ホントウの勇者

さとう

王都グリーンカントリー①/夢語り・【緑の特級魔術師 エメラルディア・エピドート】



 エメラルディア・エピドートは【緑の大陸】の貴族、エピドート家の三女として生まれた


 上には兄と姉がいて、兄はエピドート家の跡取りとして日々勉強、姉は何処へ嫁いでも恥を欠かぬように礼儀作法や淑女としての在り方を勉強し、三番目の妹に構ってる暇はほとんど無かった


 父と母は多忙で家を空けがちで、使用人も忙しい。彼女の遊び相手は······エピドート家を守っていた傭兵だった


 その傭兵の仕事はエピドート家の館の守護
 普段は家の周辺を見回り夜は門番を努めたり、有事の際意外は基本的に暇だった
 貴族の娘、という事でエメラルディアも友達がいなく、家の周辺を歩く傭兵に懐いたのは10歳の頃だった


 その傭兵は50半ばの老兵だが、体付きは物凄く鍛えられており歳を感じさせない強さを感じる 


 初めての邂逅は、エメラルディアが1人でボール遊びをしていた時に、この老兵にボールがぶつかった時だった


 見た目に反して老兵は優しく、エメラルディアに優しくボールを投げ返す···しかし、エメラルディアはそのボールを再び老兵に投げ返す······困った老兵はさらに投げ返す······いつの間にか、一緒にボール遊びをしていたのだった


 この日を境にエメラルディアは老兵に懐き、彼の元を訪れるようになった


 ある時は老兵の仕事の話···倒したモンスター、採取した薬草、モンスターの素材集めや解体の話など、10歳の少女に聞かせるような話ではなかったが、エメラルディアはそれがどんな物語よりも面白かった


 そんな風にモンスターや素材、動植物や薬草の話を聞きながら、老兵と過ごす毎日が2年ほど続いたある日、エピドート家に老兵の所属する傭兵団の魔術師がやって来た
 その魔術師は、この周辺を守護する傭兵団の中でも一番の使い手で、エピドート家の領主に挨拶するために来たのだった
 挨拶を済ませ魔術師は庭で老兵と話をしていたが、エメラルディアは気にせずに老兵に近付き話を聞き始めた


 老兵は魔術師にエメラルディアを紹介し、エメラルディアが魔術師に興味を持っている事を話した
 その話を聞いた魔術師は気を良くし、簡単な初級魔術をエメラルディアに教え、実際に使わせてみた


 【緑】の初級魔術、【風巻トルネウィンド


 つむじ風程度の竜巻を起こし、敵を撹乱する初級魔術だ
 当然、威力など無いに等しい······しかし




 エメラルディアの起こした竜巻は、エピドート家の木々を纏めて薙ぎ払った




 エメラルディアは勿論、老兵も魔術師も愕然とした
 エメラルディアは教えて貰った通りに魔術を発動させただけ···魔術師はすぐに理解した


 エメラルディアは、恐ろしい才能を秘めている···と


 その日を境に、エメラルディアは魔術師としての道を歩む為に魔術師に弟子入りした


 着々と力をつけて、僅か2年で上級魔術師となり、周囲を驚かせる···しかし彼女は、両親や兄姉よりも、老兵や魔術師の喜びの言葉のほうが嬉しかった


 そして、上級魔術師として様々な土地を訪れ、かつて老兵が話してくれたモンスターや動植物、薬草などを採取して、それらのデータを取り家に持ち帰り老兵に見せる···そしていつしか老兵と共に図鑑を作る事に夢中になっていた


 そして一年が経過し、エメラルディアは15歳になった
 図鑑はまだまだ完成しそうにない


 そんなある日···エメラルディアは王都に呼び出された
 エメラルディアだけではない、ほかの上級魔術師や冒険者、傭兵団など、大陸中から大勢の人間が集められていた


 目的はSSレートモンスター、〔グリーンギガノプラント〕の討伐······眠りについていた【神獣】との戦いだった


 エメラルディアも魔術師として戦闘の経験はいくらでもある···が、今回の相手は悪すぎる
 そしてそこには老兵と師匠の魔術師もいた
 老兵はこの戦いを最後に前線からの引退を決意しており、魔術師は魔術学校での教師を務める事になっていた


 エメラルディアは老兵と約束した


 共に生きて帰り、図鑑の夢を叶えると
































 しかし、老兵は帰る事が叶わなかった




───────────────


───────────


───────




 〔グリーンギガノプラント〕は巨大な樹木型のモンスターだった
 腕、という名の巨大な枝を振り回し、冒険者達をなぎ払い
 体から種子という名の弾丸を飛ばし、傭兵、魔術師達を屠る


 一方的な戦いだった
 魔術師の魔術が〔グリーンギガノプラント〕の体を切り刻むが、地中から養分を吸収し瞬く間に傷が治ってしまう
 傭兵や冒険者が根を切ろうと近付き、枝の餌食になる···このままでは勝つことは不可能
 騎士団の総隊長より撤退が指示された
 エメラルディアも、隣を走る老兵、魔術師も撤退する


