ホントウの勇者

さとう

大樹都市ウィル・ティエリー⑥/サソリの微笑・命の決意



 夕食を終えて部屋に案内される。部屋はやっぱりシンプルな作りで、ベッドとテーブルと椅子しか無かった
 しかし、そんなことはどうでもいい。今大事なのは、あの〔神の器〕を倒せるかどうかだ


 《······1つだけ言っておくワ》


 「······何だよ?」


 《アナタが死ぬと、ワタシ達【九世神獣ナインス・ビスト】も滅びるワ》


 「な、何を···言ってんだよ?」


 《それだけじゃナイ···アナタとパスを繋いでいる、アノ女の子達も今度こそ神に精神を侵食されるでしょうネ。そうなればその場にいるマレフィキウムも滅ぼされるでしょうネ》


 「やめろよ·········」


 《ワタシ達はアナタと魂で契約してる。アナタが死ねばアナタの死に引っ張られて死ぬのは当然でショ?》


 「クロ······止めてくれ」


 《何度も言ってるワ、今のアナタでは勝ち目がないって。それでもアナタは戦うなら覚悟をしなサイ。ワタシ達とマレフィキウム、あの女の子達の命を》


 「·········やめろ」


 《今ならまだ間に合うワ、逃げなサイ······あの二人も追っては来ないでショ》




 「もうやめろよ‼ 勝てばいいんだろ、勝てば······」


 《·····ムリよ、アナタが一番分かってるでショ?》




 俺が死ねば···アウラだけじゃない、クロ達も、氷寒や括利、マフィも······みんないなくなる


 ここで逃げ出せば、アウラは死ぬ
 俺は何事も無かったように旅を続けられる


 でも···俺の心は死ぬ


 どうすればいいんだ···


















 「こんばんは···坊や」


 「ッ⁉」
 《ッ⁉》


 俺とクロが同時に構える、そこに居たのはもう一人の〔神の器〕。その人はベランダに立っていた




 「挨拶がまだだったわね。私は甲金こうがね蠍理さそりよ、ザンクから貴方のことは聞いてるわ」


 「どうして······?」


 「貴方のお名前を聞かせてくれない?」


 「······無月、銃斗」


 「そう。よろしくね、無月君」


 どこまでも深く、飲み込まれそうな微笑


 「貴方の心は決まったかしら?」


 「············」


 「そう、悩んでいるのね······可哀想に」


 「頼む······手を引いてくれ」


 「それは出来ないわ。私達の復讐に必要なのは力···【魔神軍】を滅ぼす力。貴方の事情は知らないけど手は引けないわね。さぁどうする?」




 1つだけわかった······コイツはこの状況を楽しんでる


 俺が怒りに身を任せてコイツ等と戦えば、ただ叩き潰せばいいし、アウラを見捨てる決断をすれば、笑いながらアウラを殺すだろう


 微笑の奥に見えるのは······愉悦
 俺の決断を聞き、最大限に屈辱を与える······そんな歪んだ笑みを浮かべてる




 ふざけやがって······‼




 「舐めんじゃねえぇぇぇ‼···ぐがっ⁉」


 「あらあら、ここで死にたいのかしら?」


 女のローブの中から、鎖のような物が飛び出し俺を一瞬で拘束した


 鎖、と言うよりは関節が幾つも集まって出来たような···機械で蛇を作るとこんなデザインになるんじゃないか、という何かが俺を締め付ける


 「あ、がぁ···ぐ、あぁ⁉」


 「ふふふ、いい顔ね···あの白服の子供達・・・・・・じゃ物足りなくってねぇ···貴方なら少しは楽しめるかしら?」


 白服···みんな、こいつ等に···‼


 「あはは、まぁこの辺にしてあげるわ。貴方の選択···楽しみにしてあげるわ」




 俺を拘束していた鎖が消える…そして女も消えていった




 「う、ううあ···ち、ちくしょう‼」


 《············》




 俺は、あまりにも無力だった










 やはり、クロは何も言わなかった




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 覚悟は決めたハズだった
 でも……クロ達の、マフィの、氷寒と括利が懸かっている


