ホントウの勇者

さとう

閑話 毒嶋得巳・【腐神ティルミクローテ】



 毒嶋得巳ぶすじまどくみ。彼女はこのクラスでは異常の部類に入る人間だ


 彼女の全身像を見てみるとそれは平凡の一言に尽きる
 髪型はショートヘアーできれいに切りそろえられており、顔のパーツも整っていると言うわけでも無ければ不細工というわけでもない
 スタイルも高校2年生という括りで見ると平凡なものであり、特筆すべき物は特にない
 交友関係を見ると仲のいい友達はたくさんいるが、そこまで深い関係の友人はいない


 朝挨拶をしてくだらない話で盛り上がり、一緒にご飯を食べて放課後一緒に帰る
 そんなどこにでもありそうな普通の光景を作り出す「学校生徒その1」みたいな、そんな少女だった


 しかし、彼女には誰にも言えない秘密があった


 誰かに知られればきっと彼女は自ら命を絶つ、そのくらいの秘密






 それは異常性癖いじょうせいへき








 彼女はモノが腐った匂い・・・・・・・・にとても興奮する人間だった




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 彼女がその性癖を理解したのは中学1年の時だ


 とある夏の日の午後、彼女は自宅に帰ってきた
 友達と図書館で勉強をし、て家に帰ってきた時である
 両親は共働きで家には誰もおらず、家の中は蒸し風呂のように熱くなっていた
 彼女はげんなりとしてエアコンのスイッチを入れ、のどが渇いていたので冷蔵庫を開ける




 そのとき、電流が走ったのかと思った






 暑さのせいかどうかは知らないが、冷蔵庫が故障していたのであろう
 その匂いは地獄だった……昨夜の夕食の残りだろうか、野菜と卵と肉の炒め物・買い置きしてあった生肉や魚の刺身・冷やしてあった牛乳などが、全てダメになっていた


 だが彼女はそこから動けなかった
 普通の人間なら慌てて扉を閉めるのだろうが、彼女はそうしなかった。


 その匂いのインパクトがとてもすごかったのか、その臭いで頭をやられたしまったのか
 その場に座り込みうつろな瞳で臭いをかぎ続けたのだ
 きっとこのときから彼女の中の何かは壊れてしまったに違いない
 彼女が我を取り戻したのは実に2時間も経ってのことだった


 自分は何をしているのか、彼女は頭を切り換え家中の窓を開け換気をする
 そしてすぐに母親に電話を掛けて、今の状況を説明する
 そしてそのまま自室のベッドに潜り込んでしまったのだ


 夕方近くなっていたが未だに彼女は布団の中にいる
 そして自分の行動を思い出し震えていた
 自分は何で、あんなに臭いをかいでいたのだと


 外用の服のまま布団に潜り込んでいたせいなのかすごく汗をかいている
 そしてその汗の臭いと先ほどの冷蔵庫の臭いを思い出し、興奮していた




 自分は何をしているのか?……彼女はこの日初めて自分を慰めた




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 そして月日は流れ彼女は高校生になり、この頃にはもう自分の性癖と折り合いを付けていた


 自分の性癖を理解するのにそう時間は掛からなかった
 彼女は食品や飲み物が腐った臭いにとても興奮する
 他人や自分の汗でも興奮する……変態であった




 中でも一番すごかったのが、動物の死体である




 彼女が学校から帰宅する最中それはいた……ネコの死体である
 彼女は素直にかわいそうと思い、埋めてやりたいとも考えた
 しかしそこで彼女の中の悪魔がささやいた




 コレ・・が腐ったら、どんな臭いがするんだろう




 彼女は自分の性癖を理解している……だから迷わなかった


 誰もいないことを確認しビニール袋にその死体を入れ、自宅の庭の垣根の後ろに隠したのだ
 そして深夜、家族が寝静またことを確認して臭いを満喫する


 最初は死んでからそんなに時間が経っていないせいでよくわからなかったが、時間が経つたびにそれは変わっていく
 彼女にとって深夜は至福の時間でもあった……おかげで寝不足になってしまったが


 そんな生活を続けていたせいなのか、彼女はその日体調が悪かった
 しかし学校に登校し授業を受ける、そして体育の時間……彼女は倒れてしまったのだ


 その日の授業はマラソンで授業も半ばにさしかかった頃、彼女はめまいに襲われた


 「あぁ、最近寝不足だったからなぁ……」


 そんなことを考え足下から崩れ落ちる……ことはなかった






 「ちょっ、大丈夫!? 先生先生!! 毒嶋さんが倒れましたっ!!」






 誰かが自分を抱き止めている
 そして、一瞬で意識が回復するくらい驚いた


 その男子生徒から、とてもいい匂いがしたからだ
 はマラソンをずっとまじめに走っていたのであろう、体中汗をかいている
 そしてそのまま一言「ごめん!!」というと体が浮き上がる、どうやらお姫様抱っこされてしまったようだ
 クラスメイトの冷やかす声が聞こえた気がしたが、そんな声は全然気にならなかった


