ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン④/心中吐露・夢継いで



 俺は地下通路に戻ってきた


 また落とし穴だったが今回はちゃんと着地できた
 よし、皆の所へ戻ろう


 「お、お帰り」
 「おにいさん、おかえり」
 「おにいちゃんおかえりー」


 イエーナが顔を赤くして出迎えてくれて、犬姉妹が俺に飛びついてきた。かわいい
 するとエルルとクルルが


 「おにいさん、お腹大丈夫?」
 「いっぱい出た?」


 と聞いてきた
 ってそういえば俺、トイレ行くって行って出て来たんだ
 やべぇ、イエーナの顔が赤い理由はコレか!? 恥ずかしいぃぃ!!


 ま、まぁ過ぎたことはしょうがない
 大事なのはこれからのことだ。イエーナにもいろいろ聞きたいこともあるしな


 「イエーナ、いろいろ聞きたいことがある」
 「なに? 私にわかること?」
 「たぶん。お前の両親のこと、たぶん俺知ってる」
 「────っ!?」


 イエーナの雰囲気が変わった。明らかに驚き動揺している
 そしてそれは、触れてはいけないことだった


 「……帰って」
 「イエーナ?」




 「帰って!!!」




 その大声に子供達は全員静まりかえる
 それは明らかな拒絶。イエーナにとって両親の……ナギットとジャスミンの話は禁忌
 きっと彼女は何かあったのだ、じゃなきゃこんなに辛そうな顔はしないはずだ


 「イエーナ、話を聞いてくれ」
 「うるさい!! 今更何の話よ……私を捨てたヤツらの事なんて聞きたくない!!」
 「イエーナ頼む、お前の力が必要なんだ!!」
 「……お願い、やめて」


 流石にここまで拒絶されると
 仕方ない、出直すか


 俺は外に出ようと振り返る


 「おにいさん……」
 「おにいちゃん……いっちゃやだ」


 犬姉妹が俺の袖をガッチリつかんでいた
 コレを外すのは【神話魔術】でも不可能だ
 俺はイエーナを見る……イエーナは仕方なく頷いてくれた


 「わかったよ。今日はここに泊まるよ」
 「やった!!」
 「わーい!!」


 エルルとクルルはしっぽをパタパタさせながら俺に抱きつく。かわいいので頭を撫でてやる
 ふわふわで凄くカワイイ……癖になりそうだ


 その日はもう寝ることにした
 俺の隣にはエルルとクルルが抱きつくように眠りにつく
 この笑顔を守るために、イエーナに力になって貰わないと




 俺は再びイエーナに話す覚悟を決めた




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 次の日、朝起きるとまだ全員眠っていた。 


 ここの子供たちは基本、朝ごはんを食べないらしい
 交代で街の飲食店のゴミを漁ったり、旅人や冒険者からお情けをもらって、それをみんなで分けて今まで生活していたらしい。育ち盛りの子供なのに


 辺りを見ると岩を積んで作ったカマドがある
 カマドの上には空気穴が空いていて火を起こしても問題なさそうだ


 俺は異空間から大量の食材と米を取り出して朝食の準備をする
 こんな事はいつまでも続けることはできないが、今日くらいはいいだろう
 俺は調理を始める。すると、音と匂いに釣られて全員起き出した


 「なあに? いい匂い」
 「ホントだぁ」


 子供達が俺に群がり始める。ちょっとまってろよ
 メニューは肉野菜炒めに胃に優しいお粥、あとはオレンジジュースだ
 20人となると大変なので【黃】の魔術で岩を出してカマドを増設して一気に調理する
 俺は料理が得意ではないが、このくらいの事ならできる


 テーブルもないので【灰】の魔術でテーブルを作り並べる
 そして全員でいただきますをして食べ始めた


 「おいしい!」
 「はぁ、あったかい」
 「こんなの初めて」


 うん、みんなには好評みたいだ。良かった
 エルルとクルルも俺の隣でしっぽをぱたぱたさせながら美味しそうに食べている
 イエーナは俺を見ると目を反らしてしまう。うーん、まだ駄目なのか




