。うつぶせに倒れてぴくりともしない
 俺はその人に近づき声を掛けた


 「大丈夫ですか?」
 「うう~ん……ああ、大丈夫だ」
 「そうですか?…立てますか?」
 「ああ………立てそうにない、手を貸してくれ」
 「はい、いいですよ」










 「へっバカがっ!?…あぁぁぁぁああ!?!?」










 「バレバレなんだよ、バーカ」


 倒れた男が襲いかかってきたので、組み伏せてナイフを持った右手を踏み砕いた




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 「て…てめぇ…くっそがぁぁ!!」


 声に反応して前と後ろから人が集まる


 前に男4人、後ろに男3人とさっきの女2人だ。やっぱりグルだったか
 連中のリーダー格が声をかけてきた


 「おいクソガキぃ!! こんなことしてタダで済むと思うなよ!!」
 「そうよ、有り金全部と酒で許してやろうと思ったけど…もう遅いわ!!」
 「へっ、この人数相手にびびっちまったか? さぁて処刑の時間だぜ?」


 どうやら物取りの冒険者みたいだ


 最初から怪しかった。女二人で男で若い俺1人に声を掛けてきたって時点でおかしかった。周りには素面の冒険者や傭兵がいたにもかかわらずだ、しかもこんな町外れの裏路地、怪しくないハズがない。極めつけは倒れた男。コイツは頑なに右手を見せなかった…何かを隠してるって考えれば答えは一つだ


 「はぁ……なぁ、このまま帰るなら許してやるぞ?」


 これが俺なりの精一杯の慈悲だ……でも


 「「「「「ふざけんな!!!」」」」」


 ですよねー……


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 「「「「「スミマセンでしたぁぁっ!!!!!」」」」」












 男女全員が土下座、まぁ適当にぶちのめしました


 「もういいよ。じゃ、悪い事すんなよ……あ、お前」
 「は、はい?」


 俺は最初に倒れていた男の右手を治してやった。まぁ骨折はやり過ぎた


 「な!?……じょ、上級魔術!?」
 「右手は治してやる。後の傷は罰だからな」


 そう言い残して俺は立ち去った




 後ろの連中は、まだ呆然としていた




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 うーん、酒が入るとやっぱり暴れたくなるのか、治安が悪いところがあるな
 そんなことを考えながら町の中央に行くと、見覚えのある魔導車が止まっていた


 「これって……どこかで」


 そして、町の中央の宿屋の一角に、長い行列が出来ていた
 並んでいる人はみんな、手に袋や貴金属を持っている…これってやっぱり〔ユルセド村〕で見た聖女だ。ここにも来てたのか


 「次!!……よし、これだけか?」
 「は、はい……お願いします!!」


 子供を抱えた男の人が頭を下げる…すると


 「ダメだ!! 最低10万ゴルドからと表示してあるだろう。どけ!!…次!!」
 「お、お願いします。子供が……」
 「おい、コイツをつまみ出せ!!」


 何だこれ……ひどい。子供を抱いた男の人は兵士に抱えられ、そのまま外に放り出された。男の人は兵士に縋り付くが、うっとうしく感じた兵士に蹴り飛ばされた


 「ううう……何が、何が聖女だ……ちくしょう」




 男の人は泣きながら立ち去っていく……こんなの見せられて放っておけるか




 男の人を追いかけて俺も走り出した











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