ホントウの勇者

さとう

閑話 高名氷寒・【氷神リディニーク】



 高名氷寒たかなひょうか鳴戸括利めいとくくりは現在二人で【黄の大陸ポアロイエロー】の最東端の海岸を歩いていた


 「皆木のヤツ遅い〜、ドコまで行ったのよ〜」
 「皆木君なら大丈夫でしょう。わざわざ偵察に行ってくれてるのに文句を言わない」
 「は〜い。どうせ何か出てきてもぶっ殺せばすむ話じゃん、イチイチ休憩しながら歩くのメンドくさいよぉ〜」
 「······」
 「う······わ、わかったよ〜そんな目で見ないでよ〜」
 「分かればいいのよ」
 「ふ〜んだ」


 その言葉に彼女は表情も変えずに歩き続ける
 隣を歩く鳴戸括利は暇つぶしに聞いてみた


 「ねぇねぇ氷寒ちゃん。氷寒ちゃんってさぁ〜無月のこと好きだったの〜?」
 「······何故?」
 「だってさぁ氷寒ちゃん〜無月の事よく見てたじゃ〜ん」
 「それだけ?」
 「うん。見てたらわかるよ女の子だし〜、あれは恋する乙女の視線だよ〜」
 「······下らない」
 「あ、ちょっと待ってよ〜‼ 歩くの早い〜」




 氷寒は、無言で歩き続ける




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 高名氷寒が無月銃斗に出会ったのは高校に入学してすぐの事。クラスが同じだったのだが特に交流などは無く、せいぜい朝の挨拶程度の仲だった
 彼女の容姿は美少女ではあるが少しキツめの雰囲気があり、その寡黙な性格も相まって友達も出来なかった。同年代の少女達にとって彼女は近寄りがたい存在だったのだ
 しかし部活のテニスでは県大会上位入賞が当たり前、それ以外のスポーツも得意と言うこともあり、隠れファンがかなり存在していたらしい
 彼女は別にそれで良かったし、学校は勉強とテニスをする場所と言う認識で、誰かと友達になろうなどとは考えてもいなかった
 部活の時も彼女と練習したがる生徒がいなかった為に、一人で壁打ちをしたり先生に相手をしてもらい、休みの日には大学のテニスサークルの練習に混ざったりしてその実力を伸ばしていった


 そんなある日、彼女はいつも通りに部活に出た。しかし、コートには誰もいないし部室にも誰もいない
 不思議に思い顧問に確認すると、今日は休みだったのだ
 伝え忘れたのか、ワザとなのか、彼女はそれを知らされていなかった
 特に気にせずに一人で練習を始める。すると、コートの外で一人の男子生徒がこちらを見ていたのだ
 目が合うとその男子生徒はフェンスに近づいて来た


 「高名さん? 一人で練習してんの?」


 突然の事に彼女は少し目を細めて警戒しながら言う


 「······ええ」


 彼女はこの男子生徒が同じクラスの無月銃斗だと言うことをこの時理解した。そんな事にも気付かずに彼は言う


 「ふーん、でも今日はテニス部って部活ないんじゃなかったっけ?」
 「······自主練よ」
 「へぇ、一人で?」
 「······ええ、そうよ」
 「でもさ、相手がいないと練習にならないんじゃないの?」
 「そんな事はないわ、一人で出来る練習なんていくらでもあるわ······もういいかしら?」


 彼女はさっさと練習を始めたかった。本心ではさっさと帰れとこの時は思っていた······すると


 「あのさ、俺じゃダメかな?」
 「······はぁ?」


 思わず変な声が出た


 「あ〜いや、その、ちょっとやってみたいな〜なんて」
 「······」


 どうやらこの男子生徒は興味本位でテニスをやってみたいらしい。テニス部は休みで他の生徒は誰もいないし、いるのは同じクラスの彼女だけ。彼にとってはチャンスでもある


 彼女は少し考えた


 確かに一人じゃ大した事はできないし、今から大学のテニスサークルに顔を出すのも面倒だ。相手が初心者でもいるといないでは全然違う。まぁ今日は休みだと思えばいい
 彼女はそう考えて振り返り自分の荷物の所へ行き、ラケットをもう一本取り出す、そして彼の所に戻りラケットを無言で差し出した


 彼はラケットと彼女の顔を交互に何度も見ると、ゆっくりとラケットを手に取った
 彼女は一応聞いてみた


 「ルールはわかる?」
 「うん。以前に本で読んだからわかるよ」
 「そう、サーブは譲るわ」


 彼は楽しそうに制服の上着を脱いでTシャツになる
 そして簡単に準備運動をして叫んだ


 「よーし‼ 勝負だ‼」
 「······どうぞ」


 彼女は負けるはずがないと、そう思っていた




 この時までは




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 確かに動きは素人だった
 ラケットの振り方、足さばきなどどう考えても素人その物。せいぜい学校の授業程度のレベル


 しかし、少しずつ動きがまともになっていく


 何かを確認するようにブツブツ呟きながら、その動きが精錬されていった 
 何度か危ない瞬間があった
 県大会でも優勝経験のある彼女が、素人の彼に点を取られそうになったのだ


