ホントウの勇者

さとう

魔術都市ウィルエンデ②/届いた手紙・届く想い



 マズい
 目が合った俺は瞬間的に回れ右をした


 クレアは俺が〔神の器〕だって事をたぶん知ってる
 リアさんに俺の事情を全部話したし……もし騒がれたらこの町にいられない


 仕方ない、今は逃げよう


 そう考えてさりげなくその場から去る
 すると後ろからクレアが声を掛けてきた


 「ジュート、ジュートでしょう!? 待って、話があるの!!」


 その声に懐かしさを感じ、警戒しながら振り向く
 するとクレアは……泣いていた


 「ああ、やっぱりジュート……逢いたかったわ」
 「クレア……久しぶり」


 俺はそう返すのが精一杯だった
 自分の正体が知られているかもしれない不安、リアさんの最後に見せた恐怖、クラスメイト達の豹変……その全てが頭の中で混ざり、声が出なかった


 俺はクレアを観察する
 クレアは〔ウィルエンデ魔術学園〕の生徒達と同じ服を着ている
 黒いブレザーに黒いミニスカート、白いワイシャツに赤いリボン、そして黒のローブに黒い魔女帽子。手には分厚い本を持っている


 クレアは俺の視線に気づいたのか、顔を赤くして体を隠すようなそぶりをする


 「あんまり見ないでよ、只の制服よ?」
 「あ、いやその、ゴメン!!」
 「ふふっ、まあいいわ。話したいことが沢山あるの、時間ある?」
 「うん。俺も聞きたいこと、言いたいことがある」




 話だけでもキチンとしないとな




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 俺とクレアは町からやや離れたところのある1件の民家にやって来た
 何の変哲も無い普通の2階建て住居。するとクレアが言う


 「私の家よ、研究室も兼ねているけどね。さ、どうぞ」
 「お、おじゃましまーす」


 女の子の家に上がるなんて小学校以来か?
 確かあのときはクラスの女子の誕生日会でみんな招かれたときだっけ
 うおぉぉ、緊張してきた


 「今お茶を入れるわ」
 「は、はいお構いなく」


 なんとなく敬語になってしまう
 俺の緊張を察したのかクレアはふっと笑いキッチンに消えていった
 そのまま10分も立たずに、ティーポットにお菓子とお茶を乗せて帰ってきた


 「私が煎じた薬草茶よ。お口に合うといいけれど」


 俺はお茶を啜る
 味はハッカみたいなシナモンみたいな……なんとも言えないがマズくは無い。むしろウマかった
 お茶受けのクッキーも薬草みたいな味がしておいしかった
 そしてお茶を堪能し、ここでやっと本題に入る


 「いろいろ聞きたいことがあるけど最初に聞くわね。ジュート、あなたは〔神の器〕なの?」
 「………そうだ」


 俺はクレアに事情を全て話した
 異世界召喚のこと、クラスメイトのこと、40人の〔神の器〕のこと、【魔神軍】のこと
 クレアは黙って聞いていた


 「そうだったのね。あなたが複数属性を扱えるのも、上級魔術を扱えるのも、全部あなたが〔神の器〕なら筋が通るわね」
 「だましててゴメン。なぁクレア……」


 俺は聞かずにはいられなかった


 「俺が怖いか? 俺が憎いか?……俺をどうしたい?」


 するとクレアは顔を上げて俺を睨み付ける
 そして怒りを込めて語り出した


 その言葉は、憎しみの言葉では無かった




 「バカにしないで頂戴。命を2度も救ってくれたあなたが怖い? あんなに楽しい時間を一緒に過ごしたあなたを憎む? そんなこと思うわけ無いでしょう」


 クレアの怒りが、俺の心に染み渡る


 「私は、ううん……私やメリッサやアリンはあなたに感謝してるわ。〔神の器〕に殺されかけて、あなたが助けてくれて本当にうれしかった!! あなたがいなくなったあとにメリッサやアリンはあなたを追おうとしたのよ。でも……」


 クレアは辛そうに、嬉しそうに語る




 「あなたが最後に夢を叶えろって、その言葉を支えにして頑張ってる」




 クレアは泣きながらそこまで言うと立ち上がり、戸棚から何かを取り出す
 そしてそれを俺に渡してきた


 「これは……手紙?」
 「あなたはこの〔魔術都市ウィルエンデ〕に行くって言っていたから。あなたに会ったら渡してって頼まれたの。やっと渡せたわ」




 それは、メリッサとアリンの手紙だった




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 ジュートさんへ


 こんな手紙で申し訳ありません。きちんと直接言えたらよかったんですけれども
 戦いが終わったあと、リアさんからあなたが〔神の器〕だ、と言うことを聞きました
 その言葉を聞いて私、納得しました。だからジュートさんは強いんだって……恐怖よりもむしろ誇らしかったです
 強くて、優しくて、かっこよくて……そんなジュートさんが大好きです
 あのモンスター達を率いていた〔神の器〕に殺されかけて、助けてほしいのに声が出なくて、意識はほとんどありませんでしたけど覚えてます
 ジュートさんの闘う姿を、ピンチの時に現れる、ホントウの勇者の姿を私は生涯忘れません
 本当は全てを投げ出してあなたの側に行きたいです。でもあなたがくれた最後の言葉…「夢を叶えろ」そんなことを言われたら頑張るしかないじゃ無いですか
 私は今、騎士の試験に合格し、一番下っ端の見習い騎士として父に毎日しごかれています
 毎日つらくて、泣きたくなる日もありますけれどその度にジュートさんの言葉を思い出します
 「夢を叶えろ」……その言葉だけで私は前に進めます。ジュートさんがどんな重い使命を背負ってるかわかりません。でも、私はずっとジュートさんを応援しています


 私の想いはいつもあなたの側に
 いつかまた笑顔で会える日を信じています。




 愛を込めて─────メリッサより




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 ジュートへ


 こんな手紙でゴメンね?
 伝えたいこといっぱいあるけど。まずは……助けてくれてありがとね
 わたしはジュートが〔神の器〕だろうが何だろうがジュートの事大好きだよ!! わたし、ヘビに締め付けられて、殺されかけて怖かった
 でもジュートが助けてくれた、それだけで怖いの全部吹っ飛んじゃった!! やっぱりジュートはこの世界のホントウの勇者なんだって思ってる
 わたしは今〔喫茶プフランフェ〕の看板娘として頑張ってます!! お母さんから料理も教わって、デザートの何品かはわたしが作ってるんだよ。ジュートにも食べてもらいたいなぁ
 またみんなでごはんたべたいね、メリッサ、クレア、ジュート、わたし……いつかきっと会えるよね
 また会える日までわたし、もっと頑張るから!! 大好きなジュートが言ってくれた言葉……「夢を叶えろ」……絶対忘れないから


 ありがとねジュート……あいしてる




 大好きなジュートへ──────アリンより 




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 視界がぼやける
 なんだこの手紙……濡れてるぞ?
 ああ違う。俺が泣いてるんだ
 メリッサとアリンの思いが俺の体に染みこんでいくみたいだ


 するとクレアが近寄り、泣きながら俺を優しく抱きしめる


 「あなたは一人じゃ無いわ。私たちがいる」
 「うん……うん」










 俺はクレアのぬくもりに包まれた……そして














 「たっだいまーっ!! おねえちゃ………ん!?」














 ミレアの帰宅に鉢合わせたのだった




 

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