ホントウの勇者

さとう

王都レッドキングダム④/最後の依頼・少年の誇り



 武具大会に出場するために武具屋を探す
 簡単そうに見えて難しい、なぜなら


 「あと4日後ですもんね……」


 と、メリッサが言う。そうなんだよなあ


 今俺達は〔喫茶プフランフェ〕に戻って来ている
 メリッサ達が俺が冒険者になったお祝いをしてくれているのだ
 目の前には豪華な料理が並んでいてマリンさんお手製のケーキもある。うーん、うまい


 あのあとみんなで町の武器屋を回ったが、ほとんどの武器屋は本登録を終えてしまい選手の変更ができない状態だったのだ
 それはそうだろう、選手に合った武器を作る為に早く選手を決めるのは当たり前だ。
 リアさん……その辺わかってたのかな?


 とにかくまだ本登録をしてない武器屋を探すしかない
 明日頑張るしかないな。と思っているとメリッサが


 「ジュートさん、ごめんなさい……明日は私達依頼が入ってて手伝えないんです。本当にごめんなさい」


 とメリッサ達が本当に申し訳なさそうに言う


 「先輩冒険者として色々教えてあげたかったんだけれど、ごめんなさいね」


 とクレアが言うが、俺が冒険者になったのは本来情報集めの為だ。だから全然気にしていない


 「いや、むしろここまで付き合ってくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」


 と言うかメリッサ達も冒険者なんだよな
 【魔神軍】について聞いてみるか、何か情報があるかも


 「あのさ、みんな【魔神軍】ってわかる?」


 全員がギョっとして俺を見る


 「当たり前ですよ!! 500年程前に【勇者ヴォルフガング】によって滅ぼされた神の軍勢ですよね? 今では僅かな神が【時の大陸クローノス】で生きていると言われてますね」
 「【時の大陸クローノス】は神が産み出したモンスター、【神獣】の巣となってるはずよ。普通のモンスターの何倍も強いらしいから冒険者では手が出せないわね。上級魔術師が数人がかりでようやく倒せるレベルらしいわ」
 「わたしが聞いた話だと、【魔神軍】は異世界の勇者を呼び出して8大陸進行を狙ってるて聞いたよ?」
「あ、それ私も聞いた。【魔神軍】は異世界人を呼び出したのは間違いないみたいだよ。膨大な魔力の気配が【時の大陸】で観測されたらしいし」
 「異世界人の力を使い8大陸の進行部隊を作っている、という話も聞いたわ。どこまで本当かわからないけどね」
 「すでにそれぞれの大陸の王都では募兵の準備が始まってるらしいよ、 この【赤の大陸】ではいつ始まるの?」
 「この武具大会が終われば募兵が始まるらしいわね……って、どうしたの?ジュート?」
 「あ、いや……」


 驚いた、メリッサ達だけでもこんなに情報が入るなんて
 もし今の話が本当なら近い内にクラスメイトと遭遇する可能性が高い
 ついに来たか……覚悟は決まってる


 でもいまは目の前の武具大会だな
 武器屋を探さないと……そう思っているとメリッサが言い出した


 「あの、ジュートさんに聞いてほしいことがあるです」
 「?……どうしたの」
 「実は、私達もうすぐ冒険者パーティーを解散するんです」
 「えぇ!?」


 俺は本当に驚いた……解散、メリッサ達が?
 アリンとクレアを見ると冗談ではないことがわかった


 解散の理由はそれぞれ個人の事情だった
 まずメリッサはもうすぐ18歳、騎士の選抜試験がもう間もなくあると言うことだ
 冒険者をやって3年、実力も経験も自信がついてきたので来年の試験に挑戦するために勉強するらしい


 アリンは自分の弓の限界を感じ、行けるところまで行けたと実感できたので悔いはないとのこと
 今後はこの〔喫茶プフランフェ〕で働きながら花嫁修業をするために一から勉強するらしい


 クレアは3年間の留学期間が間もなく終了するらしい
 なので【青の大陸】に帰り留学の成果を魔術学園に報告して、そのまま上級魔術師を目指すらしい


 そしてこの依頼をこなすとBランクに昇格するらしく、最後にランクを上げてから解散するらしい
 みんなそれぞれ自分の夢に向かって歩きだす




 俺はますますこの世界を守る決意を固めた




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 そのままホテルに戻り早めに休むことにした
 そして次の日再び〔喫茶プフランフェ〕へやって来た
 すると、メリッサ・アリン・クレアが驚きの顔で俺を見る


 「ジュート? こんな早くからどうしたの?」
 「朝ごはん食べに来たんだよ、あと見送り。今日が最後の依頼だしな……見送らせてくれ」
 「ジュートさん……」
 「バカね、カッコ付けちゃって」


 するとアリンが俺の胸に飛び込んできた
 俺の胸板に顔を埋めて背中に手を回している
 俺はも左手を背中に回し、右手は頭をやさしく撫でる 


 「えへへ、ありがとジュート」
 「頑張れよ……応援してる」
 「うん!!」


 アリンが離れると次はクレアが抱き着いてきた
 うぉふっ……柔らかい塊が俺の胸板でつぶれるゥゥ!?


