ホントウの勇者

さとう

貴族都市ガルベイン②/エルルとクルル・神の提案



 あれからどれくらいたっただろう
 俺は中央街道のベンチの上で考えていた


 あの獣人集団は考えてみればおかしかった
 強盗ならあんなに怒りを露わにする必要がない
 それに集団での強盗ならもっと服装や装備に規則性があるが、あの集団にはそれが無かった


 「一度、ゴロンさんに話を聞くべきだな」




 俺は〔ゴロン奴隷会館〕へ向けて歩き出した




───────────────


───────────


───────






 「おおっ、ジュートさん!! いらっしゃいませ、どうぞこちらへ!!」


 俺は〔ゴロン奴隷会館〕へ来ていた
 ゴロンさんからいろいろ話を聞かなくては
 落ち着け、冷静になれ、聞くべき事全てを聞くんだ


 ドコで奴隷を手に入れてるのか?
 あの獣人集団は?
 違法性はあるのか?


 「いやはやお礼がまだでしたな、この通り私は奴隷商人でございます。よろしければお好きな奴隷を1つ差し上げたいと思うのですが、いかがですか?」


 落ち着け。この人にとってはコレが当たり前のことなんだろう
 とにかく話を聞いて情報を集めよう


 冷静に……ふぅ、よし




 「その前にゴロンさん、いろいろ聞かせて貰っていいですか?」




───────────────


───────────


───────






 奴隷とは親に売られたり犯罪などで捕まったりした人間・獣人が殆どだが、この大陸ではそれ以外でも奴隷を調達する方法がある


 それは近隣の集落や獣人の町などから攫ったり、親を殺害して子供を手に入れる事だ


 その依頼は冒険者ギルドで受けることが出来る
 報酬などもいいため、請け負う冒険者がかなりいる……ふざけるな
 当然そのままでは集落や町などでは子供がいなくなり、滅びてしまう可能性があるので、攫ってきた子供達や、若い獣人を孕ませて増やすことがあるらしい……クソが


 俺は、こんな奴の犯罪の片棒を担いでしまった


 あの獣人達はきっと、子供を取り返しに来たんだ
 俺は目の前のゴロンさんを見る
 この人は純粋に俺に感謝をしている。キラキラした目で、俺に礼をしようとしている
 この人にとってはコレが日常、当たり前のこと
 たとえこの奴隷館を潰しても、意味はきっと無い


 どうすればいいんだろう……俺は




 「さて、我が自慢の奴隷達をお見せしましょう。ささ、こちらへ」


 ゴロンさんは立ち上がり俺を案内する
 俺はおとなしく着いていくとひとつの部屋に着いた


 「こ、ここは……う」


 中を開けるとそこは奴隷達の部屋だった


 中には10代~20代前半くらいの女性が全員全裸で立たされていた
 しかし、その顔に羞恥心は無くあるのは諦め、絶望、虚無


 俺は一応17歳の男だ、人並みに女性に興味もあるし、実家にはそういう本やDVDなんかも有る
 目の前の光景は夢のような光景のはずだが、彼女達の自分を見る目があまりにも恐ろしかった


 ゴロンさんは女性をそれぞれ解説している
 獣人の女性……俺と同い年の人間の少女。まだ12歳の少女に10歳のしっぽの生えたネコ耳の女の子


 怖い……恐い……そんな目で見ないでくれ


 「気に入ったモノはございますかな? ここにいるのは全員処女でございます。当館が自信を持って販売している人気商品でございます」
 「いや、いいです。ゴロンさんが無事なのが一番の報酬ですから」


 俺は心にも無いことを言う
 早くここから逃げたかった


 「おお、ありがたいことを仰るが……それでは」
 「すみません、さよなら!!」


 俺は逃げ出した




 罪の意識に耐えられなくて、吐き気をこらえながら




───────────────


───────────


───────






 俺は奴隷館を出て走り出した


 ドコを走ったかはまったくわからない
 気がつくと路地裏のような場所に来ていた
 壁にもたれかかり汚い地面に腰を下ろす……すると


 「おにいさん、どうしたの?」


 そこにいたのはぼろ切れを纏った10歳くらいの少女だった
 髪はボサボサで伸び放題
 顔も汚れているし、栄養状態も悪く痩せている
 そして頭には耳が生えている。コレは……犬か?
 しっぽはふさふさの犬しっぽだ
 そんな少女が俺を見ていた


 「おにいさん、大丈夫?」
 「キミは……お母さんは?」
 「お母さん? わかんない」
 「お父さんは……?」
 「死んじゃった」
 「そう、か」
 「……おにいさん?」






 「どうして泣いてるの?」






 涙が、止まらなかった
 俺はこの世界の現実に、打ちのめされていた
 世界を救う。この世界を愛してる……でも、醜い現実を突きつけられて思ってしまったのだ


 この世界に、救う価値はあるのか?……と


 悪い人間はいる、犯罪者もいる、殺人者もいる
 そんな人間も……俺は救うのか?


