ホントウの勇者

さとう

閑話 粗某牛地・【闘神ナールコング】



 エルフの守護する〔古代森ワウドゥ〕を抜けた 粗某そぼう牛地ぎゅうじ達は、眼前に現れた男女に違和感を感じていた


 まず、この森はエルフの守護する森であり、人間は入る事は出来るが決して抜け出す事は出来ない。目の前にいる男女はどう見ても人間であり、彼らより先に進むのは不可能であった


 粗某そぼう牛地ぎゅうじは周囲と男女を観察する


 ここら一帯は開けた広場であり障害物は何もない。この先に進めば〔大樹都市ウィル・ティエリー〕に着くはずだ


 まず男の方は、年齢20代半ばほどだろうか···髪型はどこにでもいそうなメンズショートに、顔立ちは中々のイケメンで優しい微笑みを浮かべている 
 装備も一般的な物で剣と革鎧、篭手、すね当てと、何処にでもありそうな装備だ


 女性の方は、黒いロングヘアに顔立ちは大人の女性らしい落ち着いた雰囲気の美女だ
 こちらの装備は紫のローブに、スリットの入ったロングスカートという、強いて言うなら魔術師のような服装だった


 男性が優しい声で言う


 「こんにちは」


 当然、粗某そぼう牛地ぎゅうじ達は誰も返事をしない。その代わりに火等かとう燃絵もえが質問する


 「オッサン達だれ?···あたし達そこから先に用事があんの、どいてくんない?」


 不機嫌まる出しで初対面の相手に言う
 さすがにこれは怒るだろ、と思ったが


 「オッサンって···ははは、まぁ君達からすればオッサンだけどね、僕達はまだ25歳だよ?」


 「ハァ?···んな事どーでもいいし、いいからさっさとそこどきな」


 「まぁまぁ落ち着いて···ここで1つ提案がある」


 「あぁ?」


 火等かとう燃絵もえは不機嫌丸出しで、彼女の周りの温度が上昇しつつあった。しかし男性は微笑みを浮かべたまま、優しい声で語りかけた














 「ここから先に通す訳にはいかない。ここで引き返すなら痛い目に合わないで済むよ?」
















 次の瞬間、中規模の爆発が男女を飲み込んだ






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 「お、おい燃絵⁉」
 「ちょっ···やり過ぎっしょ⁉」
 「フン‼···いいからさっさといくよ」


 火等かとう燃絵もえの後ろには、3メートル程の赤いロボットのような物が立っていた。その体躯は両腕が巨大な砲塔になっており、身体の至る所にミサイルポッドが搭載されている


 遠距離爆破にかけて彼女に敵う者はいない


 本来はチームを組んで遠距離支援が彼女の真骨頂でもあるのだが、威力が大きすぎて味方まで巻き込み兼ねない···使い所が難しい力でもあった


 【爆神ピュロボルス】の神器、【爆破人形の叫び声デモリション・バルチャークライ】の力だった




 「······ったく、今ので絶対エルフ達に勘付かれたぜ。面倒くさくなりそうだ」


 「おい刺兼ぇ······それあたしに言ってんの?」


 「ああそーだよ、悪いけど今回は言わせてもらうぜ。今の男女が敵にしろ、もっとスマートな殺りかたがあったハズだ。いたずらに敵を増やすのは愚の骨頂だぜ」


 「てめぇ······あたしにケンカ売ってんのか?」


 「おい、お前らいい加減に·········」
































 「そこの彼の言う通りだよ?」


 「·········何っ⁉」
















 そこに居たのは、先程の男女だった。しかも······無傷
 先程と全く変わらない微笑みを浮かべて立っていた




 「てめぇ等···ハン‼ どんな手を使ったか知らねーが今度こそあたしが始末······あがっ⁉」


 「······もっ、燃絵もえ⁉」


 突然、火等かとう燃絵もえが倒れた
 身体中が小刻みに震えてびっしょりと汗をかきだした、その衝撃で神器が解除される


 「うっ···ごぼっ、お···げぇぇっ⁉」
 「⁉···おい、しっかりしろ燃絵もえ‼」


 火等かとう燃絵もえは吐瀉物を吐き出した。顔色は紫変色し、糞尿を垂れ流している。眼球がグルグルと動き、明らかに苦しんでいた




 「·········毒か⁉」




 「大正解‼」




 これまで一言も喋らなかった女性が笑顔で語りだした


 「私の【毒】は強烈よ? 今回その女の子に投与したのは死なない程度に苦しみ出す私オリジナルブレンドの毒。ふふっ汚いわね〜。身体中紫に変色して、涎、糞尿を撒き散らしてずっと苦しみ抜くのよ」


