ホントウの勇者

さとう

狩猟の村ウッディペンダ②/狩る者・落ちる物



 俺は気配を消して森の木々の上を疾走していた
 漫画で見た忍者みたいな事を俺が実践する事になるなんて思ってもいなかった


 木々の上から森を観察する
 良く見ると、動物やモンスターの死骸が幾つかある···しかもかなり新しい。コレも〔グリーンワイルドベア〕のしわざなんだろうか?


 動物の死骸を辿りながら進むと······いる‼
 強いモンスターの気配······‼


 俺は木々の上をさらに慎重に進んでいき···見つけた、コイツで間違いない······けど


 デカい······デカすぎる‼


 俺の目の前には体長10メートルはあるバケモノ熊がいた
 体毛は深い緑で凶悪な顔をした熊、と言うイメージだ。手には凶悪な大きさの爪が生えていて、多分ハンターはあの爪にやられたんだろう。その手には現在2メートルはある〔グリーンガゼル〕が掴まれ、そのままガツガツ食べていた。顔や身体が血だらけになるが、そんな事全く気にしていない、知性はかなり低そうだ


 さて、どうやって狩る?······ん?


 ···そうだ‼ せっかくだし村の流儀でやらせてもらおう。そうと決まれば準備しなきゃ‼




 俺は一つの考えが浮かび、それを実行する為の準備を始めた。ぐふふ、面白くなりそうだ






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 「お〜い‼ クマちゃ〜んこっちおいで〜‼」
 「‼···ガアアアアアア‼」


 俺は食事中の〔グリーンワイルドベア〕の前に飛び出し、アホっぽい声を出して注意を引いた


 当然、〔グリーンワイルドベア〕は俺の方を向いて威嚇···俺はそのまま逃げ出した······すると


 「よーし、来てる来てる······」


 「グガアアアアアア‼」


 当然追い駆けてくる·····ははは、計画通り‼
 このクマは四足歩行で、チーターのような走りで追いかけて来る······かなり速いな


 そのまま走り続け、少し開けた場所へ着いた······今だ‼


 俺は【灰】の魔術で鎖を生み出し頭上の木に向かって飛ばす、その勢いで一気に跳躍した······すると


 「⁉······ゴガッ‼···ガガガ⁉」


 俺が魔術で作った落とし穴(鉄の杭入り)に見事に落下···


 「よっしゃあ‼」


 俺は木の上でガッツポーズ
 そして上から穴を覗くと······あらら
 クマは胸に4本、頭に1本の杭が刺さって死んでいた


 俺は杭を消して【黄】の魔術でクマの死体を持ち上げる
 一応···村に運ばないとね、みんなを安心させなきゃ
 ···って言うかコイツ···何トンあるんだよ⁉


 俺はとりあえず〔セーフルーム〕にクマをしまい、村の入口近くまで戻ってきた


 このままだと怪しまれるので、魔術でその辺の朽ちた木を切断して鎖で巻いてイカダみたいな物を作り、その上にクマの死体を出す。そして【流星黒天ミーティア・フィンスター】に鎖を巻いて試しに引っ張ってみた


 「う〜ん···少しは動くな」


 ほんの少しだけ動いた·····なら、最大魔力で行けば‼


 「お、お、おお⁉ 行ける‼」






 引きずるようにして走り出した‼ よーしこのまま村までレッツゴー‼




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 「ん⁉·····お、お、うおおおぉぉぉっ‼」


 村の森側の出口を守っていた門番さんが、俺の姿···正確には俺が引きずってるデカい荷物を見て大声を上げた
 その声に反応して人が集まってくる。中には俺が怪我を治したハンター達も混ざっていた···よかった、元気になったんだ
 みんなが大声を上げて喜んでいる。いつの間にかかなりの人数が集まっていた


 俺は門の所まで進み停止する
 すると、10人組の中にいた一人が俺の側に来た。この人がダークエルフハンターのリーダーみたいだ
 その顔は笑顔に包まれていて、俺に言う


 「我らが英雄よ、貴方が一人でこの〔グリーンワイルドベア〕を討伐したのですか?」
 「は、はい·····そうです」


 流石に俺も身長2メートル近くの筋骨隆々の男が目の前に出てくると結構怖い···


 「瀕死の我らを魔術で治療した···と言うのも貴方でございますね?」
 「は、はい·····そうです」


 さっきと全く同じ返し···なんか威圧感がスゴイ
 俺は最初に決めていた事を勢いで話す事にした、なんか怖いからさっさと済ませちゃおう


 「あ、あの···この〔グリーンワイルドベア〕の素材や肉はこの村にお譲りします。俺には必要ないので···スミマセン」


 何故か最後謝ってしまった···って言うかこの人近い‼ 怖い‼


 俺は恐る恐るダークエルフハンターのリーダーを見る···するとリーダーはポカンとして


 「よ、よろしいのですか⁉ これだけの素材、肉があれば数年は金には困らないはず‼ それを我らに譲ると言うのですか⁉」
 「は、はいィィ‼ どうぞお使い下さいィィ‼」 


