ホントウの勇者

さとう

王都レッドキングダム⑥/燃えるように凍てつく・凍り付くような熱さ

 
 やっと一回戦が全て終わった
 他の選手の試合を見たが、正直負ける気がしない
 はあ、優勝候補の2人もたいしたことなかったな


 大剣のウェガは確かにパワーがあるしあの体格の割りにはスピードもある
 でも、それだけだ。魔術を使うわけでもないし体術も使うわけでは無い、剣だけなのだ


 風のフウはまあそこそこ早いし連続攻撃も早い
 でも剣のパターンは一定で決まった型をなぞって攻撃している
 コイツも剣だけだ、あんなに早く動けるのに何で剣だけの攻撃なんだろう?


 まあ手を隠していると言う考えもあるが……考えても仕方ない
 俺は最速で試合を終わらせるだけだ……するとアグニが言う


 《さっきの試合はなかなかよかったぜ、心は燃えていたが動きは氷のように冷徹だった。最初の緊張が嘘みたいだな、前から思っていたがお前戦いになると性格ががらりと変わるな……そういう性格なのか?》


 まあ確かに、初めてゴブリンと戦った時もそうだった
 命が掛かっていたのに、何故か冷静に物事を判断できた
 でも、メリッサ達が大蜘蛛に襲われてたときはけっこう熱い感じで戦ってたな?
 時と場合で変わるのか?……まぁいいや


 「ふぅ、次の試合まで時間があるな。露店もけっこう出てるし、なんか軽く食べるか」


 俺は大広間に行くと辺りを見回す
 やっぱりけっこう露店が出てるな。果物を混ぜて絞ったジュースや、肉を焼いてるところもあるし、フードコートみたいなところもある
 俺は焼いた肉をパンに挟んだものと果物ジュースを買うと外に出た。外は日差しが強く試合中だからか人はほとんどいない
 俺は近くのベンチに腰を下ろしてパンを齧った
 なかなか美味いな………ん?


 「…………」
 「…………」


 女の子が俺をじっと見つめていた……っていうか何でこんな所に?
 俺を見つめる真っ赤な視線、【赤の特級魔術師・ルビーラ】がここにいた


 その子は俺のパンををじっと見てる。すると、きゅぅぅっとかわいい音がした


 「……っ!?」


 あ、顔真っ赤になった。かわいい


 「……食べるか?」
 「っ!!」


 うわーめっちゃうれしそう……超笑顔だ
 ルビーラは俺の隣に座り、パンをもぐもぐ食べている
 そんなに大きくなかったのですぐに食べ終り、ついでにジュースを渡す
 すると一瞬で全部飲んだ……するとルビーラは俺をじっと見つめていた


 「……ありがと」


 そういえばこの子、なんでこんな所にいるんだろう?


 「なあ、君は【特級魔術師】だろ? なんでこんな所にいるんだ?」


 と、俺が聞くとルビーラはつまらなそうに言う


 「……ヒマ」


 ぽつりとつぶやいた
 なんかカワイかったので頭を優しくなでるとルビーラは


 「……えへへ」


 うれしそうにはにかんだ
 なにこのカワイイ生物……持って帰りたい。するとルビーラは言う


 「……おれい、する」
 「お礼?別にいいよ、お腹いっぱいになったか?」


 ルビーラは納得がいかないのか俺の服の袖を掴み、チョット悲しそうな顔で言う


 「………おれい」
 「わ、わかった。じゃあ……俺が困った時に助けてくれるか?」
 「こまったとき?」
 「ああ、モンスターがいっぱい出たときとか、町が大変なときとか。そんなとき助けてくれ」


 この子は【特級魔術士】だし戦闘能力はかなりのモノだろう。念のための保険だ
 っていうか俺はこんなに小さな少女に俺は何を言ってるんだろう。するとルビーラは


 「わかった」
 「ああ、頼むぞ」


 そうして立ち上がり再びドームの中に戻ろうとして立ち止まる。そして振り返って言った


 「なまえ……ルビーラ」
 「俺はジュートだ。よろしくな、ルビーラ」
 「うん。ごちそうさま、ジュート」




 ルビーラはにっこり笑うととそのまま走って行った




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 そんなこんなで俺の第2試合である
 相手は魔術剣士の男で歳は俺よりチョット上くらい
 俺を警戒しているのか全身から緊張が伝わってくる。いいねこの感じ


 俺は勝負事で熱くなる性格では無い、むしろ冷静に物事を運べるタイプだと思う
 相手の動き・視線・クセなどを観察して相手を追い詰める…そんなタイプだ
 すると頭の中でアグニが言う


 《おい、この試合は早く終わらせるなよ。俺が見た感じコイツはお前の遙か格下…お前が負ける要素はねえ。だけどコイツは魔術師だ、お前魔術師と戦ったことねえだろ? コイツとの試合で敵の魔術発動の兆候や身体技能のみでの魔術の回避、あとは反対属性での魔法防御なんかをやってみろ!!》


