ホントウの勇者

さとう

ツァガーン山脈/朝日・白い獣



 「ここが〔ツァガーン山脈〕か」
 《そうネ、なかなか険しいワネ》


 なかなか?……俺の目の前にはものすごい大きさの山脈が見えるんですけど?
 しかも心なしか雪が吹雪いてきてるし……


 《さ、行きまショ》
 「おま、簡単に言うなよ。こんな雪の中登ったら死ぬぞ!?」


 クロは完全装備の防寒具なので雪の上をスタスタ歩いている。俺の言葉に振り返りため息をついた


 《ハァ、あのネ…いざとなったら〔セーフルーム〕に入ればいいでショ? サァさっさと登る!!》
 「うううっ…はーい」


 俺は観念して山登りをするのだった……とほほ




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 山登りはキツかった
 整備が全くされていない山道は道という物が無く、基本的に掘り進みながら進んでいく。周りは新雪に囲まれており、その辺にはモンスターの足跡なんかがある


 道が無いのでクロがいないとさっぱりわからない。登っているのは分かるがこれでいいのか判断できないのだ


 「な、なぁ……道はあってんのか……」
 《大丈夫ヨ、そのまま真っ直ぐネ》


 当然ながら人なんていない。人間の足跡も無い……ここで遭難したら死ぬな


 「お、モンスター……あ、逃げた」
 《ヒトを見たことがないんでショ。仕方ないワ》


 狼みたいなモンスターがいたが、すぐに逃げられてしまった。チョットかわいかった。とにかく……登って登って登りまくろう


 《ジュート、この雪道はいい訓練になる。足腰を鍛えるために魔術は使うんじゃねーぞ》


 頭の中にアグニの言葉が響く。へいへい、そういえばアグニのトレーニング久しぶりだな


 《いいか、歩くときは足の親指に力を入れろ。走るときも歩くときも親指を常に意識して歩け》


 了解……けっこうつらいな
 俺はひたすら山道を登り、1日掛けて頂上の半分まで登り切った。


 「今日はここで休むか」


 日も暮れたのでココまでにする。そこそこ広い場所を見つけたのだ。雪が積もっているが意外と見晴らしが良く、近くには岩場がある。俺は岩場を背にして魔導車を出し、中で休むことにした


 《〔セーフルーム〕を使わないノ?》
 「うん。出来るだけ人並みの生活がしたいからな。アレは緊急用」


 そう言うとクロも一緒にいてくれる…なんだかんだで優しい奴だ


 魔導車の後ろの居住区の暖房を入れてランプに魔力を通す。すぐに室内は暖まり不思議と安心する。さて……夕食でも作るか


 今日のメニューは野菜スープと焼いた肉とパン。疲れたので手を抜いてしまった
 クロにも魚を焼いて皿に盛り一緒に食べる。片付けをしてすぐに眠りに落ちてしまった


 明日は頂上に着くといいな……




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 次の日は快晴で、歩くスピードも速くなる
 だんだんと登りが急になってきてなかなか体力を持って行かれる
 途中で休憩を挟みながらペースを崩さずに登る……


 そして、頂上へ到着した……辺りはすっかり暗い


 「今日はここまでだな」
 《そうネ……後は下るだけネ》


 周囲は暗くてよく分からないが、多分危険はないだろう


 俺は夕食を取って早めに就寝した




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 《ジュート、朝よ……起きなサイ》


 クロが俺の顔を前足でぺしぺし叩く


 「う~ん……もう朝か?……おはよう」
 《ホラ…外をご覧なサイ》
 「………?」


 クロに言われ外にでる……するとそこには


 「…………ほぉ」
 《…………綺麗ネ》


 夜明けの光が俺たちのいる頂上を照らす
 そして、朝の霧が下界を覆い尽くし、神秘的な光景を作り出していた


 「すげぇ…………」


 それしか言えない……この光景は間違いなく自然遺産だ。カメラがあれば何度も激写してるだろう


 俺はしばらく動くことが出来なかった




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 今度は下りだがこれが以外と疲れる…親指で踏ん張りながら一歩一歩進んでいく
 モンスターが出てこないので安心して進む事が出来る。景色を楽しみながら降りる余裕も出てきた