 美味しそうに食べている子供達とは正反対に、イエーナの表情は曇っていた




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 朝食と片付けが終わると、イエーナは外に出ていってしまう
 俺はそのあとを追おうとして


 「おにいさん」
 「おにいちゃん」


 犬耳姉妹に捕まってしまった


 「どうした?」
 「あの、今日はお休みの日なのでみんなここにいます。だからその、一緒に遊んでください」
 「おにいちゃん、一緒に遊んで!!」
 「うーん、参ったな」


 エルルとクルルの頭を撫でながら考える
 確かに周りを見ると本を読んだり、おもちゃで遊んだり、お腹いっぱいで再び眠くなったのか寝てる子もいる
 いないのはイエーナだけ
 うん。まず最初はこれだな


 「分かった、みんなで遊ぼう」
 「やったぁ」
 「おにいちゃん、ありがと!!」


 犬耳姉妹は俺に飛びついて喜んでいる
 でも俺は大切な事を付け加える


 「だから俺はイエーナを探してくる、そうしたらみんなで遊ぼう。だから少しお留守番しててくれ」


 俺の言うことを理解したのか、エルルとクルルは俺から離れてしっかりした顔で言う


 「分かった、イエーナおねえさんを連れてきてください。待ってます」
 「うん、お留守番してる」
 「よし、じゃあ行ってくる。お土産にお菓子買って来てやるからな」


 俺の言葉に子供達は大喜びだ




 さて、イエーナを探しに行きますか




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 さて、イエーナはどこに?


 ノーヒントじゃこの街を探すのはかなりキツイぞ
 すると、俺の隣にクロが現れた


 《久しぶりネ》
 「お前、今まで何してたんだよ」
 《まァいろいろとネ。アナタのコトはちゃんと見てたワヨ。フフ、街を変えるなんてなかなか立派なコト言うようになったジャない》
 「う、うるさいな。そんな事言う為に出て来たのかよ」
 《違うワヨ。あの女の子の場所知りたいんでショ? 案内するワ、こっちヨ》


 クロはそう言うとトコトコ歩いていく
 言いたい事はいろいろあるけど、まァ今はついていくか


 そのまましばらく歩いて街の中央……ちょうど城と城の間にやってきた
 改めて見てもデカイ。この城がある意味奴隷が軽視されるきっかけになったのかもしれない


 そんな事を考えながら更に歩いて行く
 すると、着いたのは街の入口の反対側だった


 この街の出入り口は3ヶ所ある
 俺が入ってきた南門、あとは東門と西門の3ヶ所だ。北門はない理由がこの建物だ


 〔旧ガルベイン家〕……古い洋館だ


 《アノ女の子はこの中ヨ》


 クロがそう言い俺は洋館を見回す
 周囲には人が誰もいない、避けられて居るような雰囲気だ
 壁を飛び越え中に入ると庭に出た
 元は立派な庭園だったのだろう。しかし今は雑草だらけでまるで山の中を歩いているような感じだ
 家の扉は壊れていて簡単に入ることが出来た
 中はホコリっぽく空気が淀んでいるが、建物自体はしっかりした作りになっていて手入れをすればまだまだ住めそうな感じだ


 気配を探るとイエーナは……いた、寝室だな




 俺は静かに寝室へ向かって歩き出した




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 「イエーナ」
 「……やっぱりあなたか」


 イエーナは、まるで俺が来ることが分かっていたかのように呟いた


 「私の事、どこで知ったの?」
 「それは……」
 「まぁ別にいいわ。それで、あなたの目的は何?」


 俺はここで俺の目的……2つの家の和解、そして奴隷制度の改革を説明する
 すると、イエーナは驚いていたが静かに言う


 「……無理よ」
 「な、なんでだよ!?」
 「パパもママも私の事なんて覚えてない。私よりも国を選んだのよ? 今更私が出ていっても、二人を混乱させるだけ」
 「そんなの、会ってみなくちゃ分かんないだろ。勝手に結末を予想すんな」
 「うるさい‼ せっかく……せっかく忘れられそうだったのに。あなたのせいで……」
 「イエーナ、お前」






