ホントウの勇者

さとう

傭兵駐屯都市ゼルドナ②/魔導車・夜空の夢



 「ここがそうか?」
 「みたいじゃの」


 俺達は町外れの巨大な建物の前に居た
 〔ゼルドナ魔導車工場〕と書かれた看板が立ち、事務所、工場、販売店は別々になっているみたいだ


 「とりあえず事務所に行きましょう」


 エメラルディアが事務所らしき建物に入っていく
 ノックして木のドアを開けると、中は12畳くらいで意外と狭い。事務机が2つと奥に所長用の少し立派な机が1つ、あとは来客用のソファに書類が入った戸棚が2つあるだけのシンプルな事務所だった


 「「「いらっしゃいませ」」」


 中には男2人、女1人の従業員
 奥の机に座っていた人が前に出てきて挨拶する


 「本日はどのようなご用件でいらっしゃいますか?」


 歳はたぶん50前半くらいのぽっちゃりしたおじさんだった。まだ10代の俺達相手でもきちんと礼を尽くしてくる


 「魔導車を一台、購入したいんですけど」
 「はい、畏まりました。どうぞこちらへ」


 来客用ソファを勧めてきたので遠慮なく座る。すると、女性従業員がお茶を出してくれた


 「それではいくつかご質問させていただきます。内容はご予算、搭乗人数、使用目的などですね。それではご予算から······」


 いくつか質問をうけた···まぁこんな感じ
 予算は車を見てから
 人数は4〜5人くらい
 目的は移動、危険地帯も含む


 まぁこんな感じ···予算の規模がよくわからないからとりあえず現物を見てから決める事にした
 アウラは腕を組んで首を傾げてるし、エメラルディアは俺にまかせるらしくニコニコしてるだけだ


 「なるほど···それでは店舗にご案内します」
 「よろしくお願いします」


 立ち上がり、店長に案内されて店内へ


 「おおお······すごいな」
 「たくさんあるのじゃ···」
 「なかなか立派ですね~」


 店内は大量の魔導車が並んでいた
 普通車みたいのから、トラックタイプ、ワゴンタイプ、キャンピングカータイプ。とにかく沢山だ
 店長に聞いたら最低でも二人乗りらしい。バイクのような二輪タイプは、危険地帯を走るのは適さないし、荷物も運べないので需要がほぼない。なので基本は四輪がベースらしい


 「お客様のご希望ですと···こちらは如何でしょうか?」


 案内されたのはワゴン車みたいなのが並ぶスペースだった
 どれも似たような形だが、タイヤがデカく、しかもスパイクまでついてる。前に四人乗れて後ろは簡単な居住区になってる
 上下の簡易ベットが2つ、つまり四人まで寝泊まり出来る。あとは小さなキッチンと魔導冷蔵庫。さらに四人掛けの小さなテーブルと椅子に、足元のフタを開けると水を入れるタンクがあった
 トイレは無し······まぁこれでいいか


 俺はこの魔導ワゴン車を購入する事にした。ちなみに色は黒
 値段は2500万ゴルド······即金で購入


 「いやーなかなかいい魔導車ですね~」
 「うむ、いい買い物をしたのじゃ」
 「···········」
 「どうしたんですか? ジュートさん」


 いまさら気付いた 






















 どうやって運転すんだコレ?






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 【流星黒天ミーティア・フィンスター】の時も思ったが、この世界では免許は無い


 この魔導車の仕組みも凄くシンプルだった
 魔力を通せば前進、魔力を送る量でスピード調整
 ハンドルは方向転換できる、ギアをバックに入れて魔力を送るとバックする
 ブレーキは魔力を止めてブレーキペダルを踏む···こんな感じだ
 ウインカーとかは無し、本当に動かすだけ


 やるしかないか······いざ運転‼




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 「ハッ…ハッ…ハッ…こ、怖えぇぇぇ!!」
 「ジュート…おそいのじゃ」
 「なんか眠くなってきました~…ふああ」


 ムチャ言うなよ!! 車なんて運転したことなんてあるワケねぇだろ!!
 俺は町中をゆっくり走っていた…恐すぎる
 時速は約10キロ…他の魔導車はどんどん追い越して行ってる…先どうぞー!!
 とにかく運転して慣れるしかない……


 アウラは隣で退屈そうに前を向き、エメラルディアは後部座席で横になってる
 とにかくこのまま町を出て〔王都グリーンカントリー〕に向かわなくては


 それから1時間ほど掛けて町を出ることに成功した……エメラルディア曰く、普通の魔導車だったら10分も掛からないらしい……うるさいよ!!


