ホントウの勇者

さとう

大樹都市ウィル・ティエリー⑤/先輩の過去・決断



 切華きりはな斬駆ざんくと名乗る20代半ばの〔神の器〕は、過去を懐かしむように語り出した


 「召還された当時…僕たちはまだ15歳。高校に入学してまもなくの頃だった。あの時……クラスのみんなが席に着いたとき、視界が暗転した……気がついたら異世界、〔クローノス城〕だったのさ。ここまではキミ達と同じかな?」


 「………ああ」


 「僕たちの場合は……40人転移して、生き残ったのが13人しかいなかったのさ。全員死体となって転移された……そりゃもうパニックさ、【魔神】がなにかゴチャゴチャ言ってたけど誰も聞いちゃいなかったさ」


 「生き残った僕たちは訓練を受けさせられた…半ば無理矢理ね、この世界のことを何も知らなかったし、生きていくためには神どもに従うしかなかった……屈辱だったよ」


 「そんな生活が1年ほど続き…何人かの様子がおかしくなっていった。憎き【魔神】を崇拝するようになっていったのさ…僕が何を言っても無駄だったし、他の子達も少しずつおかしくなっていった」


 「その時初めて気付いたのさ、自分の中の【神】の力が人格を浸食してると言うことにね……自分が自分でなくなる、そんなことは許せなかった」


 「そのときに正気を保っていたのは8人…すでに5人は神に意思を乗っ取られて【魔神】の手駒となっていた。僕たちは決意した…【時の大陸】から逃げ出して、元の世界に戻る術を探すと」


 「仲間の1人が【門】を開いてなんとか脱出できた。後はこの8大陸を放浪してなんとか帰る術を探した……この時18歳、この世界に来てから3年が経過していた」


 「何度か危険な目にも遭った…SSレートのモンスターが襲ってきたり、かつての仲間が襲いかかってきたときもあった。相打ちやこちらが殺されたりもして…仲間は6人まで減ってしまった。そんな時だった」


 「【空神シグムント】の最高傑作の神獣…SSSレートのモンスター、〔スカイブルー・バハムート〕が襲いかかってきた。僕たちは当然戦った……神の力が自分を浸食してるのを感じながらね」


 「6人しかいなかったけど、僕たちは間違いなく8大陸最強だったと思う…それでも苦戦したけどね。そんな時だった……仲間の1人が5人の盾になって死んだのさ」


 「彼の最後の言葉を聞きながら……僕たちは全力で【神器ジンギ】を解放した。神に心を浸食されるのが分かったが、そんなのお構いなしだった……それほど許せなかった…そのときだった」


 「【神器ジンギ】が今までにないくらい強力になって姿も変わった。今なら理解出来るよ、きっと僕たちの強い意志が神を屈服させたんだ……そのときから神の浸食は全く感じなくなった」


 「僕たちは決意した…仲間のカタキを討とうと、そのために力を付けようと…そこで二手に分かれて神に対抗するために力を得ようとね……もう分かっただろ?」


 ここで初めて俺に質問してきた……ああ、わかったよ








 「あんたの狙いは…〔聖樹メーディアス〕の古代の神の力か!?」




 「ご名答……よくできました」




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 「ちょっと待てよ、〔聖樹メーディアス〕には封印結界が掛けられてんだぞ!? 王位継承者でも手前の祭壇までしか近づくことが出来ないはずだ!!」


 「そう…しかし、聖樹に近づく方法が一つだけある」


 「え……な、なんだよそれ?」




  切華きりはな斬駆ざんくはにやりと笑い、残酷な真実を告げた


























 「王位継承者の命・・・・・・・を捧げることで結界は開くのさ」


 「……は?」












 つまりコイツは


 アウラを殺す事で


 力を手に入れようってか?




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 「ふっざけんなぁぁ!!!」


 「おっと……ははは、やっぱり理解されないか」


 「テメェ……殺すぞ!!」


 「殺す?……キミが?……ははは、冗談だろ?」


 「……っ!?」


 強大な圧力が俺を押しつぶそうとする


 「まったく、僕はキミを殺したくない。だからきちんと解決策を用意しておいたんだ…話は最後まで聞きたまえ」


 「……解決策?」


 「ああ、キミの大事なエルフ少女を守れて、尚且つこの国の平和を維持できる方法さ」


 そんな手段があるのか…?
 それともただのハッタリなのか?




