ホントウの勇者

さとう

果樹園の町ヘレルマート⑤/喫茶店の日々・家族の家



 あれからニ週間···〔喫茶ポーストレ〕は町一番の有名店になった


 俺とアウラのクレープ販売は、若い冒険者グループや観光客、町の若い女性なんかに大人気で、クレープ片手に歩く人が沢山見られるようになった


 売上もかなり上がり、一週間経過した時点で人を雇えるくらいに儲かった。なので、農園や果樹園や家畜の手入れをしてもらう専属の人を雇い、毎日新鮮な果物を卸して貰えるようになった


 これだけでもだいぶ負担が楽になる
 マスターはレシピの改良に専念し、新たなケーキやデザートを作り出した。ビスケットを細かく砕いてクリームに混ぜて、新しい食感を生み出したり、果物の果汁を混ぜて作ったりと新商品開発に余念がない


 クレープ販売では、アウラ目当ての客もだいぶ増えた
 銀髪美少女のクレープ売り…確かにな。俺を見る男達の視線は少し怖い時がある


 店内では新たに一人、従業員を雇った
 レヨンの友達の女の子で、名前はパイン
 パインはレヨンが母親の所にいた時に仲良くなった女の子で、毎日一緒に遊んでいたそうだ。しかし、突然いなくなったレヨンをずっと心配していたらしく、風の噂でレヨンがここにいると聞いて押しかけて来たのだ


 マスターは快くパインを雇った
 パインの家は母子家庭で、少しでもお金を稼ぎたいという想いと、友達のレヨンがいるからという理由からだ


 パインの仕事は食器洗いや配膳と基本的にレヨンと同じ。しかし会計だけはレヨンが担当する


 〔喫茶ポーストレ〕はこんな感じで営業を続けていた




 そして、その日はやってきた




───────────────


───────────


───────




 今日は俺はレヨンと一緒に店内で作業している


 アウラとパインは外でクレープ販売だ
 ちなみにパインはすぐにアウラに懐いた。アウラは宿に帰らずに、よくレヨンとパインの3人でお泊り会をしている
 も、もちろん俺にも懐いて···いるよね?


 店内は満席だ。主に女性が中心で、ケーキやサンドイッチを食べながらお喋りしてる。この光景は俺の世界でもよく見られた光景だ


 俺は洗い物をしながらマスターを見た
 マスターは果物を眺めながら真剣な表情をしている。きっと新メニューを考えているのだろう


 小さなウェイトレスのレヨンは手際がよく、空いた皿を何枚も重ねて運んだり、食器洗いも丁寧で素早く、よく俺も助けられている。本当に10歳なのかな?




