ホントウの勇者

さとう

大樹都市ウィル・ティエリー③/姉の理想・能面の奥の歪み



 俺達は道の途中で魔導車を降りて歩き出した。魔導車のままだと怪しまれるからな···するとラルシドが


 「ジュート殿、これをどうぞ」
 「ん?···これは?」


 ラルシドに手渡されたのは黒い布、しかも結構長い


 「黒髪だと怪しまれますゆえ··そちらを頭へと巻いて頂きたい。それと···フェリーナ」
 「はい」


 俺は頭に布を巻きターバンのようにしていると、フェリーナが何やら魔術を使った···すると


 「おお、ジュートの瞳が銀色になったのじゃ‼」
 「マジで⁉」
 《ヘェ···似合ってるワヨ》


 アウラと、アウラに抱っこされたクロが褒めてくれる。ちなみにクロの声はラルシド達には聞こえない、やはりアウラが特別なようだ


 「【緑】の【精霊魔術】は、幻惑や隠蔽を得意としています。これなら問題ありません…私の技量では瞳の色を変えるのが限界ですが……申し訳ありません」


 「いやいや···ありがとな」


 「いえ、それでは参りましょうか」




 〔大樹都市ウィル・ティエリー〕は、もう目の前だ




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 〔大樹都市ウィル・ティエリー〕の根元までやって来た…が、どうやって登るんだ?
 俺が樹の上を眺めていると、アウラが袖を引っ張ってきた


 「ジュート、何をボーッとしとるのじゃ。コッチに来い」
 「え?…ああ」


 アウラに促され、3人に着いていく…それにしても根だけでこんなに太いなんて。誰がこんな樹を植えたんだろうな?


 《神の力にヨルものネ…そこは間違いないワネ》
 「ふーん……何のために?」
 《……サァね》


 物知りキャットさんでも分からんのか…まあ今は別にいいや
 肩に乗っかるクロの頭を撫でながら歩くと、3人がふと歩みを止めた


 「これに乗るのじゃ」
 「……なんだこれ?」


 俺の目も前にあるのは柵の付いた正方形の木の箱。仕掛けらしい仕掛けはなく、素材も普通の木製である…まさかこれってゴンドラ? でもワイヤーは付いてないし…どうすんだ?


 「はら、考えてないでのるのじゃ。出発するぞ」
 「お、おう」


 取りあえず乗り込む…うん、やっぱり仕掛けはない


 「フェリーナ、頼むのじゃ」
 「はっ!!」
 「え?……お、おおおお!?」


 フェリーナが呪文を唱えたとたんに、ゴンドラが浮き上がった
 そのままぐんぐん上昇している…これってまさか


 「こちらは【緑】の精霊の力を借りて、集中的に上昇気流を起こしています。どうですか、いい眺めでしょう?」


 ラルシドが解説してくれる…たしかにスゴくいい眺めだ


 そのまま2分ほどで、巨大な木の枝の上に到着した
 枝の幅はかなり広く、きちんと柵が設けられている
 俺たちが到着した場所には丸太小屋が設置されていて、中から中年のエルフの男性が現れる


 「お帰りなさいませ。フェリーナ様、ラルシド様…おや、そちらの方は?」


 中年エルフの視線は俺とアウラに向く。するとアウラが帽子をはずした


 「ただいまなのじゃ。スポーン」
 「あ、アウローラ様!?」


 スポーンと呼ばれた中年エルフは驚愕していた


 「おおお…ようやくお戻りになられたのですね」
 「うむ。心配掛けたの…」


 ラルシドがこっそりと耳打ちしてくる


 アウラは1~3枝の庶民から人気があるので、今回の行方不明では町中のエルフが心配していたそうだ。このスポーンという中年エルフはこの〔風の昇降機〕の管理人で、よくアウラにせがまれて下の大地までゴンドラを降ろしていたらしい


 「さて、取りあえず行こうかの。〔5の枝〕に行くにはこの〔1の枝通り〕を抜けていくのが近いのじゃ」
 「ああ。案内よろしくな」
 「うむ!!」


 アウラは笑顔で頷く。やっぱり久しぶりの故郷が嬉しいんだな


 エルフの町…どんな感じなんだろうな


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 「ここが〔1の枝通り〕なのじゃ」
 「へぇ…かなり賑わってるな」


 アウラを先頭に俺たちは歩き、そして〔1の枝通り〕に到着した


 枝の幅はかなり広い…50メートル以上はある。さらに転落防止の柵が設けられ、枝の端に並ぶように丸太小屋が建てられていた
 道…っていうか枝の上を歩く人は当然エルフしかいない。武装した人、普通の人、子供、老人ととにかく沢山だ


 ここに住む人達は基本的に物々交換で物をやりとりしているため、お店が存在しない。薬草、果物、モンスターの肉や素材、調味料や木の実など様々だ
 ちなみに水は、この大樹が吸い上げた水をそのまま飲んでいるらしい。枝に切れ込みを入れると水が染みこんでくるそうだ