 女性はどこまでも残酷に語り出す
 粗某そぼう牛地ぎゅうじは、抱き起こしていた火等かとう燃絵もえ刺兼さしがね都針とばりに託した




 「刺兼···お前の力で燃絵を助けてやってくれ、頼む‼」


 「まてよ‼ 俺じゃ精々苦しみを和らげるくらいしか出来ねぇ。一旦引くぞ、コイツ等はヤバい‼」


 「分かってる‼ でもやるしかねぇんだ。行くぞ岩木‼」
 「おーう‼」 




 
 粗某そぼう牛地ぎゅうじ岩木いわき石堂せきどうは男女に向かって飛び出した




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 「おい、しっかりしろ火等‼」
 「さ···ひ··が···れ···」


 火等かとう燃絵もえは酷い状態だった


 顔色は紫に変色し目は真っ赤に染まっている。胃液を吐き出しながら涙を零していた。よく見ると舌はパンパンに腫れ上って、手足や身体も徐々に変色し始めてる


 「悪いけど脱がすぞ。治ったら好きなだけぶん殴っていいからよ‼」


 刺兼さしがね都針とばりは強引に服を剥ぎ取り上半身を裸にする。やはり身体は変色が始まり紫になっていた。身体に触れると異様なまでに冷たい。初めて触れる同級生の乳房だが、羞恥心など存在しなかった


 「あ···か···か···」


 彼女の喉が腫れ上がり呼吸困難を起こしている
 迷ってる暇はなかった


 「『神器発動ジンギはつどう』」


 刺兼さしがね都針とばりの周りを、緑色のウニのような物体が3つほど旋回を始めた


 それはウニではなく、球体に太さや長さが違う無数の針が刺さった物。数メートルの長さの物や、数十センチの太さの物、数ミクロンの太さや長さの物と様々だ


 彼の得意技は暗殺、人体破壊
 人体の急所に的確に針を打ち、身体を麻痺させたり、毒を撃ち込んだり···派手な破壊こそ出来ないが、人体急所に関しては右に出るものはいない


 【針神アクスエギーユ】の神器、【雲丹針殺治シーアーチン・クラーレン】である


 人体のツボは急所だけではない
 彼は1つ1つ丁寧に針を刺していく
 人体を活性化させるツボ、気道を拡張させるツボ、免疫力を高めるツボ···彼は知る限りの解毒に関するツボを刺激する。すると······


