ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン⑧/変化する町・未来の光景



 俺の神話魔術発動から20日後、町はがらりと変わった


 まず全ての奴隷商人が2日と立たずに閉店。奴隷は全て解放されて一時的に町で預かることになり、親の元に返されたり孤児として扱われることになった


 その影響は間違いなく俺の神話魔術のせいである


 少なからず反発もあると予想していたが、もし奴隷を解放しなければ神の炎によって焼き尽くされるだろう、と言う噂が町に蔓延してしまい、それを恐れた商人達が一斉に奴隷を解放したのだ
 やり過ぎたと思ったけど、まぁ結果オーライだな


 エンダイブ城跡地には孤児院が建つことになった
 王都や町から腕利きの職人が集まり作業は急ピッチで進み、城跡地は広いので遊具なんかも作られる予定だ。ちなみにイエーナはその孤児院の初代所長に就任する事が決まっていた


 ナルシス城跡地には学校が建つ予定だ
 まずは住居である孤児院を建設してからなのでまだしばらく掛かるが、まぁしかたない
 ナギットさんとジャスミンさんはこの件に関してはお金を全く惜しまなかった


 それでも一番最初にガルベイン邸の整備をして、エルルとクルル達をそこに住まわせている。もちろんイエーナも一緒に
 町の孤児などは空き家を使用してそこに何人かのグループで生活させ、食料や衣服などは勿論町で負担している


 ゴロンさんの所の奴隷達も親の元に返された
 俺は直接謝ったけど、女の子達は笑って許してくれた




 町は少しずつ変わり、これからもっとよくなるだろう




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 俺は今領主邸に向かって歩いている


 現在そこは孤児院も兼ねているのでみんなの様子を見に行くためでもある
 ガルベイン邸は町中の職人が総勢で仕事をしたおかげでたった1日で住めるようになった。ホントに仕事早すぎだ
 地下の子供達約20人と町の孤児達約20人の計40人、イエーナ・ナギットさん・ジャスミンさんで暮らしている。ガルベイン邸は毎日とても賑やかだ


 エルルとクルルは自分の故郷を忘れてしまっていたので、このまま町の孤児院で暮らすことになった。俺が遊びに行くたびにタックルをかましてくるのがすこしキツい
 今ではきちんとした洋服に食事を与えて貰って肌つやもよくなり毎日元気に遊んでいる
 ジャスミンさんが子供達に勉強を教えているようだが、エルルはともかくクルルはあまり勉強好きでは無いらしい。まぁこの辺は普通の子供だな


 ブランは魔術の素質が認められて、この町の上級魔術師と一緒に〔王都イエローマルクト〕に留学した。そこで魔術の勉強をするらしいが、教師がとんでもない人だった


 ブランは【黄の特級魔術師 シトリン・アングレサイト】が直々に魔術を教えるらしい。マジで次に会うときは特級魔術師かもな


 ナギットさんとジャスミンさんは相変わらず二人で領主を務めている
 足りないところを補い合い、支え合い、夫婦で頑張っている


 ジャスミンさんは新しく出来る学校の教師も務めるためにしばらくしたら領主をやめるそうだ。この件は領民も納得済みで今はナギットさんに引き継ぎも行っている


 そしてなんとジャスミンさんは、2人目を妊娠している。イエーナの妹か弟だ
 このニュースは町中に広がって人々に希望を抱かせた。俺もそれを聞いたらうれしかったしな


 いろいろ考えながら歩いているとガルベイン邸に到着、門番は俺を見ると笑顔で通してくれる。顔パスだ
 すると、外で遊んでた子供達が一斉に群がってきた


 「おにいさーん!!」 
 「おにいちゃーん!!」
 「よし来いっ!! ふんぐっ!?」


 エルルとクルルのタックルを体で止める。なんか最近この犬耳姉妹強くなってね?
 俺はしっぽをパタパタさせる姉妹の頭を撫でながらみんなにお土産を渡す


 「お菓子買ってきたぞ~、けんかすんなよ~」
 「やったあ!!」 「ありがと~」 「おおっ美味しそう!!」


 子供達はお菓子を受け取ると家の中に入っていく
 するとエルルとクルルが俺の手を引っ張り歩き出す


 「おにいさんも一緒にお茶にしましょう」
 「みんなで食べるとおいしいよ!!」
 「そうだな。じゃあいこうか」




 二人に引っ張られて俺も家の中に。よしよし、お茶にしますか




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 子供が40人近くいると流石に騒がしい


 でもなんかいいな、こういうの。エルルとクルルは俺の隣でクッキーをうれしそうに頬張り、耳がピコピコ動いてしっぽがパタパタしてる、かなりご機嫌だ


 お腹がいっぱいになると今度はお昼寝の時間だ
 大部屋で毛布を被ってみんな寝始めると、子供だからか、遊び疲れてお腹いっぱいになったらすぐに寝息が聞こえてきた。俺は静かに部屋を出る