 俺が負ければ全てが終わる


 ここで逃げれば……アウラの死で終わる


 どうすればいいんだよ……


 ああ……神様、俺はどうなってもいい、だからみんなを……




 《なーに戦う前から諦めてんだよ!!》


 「……アグニ」


 《そーだよ!! わたし達が付いてるじゃない!!》


 「ルーチェ……」


 《もぐ……もぐもぐ!!》


 「モル……」


 部屋で立ち尽くしていた俺の前に、赤、青、黄の紋章が輝きアグニ達が現れる


 「でも……分かるんだ、あいつらは今の俺じゃ勝てない。次元が違う」


 《だから諦めんのか? お前は勝てる戦いじゃねーと戦わねーってのか?》


 「それは……」


 《ジュート、わたし達が側にいる。アウラ達を守りたいんでしょ?》


 「当たり前だ……!!」


 《なら……ヤルしかないワネ》


 「クロ……いいのか?」


 《アナタには言っても無駄だからネ。その代わり必ず勝ちなサイ…何度も言うけれど、アナタが死んだら全てが終わり…アナタと魂で繋がっているワタシ達も死ぬワ》


 《もぐ……》


 「わかってる……必ず勝つよ」


 俺は決めた
 戦う……【銃神ヴォルフガング】の全てを出して


 アウラを死なせたりするもんか


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 「おはようなのじゃ、ジュート!!」
 「おう、おはようアウラ!!」


 アウラの笑顔はここに来て最高の明るさになったと思う
 兄と姉との和解……嬉しくないはずがない


 絶対に……守ってみせる


 アウラと一緒に朝食を済ませ、今日は王宮へ向かう
 エルフ王、ラウド・フィールディング……アウラの父に会うためだ


 「兄上と姉上、ヨルナも同席することになっておる…この先の広場で待ち合わせじゃ」


 王宮の前には広場があり、そこから昇降機で王宮へ向かう
 アウラの屋敷を出た俺たちは、ゆっくりと歩き出した


 俺の隣にはアウラ、その後ろをラルシドとフェリーナがゆっくりと付いてくる。広場までは歩いて5分ほどの距離だ


 「……もうすぐ……お別れじゃの」
 「……そうだな」


 歩きながらそんな会話をする。覚悟はしていたがこみ上げてくる物があった


 「まだ先だろ? 少なくとも俺はお前が王女になるまでは見届けさせて貰うからな!!」
 「ふ…そうじゃったな。おぬしには是非見て貰いたいからの」
 「ああ、お前の夢の第一歩だ。気合い入れろよ!!」
 「うむ!!」


 俺とアウラはにっかりと笑い合う


 広場が見えてきた……そして、そいつらはいた


 「おう、きたかアウラ」
 「全く……遅いわよ」
 「アウラ姉様ーっ!!」


 アルマティ、マニャーナ、ヨルナが既にいた……そして


 「………ふっ」
 「ふふふ……」


 切華きりはな斬駆ざんく甲金こうがね蠍理さそり……2人の〔神の器〕が、俺を見て微笑した


 「すまぬのじゃ…さて、行こうかの」


 アウラの一声で、俺たちは王宮へと歩き出した




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 〔風の昇降機〕はかなり大きく、俺たちが全員乗っても余裕のスペースがあった
 全員が乗り込み上昇する、するとアルマティが


 「サソリ、お前は王宮へ行くのは初めてだよな?」
 「はい、アルマティ様」


 「ザンク、アナタもよね?」
 「その通りです、マニャーナ様」


 「王宮は最上枝の下の〔第6枝〕にあるのじゃ。王宮の一番奥に〔緑の王の祭壇〕と呼ばれる場所がある。そこで祈りを捧げることで風の精霊に王と認められて初めてエルフ王を名乗ることができるのじゃ」


 アウラが胸をはって説明してくれる


 「さらに祭壇の奥には強固な結界が張られており、誰も進む事ができんのじゃ。その先には〔聖樹メーディアス〕が存在し、古代の神の力が宿ると言われておる」


 「……そこから先に進む方法はないのか?」


 ここであえて聞いてみる…僅かに2人の様子が変わった


 「さぁ、聞いたことがないのじゃ」


 「ふむ……確か、かつてエルフ王が命を捧げて結界を開いた…という記録が残っていたわね。それが本当かどうかは知らないけど」


 マニャーナさんがフォローしてくれる。これであいつらに取っては望みができたって訳か




 昇降機は登り……王宮へと着いた


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 王宮…というよりは巨大なコテージ、と言った方がいいだろうか


