ホントウの勇者

さとう

ユルセド村/聖女・【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】



 〔ツァガーン山脈〕から3日…魔導車は順調に進んでいた


 特にトラブルも無くのんびり進み、天気もいいので自然とうれしくなる
 外は真っ白な平原で、杉の木のような樹木が乱雑に立ち、街道は魔導車のわだちで圧雪されているので走りやすい。この大陸のメインの移動手段はやっぱり魔導車みたいだ


 しばらく走ると……見えてきた。アレが〔ユルセド村〕か
 村の中に入り魔導車を降りて歩き出す


 村は規模が小さく雪に覆われた貧しい村って感じだ。家は50軒くらいしか無いのどかな村。しかもギルドもないし商店の規模も小さい、宿屋も2軒しかなく大きさも普通の一軒家にしか見えなかった


 しかし…この村の中央にそこそこ大きな建物があった
 建物の周りには、何台も大きな魔導車が止まっていて、その建物には30人くらいの列が並んでいる。この中に何かあるのかな?




 とにかく宿を取らないと……




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 俺は宿に入り部屋を取る…よかった、空いてた。そのまま部屋に入り休み、腹が減ったので下に降りる…外に露店でも無いかな…出てみるか
 すると、受付のおばちゃんが声を掛けてきた


 「おやお客さん、アンタも教会へいくのかい?」


 教会……どうやらあの建物の事だろう。正直興味は無いし腹も減ってたから適当に流そうかと思ったが、おばちゃんは興奮して語り出した


 「いや~ありがたいねぇ、こんな辺境の村にわざわざ来てくれるなんて。【特級魔術師】様は立派なお方だ。あの若さで既に【聖女】なんて呼ばれてるだけのことはあるねぇ」


 「【特級魔術師】……?……【聖女】……?」


 「ああ、お客さん旅の冒険者かい? なら知らないだろうねぇ。あの教会で魔術診療を行っている【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】様はこの【白の大陸】では聖女と呼ばれているのさ。あらゆる怪我や病気を治す奇跡を使い人々を癒やす姿はまさに聖女!! ああ、素晴らしいねぇ」


 おばちゃんはうっとりと語る。そんなに凄いヒトなのかな?
 腹ごしらえついでにちょっと見てみるか


 俺はおばちゃんとの話を切り上げ外に出た




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 俺は特級魔術師とよく出会う…ルビーラ、サフィーア、シトリン、エメラルディア…いろいろあったけどみんな元気かなぁ…おっと、教会はここか


 教会に並んでいる人達は様々だった。いかにも病気で顔色が悪い人、冒険者・傭兵で怪我をした人、子供を抱えた母親など沢山だ。共通してるのは全員手に袋や貴金属を持っている事だった


 俺は列とは別に教会に入る。礼拝は許されているために中に入ることは出来るが、治療を受けるにはきちんと列に並ばなければいけないみたいだ。列はきっちり兵士によってガードされている。割り込もう物ならたたき出されるだろう


 そして、祭壇の一角にその女性はいた
 白い法衣に帽子を被った美女。髪の色は灰に近い白で長い三つ編みに束ねて、顔は美しい作りで人形のような精巧さ、魔力を練り呪文を唱え発動させる姿は魔術師ではなく聖女と言われても納得できそうな佇まいだ


 彼女が【白の特級魔術師 ウィゼライト・クラック】か……ふむ


 3歳くらいの子供を抱いた母親の順番になり前に出る。子供の顔色は悪い…ありゃ重い風邪っぽいな。そして、兵士に小袋を渡すと兵士が中身を確認しウィゼライト・クラックに報告する。
 ウィゼライト・クラックは優しく微笑み子供の頭に手を乗せて魔術を発動させた


 ん………?


 発動させたのは【白】の初級魔術【状解ディスレイブ】…病気を治す初級魔術だ
 子供の顔色はそこそこ良くなり、母親は安心したように礼を言う……まさか


 そしてそのまま子供を抱えて列から外れていった


 そして、俺の視線に気がついたウィゼライト・クラックは優しく微笑んだ




 あの笑顔……どこかで?




 俺は一礼してその場を後にした




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 俺の足はそのまま先ほどの母子の元へ向かっていた
 母親は子供をベンチにおいて露店へ向かう。きっと子供のために飲み物でも買うのだろう


 俺はそのスキに子供に近づき様子を見る……やっぱり
 子供の容態はまだ悪い。先ほどよりは良くなっているが治ってはいない


 魔術を発動させるとき、魔力の練りがかなり少なかった…あれじゃ精々症状を一時的に緩和させる程度しか治らない……どういうつもりだ?


 俺はその場で【状解ディスレイブ】を発動させ子供を治し、その場から立ち去った


 20メートルほど離れて振り返ると、子供は母親の周りを飛び回ってはしゃいでいる




 その様子を見届けてから、俺は宿へと戻った




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 《おかえり……なにかあったノ?》
 「いや……なぁクロ、初級魔術ってさ…特級魔術師だったら一日でどれくらい使える?」
 《何ヨ突然……そうネ、才能にも寄るケド…100回は楽に使えるでショ》
 「………そう、だよな」
 《………?》


 俺は腑に落ちなかったが…今は後にした


 夕食の時間になり、おばちゃんが持ってきた夕食…魚を使った鍋料理を平らげる。そして寝る前に今後のコトをクロと話し合った


 《次は〔ビルアウス氷洞窟〕を抜けてその先にある〔酒の町バッカスビル〕ネ、その先に〔ウールブル雪山〕を超えて〔氷の町ヒョールデン〕、その次が〔ラソルティ大聖堂〕ヨ》


 「またずいぶん遠いな……」


 《仕方ないワヨ。さらにその先ノ〔オボロートニ雪山〕を超えてようやく〔王都ブライトネーション〕ネ。本来なら近道もあるケド、アナタの修行の為に敢えて遠回りするワヨ》


 「…………わーい」


 俺の心はハッピーで満たされた……ウソじゃ無いぜ!!


 今日はもう寝よう。明日は出発して〔ビルアウス氷洞窟〕へ向かおう。さらにその先にある酒のま


 《おいジュート!! 酒の町で大量に酒を買えよ!! アソコには大陸中の酒が集まるって噂なんだ。この大陸は寒いからな、身体を温めるのには酒が一番!! だからこの大陸の酒はウメぇんだ……あぁ、楽しみだぜ》


 アグニの声が頭の中に響く。お前声デカすぎだよ……




 アグニの言葉に苦笑しながら、俺は眠りについた




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 深夜、俺はふと眼を覚ました






 思い出したのだ……あのウィゼライト・クラックの笑顔






 アレは…斬華きりはな斬駆ざんくと同じ仮面の笑顔














 心に何かを隠す…能面のような笑顔だった





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