 了解。なるほどね……魔術師との戦闘か
 クラスのみんなは魔術、しかも神の特性を持ってるからな。さすがに【神話魔術】は回避できないけれど、上級魔術くらいは回避できるようになりたい


 「始め!!」




 試合が始まった




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 俺は右手のみナイフを抜き相手の様子を見ていた
 相手も剣を抜き構えてる、普通の剣より短い剣でやっぱり本命は魔術みたいだな


 魔術は本来詠唱を必要とする
 【時】の属性を持つ神のみ詠唱を省略して魔術発動が出来るのだが、その詠唱は位が上がるにつれて複雑になり時間も掛かり、それは【特級魔術師】でも例外では無い
 普通の魔術師の平均は【下級】で2秒 【中級】で10秒 【上級】で20秒くらいの詠唱時間が掛かるらしい
 さらに魔力総量には個人差があり、一般人を100とするなら魔術師は平均だいたい500ぐらいある
 才能がある人間は生まれつき高く、上級魔術師レベルだと2000くらいはザラだ……ちなみにクロの見立てではクレアが800、リアさんが2200、ルビーラはなんと12000
 ちなみに俺の数字を聞いてみたらびっくりした


 《【無】属性のアナタは魔力を消費しないで魔術を使えるワヨ》


 ということでした
 【銃神】すげぇ、どうなってんだよ?


 とにかく集中だ。現在相手は詠唱してる
 発動の兆候を見極めるのに全力で集中する……


 「来るッ!!」


 紋章色は赤、これは【爆裂炎弾バーンストライク】だ
 10発の炎弾が俺のもとに向かってくる


 俺は横に飛び、くぐり、躱し、ジャンプして全部躱した


 「あぶねぇ……でも全部見えたぞ!!」


 コイツの属性は【赤】、すなわち炎だ
 【赤】属性なら俺もよく使うからどんな魔術が来るかだいたいわかる




 コイツには悪いけど、俺の修行に付き合ってもらうぜ




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 あのあと魔術師は魔力が切れるまで魔術を使い続た
 俺は全て躱し防ぎ、相手の魔力が切れたところで気絶する程度に切りつけ勝利
 武具大会だし、グランツさんの武器で戦わないと意味が無いもんな


 そして試合は進みベスト12まで来た
 俺の次の相手は風のフウ、コイツに勝てば決勝はたぶん大剣のウェガ
 うーん、なんかお約束な展開だな。そう思いながら控え室に入ると、風のフウがにやにやしながら俺を見てる
 するとフウがニヤつきながら言う


「キミはなかなかスピードがある。いいね…久しぶりに楽しめそうだ。〔ラント武器店〕だかなんだか知らないがそんな名も無きオンボロ武器屋にはココで消えてもらおう……ふふふ、あっははははははは!!」


 今コイツ……なんて言った?


 オンボロ武器屋? 消えてもらう?
 ラントとグランツさんの家を……コイツは笑いやがったのか?


 頭の中が熱くなる
 落ち着け、この怒りに蓋をしろ




 冷静に、冷静に……ぶっ潰す




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 「準決勝第1試合、〔モールウエポンショップ〕代表!! 風のぉぉぉぉフウ選手ぅぅぅ!! 入場でーす!!」


 大歓声のなか風のフウが入場する
 歓声の他に黄色い声も混ざってる、イケメンなので女性ファンも沢山いるみたいだ


「そしてぇぇぇ!! 〔ラント武器店〕代表、ジュート選手ぅぅぅ!! 入場でーす!!」


 俺は静かに入場すると、予想に反して歓声がある
 俺の戦いっぷりに多少のファンもついたみたいだな
 でも関係ない、俺は目の前の敵を見つめる


 《おいジュート、冷静になれよ。たしかにコイツはムカつく……だからこそ落ち着け、コイツはスピード自慢だ。おいジュート、お前の本気の速度・・・・・で相手してやれ》


 奇遇だなアグニ、俺もそう思ってた所だ
 俺はナイフを両手に構え、足に力を込めた




 「始め!!」




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 俺は全力で石畳を蹴ると、石畳が爆発
 相手との距離は約10メートル、1秒も掛からず目の前のフウに迫る
 未だに笑顔が張り付いたままのフウの全身を切り刻み背後に回る
 次の瞬間フウの体から血が噴き出しあっさり倒れた


 本日2度目の静寂──────俺は審判を見た


 「勝者、〔ラント武器店〕ジュート……」




 何の感情もこもってなさそうな声で勝利を告げた




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 次はいよいよ決勝……早かったな
 風のフウ? 誰だっけソレ? 俺は再びみんなに激励を受けていた


 「ジュートさん、私……信じています」
 「ジュートぉっ、がんばれぇっ!!」
 「あなたなら問題ないわ、勝ちなさいね」


 メリッサ・アリン・クレアが応援してくれる


 「ジュート兄ぃ、俺…ジュート兄ぃに会えてホントによかったよ!!」
 「ああ、本当にキミのおかげだ。ここまで来ればもう悔いは無い……怪我をしないように頑張ってくれ」


 「おいおいラント、泣くのはまだ早いぞ。それにグランツさん、俺は勝ちますよ」


 なぜか満足してる二人に言う
 するとリアさんが一歩前に出た


 「やはり私の見立ては間違いなかったわ。ジュート君、まさかここまで強いなんてね……きっと上級魔術師が束になってもキミを倒すのは難しいと思うわ。がんばってね」
 「リアさんも、わざわざありがとうございます……ん?」


 だれかが俺の袖を引っ張ってる……って、えええっ!? なんでここにルビーラが!?


