ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン⑤/dress up・まだまだ足りない



 みんなでお菓子を食べて遊んで晩御飯を食べ、今は全員眠りについている
 起きてるのは俺とイエーナの二人だけ


 俺達は部屋の隅へ移動して、小声で話し始める


 「どうやって話に行く?」
 「決まってるわ、正面から行く」
 「行けるのか?」
 「ええ、パパは領民の言葉を大事にしてるから。でも奴隷の事は関心が薄い」
 「うーん大丈夫なのか?」
 「ええ。でもまずは……甘えたいかな」
 「いいんじゃないか? 沢山言いたい事あるんだろ?」  
 「うん。ママにも甘えたいな……」
 「そうだな。でもその前に、やることがある」
 「……え?」




 「まずは、その格好からなんとかしなくちゃな」




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 そんな訳で俺とイエーナは町の服屋に来ていた


 イエーナだけじゃなく、あの地下の子供達はみんなボロ切れのような服を着ていて、なんと下着を着けていなかった
 明らかに奴隷、浮浪者みたいな格好だと城の前で門前払いされる可能性がある。なので服をバッチリ決めて行こう!と言う結論に至った訳だ
 出来ればエルルやクルル、他の子みんなに買ってやりたいけど……仕方ないか、


 服屋に入ると、女店員はイエーナを見て露骨に嫌そうな顔をした
 イエーナは悲しそうに俯くが、俺は女店員に札束をチラつかせ言った


 「この子に合う服を、金に糸目は付けない」


 その言葉にイエーナはギョッとして俺を見た
 女店員は上客だとわかると態度が急変、店の奥にいた他の女の店員3人を呼び出しイエーナを包囲する。そしてイエーナのボロ布を脱がして全裸にした


 下着を着けていなかったのでホントに全裸
 生まれたままの姿で体中のサイズを測られる……やべぇ、モロに見ちまった‼


 俺はすぐに後ろを向いて待つ
 栄養不足の為か胸はそんなに大きくないが、体はスラリとして……って俺は何を!?


 暫くするとイエーナは計測が終わって別室に案内された
 俺は店員がお茶を出したくれたのでそれを飲んで待つ
 1時間もしただろうか……奥の扉が開き、イエーナが現れた


 「おぉぉ……」
 「……うう、恥ずかしい」


 恥ずかしいのかイエーナの顔は赤い
 その姿はまるでお姫様みたいな服だった
 白を基調としたドレスに赤いリボンやフリルが装飾されていて、可愛らしくあり美しくもある
 髪も綺麗に整えられている。背中の中程まであったブロンドヘアは長さはそのままで綺麗にカットされ纏められ、キラキラの髪留めも付けて破壊力もアップしてる……恐ろしい
 すると店員が、揉み手をしながら近づいてきた


 「お値段35万4千ゴルドとなりまーす‼」


 ゴルドカードで支払い
 なんかセレブの買い物みたいだ


 「あ、あの……お金」
 「気にすんな、いいもの見せて貰ったしな」
 「なっ!? ば、バカ!!」


 怒られてしまった
 まぁとにかく準備完了、あとは城に乗り込むだけだ




 イエーナの戦いを、見届けよう




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 俺とイエーナはエンダイブ城に向かって歩いてる
 イエーナは恥ずかしそうに俺の隣を歩いてる……大丈夫か?


 「なぁ、少し休むか?」
 「……う、うん」


 俺とイエーナは近くのベンチに腰掛けて休む
 手には露店で買ったフルーツジュースが握られている。俺が買ってきたヤツだ
 暫く無言のままジュースを飲んでいると、落ち着いたイエーナが話し掛けてきた


 「ねぇ、あなたはこれからどうするの?」
 「俺? 俺は旅を続けるよ。やらなくちゃいけない事が沢山あるんだ」
 「そっか、行っちゃうのか……」


 イエーナは何かを言いたそうにしてる。すると俺の顔を見て語りだした


 「私、パパやママと上手く話して、奴隷の扱いが変わったら……孤児院を開きたいの。行き場を失った子供達、傷ついた子供達。みんなが笑顔で過ごせるような、そんな優しい家」


 イエーナは、俺を見つめながら真摯に語る


 「ジュート、あなたにも手伝って貰いたい。エルルやクルルもきっと喜ぶわ」


 イエーナの言葉は凄く魅力的だった


 俺は子供達が嫌いじゃない。子供達が笑ってると俺も嬉しい……けど、【魔神軍】はきっと、そんな幸せも破壊する
 クラスメイト達も放っておけない……やることが多すぎる。でも、クラスメイト達を助けて【魔神軍】を倒す。それはきっと、子供達の笑顔に繋がっている


 だから俺の答えは──────


 「ごめん……でも、ありがとう」
 「……そっか」


 イエーナは、わかっていたと言わんばかりの表情で答えた
 そして立ち上がり。歩き出す


 「さぁ、行きましょう」




 吹っ切れたような笑みを浮かべて




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 そのまま無言で歩くこと5分、ついに着いた


 目の前には巨大な城の入り口が有る
 ホントにコレが領主の館なのかよ、王様に謁見するような気分なんだけど。しかも反対側にも同じくらいの城があるし


 門番に領主への面会希望を出すと、すんなり通って待合室みたいなところへ案内された
 領主は領民の言葉を大切にする事で有名で、よほど忙しいとき以外は話を聞いてくれるらしい
 そのおかげで領民にも慕われ愛されている