 「ふふっ、柔らかかった? Bランクに昇格したらお祝いにもっと気持ちいいコトしてちょうだいね?」


 クレアがいたずらっぽく笑う
 気持ちいいコトって、まさかな……


 最後はメリッサだ。顔を赤くして俯いてる
 俺はちょっと強引に抱き締める
 メリッサは「きゃっ」と言うと、俺の胸の中に収まった


 「ジュートさん、私…私、ジュートさんが」
 「……メリッサ?」
 「いえ、何でもありません……」


 メリッサは腕を背中に回し強く抱き締めてきた
 俺も負けじと抱き締める。勇気を分け与えるように
 しばらくするとメリッサは離れ、そして輝くような笑顔で言う




 「行ってきます!!」




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 メリッサ達と別れて俺とクロは町を歩く
 武器屋はどこも本登録済みでどうしようもなかった
 最悪諦めるか。と思って歩いていると、ガタイのいい男の傭兵が怒りながら歩いていた
 何か言ってる……何だろう?


 「ふざけやがって、何が武器屋だチキショー!!」


  武器屋?と思い、俺とクロは顔を見合わせて男傭兵が出てきた路地を見る
 すると一人の少年が出てきた


 髪は茶髪のボサボサヘアで手入れは全くされてないし、顔も煤だらけでひどいありさまだ
 年齢は10歳くらいで服もぼろぼろ、というよりは汚れていた
 その少年は泣きそうな顔で言う


 「ちくしょう、何が最強の傭兵だよ。ウチをみた瞬間バカにしやがって……!!」


 俺はその少年を見て不思議な感覚に捕らわれた
 これは、そうか…サニーに初めて会ったとき、メリッサ達と初めて会った時、その感覚と凄く似ていた
 俺は少年に声をかけてみた


 「どうした? 何があった?」 


 俺はやさしく聞いたが、少年は俺を怒鳴りつける


 「うるさい!! あんたには関係ないだろ……ううっ、ひぐっ……あっちいけよ!!」


 少年は泣いてしまった……なんかゴメン
 俺は少年に目線を合わせて再度やさしく話しかける


 「落ち着けって、力になれるかもしれない」


 すると少年は視線をあげて俺を見て……正確には俺の胸で揺れる冒険者ランクAのドッグタグを見て驚きながら言った


 「え、Aランク冒険者!?」
 「ん?……ああそうだよ。事情を話してくれるか?」


 そういえば俺ってAランク冒険者だっけ
 すっかり忘れてました、すみません


 「俺の家……来て、そしたら話す」
 「わかった、じゃあ行くか。あ、俺はジュートだ」
 「………ラント」




 「よし。じゃあラント、 案内してくれ」




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 こ、これはひどいな……これ、家か?


 王都の裏路地を通って来たところはボロ小屋だった
 こんなことは言いたくないがひどすぎる


 アカノ村の家をとことん古くした感じの木造住宅、周りも似たような感じだかこの家が一番ひどい
 建物は2階建てで1階は開けた感じだ、だが家の裏には蔵みたいなのが建っている


 「ウチ、武器屋……〔ラント武器店〕」
 「武器屋……?」


 俺は1階の店舗に入ってみた
 やっぱりひどい。確かに武器屋なんだろう、しかしその武器自体が異様に少ない
 あるのは剣・双剣・槍・ハンマーなどだがどれもボロい
 するとラントが泣き声で言う


 「〔グランドレッド武具大会〕の参加者……探してる」
 「やっぱりそうか……」


 俺の視線を勘違いしたのかラントは泣きながら言う


 「なんだよ、うう……あんたもバカにすんのかよ。ウチはボロいって、えぐっ……レッドキングダムで最低の武器屋だって!!」
 「ラント……」
 「俺は、俺は誇りに思ってる。ううっ……じいちゃんが付けてくれた俺の名前……〔ラント武器店〕…俺とじいちゃんの誇りを、あんたもバカにすんのかよ!!」
 「……するわけねぇだろ!!」


 誰にだって誇りはある、誰にだって譲れない物はある
 ラントの思いを・・誇りを俺はバカにはしない、そんなヤツがいたらブチのめしてやる


 ラントは俺の大声に驚き体をすくませたが、俺の目を見て静かに泣き出した
 その声を聞いたのか家から誰か出てきた


 「ラント、どうした!?」


 男性、多分ラントの父親だ
 俺を見て……正確には胸元のドッグタグを見て驚いていた


 「Aランク冒険者!?……一体何のご用で?」
 「はじめまして。俺はジュートです、いきなりなんですけどお願いがあります」


 ラントとラントの父親が俺を見ている。俺は決めたぜ 




 「〔レッドキングダム武具大会〕……俺をこの武器屋の代表選手にしてください」




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 俺はそのままラントの家に上がり込んで話を聞くことにした
 するとラントの父親が自己紹介する