 洗い物が終わり会計に移動する。この世界にレジは無いので普通に手動計算だ
 レヨンも側に来て雑談をしていると、お客さんが入ってきた···
30歳くらいの女性だ


 「いらっしゃいませ」
 「いらっしゃ···っ⁉」


 レヨンが口元を押さえて目を見開いた
 すると、女性は微笑みあいさつをする


 「久しぶりね、レヨン···元気だったかしら?」 
 「ま···ママ」
 「えっ······ええっ⁉」


 レヨンのママ···即ちマスターの奥さん
 ついにこの日がやってきたか




───────────────


───────────


───────




 「マ、マスター‼ マスター‼」 
 「············」


 ダメだ、全然聞こえてない


 「ふふ、いいのよ。あの人は一つの事に夢中になると周りを全然気にしないから···変わらないわね」


 懐かしそうに···嬉しそうに···女性はマスターを見つめる
 と、とりあえずお客さんだよな


 「こ、こちらへどうぞ」
 「ありがとう···」


 レヨンは固まって動けないみたいなので、代わりに俺が案内する。場所はマスターがよく見えるカウンター席だ


 女性はケーキとコーヒーを頼む···そして、ケーキを出して俺は決めた。これはいい機会だ


 マスターの耳を引っ張り叫ぶ


 「マスター‼ あちらのお客様にコーヒーをお願いします‼」
 「うわわっ‼」


 突然の大声にマスターは俺の顔を見る。俺はニヤリと笑い女性に視線を送った


 「······アナ」
 「久しぶりね···エルブ」


 二人は見つめ合う······大丈夫かな


 マスターは無言でコーヒーを入れる
 その光景を女性···アナさんは静かに見ていた


 「·········」
 「·····ありがとう」


 マスターは黙ったままコーヒーをアナさんの前に置く
 ケーキを食べ終えたアナさんは、コーヒーをゆっくり口に含んだ


 「·····美味しわ······凄く」
 「·········そんな筈···ない」


 店内はいつの間にか誰もいない
 町の人は二人が夫婦であった事を知ってるので気を利かせたようだ


 マスターは項垂れたまま言う




 「······キミが淹れたコーヒーには······遠く及ばない」




 その言葉は···マスターの心情を痛いほど表していた






───────────────


───────────


───────




 「ママ·········」
 「レヨン···おいで」
 「うん···ママ」


 レヨンはアナさんに抱きつく
 どんなに仕事が出来てもまだ10歳···母親に甘えたい年頃のはずだ
 マスターはその光景を複雑な表情で見てる。しかし···意を決したのか、硬い表情で切り出した


 「アナ···今まで済まなかった」
 「············」


 レヨンを抱き締めたままアナさんは話を聞いてる


 「キミに辛い思いをさせて···キミが出ていった後も、私はずっと逃げていた。でも、レヨンのお陰で立ち直る事ができたんだ」


 「そう······良かったわ」


 「レヨンから聞いたんだ、キミが実家の喫茶店を継いだと···あの、その······親しくしてる······男性が、いる···と」


 「············」


 「キミに未練があるから······それを確かめるのが怖かった···でも、キミが幸せならそれでいい」


 「············バカね」


 「え?」


 「幸せなんかじゃないわ」


 「え⁉···ど、どういう意味だい?」


 「私だって···ずっと寂しかったわ。それに、何を勘違いしてるのか知らないけど、親しくしてる男性なんていないわよ」


 「はい⁉···だ、だってキミの喫茶店で仲良くしてる人がいるって······ええ⁉」


 「あのね、その人は果物を卸してる果樹園の人よ?···毎日来れば親しくしてるように見えるでしょう?」


 「···········じゃ、じゃあ」


 「そ、あなたの勘違いよ。それに···私の愛する人はあなただけよ」


 「アナ······」


 「エルブ···ごめんなさい。あなたを一人にして、私もずっとあなたから逃げていた。毎日辛くて···寂しくて、実家に戻ってお店を継いでもそれは変わらなかったわ、むしろあなたがいないから尚更寂しかった···」


 「アナ······私達は、やり直せるかな?」


 「あなたが······許してくれるなら」


 「アナ、もう一度···夫婦になろう。愛してる」


 「私も愛してる···エルブ」




 マスターとアナさんはそのまま抱き合う
 レヨンはその二人の間に飛び込んだ


 「パパぁ···ママぁ···」
 「レヨン、これからは一緒よ」
 「ああ、ずっと一緒だ···」


 くぅぅ···俺も感動して涙が出てきた
 よかった···本当によかったぜ‼


 「これでわらわ達の役目は終わりじゃな···」
 「ああ······っていつの間に⁉」


 いつの間にか隣にはアウラが居た
 腕組みをして親子の光景を見守っている


 「ふん。店内の客が纏めて出ていったからの、もしやと思い臨時休業にしたのじゃ」


 そ、そうか。だから他の客が来なかったのか
 さすがアウラ、ナイスアシスト‼


 パインは先に帰らせたそうだ
 とりあえず、今日はもう休みだな


 俺達も静かに店を出ていった




───────────────


───────────


───────




 翌日……マスターからいろいろ話を聞いた


 アナさんもずっとマスターの事を気にしていたらしい
 しかし、自分から出て行った手前戻れるわけもなく、仕事をする事でなんとか忘れようとした…しかし、そう簡単に想いを消せるはずもなくずっと苦しんでいたそうだ


 そんな時に聞こえてきたのが〔喫茶ポーストレ〕のケーキの噂
 なんでも凄く美味しいデザートをマスターが作り上げ、それが町でものすごい人気になっている…と言う噂だ。その噂を聞いたアナさんは再びマスターの事を思い出し悩んでいた
 そして……決心した。マスターに再び会って謝ろうと、出来る事ならまた家族で暮らしたいと
 実家の喫茶店は、引退した冒険者夫婦に格安で譲る事にしたらしい。両親はとうに死去しているので問題無いし、マスターに受け入れて貰う事が出来なかったら…別の道を歩む覚悟を決めていたそうだ