 待合室には俺たち以外にも5人ほど待ってる人がいた
 俺たちは最後の面会者らしい。しばらく待つしか無いな


 「おい、大丈夫か?」
 「………」


 ヤバい。イエーナのヤツめっちゃ緊張してる


 2時間ほど待つと俺たちの番が来た……イエーナは緊張してる
 よし。ココはまず俺が


 「イエーナ、最初は俺に行かせてくれ」
 「え?」
 「いろいろ聞きたいことがある。対応次第じゃぶん殴るかも」
 「ジュ、ジュート!?」
 「ドア越しに聞いててくれ……行ってくる」


 俺はドアをノックした




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 部屋に入るとそこは、教室くらいの広さだった


 部屋は高価そうな調度品が置かれていて、高そうな絨毯も引いてある
 目の前には男の人が一人、高級そうな横長の机の上で書類整理をしながら俺を見てにこやかに笑う


 その男の人はブロンドの髪。イエーナと同じ髪の色、体は服の上からでも相当鍛えあげられているのがわかる、さらに魔力も普通の人より多く感じる……もしかして上級魔術師?


 「やぁいらっしゃい。ふむ、我が領地の領民ではないな。旅人かね?」
 「はいそうです。えーと、何故わかったんですか?」
 「我が領地の民は我が宝だ。全員を把握するのは当然だろう?」
 「そうなんですか……」


 「我が領地の民」にどうやら奴隷はいないらしい。少しだけ腹が立った


 「私の名前はナギット・エンダイブ。ここの領主だ。さて、何の用かね?」 
 「はい。少し意見を聞きたくて」
 「ほう? どのような意見かね、この領地と関係あることかね?」
 「はい。聞きたいこととは、奴隷のことです」
 「……ほう」
 「この領地の奴隷の扱いについて、どう思われますか?」
 「……ふむ」
 「近隣の町から女子供は攫われ、売り買いされて、小さな子供がぼろ切れを纏って町を歩く。冒険者ギルドでは人さらいの依頼が受けられて、犯罪者でもない男奴隷は戦闘や鉱山で使い潰され、女は娼館に売られて体を酷使する……消耗品のように」


 俺は苛立ちをこらえながら、ゆっくりと話す


 「この現状を、どう思いますか?」
 「……それは」


 ナギットは、くたびれたように言う


 「それは、仕方がないのだ……」
 「この【黄の大陸】の、いや……この町の奴隷制度は狂っている、それは十分わかっている。しかしどうしようもないのだ。昔からの確執、因縁のツケが回ってきている。私ひとりではどうすることも出来ない」
 「そうですか……でも、1人じゃなかったら?」
 「……どういうことだ?」
 「1人じゃなくて2人だったら?……3人だったら?」
 「……何を言っている?」






 「あなた達の夢・・・・・・は生きています・・・・・・・






 そのときドアが開き、イエーナが現れた




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 ナギットさんは硬直している


 「パパ、私……イエーナよ」
 「まさか、そんな……本当に?」
 「……うん」


 イエーナの瞳から涙が零れる


 「覚えてる? 私の7歳の誕生日、ママが作ったスープでパパが舌をやけどして、それを見てママと私が大笑いして。パパがくれたのは手作りのペンダント。パパが倒したモンスターの核で作ったお守りだって」


 ナギットさんの瞳から、涙が零れる


 「ああ、覚えている。忘れるわけが無い……愛する私の、イエーナ……!!」
 「パパ……パパァ!! うあぁぁん!!」


 二人は抱き合い共に泣き出した。それは9年ぶりの親子の再会
 俺は静かに部屋を出る




 あとはイエーナの、大切な時間だ




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 俺はしばらく待合室で暇を潰していた


 すると、領主室のドアが開きイエーナが出てくる
 その顔は笑っていた
 父親との再会だけじゃない喜びがそこにはあった


 「どうだった?」
 「……うん」


 それだけで伝わる
 でも、きっと時間は足りない。もっと話したいことがあるはずだ


 「今日は父親と一緒にいろよ。まだまだ話したいことあるだろ? 俺はエルル達の所へ帰るから」
 「うん……ありがとう」
 「また明日来る。明日は母親だな」
 「うん!! 今日はパパとゆっくり話すわ。これからのことも」
 「ああ。がんばれよ……おやすみ」
 「うん。おやすみなさい」




 そして俺は城の外へ出る
 外は暗くなってきた




 さて、皆に美味しいご飯作ってやるか!!




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 「ただいまー、ぐへっ!?」
 「おにいさん、おかえりっ!!」
 「おにいちゃんおかえりーっ!!」


 犬姉妹のタックル!! 急所に当たった!!
 俺のライフは半分ほど削られた


 俺はランプ魔道具に明かりを灯して、早速晩ご飯の調理を始める
 今日のメニューは野菜スープとパン、肉と卵の炒め物だ


 コレなら俺でも簡単に作れる。ふふふ、どうだ
 レストランで使うような業務用の大鍋に作ったので、スープのおかわりは沢山ある
 料理をテーブルに並べて全員着席する


 「いっぱい食べて大きくなれよ!! いただきます!!」


 俺の合図で食事が始まった
 皆が美味しそうに食べている
 こんな光景が、日の当たる下で見れるようになる日もそう遠くない。そんな気がする


 1人2回くらいスープのおかわりをして、さすがに全部無くなってしまった
 あとは魔術で食器をキレイにして体もキレイにする
 1時間もすると全員眠くなってきたのか、静かになってきた


 「おにいさん、一緒に寝ましょ」
 「うん。おにいちゃんといっしょ!!」


 エルルとクルルはかわいいなぁ・
 二人は毛布を被り俺の左右に陣取ると、そのまま静かに眠ってしまった


 周りも全員寝たので俺はランプを消してエルルとクルルの頭を撫でる


 「イエーナ、よかったな」




 あの光景を見て俺は、ほんの少しだけホームシックになってしまった





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