 「ご···め······あ···が···と···」
 「···ちくしょう!!」


 刺兼さしがね都針とばりの瞳から涙がこぼれた


 あの男女はバケモノだ。あの火等かとう燃絵もえがこんな状態にされてしまった


 「粗某と岩木があいつ等を倒してくれる。そうすればきっと治るはずだ‼ だから頑張れ‼」


 そんな保証はどこにもない。しかし、彼女を安心させるにはそう伝えるしかない
 火等かとう燃絵もえは僅かに頷く
 彼に出来るのは···声をかける事だけだ


 「頼んだぜ。粗某、岩木‼」


 祈るように声を上げた


 
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 「やれやれ···まだやるのかい?」


 「当たり前だ‼ 燃絵をあんな風にしやがって···許さねぇぞ‼」


 「うおおおあああぁぁ‼」


 突然、岩木が大声で叫ぶ
 すると、周囲の岩石や地面の下から岩が集まりだし、彼の身体を覆っていく


 「おおお···すごいね」


 男性はその様子を見ながら適当に呟いた


 そこに現れたのは岩の巨人
 大きさは数十メートル、岩木の力によってその密度は岩石を遥かに超えた強度を持った彼の神器


 【岩神ロックフェルゼン】の神器、【岩窟王ロックバザルド


 彼の神器は拠点襲撃や大人数との戦闘で真価を発揮する
 一対一では正直分が悪い···しかし




 「いくぜ!『神器発動ジンギはつどう』‼」




 粗某そぼう牛地ぎゅうじの身体を灰色の輝きが包み込む。そして、その容貌は大きく変化していた


 全身を覆う全身鎧フルプレートアーマー
 身長は2メートル強の大きさで、肌の露出は一切ない。顔は牛のような角が生えており、身体はゴリラのような体躯をしていた


 その能力は全身強化···単純な格闘でさえ最凶の兵器となる
 その強さは【獅子神レオンハルト】も認めるほどだ


 彼の神器はオールマイティな強さを持つ。一撃が必殺技となり、防御も優秀。スピードも恐ろしく速い、弱点らしい弱点は特に無い···それこそが


 【闘神ナールコング】の神器、【牛突体躯バッファローパンツァー】である




 「ははは、なかなか強そうじゃないか」
 「ええそうね···ふふ」
 「おっと、ここは僕にやらせてもらうよ」
 「仕方ないわね···譲るわ」


 男女は緊張感をまるで感じさせない会話をしてる
 今にも飛び出そうとしてる粗某そぼう牛地ぎゅうじに、話しかけて来た


 「1つ···質問していいかな?」


 「······あぁ⁉」


 「君達は〔神の器〕になってどのくらい経つ?」


 「フン、4ヶ月だっ‼」


 その言葉を合図にして全力で駆け出す
 岩木も、その巨大な拳を振り下ろした


 「そうか······」


 そして、男はグチャリ・・・・と笑って言った
































僕達は10年だ・・・・・・




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 次の瞬間、物凄い轟音がした


 粗某そぼう牛地ぎゅうじの身体は宙を舞い、その近くには同じように岩木いわき石堂せきどうも宙を舞い、地面に激突した


 岩木いわき石堂せきどうの身体はズタズタに引き裂かれ、特に腹からは内蔵が飛び出していた。更に着地の衝撃で手足はあらぬ方向へ折れ曲がっている···間違いなく重症だ


 粗某そぼう牛地ぎゅうじの鎧はあっさりと砕かれ、更に両腕が肩から切断され、大量出血していた


 二人が吹き飛ばされたのは、丁度刺兼さしがね都針とばりの近く、彼は震えながら叫んだ




 「粗某···岩木···あ、あぁぁぁ‼」




 刺兼さしがね都針とばりは無数の針を飛ばし、二人の身体に突き刺す
 血管を収縮させ出血を止めて、神経を麻痺させて痛みを止める


 二人ともすでに意識は無い
 死んではいないがこのままでは間違いないなく死ぬ








 もう、無月銃斗の事など頭には無かった


 
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 刺兼さしがね都針とばりの前に、男女がゆっくりと近づいて来た。彼はこのまま殺されるかもしれないと思い、初めてリアルな死を予感した


 彼が死ねば仲間も全員死ぬ···それが恐ろしかった
 気がつくと···股間から温かい液体が溢れていた
 そして、男は語りだした




 「やはり君は賢い···僕達の力量を素早く察知して退却を促した。激情に刈られて僕達に向かう事なく、仲間を助けようと努力した」




 男性は優しい微笑みで告げる




 「君に敬意を表して、ここは見逃してあげよう」
 「ふふ。さぁ、行きなさい」




 男女は初めから変わらない優しさで告げる
 刺兼さしがね都針とばりは無意識に『門』を開きその場から消えていく


 刺兼さしがね都針とばりは最後に聞いた


 「アンタ達は······一体なんなんだ⁉」


 男性は嬉しそうに言う






 「君達の先輩···かな?」






 刺兼さしがね都針とばりは、そのまま『門』の向こう側へ消えていった














































 数キロ離れた森の中で、この光景を見てる者がいた




 「不味いな···今のままじゃ・・・・・・勝てないかも」




 その呟きは、誰にも聞こえる事は無かった





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