ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン③/愛の結晶・託した願い

 
 「んなぁぁぁぁぁ!?」


 俺の体はいきなり足場を失い、重力の赴くまま真下に落下していく
 そして、ドスンとソファーの上に落下した


 俺の目の前には優雅にソファーに座り紅茶を啜っている【戯神マレフィキウム】がいる
 彼女は指パッチンで俺の目の前に紅茶を出すとにっこり笑い言う


 「やぁ来たか。では早速話を始めるか」
 「おい」
 「ああ、心配するな。私は助言はしてやるが手は貸さん。お前がどういう風に動き、どんな決断をするか……それを見せて貰おう」
 「てめぇ……」
 「礼はいらん。完全に暇つぶしだからな」
 「……はぁ、もういいわ」


 俺はこのワープ方法についていろいろ言いたかったが、もう諦めることにした
 何かもうめんどい。でもこの科学少女いつかシメる




 「ふふん。取りあえず〔貴族都市ガルベイン〕についておさらいしようか」




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 「まず〔貴族都市ガルベイン〕は二つの貴族で成り立っている町だ。一つはエンダイブ家、もう一つはナルシス家。そして問題なのは何故この二つが争っているかだ」


 「事の始まりは約100年前。元々はこの町を治めていたのは1つの貴族だったのさ。それは〔ガルベイン家〕……この町の名前の由来でもある今は亡き貴族の名前だ」


 「ガルベイン家には当時、跡継ぎがいなかった。当時のガルベイン家当主が生まれつき種なしで、子孫を残すことが出来ない体だったのだ。そこで現れたのが当主の双子の兄弟である兄のエンダイブ、弟のナルシスだった」


 「もう分かるだろう? 揉めに揉めた。最初は兄弟の殴り合い同士で済んだのだがな、後に暗殺・毒殺などだんだんとエスカレートしていったのさ。そして弟が領主の館を出て行き、その反対側に巨大な城を建築した……当然兄も対抗して巨大な城を作り上げ、町そのものが二つに分かれた。コレが国が二つに分かれた理由だ」


 「ガルベイン家はそのまま滅び、町の名前だけが残った。そして今も争いは続いている……ここまでが町が別れた理由だ」


 なるほどな、くだらねぇ
 町の別れた理由はわかったけど、問題は奴隷のことだ


 「他の国と違って何で奴隷の扱いがひどいんだ?」
 「奴隷の扱いにもちゃんと理由がある。ふふ、誰かとこんなに会話をするなんてな……やっぱり楽しいな」
 「お前って……やっぱり淋しがり屋なんだな」




 「なななな!? やっぱりってなんだ!!」




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 「こほん。奴隷の扱いについてだな。なぁジュート……お前、あの城を見てどう思った?」
 「え? そりゃあ、赤や青の王都より立派だなぁって」
 「そう、立派過ぎるんだよ・・・・・・・・。あの規模の城はたかだか100年程度で完成しない。魔道具技術を入れても200年は掛かる建造物だ。ならあの規模を100年で完成させるにはどうする?」
 「……まさか!?」
 「そう、人手を増やせばいい・・・・・・・・・。1000人で100年掛かるなら、2000人で50年で作ればいい。そこでエンダイブとナルシスは奴隷狩りを行ったのさ」


 衝撃の事実。マジかよ


 「元々この二人はそんなに頭がよくなかった、だからこんな簡単に残酷な事もできたのさ。近隣の町から主に力のある獣人を攫い、魔道具の首輪を付けて無理矢理従わせ、女子供はストレスのはけ口として奴隷にされた。当時の犯罪者奴隷だけでは全く足りなかったのさ」


 「それから奴隷に対する認識が【黄の大陸】では甘くなったのさ。女子供は慰み者に、男は戦闘、鉱山などの力仕事に。それが普通になってしまっている」


 「更に問題なのはこの状況を〔王都イエローマルクト〕や他の貴族が見て見ぬフリをするしかないと言うことだ。エンダイブとナルシスはそれくらいの力を持ってしまい、王様でも介入することができないのさ」




 「そして、今に至ると言うわけさ」




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 「さて、ここで面白いことを教えてやろう……ふふん」






 「エンダイブ家現当主、ナギット・エンダイブ。34歳」
 「ナルシス家現当主、ジャスミン・ナルシス。34歳」






 「この二人の間にはなんと……子供がいるのさ」






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 「うそだろ!?」
 「まぁそう言いたくなる気持ちもわかる。しかし本当だ」


 いやだってねぇ、コレまでの話の流れでさぁ、二つの家は憎み合ってたんでしょ?
 なんでここで子供が出てくんの?


