ホントウの勇者

さとう

人魚の町セレーヤ/講演会・大宴会



 俺が目を開けるとそこは町だった


 あれ。普通に呼吸出来るし体も濡れてない……どうなってんだ?
 すると隣にいたルーチェが嬉しそうに俺に言う


 《とーちゃーく!! ここが〔人魚の町セレーヤ〕だよ。人間で来るのはジュートが初めてかも》
 「そ、そうなのか……光栄だな」


 そう言って俺は辺りを見回す
 町は空気のドームみたいなので覆われてて普通と変わらない。あれも魔術かな
 今いる場所は町の入口で町が見渡せる。家の形は岩をくり貫いて作ったドーム型の住居で、草木の代わりに珊瑚みたいなのが生えている
 辺り一面湖なので景色は青一色だ、地面は砂浜みたいでちょっと歩きにくい


 俺は町の中へ歩き出す……すると魔術が飛んで来た


 「おわッ!?」
 

 飛んで来たのは──【青】の初級魔術【水針アクアニードル】が3本
 狙いは俺。ある程度の警戒心は持っていたので問題なく対処できる
 

 俺は両手にナイフ抜き迫り来る【水針アクアニードル】を全て切り払う
 ナイフを構えたまま周囲を警戒する……よく見たら町なのに誰もいない
 すると頭上で声が聞こえた


 「人間……貴様、この町にどうやって侵入した。不届き者め、ここで始末する!!」


 上空では人魚? の男の人たちが10人ほど俺に向かい敵意を露わにしている
 そして10人全員に魔力が帯び始める……するとルーチェが叫んだ


 《こらー!! いい加減にしなさーい!!》


 すると、人魚の男性陣は全員慌てだした


 「ル、ルーチェミーア様!? その人間からお離れください、その者はこの人魚の町に災いをもたらす人間に違いありません。ここで始末します!!」


 ひどい嫌われようだ。俺何にもしてないのに
 っていうかこの幼女人魚め、一緒で全然大丈夫じゃないじゃん。いきなり魔術けしかけられたぞ


 《ジュートは大丈夫なの!! わたしの大事な人なの!! む~、これ以上やるんならわたしが相手になるからね!!》
 「ハハッ!! 申し訳ございません!!」


 ルーチェがそう言うと10人くらいの男人魚は一斉降りてきて頭を下げる
 そして俺に視線を移して喋り始めた


 「ルーチェミーア様の客人とは知らずに無礼を致した。誠に申し訳ない」
 「いや気にしないでください。あなたたちは正しいことをしたんです、いきなり人間が現れれば、誰だって同じ事をしますよ」


 俺がそう言うと男人魚軍団のリーダー格が俺に挨拶してきた


 「ありがとうございます。私の名前はユニック、この町の警備隊のリーダーを務めています。どうぞよろしくお願いいたします」
 「俺はジュートです。えーと、旅人です」


 やべぇ、こんな挨拶ねぇだろーが
 なんだよ旅人って……こんな湖底でよ


 「ほほぅ……旅人でございますか。よろしければお話を聞かせていただけませんか? 我ら人魚族は表の世界に触れる機会が全くないので、娯楽に飢えているところがあるのです」


 なんか大丈夫だった……よかった


 「は、はい…俺でよければ。つまらない話かもしれませんが」
 「ははは、ご謙遜を。それでは準備をして参りますので、こちらの住居でしばらくお休み下さい。準備が出来たらお呼びしますので」
 「えっと、はい。わかりました」


 そして俺たちはすぐ近くの家で休むことにした
 家の中に入るとテーブルやイスなどはあるがベッドは無い
 代わりにハンモックのようなものが吊されている。これがベッドの代わりなのか?


 するとルーチェがクロを抱っこしてハンモックに連れて行き、そのまま昼寝を始めてしまった
 クロは何も言わずにされるがままだが、その表情はなんとなく優しく見える
 きっと過去にもこういうことが何度もあったのだろう。すると頭の中で声が聞こえる


 《ルーチェミーアとティルミファエルはクロシェットブルムが大好きでなぁ、よく3人で昼寝してたぜ。クロシェットブルムは最初イヤがるんだけどよぉ、結局は2人に流されちまうんだ。ヴォルもたまに一緒に昼寝してたぜ》


 アグニは酒を飲みながら語る。ティルミファエルってのは誰だか知らないけど
 まぁきっと【九創世獣ナインス・ビスト】だろうな




 俺はクロとルーチェを眺めながら、静かに待っていた




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 人魚族は下半身が魚になっている種族


 呼吸はエラ呼吸と肺呼吸両方に対応しており、基本的には肺呼吸が一般的である
 水中での移動速度はかなり速いし、武器や魔術も扱う。しかも人魚族は大人も子供も全員中級魔術師レベルの魔術を扱い、強い人魚は上級魔術師レベル。そして魔術属性は全員【青】で固定されている
 人魚が扱う武器は基本的にはヤリ…と言うかモリで、その素早い動きで水中で狩りをするための武器であり、基本は魔術で闘うのだ


