ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン⑦/家族の絆・【赤の神話魔術】



 イエーナから詳しい事情を聞いてみた


 どうやらナギットとジャスミンはきっかけが欲しかったらしい
 いつか自分たちの町を一つにして、死んだ娘のぶんまでこの国を幸せにする


 奴隷達の扱いは前から疑問には思っていた
 でも、自分の領地だけ法律で規制したら間違いなく軋轢が生まれる
 しかしこのお互い断絶した状況では何も出来ない
 だからこそイエーナの存在はまさにきっかけだった


 〔旧ガルベイン家〕の前に領民を集めてナギットとジャスミンが演説をする
 その場で、イエーナの存在を明かしてエンダイブ・ナルシス両家の愛の証としてもう確執は存在しない。これからは1つの国として治めていくこと


 そのために負の遺産である両家の城を破壊する、ということ
 これからはエンダイブ・ナルシスの名前は捨てて、ガルベインを名乗ること
 〔旧ガルベイン家〕を領主の館として領民たちを守るということ
 このことはすでにナギットとジャスミンがお互いに合意。すでに〔王都イエローマルクト〕に使いを出していて明日にでも演説をする事


 こんな感じで話は進んでいた、展開早すぎ
 しかも明日かよ!? 王都の返事は待たなくていいのか!?


 ナギットとジャスミンは前からずっと準備をしてきたみたいだった
 城にある重要な書類、調度品などは町中に専用の建物を作って管理させていたらしく、たとえ今、城が爆破炎上しても何の問題も無いらしい


 言葉は伝えられなくても考えることはおんなじ、ナギットとジャスミンはいつか城を破壊する事を決めていたのは間違いなかった
 領民の目の前で破壊することによって、古き時代の流れにケリをつけてここから新しい〔貴族都市ガルベイン〕が生まれる。と言うこともアピールできる


 問題は、魔術の火力だ


 「なぁイエーナ、どうやって城を破壊するんだ?」
 「うん、パパもママも上級魔術師だし、城にも上級・中級魔術師が何人かいるみたいだから、その人達と一緒に魔術で破壊するみたい。出来るかな?」
 「……うーん」


 俺の正直な意見、ムリだ


 上級魔術を100発くらい撃てば破壊出来るかもしれない
 だけど、おそらく数日はかかる
 並の魔術師が1日に撃てる上級魔術は精々3発程度
 【特級魔術師】でも10発撃てればいい方だ


 でも、俺なら……


 「どうしたの?」


 俺はイエーナを見る
 イエーナはどう思うだろう
 この孤児達はどう思うだろう


 俺が、〔神の器〕だと知ったら


 「ジュート?」
 「なぁイエーナ……俺さ」
 「……?」


 俺の表情を見たイエーナが俺の言葉を待つ
 とても真剣な表情だ


 「俺ならあの城を……1発で破壊できる」
 「えぇ!? いや、でも上級魔術師でも1日じゃ不可能よ? それこそ何日もかかる仕事よ」
 「俺なら出来るんだ……俺は」


 言う、言うぞ……言うぞ


 「俺は〔神の器〕だから」


 言った、言ってしまった
 このままココにいられないかもしれない
 でも、俺も出来ることを何かしたい。この孤児達のために、未来のために
 ココで拒絶されたら、このまま町を去ろう
 俺は恐る恐るイエーナを見た


 イエーナは、呆れていた


 「だから何? まさか私が怖がるとでも?」
 「いや、あの……いいのか?」
 「いいも悪いも、あなたはあなたでしょ? 子供達が大好きな優しいジュート」
 「あ……」
 「そうね、ならあなたにも協力して貰うわ。ふふ、ありがとね」
 「……うん」
 「〔神の器〕は災厄の象徴なんて言うのはでまかせよ。あなたのおかげで私たち家族は再会できた。実はね、パパもママもあなたに会いたがってるのよ」
 「俺に? なんで?」
 「私が連れていた男の子が気になるんだって」
 「ハァ? 何だよそれ?」
 「い、いいの!! とにかく明日はよろしくね!!」
 「あ、うん。わかった」