 こ、この人、俺の顔数センチまで近づいて来てまくし立ててくる‼ 〔グリーンワイルドベア〕より怖ェ‼


 すると周りが騒ぎ始める···どうやら俺の返答が全く想定していない答えだったらしい。まぁ普通はこんな大物やろうなんて思わないもんね。するとリーダーが腰に挿してる剣を抜いてダークエルフの集団に向けて大声を出して言う


 「我が同胞たちよ‼ 我らが勇者より〔グリーンワイルドベア〕を賜った‼ 今宵は宴だ‼」


 「「「「「ウオオオオオオ‼‼」」」」」」


 なんっつーデカい声だよ‼ 鼓膜破れるかと思ったわ‼
 するとダークエルフ集団が剣を持ってクマを解体し始めた。どうやらあの剣は武器じゃなくて解体用らしい
 その様子を眺めてると後ろから声をかけられた


 「ま、魔術師さま‼」
 「えっ?···ってミロか、ビックリした」


 そこにいたのは宿屋の少女ミロだった。何故かミロはクロを抱っこしてる···って言うか魔術師さまって


 「なぁミロ···普通にジュートって呼んでくれよ。よそよそしいのはちょっと嫌なんだ」
 「で、でも」
 「頼むよ、俺はそんな立派な人間じゃない。昨日みたいに普通に接してくれたほうが嬉しい」
 「······うん、わかったよ‼ ありがとう、ジュートさん‼」
 「ああ、今日は宴だな‼」


 俺はミロな案内されて、やっと朝ごはんを食べる事が出来た······ちなみにクロは


 《??·····何かあったノ?》


 この騒ぎの間ずっと寝てたらしく、俺が帰ってきた知らせを受けたミロに抱っこされて起こされるまで事情を理解してなかった




 まぁいいけどね···とにかく、夜は宴だな‼




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 村の中央にキャンプファイヤーが準備され、酒樽が次々と運ばれ出した。解体作業はほぼ終わり肉はどんどん加工されている。
 野菜と一緒に串に刺したり、薄切りにしてステーキ肉風にしたり···見てるだけで美味そうだ。


 素材の方は骨と毛皮、爪や牙なんかが武器の材料になるらしく、商人ギルドの人たちは大喜びだったらしい
 昼過ぎ頃にダークエルフのリーダー···ビルゴさんが俺の所に来て、1000万ゴルドのゴルドカードを俺に渡して来た。最初は辞退したが余りのプレッシャーに受け取らざるを得なかった···この人、俺の事キライなのかな···?


 


 そして夕方···
 辺りが暗くなってきた頃に、キャンプファイヤーに火がついた。火の上では串に刺さった巨大な肉塊が焼き始められる。さらに周りでは魔導バーベキューコンロに火がつき様々な食材が焼き始められる


 俺はビルゴさんに案内されて····校長が朝礼とかで登りそうな台の上に案内された。手には木で出来たコップを持っている


 「さぁ我らが勇者よ、挨拶と乾杯の音頭を‼」


 「············」


 だからこう言う突発的なのヤメろよぉぉぉ‼
 人魚の町でもそうだったろうがァァァァ‼
 やっぱりビルゴさんに嫌われてんのかよぉぉ‼


 周りは俺の挨拶を待っている···もう適当でいいや‼


 「えー···ダークエルフ族の繁栄、栄光を願って‼ かんぱーい‼」


 「「「「ウオオオォォォ‼‼」」」」




 やっぱダークエルフ怖ェェ‼






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 宴は進みみんないい感じで酔ってきた
 俺は今回はジュースを飲んでいる、もっぱら食べるのがメインだ
 俺の周りに、最初は怪我をしたハンター集団が一人ずつお礼をしに来た。みんな子持ちのベテランハンターで、自分の技術を息子娘に伝える前に死ぬ所だったと感謝された。子供たちも俺にありがとうと言ってくれた···あの子供たちが次の世代のハンターか