 〔グリーンギガノプラント〕は嘲笑うかのように種子を飛ばし追い打ちをかける


 その弾丸をくらい、何人も倒れていく···そして


 魔術師が···弾丸をまともに受けて絶命した


 エメラルディアは泣き叫び亡骸に縋る


 そして······弾丸はエメラルディアを襲う······事はなかった




 老兵がエメラルディアを突き飛ばし、その弾丸を半身で受けたのだった




 エメラルディアは老兵に駆け寄る


 老兵は生きていた


 左腕と左足が吹き飛ばされ、身体中血塗れだった
 しかし、生きてきた


 エメラルディアは泣きながら叫ぶ


 死なないで、と


 老兵は涙を流しながら最後の力を振り絞る


 「後はまかせた」···と


 エメラルディアは全てを理解した


 図鑑の夢…約束


 エメラルディアは両親、兄姉よりも大事な家族をこの瞬間失った


 そして、この場で死ぬ事が出来なくなってしまった


 エメラルディアの中で何かが外れ、頭の中に何かが流れ込んでくる


 膨大な魔力が湧き上がり目の前の〔グリーンギガノプラント〕に全てをぶつけた


 エメラルディアが行ったのは【緑】・【緑】・【緑】の融合ブレンド、すなわち【固有属性エンチャントスキル】の発現。神にのみ許された属性


 それが後の【緑の特級魔術師 エメラルディア・エピドート】が放つ【特級魔術】


 【固有属性エンチャントスキル】・『嵐乱旋風ハウルフォルトゥーナ


 かつてエメラルディアが自宅の木々を吹き飛ばしたつむじ風
 それらを無数に組み合わせ、ひとつの超巨大竜巻を築き〔グリーンギガノプラント〕にぶつけた


 〔グリーンギガノプラント〕はその風圧で身体が上に持ち上がり、根が全て千切れ上空数百メートルまで浮き上がる
 そのまま無数の鎌鼬に身体を引き裂かれバラバラになり、外界に樹木の雨を振らせた


 生き残りの戦士達や後方の騎士団は全てを見ていた


 一人の少女が放った魔術が…戦いを終わらせたのだ


───────────────


───────────


───────




 王都に戻ったエメラルディアや戦士達は熱烈な歓迎を受けた
 エメラルディアの父や母、兄姉は彼女をエピドード家の誇りと言い、今まで禄に構わなかったクセに擦り寄ってくる、それがとても気持ち悪く、老兵と師匠を失った彼女にはどんな言葉も届かなかった


 王都に帰還して10日後に、エメラルディアは【特級魔術師】になった…全く望んでいなかったが


 任命式が終わり、久しぶりに自宅に戻る
 家族の言葉が鬱陶しく、早々と自室に戻る……そして


 書きかけの書類、老兵が残した図鑑の一部……二人の夢
 エメラルディアはそれらを見て思い出す
 老兵の最後の言葉……「後を頼む」


 モンスター図鑑、動植物図鑑……知識の無い一般人でも気軽に見れる、この世界の不思議を記す
 後を頼まれた自分は、それを成し遂げなくてはいけない


 夢を終わらせないために


 この日からエメラルディアは変わった
 【特級魔術師】の立場を利用して様々な場所を訪れて取材をした
 危険地帯に入り、モンスターと戦ったり、山脈や森林で珍しい草花を採取する


 これからもずっと…




───────────────


───────────


───────




 「…………これがあたしの夢です。えへへ…なんか恥ずかしいですね」


 エメラルディアは恥ずかしそうに頭を掻きながら微笑む


 「………図鑑……完成するといいな」
 「……はい」


 俺はそれしか言えなかった
 なんとなく…踏み込んじゃいけない。そんな気がした




 魔導車の陰で…銀色の何かが翻った




 王都まではあと少しだ


 
───────────────


───────────


───────




 朝になり、パンとスープで簡単に朝食を済ませ出発する
 王都まではあと半日もあれば着く


 ここまで来るとめぼしい物は何もない
 整備された街道、街道沿いの樹林、ある程度すれ違う魔導車など、人気も段々と増えてきた
 そしてついに、王都が見えた


 「おい、見えてきたぜ」


 その一言に後部座席で話をしていたアウラとエメラルディアが前を向く


 「あれが…〔王都グリーンカントリー〕か、大きいのじゃ」
 「そうですね、でも〔大大陸中心交易都市エレメンツ〕よりは小さいですよ」
 「確かにな。でも十分だろ」


 そのまま魔導車で町中へ入る


 町の中は意外と古風だった
 建物は【緑の大陸】らしく木造建築が目立つ、しかしレンガ作りの建物も多く、半々くらいの割合だ。さらに目立つのは植物や樹木が多く、心なしか空気がうまい
 俺たちは魔導車から降りて町の中央を歩く
 相変わらず人が多く、辺りには露店が目立つ。腹も減ってきたしここらでメシにしますかね


 「なんか喰おうぜ、腹減ったよ」 
 「うむ、賛成なのじゃ!!」
 「いいですね、お店もいいですけど…ここは露店にしましょうか!!」


 3人で周りの露店で食べ歩きをする
 【緑の大陸】は農作物が多く、野菜を使った物が多い
 肉と野菜の炒め物やスープ、イモをそのまま焼いて塩を振って食べたりパンに挟んで食べたり…健康にも良さそうな物が沢山だ


 お腹もふくれたので王都へ来た目的……エメラルディアを王宮へ連れて行こう


 「エメラルディア、そろそろ王宮へ行くか」
 「……はい」


 エメラルディアは…淋しそうだ
 アウラも少し沈んでいる……初めての友達だったからな
 俺も少し寂しい、いろいろ世話になったしな


 俺たちはゆっくりと王宮へ歩き出した





「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く