ホントウの勇者

さとう

閑話 鳴戸括利・【糸神ドゥレヌアラクネ】



 鳴戸括利めいとくくりはシャワーを浴びていた
 体や服の汚れは魔術でキレイに出来るが、気持ちの問題でやはり風呂には入りたい
 皆木颯賀と只野槌男が壊滅させた村の村長の家に、風呂は無かったがシャワーはあった。そこを使って体と心をリフレッシュしている
 シャワールームのドアの外には仲間の高名氷寒が見張っている
 彼女は声を掛けてみた


 「氷寒ちゃ~ん、次はいる~?」
 「……遠慮するわ、魔術で十分よ」
 「そうなの~? 気持ちいいのに~」


 まあ氷寒ならこう言うだろうとは思っていたが、念のために聞いてみた
 彼女はシャワールームから出て魔術で体を乾かし着替えをする
 そのままドアを開けて見張りをしてくれた氷寒にお礼を言う


 「ありがとね~氷寒ちゃん、別に見られてもよかったけどね~」
 「……」
 「じょ、冗談だってば~」


 氷寒の冷たい視線が突き刺さる。冗談は通じないようだ


 「ところで皆木と只野はなにやってんの~?」
 「……」
 「氷寒ちゃん?」
 「……知らない」
 「え~?」


 氷寒の顔は赤い
 彼女は皆木颯賀と只野槌男の二人がこの集落を壊滅させた時に、なぜか若い女性は殺さずに一カ所にまとめて閉じ込めていたのを思い出した
 つまり、そういう事である


 「あぁ~、ヤってんのかぁ。お盛んだねぇ」
 「……」
 「やれやれ、じゃあ氷寒ちゃん今日はもう休もう」
 「……そうね」




 二人はこのまま村長の家で休むことにした




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 休む前にお茶にしよう。と言う話になり二人はリビングで紅茶を入れた
 茶葉はこの家にあった多分来客用の高級茶葉に綺麗なカップ
 お茶請けには高級そうなクッキーを準備した


 「……明日になったら出発するわ、そして無月の足取りを追うわよ。静寂さんの報告ではおそらく〔王都イエローマルクト〕に向かったらしいわ。見つけ次第四人で叩くわよ」


 「りょうか~い………でも、さ」
 「……でも、何?」




 「わたし達で無月に・・・・・・・・勝てるのかなぁ?・・・・・・・・




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 「……どういう事?」


 氷寒の目は冷たい。戦いもしない内の弱気な発言に明らかに気分を害していた
 その視線を受け止めながら彼女はいつもの調子で言う


 「う~ん、コレはわたしの考えなんだけど~……聞く?」
 「……言いなさい」


 氷寒は責めるように言う
 彼女は語り出した


 「エルレイン様は、無月を殺す気は無い・・・・・・・・・んじゃないかなぁ?・・・・・・・・・
 「……はぁ?」
 「だってさぁ、先発隊の達俣たち三人はさ、神器に目覚めてほんのわずかで【赤の大陸】に向かわせられたでしょ? あの頃の達俣たち三人は今のわたし達より遙かに弱いわ~。まるで無月の神器・・・・・・・を覚醒させる・・・・・・為の当て馬みたいな・・・・・・・・・
 「……考えすぎよ」
 「そうかな~? そのあとすぐのタイミングで盾守が一対一で闘って、無月は新しい力に目覚めたし。そんで第二陣の錐籐たちだってやられたじゃん。遠距離攻撃専門の円筒が同じ遠距離攻撃の力に目覚めた無月にやられたんだよ?」
 「……それは」
 「ほんとーに無月を殺したいんなら、中途半端なわたしたちじゃなくて【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】を全員集結させればいい。それか【王ノ四牙フォーゲイザー】が直接闘うか、ヤリかたなんてわたしでも思いつくよ~」
 「………」
 「今の中途半端な人数を無月に送り込んだって、アイツには勝てないと思うよ。いまのヤリかたはな~んか腑に落ちない~……まるで」




 「無月を鍛えて強く・・・・・・・してるみたいな・・・・・・・……?」




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 「……あなた、何が言いたいの?」
 「たぶん、エルレイン様かどうかわかんないけど、無月のレベルに合った人選をして各大陸に送り込んでるんだよ。エルレイン様や【王ノ四牙フォーゲイザー】の目的は無月を鍛えあげること? 他にも何かあるかも。少なくとも殺す事じゃ無い」
 「バカを言わないで!! 現にアイツは〔クローノス城〕で処刑されたのよ!!」
 「それもきっと計算ずくだと思う」
 「根拠が無い!! あなた自分が何を言ってるかわかってるの!? あなたに無月銃斗に対する憎しみは無いの!?」
 「あるよ、殺したくてたまんない。でも、この状況がおかしいって思う自分もいる」
 「どうかしてるわ。まさかあなた、【銃神ヴォルフガング】に操られてるんじゃ」
 「……そうかもね~、はははっ……」


 括利は力なく笑う
 氷寒はこの話を無視することが出来なくなっていた


 このまま無月銃斗と闘っていいのだろうか?
 【王ノ四牙フォーゲイザー】には別な思惑があるのか?
 【魔神エルレイン・フォーリア】は何を考えているのか?




 ならばこの憎しみは、どうすればいいのか?




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 鳴戸括利めいとくくりは学校の成績は高い方だ
 しかし、彼女の素行は良いとはいえない
 髪を染め、制服を着崩し、授業をサボる
 さらにクラスの不良グループにも属していた


 そんな彼女には一つの癖があった
 それは、物事を深く考えること


 断片的な情報を集めて一つの形にする
 そんな探偵みたいな考えをするのが好きだった


 たとえば、授業中に先生が突然職員室に戻ってしまった
 先生は忘れ物をしたと言って戻ったのだ。普通の人は大して考えないが、彼女は深く考えた


 そもそも忘れ物をしたのに何故授業の中盤で戻ったのか?
 何故、教科書を一緒に持って行ったのか?
 今の授業は国語、数学や科学で使う道具などならわかるが、国語の授業で使う道具なんてあっただろうか?


 そんな風に考えてしまっていた


 あとから聞いた話だが、先生はただトイレに行っただけだった
 教科書は無意識で持って行っただけ
 蓋を開ければ何でも無い話。ただそれだけのこと


 しかし、そこまで思考を巡らせることが出来るのが鳴戸括利めいとくくりという少女だった


 高名氷寒は煮え切らない表情のまま寝室に行ってしまった
 彼女は冷めた紅茶を啜る


 最悪の場合、逃げるしかない
 このままでは使い捨ての道具にされてしまう可能性もある


 恐らく無月銃斗と戦って勝てるかどうかはわからない
 でも、やるしかない


 彼女の中にある何かが、逃げることを許さないのだ




 「……たすけて、無月」




 鳴戸括利めいとくくりはポツリと呟いた



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