 「みんな寝た?」
 「ん? ああ寝た。疲れたんだろ」


 イエーナが歩いてきた、手には分厚い本を持っている
 俺に視線に気がついたのかイエーナが答えた


 「この本? 私ね、いま勉強してるの。学校が出来たら子供達に教えてあげられるようにね、もちろんちゃんとした先生はいるけど、私も出来るコトしたいから」


 イエーナは明るく答える
 もう、この国は大丈夫だろう。子供達の未来はイエーナが、ナギットさんとジャスミンさんがいれば安心だ。俺が出来ることはもう無いな


 俺も旅を再開しないとな


 「なぁイエーナ、俺はそろそろ行くよ」
 「え?」
 「旅を再開する。俺にも目的があるからな」
 「……うん、そうだよね」
 「ああ、いままでありがとな。世話になった」
 「も、もう行くの!? みんなにお別れしないの!?」
 「ああ、エルルとクルルは泣き出しそうだしな。子供が泣くところは見たくないし、俺も辛いからな」
 「勝手な人ね……ねぇ、ジュート」
 「ん?」
 「あなたに会えて、ホントによかった」
 「俺もだ。今までホントに楽しかった」


 イエーナは俺を優しく抱きしめ、俺もその背中に手を回した


 「元気でな、みんなによろしく」
 「あなたも、気をつけてね……」




 俺は涙をこらえ、静かにガルベイン邸を後にした




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 俺は町の真ん中まで歩き建設中の孤児院を見た。完成までもう少し掛かりそうだ
 でも、この町は変わっていく。町は相変わらず活気に溢れているし冒険者や旅人、商人が溢れてる


 さて、次の町に行こう


 《次は〔ダナード村〕を経由シテいよいよ〔ウースタイン洞窟〕ネ。あと少しでトレパモールの所へ着くワヨ》
 「ああそうだな……ってお前!!」
 《どうしたノ?》
 「どうしたの? じゃねーよ!! アグニもルーチェもどこ行ってたんだよ!!」
 《……今はマダ言えないワ》
 「は? どういうことだ?」
 《今は信じテ。それよりアナタ、神話魔術を使ったワネ?》
 「お、おう。マズかった?」
 《そんなコト無いワ、チョットびっくりしただけ・神話魔術の封印が解けたのネ》
 「封印? そういえばクロが死んだと思った時に、心の中に呪文が浮かんできたんだよなぁ」
 《フゥン……マァいいワ、とにかく行きまショ》
 「はいはい」


 俺は久しぶりにクロと一緒に歩き出す


 〔ダナード村〕を抜けて〔ウースタイン洞窟〕か
 次の【九創世獣ナインス・ビスト】はどんなヤツだろう




 そんなことを考えながら、俺は歩き出した




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 〔貴族都市ガルベイン〕はその後名前を変えて〔天使降臨都市ガルベイン〕としてその名を知られることになる
 真っ赤な炎の天使が現れ2つの貴族の争いに終止符を打ち、新しい時代の幕開けが到来した、希望の都市として


 町にはとても大きな孤児院〔ガルベイン平和孤児院〕と学校の〔ガルベイン平和学園〕が建ち、行き場のない、親のいない子供の貴重な場所として、これから未来に名を馳せる子供達の大切な場所となっていく


 ナギットとジャスミンは正式にガルベインの名前を賜りこの都市を発展させていく
 夫婦仲は円満でジャスミンは元気な男の子を出産。名前はサルファ
 ガルベイン家次期当主として早くも期待されて幸せに暮らしている。イエーナも弟を可愛がっていて、よく家族が庭でお茶会をしているのが目撃されている


 〔ガルベイン平和孤児院〕初代所長のイエーナ・ガルベインは、穏やかで優しく笑いの絶えないステキな女性として子供達から好かれ、毎日幸せに暮らしている
 彼女の元にはお見合い写真や旅の冒険者などからいくつも求婚を申し込まれるが、全て断っているという。噂では気になる男の子がいるからとか


 エルルとクルルは勝手にいなくなった黒服の少年に文句を言うために冒険者を目指そうと毎日勉強をしている。エルルは勉強が好きだがクルルは体を動かすのが好きみたいだ


 とある朝、いつもと同じく起床して姉妹で日課のトレーニングという名のじゃれ合いをしていると、とある傭兵団の団長が二人の動きを見てたいそう感激してそのまま二人をスカウト
 黒服の少年が去ってから程なくして傭兵団の一員となり、大陸を股に掛ける事になる


 黒服の少年がこの姉妹に再会するのはもうしばらく先の話




 
 イエーナ・ガルベインは孤児院から町を見る




 いつかあの黒服の少年が来たら、今度は弟を紹介しよう




 そして子供達と一緒に、みんなで遊ぼう






 遠くない未来の光景が見えるような気がした





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