 でもまぁ…家族が元に戻ってよかった




───────────────


───────────


───────




 それから数日後…アナさんは引っ越しを終えてまた家族で暮らし始めた


 アナさんはコーヒーや紅茶を入れるのが得意で、マスターはさらにケーキにのめり込むようになった
 俺やアウラもコーヒーを飲んだが全然違う…正直、マスターより格段にうまい
 マスターはこのコーヒーに負けないケーキを作る!! と意気込んでさらに張り切っている
 そんなマスターをアナさんは苦笑して見守っていた


 もう一つ……〔喫茶ポーストレ〕に新しい従業員が入ってきた
 なんと……パインのお母さんだ
 アナさんとパインのお母さんはお茶のみ友達でもあり、アナさんが誘ってこの店に来た


 アナさんは毎日朝早く店に来るパインを見てずっと考えていたらしい。さらに、アナさんの実家はこの店の近所なので、住むところもそっくりそのままパインとパインのお母さんにプレゼントした
 この采配に一番喜んだのはパインではなく、なんとレヨンだ
 これでいつでもパインと会えるし、一緒に遊べると大いに喜んだ


 パインのお母さんは、外でのクレープ販売の担当になった
 アウラがみっちりと教え込んだおかげですぐに上達し、生地を焼くスピードや、クレープを作る手際は俺より遙か上だ……ちょっと悔しい


 こうして〔喫茶ポーストレ〕は大いに賑わい、町の名物となったのだ




 俺とアウラは…もう必要ないな




───────────────


───────────


───────




 「あ…明日出発するだって!?」
 「はい……そろそろ旅を再開しないと」
 「え?……うそ、ジュートさん…アウラお姉さん、行っちゃうの?」
 「うむ…わらわ達は行かなくてはいかんのじゃ」
 「突然ね…もう少しいられないのかしら?」
 「すみません…」


 ここは〔喫茶ポーストレ〕の2階、すなわちマスター達の居住区
 今日はお呼ばれして夕食をごちそうになっていた
 パインとパインのお母さんはすでに帰宅している


 マスターは止めても無駄と悟ったのか、優しく言う


 「ジュート君…アウラさん。キミ達には感謝してもしきれない…本当にありがとう」
 「俺の方こそお世話になりました。また会いに来ます」


 「アウラお姉さん…行っちゃやだ…」
 「レヨン……すまんな。また必ず会いにくるのじゃ」
 「寂しくなるわね…」


 マスターは俺たちを見て決意したかのように聞く


 「キミ達は…一体何者なんだい? 風のように現れて私達を救ってくれた。まるで神様のような…」
 「マスター…酔ってます?」
 「いやいや…」


 アウラは立ち上がり、帽子をはずした…銀髪が流れて、長い耳が露わになった


 「マスター、アナ、レヨン……わらわはエルフじゃ。世界を知るためにこの大陸を歩いておる…そなた達にウソはつきたくないからの、これがわらわの秘密じゃ」


 マスター達はぽかんとしてる
 でも…すぐに立ち直った


 「そうだったのか…だが、かわいらしいエルフもいたもんだ」
 「ふふっ…そうね、アウラちゃんはとってもステキよ」
 「うん!! わたしもアウラお姉さん大好き!!」


 あっさりと受け入れてくれた
 まぁ…マスター達ならこう言うと思ったけどな


 「俺はアウラの護衛です…コイツをエルフの地まで送らなくちゃいけないんです」


 俺は〔神の器〕ということは流石に言わなかった




 楽しかった喫茶店生活もここまでだ
 俺たちは本来の目的を達成しなくちゃいけない


 この日は夜遅くまで、マスター達と語り合った




───────────────


───────────


───────




 マスター達に別れを告げて町を出る


 「アウラ…次は」
 「わかっておる、〔ワウドゥ古代森〕…いよいよエルフの地じゃ」




 ここからは気を引き締めていく…戦いは近い




 それは……俺とアウラの別れも近い、そういう事だった





「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く