 「簡単さ、長男のアルマティを王にすればいい」


 「はぁ?……どういう」


 「僕たちが欲しているのはあくまで王位継承者、簡単に言えば誰でもいいのさ。なら邪魔なアルマティ王子を生け贄にすれば、自動的に次の王はアウローラだ……力を手に入れれば僕たちはこの国にいる理由がなくなるからすぐに出て行く……どうだい? 理想的だろ?」


 「…………」


 俺はすぐには返事が出来なかった……
 出来るハズが……なかった


 「時間はそんなにない。まぁゆっくり決めることだ…恐らくアウローラの説得はキミにしか出来ないだろうからね」


 「ま、待てよ…あんたの目的は【魔神】なんだろ? だったら一緒に戦えるんじゃ……」


 「ハハハハハ‼ 雑魚はいらない。それにキミのお友達は【魔神】の手先なんだろう? 前回は見逃したが次からは容赦しないよ……ま、止められるものなら止めてごらん? 相手になるよ」


 「くっ……そがぁ!!!」




 「じゃあ、おやすみ…僕たちの敵にならない事を祈っているよ」


 そう言い残して、切華きりはな斬駆ざんくは部屋を出て行った






 


 「ちっくしょうがぁ!!」


 《ジュート……どうするノ?》


 「…………」




 俺は許せなかった


 一瞬……揺らいでしまったのだ


 ヤツの解決策……アウラの兄を生け贄にする




 それしかないと思ってしまった自分に




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 「よし、それでは兄上の所へいこうかの」
 「…………ああ」
 《…………》


 マニャーナさんの屋敷から出て今度はアルマティ王子の屋敷へ向かう
 昨夜、マニャーナさんが事前に連絡を入れてくれたので、そのまま向かって行けばいい


 「どうしたのじゃ? 元気がないのう」
 「……いや、何でもない」
 「……ふむ。ならよいが」


 クロは何も言わずに歩いている…きっと俺に委ねるんだろう
 俺はアウラに聞いてみた


 「なぁアウラ…アルマティ王子ってどんな人なんだ?」
 「兄上か、そうじゃな…一言で表すならバカじゃな。計算や考え事が苦手でなんでも腕っ節で解決するようなお人じゃ。姉上曰く、今回のことも支持派にうまく言いくるめられてこんなことになったと予想しておる」
 「そ、そうなのか?」


 おいおい、大丈夫なのかよ……これがとんでもない悪人だったらまだ楽なんだけどな


 「でも…兄上は優しいのじゃ。一緒に狩りをしたり、わらわのために専用の弓を作ってくれたりしたのじゃ。わらわは兄上を尊敬しておる」


 「………そうか」


 俺は……どうすればいいんだ?


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 「話は聞いている···こっちだ」 


 アルマティ王子の屋敷に到着し、門番に事情を説明すると、あっさりと通された
 アルマティの性格なのか、門番もやたらと筋骨隆々としており、中々強そうな感じだった


 通されたのは······やたらと広い部屋だった
 テーブルはおろか椅子やサイドテーブルすらない。飾り気が全くなく天井もかなり高い、そして······目の前に背を向けて誰かが立っていた


 「久しいな······アウローラ」
 「アルマティ···兄様」


 アウラの声には喜びが半分と戸惑いが混ざっている。久しぶりに兄に会えて嬉しいが、ここまでの事情もあり素直に喜べないのだろう
 アマルティはきっちりと武装していた
 体は鎧に包まれていているが、二の腕は剥き出しだ。腕を見ただけで相当に鍛えているのがわかる。顔は25〜6歳くらいのイケメンで、銀髪は短く逆立てている。