 街道は広く、特に障害物もないので多少はスピードを出せる
 時速は約30キロ……もう少し行けそうだな


 「おお、少しは慣れてきたかの?」
 「はい、だいぶスピードが出てきました!!」


 よーし……イケる!!
 時速は現在50キロ……まだイケる…が慢心するな、余裕を持っていこう
 道はほぼ直進、緩やかなカーブはあるがこのくらいならイケる


 先は長い…このままゆっくり行こう




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 「さーて、今日はこの辺にするか。メシだメシ!!」
 「……急に元気になったのじゃ」
 「運転に慣れてきたのが嬉しいんですね、こういう時が一番事故に遭いやすいんですよ?」


 …………なんか辛辣だな、とにかく調理しよう


 「アウラ、エメラルディア、お前ら辛いのは平気か?」
 「む?…別に嫌いではないのじゃ」
 「あたしも平気ですよ~」
 「よーし、じゃあ「カレー」を作るからな。楽しみにしとけよ!!」


 二人は俺の自信が理解できないのかお互いに顔を見合わせて首をかしげている
 ふっふっふ……まぁ見てろ


 俺はまず米の準備をした。米はエレメンツで大量に購入したので当分は無くなる心配が無い
 魔導車にはシンクと魔導コンロが二つ設置されていたので、片方は米、片方はカレーを作る事が出来そうだ


 レシピはきちんとある
 アウラがエレメンツでいろいろ勉強している間、俺だって何もしなかった訳じゃない
 料理を勉強したり、作り方を聞いたりしてレパートリーを増やしていたのだ
 今日は……【青の大陸】の食材を使ったシーフードカレーを作るぜ!!


 材料はこの世界のエビ、イカ、ホタテ、海藻や各種野菜、後は小麦粉やカレー粉
 エレメンツでは沢山の食材を見つけた。中でも驚いたのがカレー粉だった、流石にカレールーは無かったのでカレー粉と小麦粉で代用する


 オリジナル要素が強いし、作ったこと無いけれどまぁなんとかなるだろう
 野菜を炒めてカレー粉、小麦粉や魚介を混ぜて特製ルーを作る
 米も炊き上がりもうすぐ完成……


 「むむう…いいにおいなのじゃ……」
 「はいぃ……ジュートさんってお料理得意だったんですね~」


 ふっふっふ、どうよ。少しは見直したか?
 後はサラダを作りカレーをよそい完成だ!!


 「おーし、出来たぞー!!」
 「おおおっ待ちわびたのじゃ!!」
 「すっごい美味しそうです!!」


 よーし、それでは……


 「「「いただきます!!」」」


 ではパクリと……ふふふ、さすが俺、ウマい!!


 「うむう…うまい、うまいのじゃ!!」
 「う~ん、このピリ辛がたまりませんね~!!」
 「おかわりもあるからな、ジャンジャン食べろよ!!」


 俺たちは全員2回おかわりした…あらら、全部無くなった


 俺たちは心ゆくまでカレーを満足したのだった




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 俺は現在魔導車の外で見張りをしている
 魔導車は街道の外れの岩場に隠し、なるべく目立たないところに止めたつもりだ。だが、モンスターの脅威はある。なので男の俺が見張りに着くために外に出て、女の子二人には中で眠って貰っている


 俺は魔導車の近くに座り、周辺を見る……特にモンスターの気配は感じない
 集中するとアウラ達の寝息が聞こえるくらい、俺の感覚は研ぎ澄まされる


 《アナタは寝ないのかしラ?》
 「……出てくるような気がしてたからな」
 《アラ…嬉しいコト言ってくれるジャない?》


 クロが俺の隣に現れる…たぶん来ると思ってた


 《もうすぐエルフの国ネ…クライブグリューンに会ったらその次は【白の大陸ピュアブライト】ヨ?》
 「分かってるよ…もう4大陸を回ったんだな」
 《エエ…アナタは本当に強くなったワネ。まだまだヴォルには及ばないケドね》
 「相手は神様だろ? 比べられてもなぁ」
 《フフ、そうネ……》


