ホントウの勇者

さとう

閑話 久薙縄真毟・【蛇神ドラトシュランゲ】

 
 久薙縄くちなわ 真毟まむし


 彼女は軽度の対人恐怖症
 特に男子生徒は恐怖の対象だった


 特に何かをされたわけでも無く、ただ怖い……理由はそれだけ


 もともと引っ込み思案で誰かと関わることが苦手な彼女は、あまり喋らないおとなしい子、という扱いでクラスになじめずにいた


 学校行事で個人の役割を決めるときは余った役割ばかりだったし、意見を求められれば硬直してしまうことはしょっちゅう
 そんな彼女は自分が嫌いだった


 身長やスタイルは一般的な高校生とおんなじくらい、太ってもなければ痩せてるわけでもない
 顔は無個性な地味顔と言われたこともある、髪型はクセっ毛のショートヘアー


 クラスの男子生徒とすらまともに会話できないし、女子も威圧感のある怖い人とは喋りづらい
 そんな彼女は本ばかり読んでいた


 休日も家で読書をし、図書館や本屋などは人に会う可能性があるから避けて、母親やネットショップで本を買い読む毎日


 読むだけでは飽き足らず自分で書くこともあった
 小説などでは無く思いついた言葉を並べる、詩のような文章を毎日書いていた


 毎日学校へ行って授業を受けて帰宅する
 そんな彼女の毎日は高校二年生になっても変わらなかった。いや、1つだけ変わった


「おはよう。久薙縄くちなわさん」


 無月銃斗が朝の挨拶をしてくることぐらい、しかし彼女は


「……はよ」


 と小鳥の囀りのような挨拶しか返せない
 彼は特に気にした風でも無く、男子生徒と一緒に歩いて行く


 その挨拶さえ終われば彼女の日常はこれまでと同じだった




 異世界に召還されるまでは




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 彼女が無月銃斗に対して思う所は全くない


 なのに、何故か憎しみだけが残っていた
 まるで自分のモノでは無く、自分の中の神、【蛇神ドラトシュランゲ】の深い憎しみが移ってしまったかのような、どこからか借りてきたような憎しみ……彼女はそう思っていた


 異世界での暮らしは楽しかった
 彼女が思い描いていた夢の世界、小説のような世界そのもの
 初めて魔術を使った時は、あまりのうれしさに名前も知らない男子生徒の手を握ってしまった


 自分の属性は【黄】・【灰】・【時】の3つ、魔術を扱うのはとても好きだったので鍛錬を重ねた
 そして彼女は自分だけの属性、【黄】・【灰】・【時】の3種の融合魔術【固有属性エンチャントスキル】『這蛇スリザリン』を使えるようになっていた


 そして【神の箱庭サンクチュアリ】での厳しい修行を終えて【神器ジンギ】を覚醒
 今、3人のチームメイトと共に【赤の大陸グランドレッド】にいる
 魔導車に乗り〔王都レッドキングダム〕の視察を終えた……彼女は思う


 「平和な町だった……本当にエルレイン様の脅威になる所なのかな?」


 【銃神】を憎んでこそいるが、彼女は基本優しかった


 「そういえば昨日、ナーカティックさんの薬…飲んでないや。帰ったら飲まないと」


 彼女達〔神の器〕は【薬神ナーカティック】の煎じる薬を週に1度飲まなければいけない
 そのことを誰も疑問に思ってはいなかった


 彼女のチームメイト、達俣土丸たつまたつちまる毒嶋得巳ぶすじまどくみは楽しそうに言う


 「さて、偵察も終わったし可能なら第一アタックって事だけど。いつやる・・・・?」


 彼女は驚き達俣土丸を見る
 すると魔導車を運転してる少女が


 「そうね……フフッ、こっちも数をそろえましょう。フヒッ…城からモンスターを呼び寄せてある程度の部隊を作って町を襲わせましょう、たぶん冒険者・傭兵・魔術師の部隊が出てくるから。あとは早いモノ勝ちで狩りをしましょう……フフッ」
 「いいねぇそうしよう。モンスターの相手ばっかじゃつまんないからね……僕の【神器・ヴューレン】も強い奴と戦わせたいからね」
 「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
 「なに?……文句あんの……?」
 「ふふっ……せっかくなんだからアナタもタノシまないと……ね?」


 二人にそう言われ体が硬直する
 まるで蛇に睨まれた蛙のように


 「ッつ……!?」


 彼女は頭を押さえる
 薬を飲み忘れたせいで痛みが出てきたのだ


 「まさか、薬を飲んでないのか!? さっさと飲めよこのバカ!!」
 「ナーカティックさんの言いつけを破るなんて……このクズ!!」


 二人の罵声が響き魔導車が止まる
 毒嶋得巳が懐からカプセルのようなモノを取り出し、彼女の口の中に無理矢理入れる


 「ご、めん…な……さい」


 二人に謝る……すると体が楽になり頭も冴えてきた


 「ごめんなさい二人とも、つい忘れてて……その代わり、モンスターの部隊・・・・・・・・は私が作るから・・・・・・・
 「ったく……気をつけろよ!!」
 「全く。私たちは仲間なんだから……フフッ」
 「うん。ありがとう」




 彼女達の戦いが、始まろうとしていた







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コメント

  • ノベルバユーザー333647

    久薙縄さん、神の意思と自己の分別があるなぁ。
    最初に仲間になるクラスメイトになったら心強い。

    0
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