 その後は、村中の人たちが感謝の言葉を伝えに来た。お菓子をくれたり、酒を注いでくれたり、みんなで楽しく話をした


 ビルゴさんは超至近距離で俺に絡んで来た···しかもめっちゃ酒臭いし声もデカい、正直苦手なタイプだ
 俺のピンチを悟った仲間がビルゴさんを連れて行ってくれた······助かった


 ミロはずっと給仕をしていた。何度か俺の所に来て食べ物を置いたり、ジュースのおかわりを注いでくれた···ありがとう、後でチップを弾んでやろう


 クロはルーチェと一緒に寝てる···騒がしのは好きじゃないから仕方ないか




 そんな感じで···宴は過ぎていった




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 翌朝、俺は宿屋のベッドで目が覚めた
 窓を開けて外の空気をいれる···すると外はダークエルフが沢山寝転がっていた···みんな酔い潰れてる


 俺は昨日の内に宿屋に戻ってベッドで寝た、人魚の町では酔い潰れて外で寝たからな。客観的に見るとこんな風に見られるのか


 少し胃が重いが朝食は食べたい
 そのまま階段を降りて1階に行くとミロがいた


 「おはよう、ジュートさん」 
 「おはよ〜 やっぱり早いね」
 「宿屋の娘ですから‼ えっと朝食ですよね?」
 「うん···お願い。できれば軽めで」
 「ふふっ···多分そうだと思っていました」


 俺の前に出されたメニューは、柔らかめのパン、野菜たっぷりのシチューだった···おお、美味そうだ‼


 「いただきます‼」
 「はい召し上がれ‼ 私、ネコちゃんにご飯あげてきますね‼」


 ミロはそのまま2階へ上がっていった
 さーて···挨拶したら出発するか




 食事を終えて村の広場に出ると、すでに片付けが始まっていた。俺の姿を見るとみんな笑顔で挨拶してくれる
 俺はビルゴさんを探していた···一応出発前に挨拶しておかないと···あ、いた


 「おお、勇者殿。おはようございます‼」
 「お、おはようございます」


 やはり声がデカい。昨日あんなに飲んでたのにまるで疲れを感じさせない···とりあえず挨拶して行くか


 「あの〜、今日この村を出ますんで、その、お世話になりました」
 「·····そうですか。行き先はどちらで?」


 ······ビルゴさんはダークエルフだし、エルフの事何か知ってるかな?


 「エルフの土地へ行って見ようと思います···腕には自信があるんで」
 「············」


 あれ?······雰囲気が変わった?


 「勇者殿···エルフの土地へ行くのはお止め下さい」
 「え?···どうしてですか?」


 「今、エルフの土地は大変混乱しております。なんでもエルフの姫君が失踪して国中が大混乱だとか···今のエルフ族は非常に気が立っておりますゆえ外部の者に対して一切遠慮がありません。エルフの土地に入った瞬間に抹殺対象となり【精霊魔術】の使い手が押し寄せて来ますぞ」


 何それ怖っ···でも行くしか無いんだよなぁ


 「わかりました···いろいろありがとうございます。お世話になりました」
 「いえいえ、こちらこそありがとうございました。今度いらっしゃる時は我々が仕留めた獲物をご馳走しましょう」
 「はい、楽しみにしてます。それじゃあお元気で‼」


 ビルゴさんと別れて宿屋に戻る···するとミロがクロと遊んでいた。俺に気付いて声をかけてくる


 「あれ? ジュートさん···もしかして出発ですか?」
 「ああ、そろそろ出るよ」
 「そうですか···一日しか居なかったのに何だか寂しいですね」
 「ははは、ありがとな···また来るよ···っと、そうだこれ、チップだ、取っておいてくれ」
 「そんな、気を使わなくていいのに···」


 ミロにチップを渡す
 宿屋以外で俺をもてなしてくれたんだ、このくらいの報酬は払わなくちゃいけない
 カードだけじゃ値段が分からないのでミロは素直に受け取った。まぁ1000万ゴルドだけどね
 クロは俺の肩にジャンプして乗る···いつものスタイルだ


 「じゃあミロ、いろいろありがとな···元気で」 
 「はい‼ ジュートさんもお気を付けて‼」






 ミロに別れを告げて俺は村を出た···






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 俺とクロは【流星黒天ミーティア・フィンスター】で街道を走っていた


 「えーと、次は〔バンベール樹海〕だっけ?」
 《そうネ···》
 「肉もいっぱい貰ったし、今日はステーキでも作るか」
 《‼···いいワネ》


 クロは嬉しそうだ···コイツも分かりやすくなってきたな 






 さーて···飛ばして行きますか‼



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