 未来ある少年少女を食い物にするようなヤツらを守るため、俺は命がけで戦えるのか?
 【銃神ヴォルフガング】に誓ったのに、俺はどうすれば


 「おにいさん」
 「え?」


 少女が、うずくまる俺に抱きついてきた


 「お母さんがね、わたしが泣いてるときこうしてくれたの」
 「あ……」


 温かかった……優しいぬくもりが俺を包み込んだ


 こんな情けない俺を、慰めてくれている
 俺は無意識に少女に抱きついた
 少女も何も言わずに俺を包み込む




 少女のぬくもりに包まれて、俺はしばらくそのままでいた




───────────────


───────────


───────




 「ありがとう、落ち着いたよ」
 「うん!! よかった」
 「俺はジュート。キミは?」
 「わたしはエルル」


 俺は犬耳少女のエルルといろんな話をした


 この少女は元々ここから東にある獣人の集落に住んでいたが、父親が死んで母親だけでは子供を育てきれずに奴隷商人に売られてしまったらしい
 でもこの少女は奴隷商人から逃げ出し、この場所で仲間の少年少女達と暮らしている
 いつか帰れると信じて


 「ママに……会いたいな」


 この歳だ、母親に会いたくないはずがない
 この子は泣きもせずにぽつりと言う
 泣いたって仕方がない事をわかっている、そんな感じだ


 「おにいさん。わたしたちのおうちに来る?」
 「え?……いいのか?」
 「うん。おにいさん優しいから、みんな許してくれるよ」
 「……わかった。案内してくれ」
 「うん!! 行こう」


 俺は自然にエルルと手をつなぎ歩き出す




 繋いだぬくもりを、刻み込むように




───────────────


───────────


───────






 着いたのはマンホール、地下通路の入り口だった


 「ココなのか?」
 「うん。この下だよ」


 エルルはマンホールを開けて中に入っていく。俺も着いていく
 しばらく迷路を歩いていると、行き止まりに着く……すると


 「ここだよ、きをつけてね」


 行き止まりの壁の端の下が板で封鎖されている。その板を外しエルルは中に入っていった
 俺も着いていく……するとそこは


 「ただいま。みんな」
 「おかえりエル……っ!?」


 そこにいたのは獣人・人間の少年少女だった
 一番年上で俺と同じぐらい、一番年下でエルルぐらいの集まりだった


 数は約20人ほどで、この場所はかなり広かった
 本当の入り口はがっちり封鎖されてて窓はなく、周りは鉄筋コンクリートみたいな材質で出来ている
 周りには毛布やボロボロの本、壊れかけたオモチャなどが落ちていて生活感がある
 そして少年少女は俺の登場に怯え、恐怖の感情で埋め尽くされてる


 「みんな大丈夫、こわくないよ」
 「エルル、どうして!!」


 同い年くらいの女の子がエルルを問い詰める
 しかしエルルは優しく言うだけだ。大丈夫と
 そのまましばらく俺を放置して話し合いが進み、リーダー格の少女が俺を警戒しながら話しかけてくる


 「あなた、何が目的? ココはあなたみたいな人が来る場所じゃない。帰って、そしてこのことは忘れて頂戴」


 不思議と威厳や高潔さのある雰囲気を感じさせる少女に言われて、仕方なく帰ろうとする
 すると、視界の隅に気になる物が写った


 「ん?……おい、コレはヒドいな」


 寝たきりの獣人少女が、苦しそうに呻いていたのだ


 「クルル、しっかりして!!」
 「お、ねえ……ちゃん」


 それは、エルルの妹だった
 顔立ちはよく似ている8歳くらいの少女だ
 エルルが泣かない、頑張れる理由をここに見た気がする


 「おにいさん……?」
 「ちょ、ちょっとあなた!?」


 妹を抱きしめるエルルの頭を撫でながら、小さなエルルの妹を看る
 肩から胸にかけてぼろ布の包帯が巻いてある。怪我をしてそこがひどく化膿しているのがわかった
 こんな状態じゃもう長くないな、かわいそうに


 「今、治してやるからな」


 俺は、妹を抱きしめるエルルを優しく抱きしめながら、魔術を発動させる


 「【白】の上級魔術【無垢なる光セイファート・ライフ】」


 柔らかい光がエルルと妹を包み込む
 するとエルルの妹は目をぱっちり開けて起き上がり、ぼろ布を取り外して自分の体を見つめる
 そこには怪我ひとつ無い綺麗な体があった