 の匂いをかいでいるとすごく安心する
 彼女はそう思い、彼のぬくもりに包まれながら静かに目を閉じた




 それは彼女が彼、無月銃斗を初めて意識した瞬間だった




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 彼女は保健室で目が覚めた


 保健の先生が言うには、ただの睡眠不足から来る貧血だったそうだ
 今日はちゃんと寝ようと思い保健室を後にする


 今の時間は昼休みがちょうど始まったばかり、彼女は銃斗にお礼を言おうと教室に入った
 するとクラスメイトの女子何人かが彼女の所へやって来て、彼女を心配した
 彼女は笑顔でみんなに謝罪をして、銃斗を探す


 彼は教室の端の所で食事をとっていた
 女子2人と男子1人の計4人グループ……彼女の視線に気づいたのか銃斗は食事の手を止めて彼女の元にやってくる


 「体は大丈夫? あーそれと、ごめん」
 「え? あ、あの保健室に運んでくれたんだよね、なんで謝るの?」
 「い、いやその。お、お姫様抱っこでさ、チョット注目浴びちゃったから……」
 「……あ」


 彼は顔が赤くなり、彼女の顔も赤くなった
 その空気を感じ取ったクラスメイトがはやし立て始め、彼が顔を赤くして大声で否定を始める
 そんな風にころころ変わる彼の表情が面白くて、彼女は笑っていた


 「と、とにかく!! 元気になってよかった、じゃ!!」
 「は、はい。ありがとうございました!!」


 彼は自分の席に帰って行く
 男子が彼を小突き、女子1が怒った顔で彼に何かを言い、女子2が女子1に何があったのか理由を聞き、理由を聞くと面白くなさそうな顔をする
 不思議とうれしい気持ちになり、彼女は終始笑顔で帰宅した


 その日彼女はネコを埋葬した
 土に埋め、庭石の一つを墓石にして花を添えて祈った「ごめんなさい」と


 銃斗との出会い。それは彼女にとって素晴らしいいいことだった
 その日から彼女の異常性癖はなりを潜めた、まるで銃斗の匂いが彼女の毒を打ち消したようだった


 彼女はやっと普通の女子高生に戻れたのだ






 異世界に召喚されるまでは




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 彼女は異世界での生活を楽しんでいた


 無月銃斗の思いが消え去り、憎しみが生まれる
 そして魔術の修行はとても楽しかった
 彼女の属性は【青】と【黄】と【時】
 【固有属性エンチャント・スキル】こそ習得できなかったが、魔術はそこそこ得意だった


 【神器ジンギ】の発現は早いほうだった
 きっと、彼女の中の神が彼女に近い神だったから…彼女はそう考えている
 【腐神ティルミクローテ】……この神の【神器ジンギ】は、彼女の異常性癖を再び蘇らせる能力を備えていた


 【英雄十三傑(ヴァリアントサーティ】にこそ選ばれなかったがそれでもよかった
 今の仲間は自分を理解してくれている。それがとてもうれしかった






 そして、無月銃斗が処刑された……彼女は思ってしまった






 彼は、死んだらどんな匂いがするんだろう……と




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 そして彼女は今〔魔道船〕のデッキにいる
 これから向かう【赤の大陸グランドレッド】とはどんなところ何だろう、と思う
 先発隊である自分たちの任務、偵察と第1アタック
 もちろん両方成功させるつもりだと彼女は奮起していた
 そして、彼女の後ろから聞き慣れた声が聞こえた


 「……緊張するね」


 彼は達俣土丸たつまたつちまる……チームメイトのその言葉に彼女は答える


 「そうだね、でも頑張らなきゃ」
 「うん。この大陸のためにね!!」
 「よしっ!! 頑張ろうね、達俣くん!!」
 「ああ、来るモノ全部ぶっ殺してやるよ……!!」


 彼は興奮していた。彼もきっと偵察だけで終わる気は無いのだろう
 息も荒く船室へ帰っていく様子を見送り、彼女は遙か先の海を見る






 「待ってなさい、大陸を汚す虫ども……フヒヒッ、この私が全てクククッ【腐】らせてやる……!!」






 彼女は濁った瞳で、薄暗く微笑んだ





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