ホントウの勇者

さとう

閑話 皆木颯賀・【槍神ラスタランケア】



 皆木颯賀みなぎそうが


 彼は今〔クローノス城〕の最下層にある施設、【神の箱庭サンクチュアリ】から帰還した


 【神の箱庭サンクチュアリ】の入り口は、一見すると普通の観音開きの立派なドアがそびえ立っているようにしか見えないが、そこを開けると開けた人間に相応しい専用の修行空間となっている


 初めは中で、自らの神と語り合い【神器ジンギ】を授かる。そして神器を使いこなすために神が試練を出すのだ
 その試練をクリアすると外に出れる。そして今度は【王ノ四牙フォーゲイザー】との戦闘訓練が始まるのだ


 皆木颯賀みなぎそうがは5度目の【神の箱庭サンクチュアリ】での修行を終えて城に帰還したばかり、そして彼を待っていたかのように一人の女性が現れた


 「お疲れ様、颯賀クン」
 「ロ、ローレライ様⁉」


 彼の前に現れたのは【歌神ローレライ】
 今では少なくなった神の一人だ


 年齢は20歳ほどにしか見えない
 紫色の露出の多いドレスを纏い、スタイルも抜群。髪は水色のブロンドヘアーで顔立ちは間違いなく絶世の美女


 そんな【王ノ四牙フォーゲイザー】の一人にして【魔神エルレイン・フォーリア】の抱える最強の4人のうちの一人が、皆木颯賀みなぎそうがを出迎えた


 彼は飛び上がるほどうれしかった
 クラスの男子は全員と言っていいほど、この妖艶な美女に心奪われていた
 そして【歌神ローレライ】は言う


 「フフ、また強くなったわね。頼もしいわ」
 「い、いえ。自分なんてまだまだです」
 「いいのよ、謙遜しなくても」
 「は、はい」


 彼はうれしいのだが声が出ていかない
 せっかくのチャンスなのに、彼はとても緊張していた
 なので、用件を聞くことにした


 「ロ、ローレライ様。えっと、何かご用でしょうか?」




 「ええ、実は······」




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 「第2陣が、全滅したわ·····」」
 「え、まさか······嘘ですよね?」
 「········」」


 その悲痛に満ちた表情は全てを物語っていた


 第一陣が全滅したときも、この美女はこんな顔をしていた
 仲間を、同じ神を失う辛さをこの美女は知っている
 そして、この美女にこんな顔をさせた最悪の神の名も彼は知っている


 「【銃神ヴォルフガング】か、アイツの仕業か···‼」
 「えぇそうよ、だからあなたに出撃命令を出すわ。行けるかしら?」
 「当たり前です!! アイツだけは、無月だけは許さない!!」
 「ええ。【銃神ヴォルフガング】は【黄の大陸ポアロイエロー】に向かったと言われてるわ。あなたは高名氷寒たかなひょうかちゃんと鳴戸括利めいとくくりちゃんの3人で【黄の大陸】へ向かい、そこで【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】のナンバーⅪ・只野槌男ただのつちおクンと合流して【銃神ヴォルフガング】を始末する。それが第3陣のあなた達の任務よ」


 第3陣


 ここまででやられた〔神の器〕は7人
 完全に【神器ジンギ】を破壊されたのは5人
 決して少なくない数だ


 【神器ジンギ】を破壊されると神の力が一時的に使えなくなる
 魔術は使えるらしいがそれではあまり意味が無い
 破壊された5人は【神の箱庭サンクチュアリ】で治療・療養を余儀なくされている
 さぞ悔しいだろう、と彼は思った


 彼は決して【銃神ヴォルフガング】を軽視しない


 4人の〔神の器〕が合わさればきっとヤツを始末できる
 彼の目の前にいる【歌神ローレライ】の悲しげな顔はもう見たくなかった


 「ローレライ様、安心して下さい。【銃神ヴォルフガング】は僕たちが······いや、僕が必ず倒します!! エルレイン様の······あなたのために!!」
 「颯賀クン······」


 彼は勇気を出して言う
 恥ずかしかったが言いたいことは言った
 そう思い、出撃の準備をするために自室に戻りチームの2人に連絡をとろうとこの場から出ようとした


 「待って、颯賀クン」
 「は、はい?」
 「あなたに【歌】を歌いたいの······私の部屋に来て?」
 「······ッ⁉」


 彼に断る、という選択はなかった




 「は、はいッ‼」




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 皆木颯賀みなぎそうがは豪華なベッドの上で目を覚ました


 彼は全裸だ。隣にいる美女も全裸で寝息を立てている
 昨夜はこの美女が彼のために歌を歌い、彼を勇気づけるために一夜を過ごした


 彼は何度も美女を求めた
 とても甘く、とても優しく


 そして彼は立ち上がり、騎士服に着替え振り返らずに部屋を出る


 その様子を、美女は妖艶な顔で見つめていた




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 彼は〔クローノス城〕のホールに向かい歩き出す
 すると2人の少女が彼を待っていた


 一人目は高名氷寒たかなひょうか
 ショートポニーテールのスレンダーな美少女で、部活は確かテニス部だったはずだ
 瞳が少しつり上がっていてキツめの印象を与え冷徹な雰囲気を纏っていた


 二人目は鳴戸括利めいとくくり
 髪型は左右のお団子ヘアの少女で、ガムを噛みながら彼を見ている
 この少女はあまりいい噂を聞かない不良グループの一人でもあった
 すると彼女がニヤニヤしながら言う


 「フンフン、皆木~アンタさぁ······ヤッたでしょ?」
 「なななっ⁉ 見てたのかっ!!」
 「······エ、まじで?」
 「お、おまえっ······引っかけたなぁ⁉」


 鳴戸括利めいとくくりはニヤニヤしながらガムを膨らませる
 面白そうなオモチャをいじるように彼をからかって遊んでいると、高名氷寒たかなひょうかが冷たく言う


 「······行くわよ」


 それだけで二人はピタッと話をやめ彼女を見る
 そして鳴戸括利めいとくくりが面白そうに言う


 「は~い。それにしてもメンドいなぁ、〔門〕を使って一瞬で行けるのにワザワザ船で行くなんて~」
 「仕方ないだろ、〔門〕は緊急でしか使用は許可されてないんだから」
 「わかってる~」
 「······早く行きましょう。只野槌男ただのつちお君が【黄の大陸】で待っているわ。そして【銃神ヴォルフガング】の討伐······やるわよ」
 「うん」
 「は~い」


 3人は気を引き締めて船に向かい歩き出す
 すると鳴戸括利めいとくくりが意地悪そうな口調で高名氷寒たかなひょうかに言う


 「あのさ~、ひょうかちゃ~ん?」
 「······なに?」






 「体の痛みは大・・・・・・丈夫なの?・・・・・






 「······ええ、平気よ」


 彼は最近聞いた不思議な話を思い出した


 女子生徒が何人も原因不明の体の痛みを訴えたと言う話だ


 一部では【銃神ヴォルフガング】の呪いと言われていて、原因がわからないらしい
 肉体的にも精神的にも異常は見つからず、全員の共通点が無月銃斗の話をしていたと言うことだけがわかっている


 「大丈夫だよ。無月を始末すればきっと治るさ」
 「そ~そ~、気楽にいこ」
 「······ええ、そうね」


 何故か悲しそうに微笑む彼女に、彼は不安を覚えた




 彼らは【黄の大陸】に向け、出発する





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