ホントウの勇者

さとう

閑話 鳴見治看・【癒神テラペイア】



 「はぁ……退屈だなぁ」


 鳴見治看なるみなおみは暇を持てあましていた


 彼女がいるのは〔クローノス城〕の医務室
 ここにいる兵士は全てモンスターだが、怪我をしないわけではない。彼女は〔神の器〕の中では少ない【白】の魔術の使い手であり、彼女の【神器ジンギ】は治療に特化した物だった


 医務室の広さは約24畳の部屋が二つ。一つは治療用の部屋で、もう一つは彼女の私室でもあった。部屋の中には薬品の棚と水場、診察用台が3つと机とイスしかない。ここで治療すると言うことは治るか死ぬかで、入院するという概念は存在しないのだった


 「本でも読もっか、モモちゃん」
 《キュウキュウ!!》


 彼女の膝の上には1匹の生物がいる
 外見はハムスターだがその大きさはネコほどの大きさ。毛並みはピンク色で瞳は赤、前足と後ろ足はネコのように肉球がついており、耳がウサギのように長かった


 この生物はれっきとした【神獣】で、この〔クローノス城〕の中にある戦闘用神獣が保管されている部屋の片隅で丸まっていたのを彼女が見つけて、ローレライに頼み込んで自分の側に置くことにしたのだ


 【神獣】なので餌はなんでもいいし、餌はすべてエネルギーになるので排泄はしない。身体の汚れは生活魔術でキレイになるし、なによりおとなしく自分に懐いている。毛並みの色がピンクなので「モモ」と名付けた彼女のペットであり友達でもあった


 モモはハムスターのようにちょこちょこ移動する。クラスの女子には凄く人気で、怪我や病気でもないのにモモに会いに来る生徒もいるほどだ


 モモを床に下ろすと、部屋の中をグルグル回り出す。そんな様子をおかしく思いながら自室に入り、適当な本をもって再び戻る。ゆったりした肘掛けいすに座るとすかさずモモが膝の上に飛び乗ってくる


 「ふふふ、いい子ね…モモちゃん」
 《キュウ~…》


 モモを優しく撫でると気持ちよさそうに目を閉じる
 やがてモモは眠ってしまった


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 鳴見治看なるみなおみの実家は獣医。父も母も獣医で自宅で開業している
 そんな環境で育ったので彼女は小さな頃から動物が大好きだった。夢は獣医…父母もその夢を応援してくれていた


 鳴見治看なるみなおみは女子の中では小柄な方だ。長い髪を頭のてっぺんでお団子にした髪型で、前髪を少し垂らしている。スタイルも自信がない…足は細いが胸があまりない、彼女の悩みの一つだった


 この世界での彼女は少し特殊な立場だった


 何故なら…全く攻撃の魔術が使えずに、体術もぶっちぎりの最下位。武器も全く使えずに自衛の手段がまるで無かったからである


 彼女の属性は【時】・【白】・【灰】 
 しかし、【灰】の魔術では初級程度の力しかなく、実戦ではまるで役に立たない……これは流石の【王ノ四牙フォーゲイザー】も頭を抱えた……しかし


 彼女は、【白】に異常な適性を見せた
 攻撃用の【白】は全くダメだったが、回復の【白】魔術はほぼ一日で上級魔術まで習得し、次の日には【神器ジンギ】を覚醒した


 【王ノ四牙フォーゲイザー】といえども、適正の無い属性魔術を使うことは出来ない。よって【白】魔術だけは彼女に適う者はいなかった


 ローレライは、彼女の自衛手段のために近くに【神獣】を置くことを提案し、鳴見治看なるみなおみを連れて神獣の保管部屋に赴き、そこでモモと出会ったのだ


 ローレライは彼女を前線には出さずに、この〔クローノス城〕で回復に専念させることにし、その特異性から【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】序列13位として扱われるようになったのだった


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 しばらく読書をしていると、廊下が騒がしくなった……そして、勢いよくドアが開かれた


 「鳴見なるみぃぃぃぃっ!! 助けてくれっ!! 頼むっ!!」
 「さ、刺兼さしがねくん!? どうしたの!?」


 余りの大声にモモが飛び起き、机の上で丸まってしまう
 しかし彼女は刺兼さしがね都針とばりの様子が尋常で無い事に気がついた


 「粗某そぼう君達がやられた!! ああもうとにかく助けてくれ!!」


 そういうと鎧を着けた兵士…〔メガゴブリン〕兵がタンカに乗った3人を運んでくる


 「ヒっ……ひどい…なんてこと…」


 その状態の悪さに彼女は眼を背けそうになった


 粗某そぼう牛地ぎゅうじは両腕が肩から消失していた。身体の至る所に緑色の針が刺さっている。これは刺兼さしがね都針とばり神器ジンギ】によるもので、出血や痛みを抑えていることが見て分かった。意識はあるみたいだが眼はうつろで、焦点が合っていなかった


