ホントウの勇者

さとう

果樹園の町ヘレルマート③/コーヒー・未練



 「おはようございまーす!!」
 「おはようなのじゃ」


 俺とアウラは〔喫茶ポーストレ〕へやって来た
 時刻はだいたい朝の9時
 本日は定休日なので一日使ってもいいそうだ


 「やぁ…おはよう」
 「おはようございまーす!!」


 マスターとレヨンが挨拶を返してくれる…今日もレヨンは元気いっぱいだ


 「お兄さん、お姉さん…今日は美味しい料理を作ってくれるんですよね!!」
 「おう、楽しみにしてろよ~」
 「ふわわわわ…楽しみです!!」


 俺は思わずレヨンの頭をわしわし撫でる
 しまった…女の子にこれはマズかったかな


 「コラ、ジュート!! 女の髪を雑に扱うな!! 全く…レヨン、こっちに来るのじゃ」
 「はーい」
 「す、すみませんでした……」


 今回は全面的に非があるので素直に謝った
 やっぱり俺テンションがおかしくなってるなぁ…


 「ははは…こんなに騒がしいのは久しぶりだよ。レヨンも喜んでる」
 「あははは…すみません」


 アウラはポーチから櫛やリボンを取り出してレヨンの髪を弄ってる
 レヨンの髪は背中の中程まである少しクセっ毛のロング…どうやらいろいろ試してみるらしい
 まぁ出来たら呼べばいいか……よし、さっそくやるか…ん?


 マスターはアウラとレヨンを見つめて少し淋しそうにしてる


 「マスター?……どうしたんですか?」
 「ああ…いや、妻を思い出してしまってね。ははは、情けない」
 「……奥さんはどちらへ?」
 「妻はこの町にいるよ……私に愛想を尽かしてしまってね。それからは一度も会ってない」
 「………何があったんですか?」
 「……さぁ、キミの腕前を見せて貰おうか…よし、ホワイトは準備できてるよ」


 どうやら触れてはいけないようだ……それはおいといてマスターはボウルにタップリのホワイト、もとい生クリームを準備していた


 味は…うん、やっぱりうまい。甘くてフワフワ、市販の生クリームと遜色がない
 マスターの曾祖父は偉大な人に違いない


 とにかく……まずはクレープからだ!!


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 俺はまずクレープの下準備から始めた
 この世界の果物はいろいろあるが、俺はこの世界のバナナ、キウイ、イチゴ、パインでやってみることにした
 これらの果物を一口サイズにカットして置いておき、クレープの生地を作る
 フライパンはもう準備しておいた……よーし、やるぜ!!


 「ん?……その液体は何かね?」
 「まぁ見てて下さい」


 クレープ生地を眺めるマスターを押さえて焼き始めた
 昨日たっぷり練習したからな…一発で成功させるぜ!!


 「すんすん…なんだか甘い匂いがする……」
 「う、うむ…おいしそうなのじゃ」


 髪をツインテールにしたレヨンと、おそろいの髪型にしたアウラが厨房に来た
 どうやら匂いにつられたらしい…待ってな、今作るぜ!!


 「おおお!!…なんだこれは…パン、じゃない?」
 「う~む…甘い匂いなのじゃ……はぁぁ」
 「ふぁぁぁぁ……いい匂い~」


 生地を4枚焼いてそれぞれ丸皿に敷く…そしてその上に生クリームをたっぷり塗り、それぞれのフルーツを盛り合わせ巻いていき…あとは仕上げだ


 昨日のうちに作っておいた扇状の紙で持ち手を作りクレープに合わせる
 よーし……完成だぜ!! どうだコノヤロー!!


 「出来ました!! ささ、どうぞどうぞ。ほらレヨン、こぼすなよ」


 全員が「俺クレープ」を手に取りあちこちから眺めてる
 よし、ここは俺が先陣を切りますか


 「いただきまーす!!」


 俺は自分が恐ろしい………なんだこの旨さは!!!!!!
 少し厚めのクレープ生地、フワフワの生クリーム、甘さやわずかな酸味が混じり合った果物……これら全てが絶妙に混ざり合い最高の味を引き出している!! ウマい!!


