ホントウの勇者

さとう

大樹都市ウィル・ティエリー①/親衛隊・集落にて



 「ここが〔ワウドゥ古代森〕か」
 「…………おかしいのじゃ」
 「え?…何が?」
 《にゃ?》


 俺たちの目の前には広大な森が広がっていた


 道は全く整備されておらず、木々が乱雑に生えているため魔導車では走りにくい……行けないことも無いけどムチャはしない
 その森の入り口で、クロを抱っこしたアウラが眉をひそめていた


 「結界が消えている……こんなことは今までなかったのじゃ」
 「結界?」
 「うむ。この〔ワウドゥ古代森〕はエルフのみが使える【緑】の【精霊魔術】、〔霧の中の隠れんぼミスティック・レティーロ〕によって霧の結界が施されておる。普段ならここから霧がかかっておるハズ何じゃが……」
 《フム、魔力の残滓も感じられないワネ…》


 確かに周囲には霧一つない。むしろ晴天だ


 「とにかく先に進もうぜ。この先に〔大樹都市ウィル・ティエリー〕があるんだろ?」
 「う、うむ……用心していくのじゃ」
 《イヤな予感がするワネ…》


 俺とアウラとクロは、徒歩で森の中へ歩き出した


 ついに…アウラの故郷へ足を踏み入れた


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 俺とアウラは森の中をひたすら歩いていた
 アウラは…一言も喋っていない。もしかして家族のことかな


 「アウラ、大丈夫か?」
 「………うむ。問題無い」
 《…………》
 「ウソつけ、お前とはもう2ヶ月の付き合いなんだぜ。正直に言えよ……ここまで来て、一人で抱え込むなよ」
 「………ふん、お節介め」
 「今更かよ?」
 《今更ネ…》


 アウラは少しだけ微笑んで、近くの木を指さした


 「少し…休憩するかの」




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 アウラはクロを膝に乗せて語り出した


 「このまま行けばわらわは確実に王女となる…それは間違いないのじゃ」
 「そりゃそうだろ、お前の親父さんが指名したんだから」
 「それもある。じゃが、本当に大事なのは〔王の証〕を持っているからじゃ」


 アウラはそう言うと、胸元から首飾りを取り出した
 緑色の水晶がはめられているキレイな首飾りだった


 《ヘェ…スゴくキレイね》
 「これはわらわが父上から受け継いだエルフの〔王の証〕、これを持ち【緑の精霊】に認められしエルフこそ王として認められるのじゃ。わらわがこの首飾りを父上から受け継いだときに、兄上と姉上は支持派を率いてわらわを拘束しようとしたのじゃ。その時すでに妹のヨルナは捕まったあとだったのじゃ」


 「わらわが捕まり、首飾りを奪われる寸前で、父上が【精霊魔術】でわらわを転移させた……そこでおぬしと出会ったのじゃ」


 アウラはそこまで語り息をついた
 ここまで詳しくアウラの事情を聞いたのは初めてだった


 「このまま帰れば、わらわはきっと捕まるのじゃ…だが、兄上と姉上ともう一度話がしたい。わらわの理想の国がやっと見えてきたのじゃ…ジュート、わらわは戦うのじゃ、絶対に負けん!!」
 「当たり前だろ、そのためにお前は強くなったんだ…きっと勝てる」
 「ああ、見ててほしいのじゃ」


 「おう、だけどその前に……」
 「うむ、そうじゃな」




 「「そこにいるヤツ等、出て来い(なのじゃ)」




 その瞬間、無数の矢が飛来した




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 矢は弓矢を使って放たれたようだ。数は約10本


 クロが消えるのを確認して俺は【雄大なる死グロリアス・デッド】と【死の輝きシャイニング・デッド】を抜き、アウラは〔マルチウェポン〕のギミックナイフを作動させる


 飛んでくる矢を二人で全てたたき切る、すると木の上、植え込みから5人ほどの人影が現れた
 男2人に女3人、俺の前には女が3人、アウラには男が2人向かってくる


 全員が銀髪にエメラルドの瞳、とがった耳をしている…エルフだ
 武器は短剣に、背中には弓と矢筒を背負っている


 「アウラ、行けるか!!」
 「楽勝なのじゃ!!」


 銀髪をなびかせながらアウラは答えた
 じゃあ…やりますか!!