 岩木いわき石堂せきどうは体中ボロボロだった。両手両足は添え木をして布でグルグル巻きにされている。一番ひどいのは腹部で布が真っ赤に染まっていた。こちらは意識が無く顔色も真っ青だ


 火等かとう燃絵もえは一番ひどい有様だった。上半身は裸で至る所に針が刺さっている。皮膚の色は紫で顔は腫れ上がり二倍ほどにふくれあがっていた。間違いなく毒物の影響だ




 鳴見治看なるみなおみはすぐに治療を開始した


 「とにかく…これで……」


 彼女が使ったのは【白】の上級魔術【無垢なる光セイファート・ライフ
 この魔術は外傷ならどんな状態でも復元し、指先程度の細かい部分なら欠損も修復する。人間でこの魔術を使えるのは8大陸でも数人しかいない。仲間の〔神の器〕では鳴見治看なるみなおみしか使うことが出来なかった


 「よし、岩木いわきくんはこれで大丈夫。後は失った血液を補充して…モモちゃん、お願い」
 《キュイ!!》


 彼女が命令すると、モモは薬品棚から丸薬を器用に取り出す。ジャンプして取っ手に掴まり戸を開けて、丸薬の入った瓶を頭に乗せ長い耳で支え飛び降りる。そして耳で器用に瓶を開けて、中の丸薬をひとつぶ取り出し岩木いわきの口に押し込んだ


 「…………凄いな、コイツ」


 刺兼さしがね都針とばりは思わず目の前の生物に賞賛を送った
 モモは彼女の優秀な助手でもあったのだ


 粗某そぼう牛地ぎゅうじの両腕は流石に再生しない。火等かとう燃絵もえも解毒は魔術じゃ不可能だった


 「これは……神の力の毒……魔術じゃダメね」


 彼女は冷静だった
 その姿を初めて見る刺兼さしがね都針とばりは息を吞んだ




 「『神器発動ジンギはつどう』」




 鳴見治看なるみなおみは静かに告げる…すると、彼女の姿が変わった


 身体は装飾された白衣のような物を纏い、両手にはそれぞれギミックのついた籠手のような物が装着される。そのギミック一つ一つが医療器具のようになっていて彼女の意思でガチャガチャ動いた。左目には変わった形のモノクルがはめられて、そのレンズには何かが映し出されていた


 「バイタルは…不安定、急がないと」


 どうやらあのモノクルには患者の状態が見えるらしい


 これが【癒神テラペイア】の神器・【復元治療の神手クーレメディカ・ゴッドハンド】である




 彼女が両手を広げると、ギミックが全て展開した。
 そして注射器のような物が火等かとう燃絵もえの腕に刺さり、血液を採取する。そして彼女のモノクルに情報が表示され、解毒に必要な成分が彼女の魔力から自動生成され、別な注射器に透明な液体が満たされる


 「よし、いくよ火等かとうさん」


 注射器が腕に刺さり、液体が注入されていく……そして


 「あ、あ……ああ」


 皮膚の色が肌色に戻っていく……解毒が成功した


 「よし…もう大丈夫、あとは粗某そぼうくんだね。モモちゃん、お願い」
 《キュイ!》


 診察台の上にモモが飛び乗る…そして


 「な、なんだコリャ!?」
 《キュイ~~~っ!!》


 モモの耳が巨大化し、粗某そぼう牛地ぎゅうじの肩にくっついて、耳が根元からぷっつりと切れたのだ。さらにモモの耳はすぐにニョキッと生えてきた


 「ありがとモモちゃん……よし、【生肉加工ミートワーク】」


 両手のギミックが変化する……刃物や針、はさみなどの医療用品に。そして、目にもとまらぬ速さで肉が加工されていく。ピンクの毛がそぎ落とされ、筋肉・神経・血管が作られていく。足りない部品は魔力で生成され、1分もしないうちに腕は完成した


 「よし……おしまい。モモちゃん、お疲れさま」
 《キュイ~~っ!!》


 「…………」


 刺兼さしがね都針とばりは目の前の光景が信じられなかった
 たしかに彼女は治療が専門の〔神の器〕だ。だから直接戦闘は出来ないという話を聞いて、正直呆れていた。なぜそんなヤツが【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】なのか、と


 だがそれは間違いだった……彼女は間違いなく必要だ


 刺兼さしがね都針とばりは、目の前でピンクのウサギのような生き物の頭を撫でる彼女が眩しく見えた




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 それから5分としないうちに火等かとう燃絵もえが起き上がり、刺兼さしがね都針とばりを見た