 「ホントは会いたいんだろ?」






 「………」


 イエーナは、ポツリと語り出す


 「パパはカッコ良かった。騎士の鎧に大きな剣をぶら下げて、大きな手で私を肩車してくれた。頭を撫でてくれた……その感触は今でも覚えてる」


 「ママは優しかった。いつも笑って、美味しいお菓子を作ってくれて、温かいスープを作ってくれて……寒い夜は、私を抱きしめて一緒に寝たわ。ママの匂い、好きだった」


 「でも、私が8歳の時に私を孤児院に預けていなくなったわ。必ず迎えに来る、そう言い残して」


 「私はずっと待ってた、でも二人は会うどころか手紙すら寄越さなかった。12歳になってやっとわかったわ……捨てられたんだって」


 「そして奴隷商人に売られてこの街に来たの。私が売られたところが娼館で、2年間……体の成長を待って、14歳の時に初めてお客を取らされたわ」


 「でも私は怖くて逃げ出した。そこで皆に出会ったのよ」


 「その後に一度だけ、パパとママの顔を見に行ったの。領民のイベントでパパとママが姿を見せたの……そこで見たわ」


 「それぞれの領民に囲まれて、二人はとても嬉しそうに、幸せそうに笑ってた。あぁ、もう私の事なんて忘れている、本当に大事なのはここにいる人達なんだって。路上にいる奴隷の子供達なんてまるで見ていなかった」




 「だから決めたの。パパとママの事は忘れて、孤児のみんなと生きていくって」




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 イエーナはそこまで言うと、俯いて肩を震わせ始めた
 俺はどうしても聞きたいことがあった


 「なぁイエーナ、お前なんでここに来たんだ?」
 「え?」
 「ガルベイン……お前、知ってるのか? 二人の夢」
 「夢?」
 「お前の名前、イエーナ・ガルベイン……貴族でもないのに名字がある、なんでだ?」
 「それは、パパとママがそう呼んでたから、私に相応しいって」
 「お前の名前は、二人の夢なんだよ」
 「……どういうこと?」




 「いつか、2つの領地を1つに戻して本当のガルベインの町を作る。そしていつかお前と……パパとママの3人で暮らす町を作る。そんな願いをお前に託したんだ」




 「……ウソ」
 「その願いはまだ潰えていない。だってお前はまだ生きている、だったら……あの地下の子供の為に、理不尽な扱いを受けてる奴隷達の為に、戦ってほしい」




 「イエーナ・ガルベインとして、ナギットさんとジャスミンさんの夢を叶えてやってくれ」




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 俺は言いたい事は全て言った


 あとは、イエーナ次第だ
 するとイエーナは、俺を見て笑いだした


 「ふふふっ、不思議ね。あなたの言う事なんて確証もないし証拠もない。でも……信じられる」
 「イエーナ?」
 「戦う、か。考えた事も無かった……みんなの為に出来ること、あったんだ」
 「ああ。エルルとクルル、この街の孤児達、奴隷会館の人達だって救えるさ」
 「うん。私、もう一度パパとママに会ってみる。それで……お願いがあるの」
 「おう、俺に出来ることなら」
 「パパとママに会うとき、一緒について来て欲しいの」
 「ははっ。お安い御用だ‼ さあ帰ろう。みんなにお菓子買って行く約束したからな、買い物して帰るか」




 俺達はお菓子やおもちゃを大量に買って帰る事にした




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 帰ると同時に犬耳姉妹のタックルが俺を襲った


 「おかえりなさい!!」
 「おかえりおにいちゃん、おねえちゃん!!」
 「た、ただいま……ぐふっ」
 「ただいま、みんな」


 二人のタックルは俺のみぞおちにクリーンヒットして、俺は呼吸困難に陥る
 しかし、しっぽをぱたぱたさせながら俺にしがみつく姉妹を怒る気はサラサラない
 とりあえず頭を優しく撫でながら、みんなに聞こえるように言う


 「みんなにお土産あるぞ。お菓子とおもちゃだ、ケンカするなよー」


 そう言うと子供達が群がってくる
 よしよしケンカするなよ、いい子いい子


 イエーナもその光景を見て優しく微笑む




 「ねぇジュート、私……もう迷わないわ」




 その表情は今まで見た中で一番強く、美しかった


 

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