 エルフの女3人は、全員が右利きで短剣を握っている
 それとは別に、木の上や植え込みから魔力を感じる…たぶん、半分が近接で注意を引いて、残りが魔術を使う気でいるらしい


 俺はまず、魔術師を潰すことにした
 女3人の短剣を躱しながら魔力を練り、植え込みや木の上の魔力源に向かって放った


 「【灰】の中級魔術、【拘束巻鎖バインダー・チェーン】!!」
 「なにっ!?」


 女エルフの一人が驚愕の声を出した…よし、魔力の流れが消えた。無事に捕獲できたみたいだな


 残りはこの3人だけか
 正直腕は悪くないが、3人がかりでもアウラには勝てないだろう


 俺は怪我をさせないように、3人を無力化した


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 アウラの方を見ると、終わったようだった
 男二人は完全に伸びている…ま、当然だな


 「なぁ、コイツら一体何なんだ?」
 「まさか、こやつ等は……」


 アウラは襲いかかってきたエルフ達を順々に見て何かに気付いたようだ
 そして、声が聞こえてきた


 「お見事でございます。姫様」
 「強くなられましたね…」


 警戒していたのに全く気がつかなかった
 そこにいたのは2人の男女のエルフ…しかも、強い!!


 男の方は筋骨隆々のエルフ。彫りの深い顔立ちで武器は背中に背負った大剣に皮鎧を着けている。俺に視線を送るとにやりと笑った
 女の方は銀髪のショートヘアの女エルフ、武器は弓に軽鎧を着けていた


 アウラは二人を見て一瞬で笑顔になる


 「フェリーナ、ラルシド!! 久しぶりなのじゃ!!」


 アウラは女エルフ…フェリーナ?に抱きついた
 フェリーナもアウラを抱きしめその頭を優しく撫でている


 「ああ、アウローラ様…無事で良かった」
 「フェリーナ……会えてうれしいのじゃ」
 「姫様……」


 男の…ラルシド?は、その場でアウラに跪く。そして俺を見て敵意を露わにした


 「姫様、こちらの人間は一体何者ですか?…我らの領地に無断で立ち入る不届き者、ここで始末して構いませんか?」
 「……ああ?…やんのかコラ!!」
 「ふん…人間め、本性を現したな…姫様、離れて下さい」


 フェリーナとラルシドは敵意を露わにし武器に手を掛ける
 当然俺も黙っていない。やるんなら相手になるぜ


 「やめよ!! フェリーナ、ラルシド、彼はジュート。わらわをここまで守ってくれた冒険者じゃ。彼との争いは一切禁ずる……よいな」


 「し、しかし姫様…ヤツは人間です」
 「そうです、人間は信用なりません…アルマティ様やマニャーナ様が連れてきた〔神の器〕も何か企んでいるのは間違いありません…やはり、エルフの問題はエルフで解決しなくては」


 「……ダメじゃ。そなた達と同じくらい、わらわはジュートを信じている。ジュートがいなければわらわはとっくに死んでいた…頼む」


 そう言ってアウラは頭を下げる……その行動に、フェリーナとラルシドは大いに慌てた


 「お、お顔を上げて下さいアウローラ様!! 我ら親衛隊ごときに頭を下げるなどなさらないで下さい!!」
 「その通りでございます。あなたは次期王女となられるお方、このようなことはなさらないで下さい!!」


 アウラは顔を上げ、楽しそうに笑い出した


 「あはははっ…フェリーナ、ラルシド…おぬし達には本当に迷惑を掛けた。わらわが小さいときからずっと側にいてくれたおぬし達には本当に感謝しておる。おぬし達の抜けた穴をジュートが埋めてくれたのじゃ。わらわはもう人間を差別したり憎んだりはせぬ、この2ヶ月でわらわも学んだのじゃ」


 「ひ、姫様…?」
 「アウローラ様…?」


 「そなたらには聞いて貰いたい。わらわの目指す女王としての姿を」




 アウラは静かに微笑んだ




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 俺たちは場所を変えることにした。クロも再び現れてアウラの側に寄り添っている。親衛隊の連中を全員起こして歩き出す
 どうやらこの近くにエルフの集落があるらしい、そこで話をする事にした


 「人間…妙なマネをしたらたたき切る」
 「やってみろ、その前にお前の首が飛ぶぞ」


 俺が遠慮してヘコヘコ頭を下げる理由はない
 売られたケンカは買わせて貰うぜ……するとアウラが


 「ジュート、ラルシド…仲良くするのじゃ」
 「……へっ」
 「ふん!!」


 無理です、アウラ姫


 そのまましばらく歩くと小さな集落が見えてきた
 家は木を組んで作った簡素な物で、全て平屋だった。そのうちの1軒の家に案内された


 「こちらをご自由にお使い下さい」


 どうやらココは親衛隊の一人の家のようだ
 フェリーナが全員にお茶を入れ、クロの皿にも水を入れてくれた。一応俺の分もあるようだ
 一息つくとアウラは語り出した


 「フェリーナ、ラルシド…わらわが転移した後の事を話したいと思う。それと、その道中の出来事でわらわが決意したこともな」




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 アウラは俺との出会いから旅であった出来事などを細かく説明していった
 アウラ親衛隊の二人は黙って話を聞いている