 「おねえちゃん……治った!!」
 「クルル!! よかったぁ……あぁぁん!!」


 エルルとクルルを抱きしめて泣き出し、クルルも泣き出してしまう
 その光景を見てリーダー格の少女が俺を見て驚いていた


 「じょ、上級魔術師!? ウソ……!?」
 「他に怪我や病気の子はいるか?」


 そうすると他にも何人か体の不調を訴えた子供達が集まる。まとめて面倒見てやるぜ
 俺はついでに生活魔術で全員の体をキレイにしてやった
 あとは、食事かな


 「みんなお腹すいただろ? コレを食べて」


 取り出したのはガレナ特製のフルーツパン
 ついでにルーチェのために買った大量のジュースも出してみんなにあげる


 「美味しい!! ううう」
 「甘いね、おいしい」
 「こんなの初めて!! ひぐぅ」


 みんなお腹が空いていたのだろう、モグモグ食べている
 ガレナのパンはなくなってしまったがこれでいい
 すると、エルルとクルルが近づいてきた


 「おにいさん、ありがとう」
 「ありがとー!!」


 俺は二人の犬姉妹の頭を優しく撫でてやる
 この瞬間に俺は決めた




 この国を、変えてやる




 この子達が、明るい世界で生きていける国にしてやる
 この世界に奴隷は必要なのは間違いない。でも、こんな小さな子達がこんな暗いところで生きていかなくちゃいけないなんて間違ってる


 だったら、奴隷制度の仕組みを変えればいい
 そのためにはこの町を牛耳る貴族。エンダイブ家、ナルシス家……この二つの家をなんとかすればいい


 最悪、消えて貰えばいい
 でもそれだと替わりが出てくるだけか
 どうすればいい?


 「ね、ねぇ……ちょっと」
 「ん?」


 思考の海に溺れていた俺は、リーダー格の少女に気づかなかった
 その少女は言う


 「ごめんなさい。私、あなたのこと誤解してたわ」
 「ああいいよ、気にすんな」
 「でも」
 「いいって、それよりお前もちゃんと食べろよ」
 「う、うん。ありがとう」


 リーダー格の少女はパンをモグモグ食べる
 ふと俺は思った


 この少女は他の子供達とは何かが違う……何というか気品がある
 服こそボロボロだが、顔立ちは非常に整っている
 髪の毛は綺麗なブロンドで立ち振る舞いもしっかりしているし、言葉遣いもきっちりしている
 まるでどこかの貴族の少女みたいだ
 俺の視線に気づいた少女が思い出したかのように言う


 「自己紹介がまだだったわね。私はイエーナ・えっと……よ、よろしくね」
 「ああ、俺はジュートだ」


 何故か名前の後をためらったような自己紹介だった。まあいいか


 さてこれからどうするか


 「ん? な、なんだ!?」


 俺の右腕のバンド、【戯神マレフィキウム】から貰ったバンドが震え始めたのだ


 「どうしたの? 腕?」
 「あ、あーいや、その、なんでもない!!」
 「おにいさん?」
 「おにいちゃん?」


 イエーナだけでなくエルルとクルルも不思議がっている
 まるで俺は不審者じゃねえか!? どうしよう
 と、とりあえず一度出よう!!


 「ちょっ、ちょっとトイレに!! すぐ戻る!!」


 そう言い残し俺は穴から外に出る
 そしてバンドのボタンを押し込むと声が聞こえた


 『やあやあジュート、楽しいことになってるじゃないか』
 「おまっ、マレフィキウムか!?」
 『そうだが?』
 「そうだが? じゃねぇよ、驚かすなよ!!」
 『まぁいいじゃないか、そちらの様子は見ていたぞ』
 「なんだとぉ!?」
 『ふふん、私は面白そうな事には目を光らせ……っておいおい、バンドを破壊しようとするな!?』
 「………」
 『わかった、悪かったよ。でもいい話がある』
 「いい話?」
 『ああ。お前の事だ、どうせ国を変えてやろうとか考えているんだろう? その上でいい話がある。私の話を聞いておいて損は無いぞ? どーせお前はノープランなんだろう?』


 痛いところを突きやがる。確かにそうだけどよ


 『私の所に一度来い。バンドに魔力を通してイメージしろ、そうすれば移動できる』


 まぁ確かに他に考えはない
 仕方ない。行ってみるか


 俺はバンドに魔力を通し、科学少女を思い浮かべる




 すると地面に穴が開き、俺は落とし穴に落とされてしまった





「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く