 「……ジュート」


 いきなりの【特級魔術師】の登場にこの場にいる全員が度肝を抜かれていた
 俺はルビーラに目線を合わせて言う


 「どうした? 激励に来てくれたのか?」
 「……うん」
 「そっか、ありがとな」
 「えへへ、がんばってね。おうえんしてる」
 「ああ。じゃあいってきます!!」


 俺は全員に別れを告げ会場へ、決勝の相手はやはり大剣のウェガだった
 この剣士は身長2メートルくらいあり自分の身長とおんなじくらいの大剣を振り回して戦うパワースタイルだったはず


 《おいジュート、コイツは魔術を使わねぇ根っからのパワーファイターだ。コイツはいい訓練相手だ、いいか……コイツの攻撃を全て紙一重で躱せ。いいか、ビビるんじゃねえぞ……大剣の圧力になれて武器への恐怖心をなくすんだ》


 要はギリギリで躱してビビらない心を付けろ・・ってことだな
 いやホントこの大会の一戦一戦が修行みたいなもんだった。俺もまた強くなったかな?


 俺は武器を両手に構え、ヴェガを睨む




 「始め!!」




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 ウェガは大剣を構えたまま動かなかった
 誘ってんのか? そんなら様子見だ


 「【赤】の中級魔術、【爆裂炎弾バーンストライク】!!」


 俺の右手から炎弾が10発発射される
 が、大剣を盾にして防御した……その表情は驚いている
 俺が魔術を使うとは思わなかったんだろう


 ウェガが俺に向かって走ってくる
 おそらく様子見の一撃……大剣を振りかぶり振り下ろしてくる


 「ぬぅんッ!!」
 「うぉぉッ!? アブねぇッ!?」


 俺は大剣を紙一重で躱す。なんとか見えた……これなら躱せる
 するとウェガは本気を出してきたのか先ほどの倍以上のスピードで剣を振り回す
 なぎ払い・振り下ろし・袈裟切り・突き・打ち上げ。様々な攻撃パターンを組み合わせ、変幻自在の斬撃を繰り出す


 「ぬォォォォォッ!!」
 「…………ッ」


 見える……攻撃を引きつけてギリで躱す。なんとか慣れてきた
 そしてウェガは肩で息をしている……俺が言うのも何だけど動きに無駄が多すぎる
 そりゃ疲れるよね……よし、終わらせるか


 「ありがとな、アンタのおかげでまた強くなれた」 
 「なんだと……バカにするなぁっ、ぐげッ!?」


 そしてウェガの大ぶりの一撃にカウンターをあごにお見舞いする
 ウェガの体がぐらつき、そのスキにナイフで気絶する程度に切り刻む


 「終わりだッ!!」
 「ぐ、がぁぁ……ッ」


 俺の最後の一撃を喰らうとウェガはそのまま動かなくなった




 この瞬間、俺の優勝が決まり周囲は大歓声に包まれた




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 俺は今表彰台に立っている
 隣にはグランツさんもいて、お互いめちゃくちゃ緊張しています
 やべぇ、優勝すればこういうイベントあるってのすっかり忘れてた
 俺の目の前には王様〔ガーシュ・エルディン・レッドキングダム13世〕がいる。豪華な衣装に赤いマントを着けた50ぐらいのおっさんだ
 王様の隣にはルビーナがトロフィーを持って俺をすっごい笑顔で見てる……少し緊張が解けた


 王様が難しい言葉で俺の雄志を称えると、優勝賞金の1000万ゴルドをグランツさんに渡す…額縁みたいなのに入ったゴルドカードだ
 俺にはルビーラからトロフィーが渡される


「……おめでとう」


 言葉こそ少ないが精一杯の笑顔でそんなことを言われる。やっぱかわいいな


 あたりは大歓声……俺はトロフィーを掲げ、ついでにグランツさんの手も掲げる
 すると、あたりは爆発したような大歓声が広がった
 グランツさんは涙を流しながら言う


「ありがとう。本当にありがとう……父さん、ベリル…見ててくれたかい……?」


 そして俺は控え室入り口あたりにいるラントを見た
 ラントは笑ってた。その瞳を濡らしながら……ん?


 「俺の気のせいかな……?」


 ラントのそばに寄り添うように、ガタイのいいグランツさんそっくりの老人と、ラントとおんなじ茶髪の女性がやさしく微笑んでいる


 グランツさんもそれを見ていた……溢れる涙を拭わずに
 これはきっと気のせいなんかじゃない




 その光景を見て俺は思った




 ホントウの神様はきっと、こういう奇跡を起こす存在なんだって





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