 何より気になったのは······壁に寄りかかっている黒髪の女性だ。間違いなく〔神の器〕だ


 アマルティは振り向きざまに言う


 「オレは難しい話は嫌いだ。要点だけ言う······王位継承権をよこせ」
 「イヤじゃ」


 「「「「「············」」」」」


 即答


 あまりの早さに俺もラルシドもフェリーナも反応出来なかった
 あらら、アルマティも呆然としてる


 「兄上、王位継承権がほしいのなら···力づくで奪えば宜しいのでは?」


 「ほう······‼」


 あ、キレてるわ。腕の筋肉がピクピクしてる


 「妹と言えど遠慮はせぬぞ‼」


 「わらわの知る兄上は、妹に遠慮するような人では無かったと思いますが?」


 アウラはひたすら兄を煽る


 「よく言った、ならば行くぞ‼」


 アルマティは拳を握りしめ向かってくる、かなり速い
 俺が前に出ようとすると、アウラが笑顔で制した


 「任せるのじゃ」


 そう言うとアウラは音もなく飛び出した




 アウラが飛び出した事にアルマティは驚いたようだったが、そのままの勢いで拳を振り上げる


 「ぬうぅんっ‼」
 「っ‼」


 アウラは拳を限界まで引き付け身体を捻り、そのまま懐へ潜りつつ左手の〔マルチウェポン〕を起動


 ギミックナイフを発動させてアルマティの首筋に当てた


 この間···5秒


 アウラは汗だくになりながら息を荒くしているのに対し、アマルティは無表情でアウラに問いかける


 「殺らぬのか?」
 「やりません···出来るわけがありません」
 「何故だ?」
 「家族だから······大好きな兄上だから」
 「······そうか」


 アウラはナイフをしまい兄に向き合う


 「兄上、話を···きゃあっ⁉」


 アルマティは突然、アウラの頭をガシガシ撫でた


 「強くなったなぁアウローラ。オレは嬉しいぞ‼」
 「あ、兄上?···ひゃうっ⁉」


 そのままアウラを抱き締めた
 な、何なんだよ一体? 俺達も呆然と見てるしよ


 「さて、お前の話とやらを聞かせて貰おうか。あ、なるべく簡単に頼むぞ。オレは難しい話は苦手だからな、がっはっは‼」


 こ、この人···こんなキャラだったのか。全然悪い人に見えないぞ




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 案内された部屋は、かなり豪華な部屋だった
 今度はキチンと椅子テーブルのある部屋で、壁には木の工芸品が飾ってあり、金属の鎧や剣なんかも飾られていた


 俺とラルシドとフェリーナはアウラの後ろに、アルマティの後ろには黒髪の〔神の器〕が待機している


 俺を見てニコリと微笑む姿は、今の俺からは恐怖しか感じない。コイツもまた······俺より強い


 「してアウラよ、話とは何だ?······王位継承の事か?」
 「そうです、兄上···私の話の前に、兄上が望む王について聞かせて頂けませんか?」


 「俺が望む王?······簡単だ。俺が望むのは力‼ 何者にも負けぬ武力こそオレが求める物だ‼」


 「今はこのエルフの地だけだが···いずれは【緑の大陸】で最強の種族としてこの地に名を轟かせるのが我が夢だ‼ がーっはっははっはぁ‼」


 「「「「·········」」」」


 ば、バカっぽい···アホかこいつ
 思わず全員黙り込んでしまった


 「あ、兄上···政治や民の事は?」


 「あん? 難しい事は全部任せる。マニャーナやお前もいるしな。それに細かい事はオレの支持派がやってくれたし、今回の親父の件も支持派が考えた事だしな‼」


 「「「「······」」」」


 こいつはバカだ···こんなヤツが王になったら国は終わるぞ


 でも···不思議と憎めない、なんか愛嬌がある
 カリスマと言うよりは、クラスのお調子者みたいな···そんな明るさがこの人にはあった


 「あ、兄上···わらわの目指す王とは······」


 若干、疲れを感じながらアウラは話し始めた
 アルマティは最初は真面目に聞いていたが、段々と面白そうな顔になっていく


 「はっはっはっは‼ 実に面白い。他種族との交流か、強き戦士達がこのエルフの地に訪れる······考えただけで心が踊る。いいだろうアウローラ、お前の好きにやってみろ。その代わり···お前が治める国の戦士達はオレが仕切らせてもらうぞ」


 「は、はい‼ 願ってもありません。兄上の人望があればこの国の戦士達は更に強くなる事でしょう‼」




 アウラは嬉しそうに兄と語る
 これで······アウラは王となる


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 「さて、今日はわらわの屋敷へ案内するのじゃ」


 アマルティの屋敷から出て、俺達はアウラの屋敷へ向かっていた。今日はそこに泊まり、明日アウラの父の元へ向かい、正式に王となるべく儀式を受ける


 ラルシドとフェリーナは、夕食の準備の為に先に行っている。アウラの護衛は俺に一任された


 国民にも新たな王を知らせる準備もある為、明日から忙しくなるみたいだ


 「ジュート、わらわの覚悟は決まったぞ。この国を変えてみせるのじゃ‼」


 アウラは、眩しい笑顔で俺に語る




 「ああ、俺も覚悟を決めたよ」
 「···?」






 あの二人と戦う覚悟を


 アルマティを生贄になんかしない


 アウラを殺させはしない






 俺が絶対に······守ってみせる






 《············》














 クロは、何も言わなかった





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