 「······どういう事⁉」


 彼は素人ではない
 結局、彼女は最後の方は本気を出していた




 結果はストレート勝ち。しかし、素直には喜べなかった




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 しばらく休憩を取ったあとに彼女は切り出した


 「······あなた、経験者ね?」
 「ええ? いやホントに初めてだけど」
 「······ウソね。あなたの動きは経験者の動きよ、どうしてウソをつくのかしら?」
 「えーっと、本で読んだ通りに動いただけなんだけれど」
 「······本?」
 「うん。俺が読んでる本にテニスの描写があったんだけど、いまいち理解出来なくてさ、そこでテニスのルールや動き方を勉強したんだ。でも頭で理解しても体がついていかないね。ははは、疲れたよ」


 彼女は考えていた
 無月銃斗が強くなれば自分の練習にプラスになる。このままここで終わらせるのは惜しい
 すると自然に声が出ていた


 「······ねぇ、また練習に付き合ってくれない?」
 「え? ああ、うん、いいけど」
 「じゃあ今度の日曜はヒマかしら?」
 「あ、はい。ヒマです」
 「そう。じゃあ付き合って頂戴」




 そして連絡先を交換してその日は別れた




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 そして日曜日。高名氷寒と無月銃斗は町のテニスコートに来ていた


 「あ、あの〜高名さん?」
 「さ、始めましょう」
 「えーっと、付き合うって、テニス?」
 「そうよ? お礼にお昼ご飯はご馳走してあげる」
 「は、はい。ありがとうございます」
 「じゃあいくわよ」


 そしてこの日から休みの日の彼の予定はテニスになった
 彼が用事で本屋に出かけたりする日もあったが、おかげで彼はどんどん強くなっていった
 彼女も彼の練習相手がだんだん辛くなっていく、その度に彼女も強くなっていった
 最初はファミレスなどでお昼を奢っていたが、金銭的にキツイので彼女がお弁当を作って来ることが多くなった
 午前中でテニスが終わりそのまま一緒に買い物などをする事もあった。もちろんテニス用品だったが


 ある日いつもの様にテニスを終えて、彼女の行きつけのテニス用品店で買い物をした時の事。馴染みの店員のおじさんと何気ない会話を、無月銃斗と高名氷寒はしていた。今日の出来事、テニスの事、それを聞いたおじさんは笑いながら答えた


 「はははっ。まるで恋人同士のデートみたいだな」


 その言葉を聞いて彼女は固まった


 「で、デート?」


 「そりゃそうだろ。一緒にテニスして、手作り弁当食べて、一緒に買い物して。これがデートじゃない訳ないだろ?」


 彼女の本来の目的は、彼を強くして自分の練習相手になってもらう事。これは揺るがない事実


 しかし、彼女は理解してしまった
 自分の行動は、それだけで済まなかったという事実


 恋愛経験のない彼女は瞬間的に顔が赤くなった
 デートと言う言葉が重くのしかかる
 そんなつもりは全く無かった。けど楽しかった


 高名氷寒は、無月銃斗を好きになっていた




 それを理解した瞬間、彼女は逃げ出した


 
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 家に帰った彼女は携帯を確認する
 するとやはり彼からのメールや着信が沢山入っていたのだ
 メールのみ無難な言葉で返信する、着信はそのままにした。まともに声を聞けなかったのだ


 そしてこの日を最後に二人のテニスは終わりを告げた


 彼女は、「もう十分に強くなった。今までありがとう」とメールを送って関係を終わらせてしまったのだ
 恥ずかしくてまともに顔を合わせられない、彼はカンがいいので自分の気持ちに気付いてしまうかもしれない
 そう考えただけでも二人で逢うのが怖かった


 こうして二人は出会った頃の関係に戻った
 残ったのは、恋する気持ち


 そして二年生になり、またも同じクラスになる
 彼は相変わらず朝の挨拶をしてくる
 その度に彼女は嬉しく、思い出す


 二人でしたテニスの思い出
 いつかもう一度、彼とテニスをしたい
 今度は自分から誘ってみせる




 しかし、その願いは叶わなかった




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 「どうしたの氷寒ちゃ〜ん?」
 「······なんでもないわ」
 「ふふ〜ん。ムネ、痛むんでしょ?」
 「······」


 括利は、何故か楽しそうに語る。何かを誤魔化すように


 「私ね、思うんだ〜。ムネが痛むコはみ〜んな無月が大好きなの、その気持ちを私達の中の神様が消しちゃおうとしてるの。だからココロが必死で抵抗してる。大事なキモチを守るために。だからムネが痛むんだよ」


 その言葉を聞いた彼女は思わず隣を歩く少女を見つめた
 手を頭の後ろで組んでゆっくり歩く少女
 不思議とその言葉は的を得ていると、そんな気がした


 すると前方から声が聞こえた


 「おーい、今日の宿を確保したぞ‼」
 「お、皆木じゃん」
 「悪い、遅くなった。途中で只野槌男君に会ってさ、一緒に宿を確保したんだ」
 「宿?」
 「ああ、この先に集落があったからさ。住人は全員始末しといたよ」
 「······そう」
 「どーでもいいけどソコにシャワーある〜? あたしシャワー浴びた〜い」
 「知らないよ、魔術使えばいいだろ?」
 「え〜、シャワーのほうがスッキリするのに〜」


 彼女は一瞬だけ嫌悪感に包まれたが、既に意識を切り替えて歩き始めた
  今は前に進む。胸の痛みをねじ伏せて戦う。無月銃斗を倒すために




 彼女の心は、黒く染まっていった





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