 アウラは道の真ん中を堂々と歩いている…すると


 「あ、アウローラ様!?」
 「アウラ様!?」
 「お戻りになられたので!?」
 「おおお、やはり生きておられた!!」


 あっという間に囲まれてしまった…すごいな
 俺とラルシドとフェリーナはあっさりと人に追いやられる


 アウラは一人一人に挨拶をかえし、時には抱きしめたり頭を撫でたりと大忙しだ


 「アウローラ様は小さい頃からよくこの〔1の枝〕で遊んでおりました。それは今でもずっと変わらずに、ここのエルフ達と交流を続けておられて……私はアウローラ様みたいな方こそが王に相応しいと思います」


 いつの間にか隣にいたフェリーナが涙を浮かべながら言う




 その視線の先には、人々に笑顔で囲まれるアウラがいた




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 アウラの帰還は瞬く間に広がった
 行方不明の次期王女が帰ってきたと、どこもかしこも騒いでいる


 俺たちは枝に上がるにつれてエルフ達に囲まれながら、やっとの事で〔5の枝〕まで到達した
 この辺りは大きな家が数軒建っているだけでかなり広々している。しばらく歩くと枝の先がいくつかに分かれている、まぁ枝だしな…この先のどれかがアウラの姉の屋敷なんだな


 「……こっちなのじゃ、ジュート…念のため用心してくれ」
 「わかってる」


 アウラの表情が硬くなっていく
 フェリーナとラルシドも気を引き締めたようだ
 俺も意識を集中する。もしかしたらこの先に〔神の器〕がいるかもしれないからな


 そのまま歩くと見えてきた…枝の先端に大きな家が建っている
 ……なんか恐いな。あんな所によく住めるな


 「心配すんなアウラ、お前は言いたいことを言え」
 「ああ、分かっておるのじゃ」


 アウラはにっこり笑い、俺の手を握りしめた




 《……ジュート、気を付けなさい…いるワヨ・・・・




 俺も…がんばらないとな


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 屋敷の前には門番が2人いた。そのうちの1人がアウラを見ると、慌てて屋敷の中へ駆け込んでいく
 しばらくすると、屋敷の中に案内された。そして応接間に案内される 


 応接間は結構広い。だいたい学校の教室くらいの広さで、木材を加工して作ったベンチに座布団を敷いたようなソファにテーブル。魔道具はひとつもなくシンプルな作りだ。部屋にはベランダが付いていて外を見渡せる…かなり高いところにいるみたいだ、こわっ!!


 アウラはソファに座り、クロを膝に乗せ落ち着いている
 フェリーナとラルシドはその後ろで控え、警戒をしている
 俺は…アウラの隣に座っていた


 そして……ドアが開き、男性とエルフの女性が現れた


 「……久しぶりね、アウラ」
 「マニャーナ姉様…お久しぶりです」


 2ヶ月ぶりの、姉妹の対面だった




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 「父上の転移魔術で飛ばされた瞬間は見ていたけど…どこに行っていたのかしら?」
 「はい、とある森に飛ばされて…あとは人間達の町や集落を回ってここにたどり着きました」
 「そう……羨ましいわ。私はこの大樹の外へ出たことがないから……」
 「姉様……」


 姉妹の話は表面上は穏やかに進んでいる……アウラの姉、か


 年齢は二十歳くらいか? アウラによく似た顔立ちで、長い銀髪をひとまとめにして束ねている。着ている服も王族らしい豪華な物で、しゃべり方にも気品を感じさせた


 しかし……俺にはアウラの姉、マニャーナさんのことよりも、その後ろで能面のような笑みを浮かべている男性が気になっていた


 まるでその場にいることを感じさせない存在感……なのに無視することが出来ない謎の威圧感…こんな人に会ったのは初めてだ。俺は視線を送ることも注意を引くようなことも出来なかった


 背中を冷たい汗が流れていくのが分かる……この人はヤバい、危険すぎる


 俺はじっとりと汗をかく……ああそうか、わかった……




 俺は恐怖してる








 「所で……アナタは誰? どうして姿を・・・・・・隠しているの・・・・・・?」






 その質問が俺に向けられた物だと理解するのに、2秒ほど必要だった


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 不意打ちに近い質問に、俺の身体はビクンと跳ねた


 全員の視線が突き刺さり、その様子を見たアウラがフォローを入れる


 「ああ、彼はジュート。わらわをココまで送ってくれた人間です…フェリーナ」
 「はっ!!」


 フェリーナの魔術が解けて瞳の色が黒に戻る。それに併せて俺は頭と耳を隠していた布をハズした


 「まぁ……人間、そういう事ね。所で…具合が悪いようだけど」
 「あ、い、いえ…大丈夫です。スミマセン」
 「そう? じゃあアウラ、本題に入るわね」




 「王位継承権を私に譲りなさい」




 それはお願い、ではなく命令だった…少なくとも俺にはそう聞こえた
 アウラは目を閉じて一呼吸おく……そして、質問をした


 「姉上は何故、王位にこだわるのですか?」


 「決まっているわ。エルフ族の未来の為よ」


 「………未来?」


 「ええ。エルフ族は長年、多種族との交流を持たずに独自の文化だけで生きてきたわ…それを否定はしない、でも…このままじゃいけない。私は外の世界を知らないからこそもっと交流を持つべきだと思う。それはきっとエルフ達の未来に繋がるわ」