 俺を見て他の3人も食べ始めた…そして


 「あ、あああ……こんな、こんな味があったのか…ははは、素晴らしい!!!」
 「う、ウマい…ウマすぎるのじゃ!! おかわりなのじゃ!!!」
 「う~~ん。甘くてフワフワ、果物もこの黄色い皮も美味しいよぉ~!!!」


 感動してる…大成功だぜ!!


 「ジュ、ジュート君…頼む!! 作り方を教えてくれ!! 私もホワイトの作り方をキミに教えるから!!」
 「ああ、いいですよ」
 「軽っ⁉ ホントにいいのかい!?」
 「はい、俺よりマスターの方が美味しく作れるでしょうし」
 「い、いや…それはどうかな…?」


 俺は作り方をマスターに伝授し、俺もマスターから生クリームの作り方を習った
 これぞWin-Winの関係ってやつかな


 しかし……これで終わりじゃありません!! 
 まだケーキが残ってる!!!


 「少し休憩しようか、コーヒーを入れよう」




 マスターの一言でとりあえず休憩となった…ケーキは午後だな




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 「うん、やっぱりクレープとコーヒーは合うなぁ」
 「確かに…クレープの甘さとコーヒーの苦さが絶妙なのじゃ!!」


 俺とアウラはカウンターでコーヒーを飲んでいた
 レヨンはお腹いっぱいになってしまい、ボックス席でお昼寝中だ。ケーキが出来たら起こしてやろう


 「ははは…ありがとう。でも…コーヒーは妻が入れた方が美味しいかったんだけどね」
 「………そうなんですか」
 「………気になるかい?」


 気にならない…と言えばウソになる
 この喫茶店に客が入らない理由、マスターの奥さん…なんだか深そうな気がした


 「……まぁ、食休みの暇つぶしと思って聞いてくれ」


 マスターは語り出した


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 この喫茶店は曽祖父が作った物で、当時の木材建築の建物ではなくレンガ積みと言う事でそこそこ有名だった······が、曽祖父は変わり者で、果物農園ではなく小麦やこの世界のコーヒー豆や紅茶葉、牛などを育てて変人扱いされたそうだ。この時から曽祖父は牛の乳を利用して生クリームを作る魔術を作り上げたそうだ···しかし、完成とほぼ同時に亡くなってしまい、どういう意味でこの魔術を作り上げたのか祖父ですら分からなかったらしい


 祖父の代で果樹園に手をつけ始めたが、曽祖父が残した物も一緒に世話をしていた。祖父は曽祖父の残した家畜や魔術をずっと世話して来たので捨てる事が出来なかったのだ


 喫茶店の経営はその後に生まれたマスターの父が引き継いだ、元々評判は良くなかったので売り上げは右肩さがり、借金こそなかったが経営は苦しかった。しかし結婚してマスターが生まれ、この時は幸せだったそうだ


 マスターには幼馴染の女の子がいた
 近所に住む女の子で、両親はマスターの家から離れた所で喫茶店を経営していた
 両親が忙しかったので、必然的にマスターと女の子は仲良くなり、毎日一緒に過ごす日が続く。そして18歳で結婚、レヨンが生まれてこの喫茶店を引き継いだそうだ


 しかし···ただでさえ町中にある喫茶店、その売上は全く上がらず、家畜の世話、果樹園、茶葉、小麦、コーヒー豆の手入れに両親は倒れてそのまま死去。残されたマスターとレヨンと奥さんでやっていくにはあまりにも辛かった
 マスターは小麦を諦め、果樹園、茶葉、コーヒー豆、家畜だけは自分の手で守ろうとした。しかし肉体的にキツく、喫茶店は奥さんに任せっきり、売上は上がらず······奥さんも限界を超えた