 そして、何かが聞こえてきた


 「…………ん!!………けて……い」


 ん?……これは、子供の声か?
 周囲は風の音と俺が雪を踏みしめる音しか聞こえないので、人の声はよく響いた


 「クロ、これって……」
 《……子供の声ネ……そっちの下ヨ》


 クロが見てる方向は崖下。おいおいマジかよ
 俺は急ぎ崖下を確認する……すると


 「マジかよ……」


 いた。しかも2人…子供と大人だ
 子供が泣き叫びながら血まみれの大人を揺さぶっている。大人の周りの雪は真っ赤に染まり、危険な状態なのはすぐに分かった


 2人の位置までは約20メートルの崖。岩肌を見てみると破れた衣服や血が付着している…どうやらここから落ちたのは間違いなさそうだ


 俺は〔マルチウエポン〕のアンカーショットを木に括り付けゆっくりと降りる


 「っ!? だ、誰だ!!」
 「落ち着け……敵じゃない。安心しろ」


 俺は子供…8歳くらいの男の子を興奮させないようにゆっくり話しかける…さて


 ここは岩の中腹で、ちょうど3畳ほどのスペースがある。ここに落ちなかったら下まで一直線だったな、本当に良かった


 俺は大人の呼吸を確認する……身体はボロボロだ、岩に打ち付けたのか両腕と右足が骨折している。お腹はドス黒く内臓から出血しているようだった。よく見るとこの人はかなり鍛えられた肉体をしている。近くには壊れた弓と折れた短剣が落ちていた……この人、狩人かな?


 そして……一番気になったのは、白い耳としっぽ


 俺は男の子を見ると、まだ警戒しているのか、腰から短剣を抜いて構えていたが、俺は思いきって質問した








 「もしかして………〔白牙狼びゃくがろう〕?」




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 「だ…だったら何だってんだ!!」
 「あ、ご、ごめんごめん」


 ヤバい、今するべき質問じゃなかった
 とにかく傷を治さなきゃな


 「【白】の上級魔術【無垢なる光セイファート・ライフ】」


 俺の魔術で怪我はほぼ一瞬で治る
 子供はポカンとして見ていた


 「よし。もう大丈夫だ」
 「う、ウソだろ?……と、とうちゃん!!」


 両腕はくっつき腹も治った。呼吸も規則正しくなり安定した。流石に失った血液までは戻らないから安静にした方がいいけど
 男の子は父親に縋り付き泣き出し始めた……よかったな


 「よし、とりあえず登るか」
 「ヒック…え?」


 俺は男の子の頭を撫でてから父親の身体を担ぎ上げる


 「お、おい!! 何をする気だ!!!」
 「いいから、ホラお前もこっち来い」
 「え、うわっ!?」


 肩に父親を担ぎその上に男の子をのせ、アンカーショットに魔力を注ぐ。するとウインチが作動して高速でワイヤーが巻き取られあっという間に登り切った


 俺はゆっくりと父親を降ろし、男の子を降ろす


 「何があったんだ?」
 「……おれが、とうちゃんと狩りをしてたら…モンスターに襲われて崖から落ちた…とうちゃんが庇ってくれて……」


 なるほどな、どうやら不慮の事故らしい


 「この辺に住んでるのか?」
 「………言えない。〔白牙狼びゃくがろう〕の住処は言えない決まりになってる」
 「そっか。じゃあ……ここで大丈夫か?」
 「……うん」


 俺は亜空間の荷物から食料とケーキと飲み物、あと武器屋で買った短剣と弓と矢を出しておいていく


 「これ使え。あと、父ちゃんが眼を覚ましたらちゃんと休めって言えよ? あと、起きるまでこれ食べてろ」


 そう言ってケーキを渡す。食べやすいように紙皿にスプーンを付けてあげる


 「………??」
 「うまいぞ?…食べてみろ」


 男の子が匂いを嗅ぐとしっぽがピンと立った…そしてそのまま一口食べる


 「っ!?」


 そのままムシャムシャあっという間に食べ尽くした


 「ほら、置いていくから好きなだけ食べろ」
 「あ……うん」


 俺は男の子の頭をひと撫でして立ち上がる


 「じゃあな、気をつけて行けよ」
 「…………うん」


 俺はそのままゆっくり道を下り始めた……すると






 「ありがとう!!!………おれ、ギンガ!!!」






 俺が振り返ると子供が……ギンガが手を振っていた


 「俺はジュートだ、元気でな、ギンガ!!!」




 俺はそのまま手を振りながら道を下っていった




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 ギンガと別れてひたすら山を下りる
 降りるスピードは自然と上がり、1日で半分以上の距離を進む事が出来た。しかも別に無理をしたわけじゃ無く、俺のスピードが純粋に速かったって事だ


 近くの岩場で野営をして今日は休む……ギンガと父親は無事に帰れただろうか?


 そんなことを考えながら眠りについた




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 次の日は天候が荒れたが、殆ど出口まで来てたので問題無く下山した
 やっと山から下山し、林を抜けると街道に出る
 そこから魔導車で移動する


 「ふう…やっと車に乗れるぜ。次の村までどれくらいだ?」
 《このスピードだと……3日って所ネ》


 3日か……まぁ気を付けながら行きますか




 雪景色を眺めながら、俺は魔導車に魔力を送った


 

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