 「確かにエンダイブ・ナルシス両家は憎み合っているがそれは過去の話。今を生きる人間には関係ない話だ」


 「両家は憎み合っているが、全く交流が無いわけではない。ナギットとジャスミンが出会ったのは10歳の時だ。この時に両家のパーティーで顔を合わせた二人は意気投合して城を抜け出し、城の中でかくれんぼや鬼ごっこで遊んだ。それからは毎日城を抜け出してお互いの秘密の遊び場や秘密基地、お互いに贈り物をしたりしてたちまち恋仲になった。そして17歳の時に二人の思い出の秘密基地で一線を越えてジャスミンは子供を授かったのさ……いやー、アレは激しかった」
 「お前覗いてたのかよ!?」
 「もちろん子供のことなど言えるわけもない。ジャスミンは王都へ留学という名目で王都へ一時的に移住した。もちろんナギットも一緒だ。今思えばこのときが2人の一番幸せな時かもしれないな」


 1番の幸せ……ってことは、これ以上は上がらないってことか


 「ナギットは王都の騎士団へ入団して力を付けた。次期当主として相応しくなるために心と体を鍛えたのさ。家に帰ると妻と娘が迎えてくれる……アイツは本当に幸せそうだった」


 「ジャスミンも育児を賢明にこなした。自分の娘が乳を飲み、夜泣きし、おしめを替えろと泣き叫んでも、ジャスミンは幸せそうにこなした。疲れて帰ってくるナギットのために賢明に料理を覚えて家族のために頑張った」


 「それから8年が経った。ナギット・ジャスミンは25歳、子供は8歳に成長した。ナギットは騎士団で部隊長の地位まで上り詰めて人望・風格ともに立派になっていた。ジャスミンも子供を愛し、ナギットを愛し、立派な女になっていた」




 「そして、事件が起きたのさ」
 「事件……?」




 「ナルシス家時期当主が、暗殺されたのさ」




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 「マジかよ」
 「マジだ」




 「ナルシス家次期当主はジャスミンの兄だ。それが殺されたとなると跡継ぎはジャスミンしかいない。そして、ジャスミンの兄を殺害したのはエンダイブ家の人間だ」


 「それを知ったのは、病に苦しんで死にかけていたエンダイブ家の当主、ナギットの父親が死の直前に喋ったからさ。ナギットの父親はずっとナルシス家を憎んでいたから、せめて死の直前にこの憎しみをぶつけてやろうとな」


 「ナルシス家の当主はたいそう怒り、そのときに持病の発作でそのまま亡くなってしまった。後に残されたのは娘のジャスミンだけ……それはナギットも同じ」


 「二人が夫婦で、しかも子供もいるなんて〔貴族都市ガルベイン〕の人間は誰一人として知らなかった。国民達は二人の帰国を全員望んでいたのさ」


 「二人は同じ部屋で、二人に送られた手紙を見て悩んでいた。このまま3人でどこか遠くへ逃げようと本気で考えていた……でも、二人は国民を見捨てることが出来なかった」


 「二人は別々の道を歩むことを決意した。では子供はどうする?」


 「子供は仕方なく王都の孤児院へ預けられた。帰国の前日、二人は何度もお互いを求め合っていた。まるで自分の証を刻み込もうとしているようだった……」


 「二人は帰国して数日で当主となった。そして知ったのさ、お互いの家の関係がもう修復不可能だと言うことに」


 「それから数年は家の建て直しや政治関係の仕事で多忙を極めて、子供のことを確認する余裕も無かった……だから」






 「子供がすでに奴隷商人に売られてるとは、思ってもいなかったはずだ」




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 「………」
 「無反応か?」




 「このことを知ったのは当主となって7年後、32歳の時だ」


 「この時、ナギットとジャスミンは己を呪っていた。7年間、両家は断絶状態のままで一切の交流がなかったが、ナギットとジャスミンは未だにお互いを思い続けていた。しかし、今更どうしようもないと、この時本気で子供を諦めたのだ」




 「それから2年……今に至るワケだ」




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 「さて、これでわかっただろう? 二つの家を和解させる方法が」
 「二人の娘がカギか」
 「そう、現当主の娘を探し出して二人に合わせればいい。そしてお互いの和解を提案させるんだ。二人の娘という存在はとても大きい、国民はいずれわかってくれるはずだ。最初の一歩を踏み出して歩み寄らせればいい……先は長いかもしれないがな」
 「でも、娘ってどんな子だ? 流石にノーヒントじゃな」
 「ならヒントをあげよう」
 「ヒント?」




 「娘の名前はイエーナ・ガルベイン。名字は二人が町の名前から取った物だ」




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 「Oh……」
 「イエス!!」




 「ナギットとジャスミンの夢……それは両家の争いを終わらせ、町を一つの形に戻す。そして娘と共に3人で暮らす……そんな願いを込めて、娘にその名字を託したんだ」
 「そう、だったのか」


 「ナギットとジャスミンは、娘はもう死んだものと思っている。【黄の大陸】の奴隷の末路を知っているからな。だが娘が戻れば事情が変わる、きっと奴隷法律が変わるはずだ」


 そうか、希望が出てきたんだ


 「さあ、私の話は終わりだ。後はお前次第だぞ」


 いろいろわかった
 カギはイエーナ、アイツは今でも両親のこと覚えているのかな?
 とにかく行動あるのみだ


 「マレフィキウム、いろいろアリガトな!!」
 「うむ。私も楽しかったぞ」
 「淋しいときは連絡しろよ。また来てやるからな」
 「うるさい、余計なお世話だ!!」
 「ははは、そろそろいくわ……じゃあな」
 「ふん」




 「あ、そうだ。マレフィキウムって言いにくいから、マフィって呼ぶわ。じゃあなマフィ」
 「……へ?」




 俺はそのままワープして、再びイエーナ達の待つ地下へ戻っていった


 

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