 ある朝···マスターが起きると、書き置きを残して妻とレヨンが消えていた
 もう限界です······それだけ書かれていたと言う


 マスターは疲れてしまい、家畜は世話をしたが茶葉とコーヒー豆、果樹園は諦めた。何日も店を閉め項垂れる毎日。この時が一番辛かったそうだ


 ある日···家畜の世話を終えて店に戻ると、ドアが開いた
 そこに居たのは······レヨンだったそうだ
 マスターは驚き事情を聞いた···妻に何かあったのかと


 レヨンの話では、奥さんは両親の喫茶店を継いで生活してるらしい。一人ではなく、近所の農家の青年がよく手伝いに来てるらしく、店はなかなか繁盛してるそうだ


 マスターはこの時完全に捨てられた···そう理解した
 ではなぜレヨンがここに?······マスターが聞いてみる


 「パパの料理が食べたい」


 その一言でマスターは目が覚めた
 自分は喫茶店の店主···愛する娘に誇れる父親でいようと
 マスターは再び喫茶店を開く決意をしたそうだ


 レヨンは元妻の所へは帰らなかった
 レヨン曰く、書き置きを残して無断で出てきたらしい。奇しくも元妻と同じ事をしたそうだ


 そこから2年かけて果樹園、家畜、コーヒー豆、茶葉を復活させて再オープン。客はそんなに入らないが、二人で生活出来るくらいはなんとかなった


 マスターは、これからはレヨンの幸せの為に頑張るそうだ






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 「まぁ······つまらない中年の話さ」
 「············」
 「·········マスター」


 温厚そうな表情の裏で苦労したんだな
 マスターはレヨンに視線を向ける


 「あの子には幸せになって貰いたい···私の生きる意味はそれだけだ」


 マスターの微笑みは温かい······でも


 「奥さんは·····いいんですか?」
 「きっと···幸せに暮らしてるさ」
 「おぬし、確認はしたのか?」
 「いや···ははは、怖くてね。彼女が幸せに···私とレヨンを忘れて幸せだったら······まだ未練がある、情けない」
 「マスター······」


 この件に関してはどうにも出来ない···当人達の問題だ
 俺にできるのは······ケーキだ


 「マスター、俺も手伝います。この店を有名にしちゃいましょう‼」
 「え、ええ?···どういう事だい?」


 マスターは困惑してる、まぁいきなりだしな


 「この店を町一番の喫茶店にしましょう。そうして奥さんに見てもらうんですよ。頑張ってる所を」
 「そうじゃな。たとえもう会えなくとも安心させる事は出来る。向こうから会いに来るかもしれんの」


 俺とアウラはマスターに詰め寄り言う


 「マスターが会いに行けないなら···向こうから来てもらいましょう。奥さんがどんな生活をしてても、マスターは会うべきだと思います」
 「うむ。本当にレヨンの事を思うのなら、ここで未練を断ち切り生まれ変わるのじゃ‼」


 メチャクチャな理論だと思う
 でも、奥さんとは会うべき、話すべきだと思う


 「ははは···そうか、未練を断ち切るか。わかった、やってみよう。このクレープはきっと売れる···面白くなってきた‼」
 「俺達も手伝います···というか嫌でも手伝いますから。あとクレープだけじゃなくてケーキもありますからね」
 「うむ。くくく、クレープ···ケーキ···楽しみなのじゃ。ぜひこれらを我らの国に······くくく」


 アウラの目的はなんか違う気がする···まぁいいや、俺達に出来る事···それは、ケーキ、クレープ。あとはパンケーキなんてのもいいかも。マスターのコーヒーとも合うしな


 店が軌道に乗れば、果樹園や農園なんかを手入れする人員を雇うことも出来るかも···当面は俺とアウラで手伝えばいい


 喫茶店経営の手伝い···やってやるぜ‼





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