 「私はグランツと申します。ラントの父親です」


 グランツさんは30後半くらいかな、こんなこと言いたくないが武器屋というか加治屋っぽくない
 グランツは静かに語りだした


 「この武器屋はもともと私の父、ランドンが残した物でした。私は加治屋ではなく魔導車職人で、武器を作るより加工が専門でした。父は私にこの武器屋を……加治屋を継いで欲しかったらしく、何度も喧嘩をしました。そこで私は町に逃げて、家内と出会いまして……家内は腕のいい魔導具職人で、魔導車職人である私と気が合いまして、お互い将来を誓い合い彼女の薦めで父と和解する事にしたんです」


 グランツさんは少し息を吐く
 ラントは何も言わずにクロを抱き締めていた


 「実家に戻った私はまず父に本気で殴られました。ハハ、今でもその痛みを覚えています。父は家内の……ベリルのお腹が大きくなってるのを見て全て許してくれました。そして息子にラントと名付けとても可愛がりました。私も父の跡を継ぐために本気で加治を勉強しまして…そして、父は……亡くなりました。本当はずっと体調を崩していたんです……私に鍛冶を教えるために……死の直前まで……!!」


 グランツさんは目じりを押さえ耐えていた
 ラントのために……ラントは唇をかんで耐えていた


 「結局、私は中途半端な加治屋の腕しか持たず評判は最悪。ベリルやラントには苦労を掛けました……そして去年、ベリルも」


 グランツさんはそのままうなだれた
 ラントは、静かに泣き出した




 俺はその話を聞いて、物凄くムカついていた




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 「で……あなたは今、何してるんですか?」
 「……え?」
 「全て諦めて、何してるんですか?」
 「………」
 「ラントは諦めてませんよ、今日も一人で傭兵のところへ行って武具大会の選手になってくれって……泣いてましたよ」
 「ラントは俺に向かって言いました。この〔ラント武器店〕はじいちゃんの、俺の誇りだって」


 俺はとうとう我慢が出来なくなり叫んでいた




 「……あんた本当に何やってんだよ? 武器屋の誇りを捨てて逃げて、何にもしないで俯いて……この武器屋の、ラントの誇りを汚すんじゃねえよ!!」




 俺は黙ってられなかった
 ラントの誇りを一番汚していたのは、あの傭兵でも町の人間でもない。他ならないこの人だ
 人はいつか死ぬ、だからランドンさんはグランツさんに託したかったんだ
 自分の誇り、武器屋の魂を……けどグランツさんはランドンさんの死を嘆いて、自分を責めて、自分の殻にとじ込もってしまった
 ベリルさんもきっとグランツさんを支え続けたんだろう、最後まで
 だからこそこの人は立ち上がらなくちゃいけない。ランドンさんとベリルさんのために
 そして……ランドンさんの誇りを、その小さな手で守り続けるラントのためにも


 俺は【雄大なる死グロリアス・デッド】と【死の輝きシャイニング・デッド】を抜いてテーブルに突き刺す


 「ナイフを2本、作って下さい。俺はランドンさんの、ベリルさんの……そして、ラントの誇りを守るために戦います」




 「あんたに誇りが残ってんなら、家族の為にあんたも闘え!!」




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 俺は店の外に出た


 「はぁ、言い過ぎたかな。俺…今日初めて会った人になんて偉そうなことを」
 《イイ言葉だったワヨ。ワタシの胸にも響いたワ》
 《ああ、お前は間違っちゃいねーよ。あとはあいつが立ち上がれるかどーかだ》


 クロとアグニが言う。そう言ってもらえるとありがたい
 すると、後ろから声が聞こえ、グランツさんとラントが走ってきた


 「ジュートさん、私はずっと逃げてました」
 「………」
 「あなたに言われて思いだしましたよ。父とベリルは……最後まで笑ってました。その笑顔は私とラントの幸せを願っていた……裏切り続けていた、俯いて逃げて、父とベリルの死をいつまでも嘆いて……立ち止まっていた。ラントはずっと私の先を歩いていた……もう逃げません。私はラントの父親だ!! 大事な家族はオレが守る!!」


 強い瞳だ、男の……父親の姿だ
 ラントはその背中を、眩しい物を見るように見つめていた
 そしてグランツさんは右手を差し出した


 「ジュートさん、力を貸して下さい!! この〔ラント武器店〕代表選手として……!!」
 

 俺は心の底から思う。今の俺達・・なら必ず優勝できると


 俺は力強く頷き、その右手を握った




 〔グランドレッド武具大会〕まであと3日──────────





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コメント

  • ノベルバユーザー315410

    加治屋→鍛冶屋

    5
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