 イエーナはそのまま毛布を被って眠りにつく
 俺もその隣で毛布を被る


 〔神の器〕は恐怖の象徴。でも、イエーナは俺を恐れなかった
 イエーナに話したとき、俺は一瞬リアさんを思い出していた
 また拒絶されるかも、そんな考えが浮かんでいた
 でも、そんなことは無かった




 俺はそれがたまらなくうれしかった




───────────────


───────────


───────






 次の日、俺は〔旧ガルベイン家〕の裏にいた


 表の通りには大勢の領民が集まっている
 昨日のうちに、町中に設置されている魔導スピーカーで今日の演説のことを聴かされていたのだ


 ガルベイン邸の前には巨大なステージが設置されている
 コレも昨日のうちに設置したらしい。だから仕事早すぎ
 ガルベイン家はまだ整備はされていない。きっとこの演説が終わればいろいろ始めるのだろうな


 「お、始まるのか」


 まずはナギットさんの話から始まった


 「エンダイブ領、ナルシス領の民達よ。私はナギット・エンダイブ……本日は大事な話がありこのような場を設けさせて頂いた」


 領民達が一斉に騒ぎ出す
 数が尋常じゃ無い。南門の辺りまで人がひしめいている
 その声はほとんど大歓声となり辺りを包み込む


 そして、ジャスミンさんが語り出した


 「皆さん、私はジャスミン・ナルシス。まずは私とこのナギットの謝罪を聞いて下さい」


 その言葉で話は止み、静寂に包まれた


 「私とナギットは、24年前に出会いました。場所はエンダイブ城のパーティーホール、私たちはそこで初めて出会い……恋に落ちました」


 「それから私たちは何度も城を抜け出して、お互いの秘密の基地で密会を繰り返し、そして17歳の時に……子供を授かりました」


 「私が留学で王都に赴いた本当の理由は妊娠を隠すため。そして、王都の城で騎士の修行をしていたナギットと共に、家族で過ごすためだったのです」


 「領民の皆さんを欺いたことは、許されることではありません。私はあなた達よりも、愛する夫と子供を選んでしまった。皆さんが兄では無くこの私を領主にという願いを知りながら、女としての愛を選んでしまったのです」


 その言葉を聞いて領民達は戸惑っていた
 子供を持つ女性は泣いている人もいる・
 ジャスミンさんの言葉はちゃんと届いてる


 「兄が殺され父が亡くなって、時期当主が私しかいなくて……私は子供を孤児院に預けて、ナギットと別れて今度こそあなた達領民の為に尽くそうと努力しました」


 「私は初めて会ったときからずっと、ナギットと子供を愛しています。今もずっと」


 その笑顔と言葉はとても温かかった
 そしてナギットさんは涙をこらえながら話し始める


 「私が言いたいことは全て妻に取られてしまった。何故こんな話をするのかというと、それは私たちの愛する娘について話しておきたいからだ」


 「私とジャスミンの娘は、王都の孤児院に預けてきた。しかし、私たちが領主になって7年後に奴隷商人に売られてしまっていた」


 その言葉を聞いて顔が真っ青になってるヤツらが俺の位置からでも何人か見える
 ありゃビビってんな、もしかしたらって思ってる顔だ


 「私たちは自分を呪った。何の罪も無い子供が奴隷に落ちて生きていけるわけが無い。私たちは子供を諦めて仕事に没頭した……そして2年」


 「私たちの愛する娘は、生きていたのだ!!」


 「紹介しよう、私たちの娘のイエーナだ!!」


 イエーナが壇上に上がりお辞儀をする
 綺麗な純白のドレスを着てる


 「私たちは娘から聞いた。奴隷の実態、罪の無い子供達、未来有る子供達……それらを食い物にするような事は、断じて許せない!!」


 「今、この場をもって宣言する!! 犯罪者奴隷以外の奴隷の所持は一切認めない。私たちも現状を放置した罪がある。全ての奴隷商人に保証金を支払う準備がある、コレより10日以内に奴隷を解放せよ!!」


 「なお、身寄りの無い子供や奴隷は責任をもって私たちが預かろう。しかるべき教育をして世に送り出すと約束する」


 言った、ついに言ったぞ。よっしゃあ!!