 「姉上……」


 「アルマティ兄様は…力によって未来を作ろうとしている。確かに戦わなくてはいけないこともある…でもその度に同胞達の血が流れるのは我慢が出来ないわ。兄様は力による支配を求めている…これから必要なのは支配ではなく共存よ」


 「アウラ、あなたは以前言ったわよね? 王になど興味はないと…そんなあなたを王にするわけにはいかないわ。だから王位継承権を私に譲りなさい」


 「…………」


 アウラは俯いたまま黙っている…そして、顔を上げて微笑んだ




 「姉上……お茶にしませんか?」




 「「「「はぁ??」」」」




 男性以外の俺たち全員の声が重なった




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 最初は何言ってんだ? と思ったが、俺はすぐに理解した
 秘密兵器……マスターのフルーツケーキの出番が来たんだと


 「フェリーナ、ラルシド」
 「「ははっ!!」」


 2人の親衛隊は迅速に行動を始めた。ラルシドが荷物から皿とカップを準備して、フェリーナが生活魔術でポットに湯を沸かし初める…ちなみに飲み物はマスターの紅茶だ
 俺も負けじとケーキを取り出し切り分ける。フェリーナに確認したら、アウラとマニャーナさんの分だけでいいそうだ


 マニャーナさんはその様子を怪訝な瞳で眺めている
 男性の表情は最初に入室したときから全く変わっていなかった


 「失礼いたします…どうぞ」


 フェリーナが2人に紅茶とケーキを出す


 「??……アウラ、これは?」
 「これは「ケーキ」と「紅茶」というものです」
 「???」
 「姉上…お先に失礼いたします」


 訳が分からない、という姉に断りを入れて、アウラはケーキを一口食べた


 「くぅぅぅぅ~~っ!! やっぱりマスターのケーキは最高なのじゃ!!」


 アウラは素に戻って感想を述べ、そのままケーキに食らいつく
 その様子を見ていたマニャーナさんも、恐る恐るケーキを切り分け匂いをかいだ


 「んん!?……これは…甘い匂い?」


 トロン…とした表情になり、意を決して一口食べた…すると


 「~~~っ!?!? お…美味しい~~~っ!!!」


 まるで少女のような歓声を上げて目を潤ませている。やべぇ……俺も食べたくなってきた
 そのまま2口3口と食べて、あっという間にケーキと紅茶はなくなった


 「美味しかったのじゃ~~」
 「ホントね~~~」


 な、なんかまったりしてる2人が凄いそっくりだ。さすが姉妹だな
 ハッとしたマニャーナさんは姿勢を正すとアウラに聞いた


 「コ、コホン…アウラ、これは一体?」


 「姉上…わらわも姉上と同じ気持ちです。エルフの未来の為に多種族と交流する…わらわは様々な町や文化に触れて強くそう感じました」


 「え?……」


 「今のケーキは…ある町で作った職人の技術の結晶です。こんな物がこの世界には沢山溢れています…わらわ達も閉じこもっていないでもっと知るべきだと思うのです…わらわの理想と姉上の理想は同じ、だからこそわらわは最初にここへ来たのです」


 「アウラ……あなた」


 「姉上、どうかわらわが王となることをお認め下さい。姉上よりも世界に触れたわらわの方がきっと王に相応しい。そしてどうか姉上の頭脳をわらわにお貸し下さい…わらわと姉上ならきっと素晴らしい国を作り上げる事が出来るハズです」


 「…………」


 マニャーナさんは黙り込んで…そして


 「フフフフフっ…あははははっ!!」


 大声で笑い出した……なんで?


 「あ、姉上?」


 「アウラ…あなたはっきり言うじゃない。私よりアナタが王に相応しいなんて」


 「あ……いや、その…」


 「悔しいけど確かにそうね。ふふふ…アウラ、あなた随分変わったわね、まるで別人よ…いいわ、私の夢をあなたに託してあげる……その代わり条件があるわ」


 「……条件?」


 「ええ。アルマティ兄様を説得なさい。あなたを兄様が認めたら私も認めてあげる」


 「………はい!! 必ず……!!」


 「期待しているわ。アウラ…」


 マニャーナは立ち上がり、そのままアウラの隣に座る…そして、優しくアウラを抱きしめた


 「お帰りなさい……アウローラ」
 「ねえ…さま……うううっ…」


 アウラは姉のぬくもりに触れながら、静かに泣き出した


























 俺は見逃さなかった








































 男性の能面顔が、初めて歪んだのを
 

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