ホントウの勇者

さとう

ビルアウス氷洞窟/懸念・そのままで



 〔ビルアウス氷洞窟〕は、外見は普通の洞窟だが中は非常に寒い。気温は常にマイナス、洞窟内の水分が凍りつき辺りは氷柱や氷がいたる所にある。地面は凍りつき、壁も凍ってつるつるだ。


 普通の靴で歩けば間違いなく転倒するが、ジェリーさん特製のブーツだと全く滑らない。さすがSレートモンスター素材のブーツだぜ


 「クロ、寒くないか?」
 《平気ヨ、この服のおかげネ》


 俺とクロは現在洞窟を探検中。モンスターも出たが大した事はない。〔ブライトバット〕というコウモリや、〔ブライトシェル〕という貝殻みたいなモンスター、どちらもCレートの雑魚だ


 俺はずっと考えていることがあった


 ユルセド村の聖女、【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】のことだ


 宿屋のおばちゃんから話を聞くと、どうも彼女は【白の大陸】を回りながら各村や町を訪問し、怪我や病気の人を治療しているらしい。治療費は金品や現金に応じて内容が変化するようで、お金がない人は治療すら受けられない


 確かにお金は必要だ。そこは否定しないが···あんな小さな子供を、ほんの少ししか回復させずに帰してしまうなんて···しかも俺が診たときはあの時点でぶり返し始めてた。あのままだと死んでいた可能性もある


 素人の俺があそこまでわかったのだ。彼女にわからなかったはずがない···


 彼女は本来は王都に在住してるらしい······話す機会はあるだろうか?


 《ジュート?》
 「·········ん、あ、ごめん···何?」
 《アナタどうしたノ?···おかしいワヨ?》
 「うーん···ちょっとね」


 どうやらクロに心配をかけてたらしい


 《フム···ジュート、休憩しまショ》


 クロは少し開けた洞窟の一角に向かい歩きだす
 座り心地の良さそうな岩が2つあり、俺はそこに異空間から藁を敷いて外用のクッションを轢いてやる


 《アリガト》


 クロはその上に座り、俺も岩に腰掛けた


 《サ、話してご覧なサイ?》




 俺はクロに全てを話すことにした




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 《なるほどネ······》


 クロはそれだけ言うと少し考えて言う


 《そうネ···放っておきなサイ》
 「え⁉ な、なんで?」


 俺は思わずクロに詰め寄る


 《アナタが出会った魔術師は全て善人だったワ、むしろそうジャない魔術師もいるのは事実。その特級魔術師が金に汚い悪人だとしてモ、アナタは何をする気ナノ? どんな手段だろうとも彼女は人を救っているワ》


 確かにそうだ。俺はいままであった魔術師を思い浮かべる


 ルビーラは子供だった。無口で無愛想だったけど仲良くなれたと思う。サフィーアは謎だった。最初は敵かと思ったけどそれは違うってわかった。シトリンは姉みたいだった。ブランを可愛がって勉強を教えて、厳しいけど優しかった。エメラルディアは変なヤツだった。目的の為に一人で森を彷徨い、迷子になって泣きべそかくような憎めないヤツだった


 《彼女のやり方は正しいのかなんて誰にも分からないワ。無償で全ての人の為に奉仕しろ、なんてアナタは彼女に言うつもりナノ?》


 「············」


 クロの言うことは正しい
 ようは······俺がガキなだけだ


 「そうだよな···ゴメン、クロ···行こうぜ」


 俺が立ち上がるとクロも立ち上がる
 俺は魔術でクッションをキレイにして再び異空間にしまう


 クロは俺の肩に飛び乗り優しく言った




 《ジュート、生きていればこう言うコトはたくさんあるワ。でも···アナタのそのキモチを忘れないでネ》




 俺は黙ってクロの頭を撫でた






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 もうすぐ出口という所でそれ・・は現れた




 「グオオオオオォォォン‼‼」 




 ············なにあれ?