 「そして、エンダイブ領・ナルシス領の境界線を無くし、これからは1つの町、〔貴族都市ガルベイン〕としてこの町は生まれ変わる!!」


 「我々は1つの国、1人1人がこの国ガルベインの誇り高き国民だ!! よって全ての原因でもあるあの罪の象徴とも言うべき城……エンダイブ城、ナルシス城を破壊する!!」


 「これからの新しい時代に古き城は必要ない!! 新しい時代の幕開けに相応しい最初の一歩を、この手で!!」


 そしてナギットさん、ジャスミンさん、2人の周りにいた魔術師総勢30名が一斉に詠唱を始める
 ナギットさんは【赤】、ジャスミンさんは【黄】の魔術を発動させ、左右の城に魔術をぶつける
 領民は大興奮して雄叫びを上げたり、魔術を放ち一緒に破壊を始めたりしてる


 しかし……城は城壁が破壊されただけ、まだまだ掛かりそうだ




 「さぁて、俺もやるか」




───────────────


───────────


───────




 ナギットさんとジャスミンさんはずっと苦しんでた


 『燃え上がれ神の炎 大いなる炎の意思よ』


 イエーナも、ずっと苦しんでいた


 『懺悔せよ我の元に 歌を謳え業火の詩を』


 家族が巡りあい国が、時代が変わる


 『神話が紡ぐ神の唄 魔術の粋よここに至らん』


 これからきっと子供達も、毎日が輝くはずだ


 『【銃神ヴォルフガング】の名の下に我は告げる』


 こんな俺でも役に立つなら、喜んで力を振るおう!!






 「【赤】の神話魔術 【懺悔天使のコンフェクション・アーンギル永遠業炎・ゼオ・ウリエール】!!」




───────────────


───────────


───────






 突然辺りが暗くなり、空一面を覆い尽くす巨大な【赤】の魔方陣が輝く
 そして、それ・・は現れた


 それ・・は天使だった
 全身が燃えるような赤、体は人間の男だがその背には炎の翼が生えている
 体は全身鋼のような筋肉で覆われていて、腰には燃え上がっている腰巻きが巻かれている
 髪の毛?も炎上していて口には牙が生えている
 瞳は真っ赤だった、白目も黒目も赤だった


 それ・・は町を見下ろしてにやりと笑った
 この異常な光景に誰も動けない、目が離せない


 それ・・が手をかざすと半透明のバリヤが城以外の町を覆う


 「よし、やっちまえ!!」


 それ・・が右手を振り上げ、エンダイブ城に向かって振り下ろした


 この世の物とは思えない豪爆音
 エンダイブ城は、跡形も無く消えた
 全てが燃え尽きただの更地になってしまった


 さらにそれ・・は息を吸い込みナルシス城に照準を定める
 そして、口から巨大な炎球を吐きだす
 再びの豪爆音。すると、ナルシス城もただの更地になっていた




 全てが終わりそれ・・はにやりと笑って消えていった




───────────────


───────────


───────






 「うーん、やりすぎたかな?」


 辺り一面静寂で包まれてる
 ナギットさんとジャスミンさんはぽかんとしてる
 イエーナは上の空だ


 俺は小石を拾って軽くナギットさんの背中にぶつけた
 ナギットさんは我に返り慌てて宣言した


 「新たな町の出発に神も祝福してくれた!! 我らの都市ガルベインに栄光あれ!!」


 その言葉に反応して領民は大爆発した
 肩を抱き合い喜ぶ人たち
 泣きながら抱き合う人たち
 すでに酒盛りを始めてる人たち
 よく見ると町の孤児達も集まっている




 さーて、今日は宴だな!!





「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く