 丸太を積み上げて作った巨大な建物だ。周囲には広場や水場が存在し、辺りには柔らかな日差しが注いでいる。どうやらここは雲の上らしく、下は全く見えない


 「さーて、親父に挨拶といくか!!」
 「兄様…親父ではなくエルフ王、ですよ」
 「細かいことは気にすんな、さっさといくぜ!!」


 マニャーナさんの注意も全く聞いていない、コイツはやっぱり大物だな


 ちなみにアルマティとマニャーナさんの支持派はおとなしく引いたらしい。マニャーナさんは王位をアウラに譲る事とその理由を細かく説明し、アルマティはグダグダ抜かすヤツをぶん殴っておとなしくさせたそうだ……兄妹でこの違い


 俺たちはアルマティの後についていった




 王宮の中に入り、真っ直ぐに謁見の間に入る…そこにいたのは中年のエルフだった
 壁には武装した兵士がわんさといる。さらに謁見の間の後ろには巨大な入り口が見える。ドアなどはなく、直線の長い通路だ


 「……アウローラ」
 「父上!!……お久しぶりでございます」
 「ああ、無事で何よりだ」


 アウラの父、ラウドさんは微笑んだ。本当にうれしいんだろう
 すると、アルマティが大声で話し出した


 「親父!!…本当にすまねえ、オレがバカだったばかりに、親父にもヨルナにも迷惑をかけちまった……オレの支持派で不穏なヤツらは全員ぶん殴っておいた。本当にすまねえ!!」


 アルマティはその場で土下座する…周りの兵士達も、俺たちも驚いた


 「それを言うなら私もです。父上…本当に申し訳ありませんでした。自分の理想を実現させるために、強硬な手段を取ったこの大馬鹿な娘に罰をお与え下さい!!」


 マニャーナさんもアルマティの隣で土下座する
 アウラは2人を起こそうと腕を取った


 「おやめ下さい!! 全てはわらわがいけなかったのじゃ!! 王位に指名されても何の興味も持たなかったわらが、兄上や姉上ほどの熱意があればこんなことにはならなかったのじゃ!!」


 アウラの叫びを聞いたヨルナは、マニャーナさんを起こそうとする


 「姉様……わたしは何も知らなかった…何も出来なかった…わたしにも罪はあります」


 ヨルナは全てを理解していた、アウラ達が自分を守っていてくれたことを
 すると……エルフ王は


 「もうよい…よいのだ、顔を上げよ」
 「親父…」
 「父上…」
 「父上…」
 「うう…父上」


 「アウローラ…お前が何を得たのかは知らぬ。だが、顔を見れば分かる…決意したのだな」
 「……はい、わらわは王となるのじゃ!!」


 アウラの答えにエルフ王は笑った


 「ち、父上?」


 「いや……お前のしゃべり方…未だにカシミアのを真似ているのだな」
 「あ…これは、その…母上のがうつってしまっての」


 カシミア……アウラの母親か。この変な喋り方は母親譲りだったのか


 「ふふ、まぁよい。これでわしの跡を継ぐ王は決まった…明日、儀式を執り行う!!」


 「「「「オオオオオーっ!!!!」」」」


 周りの兵士が歓声をあげる……これでアウラは王になる


 「アウローラ、アルマティ、マニャーナ、ヨルナ……今日は家族で過ごそう。皆で食事でもどうだ?」


 エルフ王の提案にみんなはノリノリだ


 「いいねぇ!! 親父、上等の酒を用意してくれよ!!」
 「あら…じゃあ私も付き合おうかしら?」
 「うむ!! はははっ、楽しいのじゃ!!」
 「わーいっ!! うれしいっ!!」


 家族の団らん……その光景はとても眩しかった…しかし








 俺は気付いていた────




 


 切華きりはな斬駆ざんく甲金こうがね蠍理さそり、この2人だけは────








 最初から最後まで、謁見の間の奥の通路を覗いていたことに





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