 「な、なぁクロ。あれは何?」


 《ブライトドラゴン···ネ。モンスターの中では最強の生物ヨ。【神獣】に最も近いモンスターと言われているワ》


 「そ、そっか······」


 〔ブライトドラゴン〕は全身が白いモンスターだ。体は蛇のような体躯で顔はドラゴン、まるで東洋に出てくる龍のようだ。全身に氷のような白い鱗が張り付いて、体中から白い凍気が噴出している


 「なぁ···アイツ、こっち見てね?」
 《そうネ······》


 この場所はかなり広く天井は抜けているので空が見える。どうやらここはコイツの住処らしいな


 すると〔ブライトドラゴン〕は、口を大きく開けてこちらを威嚇し、周囲に氷柱がいくつもでき始めた


 「お、おいまさか」
 《ジャ、あとはヨロシク》


 クロが消えたと同時に何本も氷柱が飛んできた




 「やっぱり俺を餌と思ってやがる⁉」




 仕方ない···戦闘開始だ‼






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 俺は氷柱を回避する。どうやら狙いは正確につけられないみたいで、回避するのは簡単だった


 両手にナイフを装備して様子を見る


 相手はとぐろを巻いた状態で今の攻撃をしてきた。身体の長さは50メートルはあるだろう。すると、今度は息を吸い始めて身体を仰け反らせ始める


 「これは···ブレスか⁉」


 「オオオオオォォォッ‼」


 口から吐き出されたのは白い息吹
 それを洞窟内を走り回って回避する。よく見るとブレスが当たった部分が凍りついて白くなってる。あんなの食らったら死んじまうぞ


 俺は〔マルチウェポン〕の短弓を起動させ矢をつがえる。狙うのは目···俺はアウラほどの腕前はないので、動きながらだと狙えない


 「オオォォォ······ン」


 「よしっ‼」


 ブレスが止みスキが出来た。距離は約15メートル···このくらいなら俺でも狙える


 「くらえっ‼」
 「ゴッ⁉ ォォォン‼」


 モンスターの目に矢は命中。視界を奪われたモンスターは身体をくねらせ始めた。よし、トドメだ‼


 「【黒】の上級魔術、【首狩黒鎌ネロスシックル】‼」


 暴れる〔ブライトドラゴン〕の身体が黒い煙でガッチリ固定され、黒い鎌が上下に現れ交差すると、首がキレイに切断された 


 やろうと思えばすぐにケリをつけることも出来たけど、モンスターの動きに対応するのも修行の内なので、あえて後手に回りながら攻撃した




 ま、とりあえず勝利かな






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 《おつかれサマ》
 「ああ、楽勝だったぜ」


 俺は〔ブライトドラゴン〕を眺めながら休憩する


 「腹も減ったし、ここでメシにするか」
 《そうネ···お願い》


 俺は魔導車を出して中に入る。暖房を入れて簡単なメニューで昼食を作り、クロと一緒に食べ始める


 「いやぁいい運動になったぜ、所でコイツこのままでいいかな?」
 《大丈夫でショ。きっとモンスター達が残さず食べてくれるワ》


 クロと一緒に談笑しながら休憩···出口までもう少しだ






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 洞窟の出口で俺は背伸びする


 「う〜ん、やっと出られたぜ」


 外は快晴で気温も高い。空気が美味しくまさに旅日和って感じだな


 「この先は〔酒の町バッカスビル〕だっけ?」
 《そうネ、さぁ行きまショ》


 魔導車を出して出発する···すると、すぐ近くにたくさんの人影が見えた


 「ん?···何だありゃ?」


 目の前に完全装備のグループが50人くらいいた
 全員が整列して、隊長らしき人が大声で話してる


 「いいか、この先に〔ブライトドラゴン〕がいる。皆の力があれば必ず倒せる。行くぞーっ‼」


 「「「「「オオオォォォーっ‼」」」」」


 どうやらこれからモンスター退治に行くらしい。へぇ、〔ブライトドラゴン〕ってまだいたんだ


 《そんなワケないでショ······》


 「やっぱり?······」




 50人は隊列を組んで慎重に洞窟へ入っていく
 うーん···ま、いっか。これで無駄な犠牲は出なくて済むし


 俺はそのまま魔導車を走らせた





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