 「刺兼さしがね……」
 「お、火等かとう起きたか…って!? スマン!!」
 「あ?…って、わわ!!」


 刺兼さしがね都針とばりは高速で後ろを向く…何故なら火等かとう燃絵もえは上半身裸だったからである


 「なぁ、刺兼さしがね…その、ありがとう」
 「あん?…気にすんなよ、生きてて良かった。祖某も岩木も無事だぜ」
 「うん……いろいろゴメン」


 突然謝った火等かとう燃絵もえ刺兼さしがね鳴見治看なるみなおみは顔を見合わせた


 「あたし…アンタにいろいろひどいこと言った…アンタはあたしを必死に助けてくれたのに……う、うううっ…」


 火等かとう燃絵もえは泣き出してしまった。刺兼さしがね都針とばりはため息をつき、強い口調で言う


 「大丈夫だって言ってんだろ? 反省するんだったら今度は負けないように強くなろうぜ。祖某も岩木も神器が破壊されて戦えなくなっちまったけど、俺たちはまだいけるだろ?」
 「……うん。あたし…もっと強くなる。もう負けない!!」
 「よーし、その意気だぜ!!」
 「よっし、さっそく【神の箱庭サンクチュアリ】に行くよ!! 刺兼さしがね、アンタもね!!」
 「いや今日は休もうぜ…疲れたよ」
 「そうだね…じゃあアンタの部屋に行くよ」
 「……何言ってんだよ、祖某のトコに行けよ」
 「牛地はしばらく起きないからね。アンタに礼もしたいしさ……いいよ?」
 「…………うん」


 そう言って二人は出て行ってしまった


 「あはは……疲れたね、モモちゃん」


 いつの間にか、彼女は取り残されていた


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 その後、【メガゴブリン】兵が粗某と岩木を彼らの自室に連れて行った…じきに眼をさますだろう


 彼女は再びモモを膝に乗せ読書をしている
 後で知ったことだが、モモは肉体再生に特化した生物で、身体を失っても肉の一部分でも残っていれば再生するらしい。その肉はあらゆる生物に適応するので、彼女の力と合わせれば失った四肢を復元することも可能になった。まさに最高のパートナーでもあった


 しばらく読書しているとドアがノックされた


 「はーい、どうぞ」


 「失礼します」


 入ってきたのは羽蔵はねくら麻止まとめ、【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】序列9位でもありクラスのまとめ役の少女だった


 「麻止まとめ…どうしたの? あなた【黒の大陸】に行ってたんじゃ?」


 「うん。【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】を含む〔神の器〕が全員招集されるらしいからね、ひとまず先に帰ってきたの」


 「全員?……なにかあるのかな?」


 「どうやら【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】を再編成するみたいよ。みんな順調に強くなってるから、それに……もう11人も無月に倒されたからね」


 「……そっか、そうなんだ」


 「…………」


 「あたしに……神器を治す力があれば……」


 「治看なおみ……」


 重くなりかけた雰囲気は、新たな入室者により破壊された


 「こんにっちわ~~っ!! 治看なおみちゃん元気~~っ!!」


 「黎明れいめいちゃん、久しぶり」


 「アナタね……ノックぐらいしなさいよ」


 「あれ? 委員長もいたんだ。あ、モモちゃんも久しぶり~~っ!!」


 《キュウウウ~~っ!!》


 弓島ゆみしま黎明れいめいは、机の上にいたモモを抱きしめる…モモは苦しそうな声を出した


 「何の話?…あ、もしかして再編成の話?」


 「そうよ。アナタや私の順番も変わるかもね」


 「まぁ…あたしはどうでもいいかなぁ、治療しかできないし」


 「でもさ、上位4人は変わらないと思うよ。式場しきばさん、書華しょうかちゃん、剣吾けんごくん、巌次がんじくん…この4人は別格だもん」


 「そうね……とくに式場しきばさんには勝てる気がしないわ。シグムント様でさえ、かなりの手練れと仰っていたわ」


 「ふ~~ん。でもまぁ、ジュートはきっと同じくらい強いよ。だって……【第二神化形態】に目覚めたからね」


 その言葉に羽蔵はねくら麻止まとめ鳴見治看なるみなおみは驚愕の表情をした


 「ウソでしょ!?……まさか、【第二神化形態】は私達でもまだ5人しか使えないわ。しかも【銃神ヴォルフガング】の力で……マズイわね、あなたそれを報告したの!?」


 「あたりまえでしょ。とっくにしたよ……アタシ達ももっと強くならないとね」


 「ええ。そうね……」




 その会話を聞きながら、鳴見治看なるみなおみは思った




 第二神化形態になれば……【神器ジンギ】を修復出来るかもしれない、と
 

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