 それっきり会話は終わる
 俺はなんとなく聞いてみた


 「次の【白の大陸ピュアブライト】ってどんなところなんだ?」


 《【白の大陸】?……そうネ、あそこは「ユキ」っていう現象が頻繁に起きてるワネ。大気の温度が不安定でとても寒いワネ……ワタシは寒いの苦手なのヨ》


 ユキ……雪かぁ。俺も暑いのは我慢出来るけど寒いのはなぁ…


 《アソコには【白】を司る【九創世獣ナインス・ビスト】、ティルミファエル・アルモニーがいるワネ。場所は確か……〔ラソルティ大聖堂〕だったかしラ?》


 その名前聞いたことあるな……たしかルーチェと一緒になってクロの取り合いをしたヤツだな


 「そっか。まだまだ先は長いな」
 《そうネ…でも、アナタならどこまでも行けるワ》


 そう言うとクロは俺の膝の上に乗る…あったかいな
 俺はクロの頭を撫でる
 なんだか……眠く……なって、来た


 《ジュート…アナタならヴォルの力をきっと引き出せる。だから負けないで、ココロを強く持って》


 クロが何か言ってる……なんだろう




 《アナタの左腕…『魂喰いの左腕ソウルイーター・アルマイト』は目覚めかけてるワ、ワタシ達ですら理解出来ないチカラ……飲み込まれないでネ》




 クロの声を聞きながら…俺の意識は眠りに落ちた




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 そのまま3日ほど運転し、なんとか慣れてきた
 今では寄り道しながらゆっくりと王都へ向かっている


 「あ、ジュートさん、止めて下さい‼」
 「おっと···どうした?」
 「今、あそこの林から〔グリーンレアスライム〕が出てきましたよ‼ 捕まえに行きましょう‼」
 「えー···なんでよ」
 「知らないんですか? 〔グリーンレアスライム〕は滅多に出ないレアモンスターです。その体の一部は希少食材で、ゼリーというお菓子に加工されます。王都では高級お菓子として有名なんですよ‼」
 「ゼリー······旨そうなのじゃ」
 「よーし決定です‼ 行きましょう‼」


 エメラルディアが主に寄り道の提案をする
 それにアウラがのっかりいざ寄り道···まだ王都までかなりあるのに···仕方ないか


 寄り道はほぼエメラルディアの発言からだった


 「ジュートさん‼ あそこの森には火傷に効く薬草が生えてます、採取しましょう‼」
 「ええー···〔治癒薬ポーション〕じゃダメなの?」
 「〔治癒薬ポーション〕は確かに効きますけど治るのに時間がかかります。火傷治しなら傷に塗り込めばすぐに治りますよ‼」


 「ジュートさん‼ あそこに〔グリーンブル〕の群れがいます···少し観察させて下さい。いい資料になります」


 「ジュートさん‼ あの森の中の沼にはAレートの〔グリーンドロナマズ〕が生息しています。少しだけ観察したいんですけど···いいですか?」


 「ジュートさん‼ あそこに······」


 「ジュートさん‼······」


 「ジュート······」










 こんな感じで寄り道ばっかりだ
 全然先に進まねぇ······


 エメラルディアは好奇心旺盛だ、動植物やモンスターの知識も凄いが、戦闘でもかなり強い
 沼でナマズを見に行った時にモンスターと遭遇したが、初級魔術であっさりと倒してしまった
 詠唱も早く、初級魔術なのに中級魔術並の規模の【風槍ウィンドスピア】で10体近くいた〔グリーンウルフ〕を全滅させた
 そういえばコイツは【特級魔術師】だって事をすっかり忘れていた


 7日ほど過ぎて、王都まであと少しという所で再び野営をすることにした
 俺は外で見張り、アウラとエメラルディアはすでに就寝してる頃だった
 星を見上げていると、エメラルディアが表れた


 「ジュートさん」
 「ん? どうした、眠れないのか?」
 「いえ、お礼を言いに来ました」 
 「お礼?······なんで?」
 「あたしのワガママに付き合ってくれたからです」
 「ああ、寄り道の事か。そんなの気にすんなよ、俺もアウラも楽しんでたしな」
 「そう言ってくれるとありがたいです···王宮に戻ればまた退屈な毎日ですから」


 エメラルディアは寂しそうに目を伏せる


 「ジュートさん達に出会ってまだ10日ほどですけど、こんなに楽しいのは初めてです。あたしも1人の人間として、夢を追いかける事ができました」


 夢···そういえば、コイツの事、何も知らないな


 「夢?······どんな夢なんだ?」


 エメラルディアは顔を上げて俺を見る。そして···ちょっと恥ずかしそうに聞いてきた


 「あたしの話···聞いてくれますか?」


 「······ああ、夜は長いからな」


 俺は夜空を見上げる···エメラルディアも見上げた
 雲ひとつない満天の夜空
 エメラルディアは語り出した




 「あたしの夢は、この世界の動植物・モンスターの図鑑を作る事です」





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