 人魚の男は下半身の部分に背びれがあり、尾びれは強靱に鍛えられていて、上半身も見事に鍛えられている
 強靱な肉体は、狩りなどするには欠かせないからだ


 女性人魚は逆にしなやかな下半身をしている
 流麗なラインと金魚のような美しい尾びれは、男性人魚を虜にする
 上半身は人間女性と同じで豊かなバストとくびれた腰は見る者を惑わせる
 女性人魚は共通して歌が得意で、人魚の町の祭りなどでその美声が響き渡る


 人魚族とはそのような一族だ


 その人魚族の町〔人魚の町セレーヤ〕には、一番大きく立派な建物がある
 祭りや歌の稽古で使う、この町の人魚族全員が入る講堂にこの町の人魚の住人全てが集まっていた




 無月銃斗の冒険の話を聞くために




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 「なんっなんだよこの状況はぁぁぁッ!?」


 よく考えたら話を聞くのに準備するっておかしいと思ったぜ
 ユニックの野郎……この町の人魚全員集めやがった


 俺はマジで頭を抱えていた
 確かに娯楽がほしいとかほざいてやがったけどおかしいだろコレ……!!
 講堂はかなり広く高校の体育館の2倍以上はある。壇上にはイスとサイドテーブル、あと魔道具マイクに水差しが用意されてるし


 「ん? 何だあれ……垂れ幕?」


 なになに「お題・冒険者ジュート・その軌跡」……あの腐れ人魚、ぶっ殺す


 俺が葛藤しているとルーチェがクロを抱っこしたままふよふよ飛んできた


 《なんか面白そう。ジュート頑張ってね!!》
 《……同情するワ》


 俺の味方はクロだけだ
 そんなことを考えていたらユニックがやって来た……こいつ殺す!!


 「ささジュート殿!! 準備が出来たのでよろしくお願いします!!」


 俺は聞かずにはいられなかった


 「あの……これ、どういうことなんですか? なんでこんなに人魚族の人たちが集まってんですか?」
 「ああ、実は町の住人にジュート殿はルーチェミーア様の客人だから心配することはない。ということを広めていたら、是非冒険の話を聞きたいと住人全員が言いましてなぁ。ならばと言うことで急遽この催し物を開かせて頂きました」
 「そ、そうですか……」


 ここでやらない、なんて空気の読めない事は異世界でも流石にできない
 覚悟を決めるしかないか……なんでこんな講演会みたいなことを


 俺は意を決して壇上に出る……すると、地響きみたいな大歓声が上がった
 男人魚は全員ムキムキの筋肉人魚ばっかりだし、女性人魚はスタイル抜群の人魚ばっかりだ
 よく見ると子供もいる……ルーチェみたいな幼女や同い年ぐらいの女の子、少年人魚や青年人魚など様々な人魚がざっと1000、2000……とにかくいる
 よく見ると酒盛りしてる奴もいるし、食べ物なんかも沢山準備されていた
 よし。まずはあいさつかな


 『みなさんこんにちは、冒険者のジュートです』


 「「「「ウオオオオオォォォォォォォッ!!」」」」


 大歓声……女性は矯正まで上げている
 なにこれアイドルかよ? 俺まだこの町に来て3時間くらいなんだけど


 『えー本日は、俺の……いや、僕の冒険の話をさせて頂きます」


 「「「「ウオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!」」」


 何だろう、すごくのどが渇いた


 「ふぅ……水」






 俺は水差しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干した




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 「あれ、ここは……?」




 気がつくと外にいた
 講堂の外は広場になっていてこの町の祭りのメイン会場でもある
 俺は何故かそこで寝ていた……っていうかなんじゃこりゃ


 辺りは人魚達が男女構わず寝ている
 しかも酒臭い……あの講堂にいた人魚が全て酔いつぶれてんのか?
 よく見ると男人魚はボロボロのやつが結構いるし、女人魚は上半身裸の奴もいた
 するとルーチェがクロを抱っこしたまま飛んできた


 《昨日は盛り上がったねー、ジュートすごいかっこよかったよー!!》
 《………》
 「な、なぁ……俺は昨日何したんだ? 挨拶辺りから記憶が全くないんだが」
 《昨日の水差しには水ジャなくてお酒がはいっていたのヨ。それを飲んでからアナタは話をしてたワネ。メリッサ達との出会いや、武具大会のコトを実演付きでネ。もう大盛り上がりヨ……この町のお酒全て飲み尽くすし、アナタやユニックは大暴れするし。アグニードラもちゃっかり一緒にお酒飲んでたワ》
 「………マジかよ?」
 《楽しかったねジュート!!》
 「なぁ、もう出発しようぜ……みんな起きると面倒だ」
 《……そうネ》
 《もう行くの? じゃあ出発しよっか!!》






 その場でルーチェが魔術を使うと俺たちの体は青い紋章に包まれた






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 「あれ、そういえば俺たち何しに来たんだっけ?」




















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 その後〔人魚の町セレーヤ〕では『英雄ジュートの冒険』という芝居が大流行する
 ジュートをモチーフにしたオリジナルの冒険譚や芝居などが数多く作られ、これからの世代の人魚に伝えていく






 無月銃斗は知らない






 彼の銅像が、町の中央に飾られていることを





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