 「……以上じゃ。これが外の世界で見た他種族達の真実じゃ。わらわ達は多種族の事を知らなすぎた…エルフが時間の流れに取り残され朽ちていくのも時間の問題じゃ、わらわが女王になったら積極的に多種族との交流を深めていくつもりじゃ」


 「姫様……しかし、それは」
 「うむむ……」


 悩んでる悩んでる、さぁてどうすんのかね?
 するとアウラが俺に目配せをしてきた…秘密兵器の出番か


 「フェリーナ、ラルシド…確かおぬし達は果実が好きじゃったな?」
 「は?…あ、はい。そうでございますが」
 「それが何か?」
 「ジュート、例の物を」
 「は~い…ほらよ」


 目の前に出されたのはマスターの特製ケーキ
 俺たちが町を出発するときに持たされた物だ。それを小皿に移して二人の前と、ついでにアウラと俺の前にも置く
 フェリーナとラルシドはお互い顔を見合わせ首をかしげている


 「これはケーキと呼ばれる他種族達の甘味じゃ。わらわはこれを食べて決意したのじゃ…多種族の技術、文化を取り入れることはエルフにとっての革命になると!!」


 アウラはわざわざ立ち上がり力説する
 アウラが決意したのってケーキは関係なかったような……まぁいいのか?
 ぽかんとしてる二人を放置して、俺とアウラはケーキを食べ始めた


 「う~ん…やっぱマスターのケーキはうまいな」
 「ああ、最高なのじゃ!!…これは必ずこの国に仕入れる。いや、職人を育てるためにマスターの元で何人か修行をさせるという手も……うむむ」


 俺とアウラの様子を見て、意を決したのか恐る恐るケーキに手を出す二人…そして、一口目を口に入れた瞬間……


 「うおおおおおおおぉぉぉ!!!」
 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 「「うんまぁぁぁぁぁい!!!」」


 ラルシドは立ち上がり手を掲げて絶叫
 フェリーナは身体をくねらせて嬌声を上げた


 「何だこれはぁぁっ!! これが多種族、いや…人間が作った甘味だというのか!?…なんと恐ろしい、いや素晴らしい!! くそ、人間共め…我々エルフにはない知識と技術があると言うがまさかココまでの甘味を作り上げるとは…素晴らしい!!!」


 「あああ…甘い、そしてフワフワ…なんておいしさ。フワフワの中にいくつもの果実が挟まれていて果実の酸味が見事に融合してるわぁ…ああ、19年生きてこれほどの甘味を味わったのは初めてよぉ…しあわせ」


 俺もアウラもドン引きレベルの感動っぷりだった
 アウラは俺に耳打ちしてきた


 「フェリーナとラルシドは大の甘味好きなのじゃ。エルフの国にある果実のを毎日食べているくらいじゃからの…ケーキを持ってきて正解じゃの」


 うん。間違いなく大正解だよ…あっという間に全部食べちまった


 「さて…分かって貰ったかの? これほどの技術があれば毎日ケーキを食べることが出来るのじゃ。これでもまだ多種族の受け入れを拒むかの?」


 スッキリした表情で二人は語り出した


 「ふっ…姫様、我は人間を誤解しておりました。これほどの甘味を生み出す種族が悪のはずがありません。この国に必要な改革はケーキによってもたらされることでしょう」


 「私も同じ意見です。これが毎日…じゅるり……はっ、いえ、時代が変わるのならそれはアウローラ様のお力とケーキの力…私はどこまでもお仕えいたします」


 ………どこから突っ込めばいいんだ?
 すると、フェリーナとラルシドが俺に向き合い、頭を下げてきた


 「ジュート殿…数々の非礼、お詫びする…姫様を守っていただき感謝する」
 「本当に…ありがとうございました」


 この二人変わりすぎぃ!! コッチが困惑するよ…ケーキひとつでここまでとはな、恐ろしい


 「よかったのじゃ…それではフェリーナ、ラルシドよ、現在の国の状況を説明してくれ」


 「ははっ畏まりました」


 フェリーナとラルシドが立ち上がり、国の状況を説明してくれた





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