ホントウの勇者

さとう

閑話 達俣土丸・【潜神マオルビルフ】



 達俣土丸たつまたつちまる、彼はこのクラスの中では特に底辺の少年だ。運動能力は下の下、勉強は中の下、身体的な面で見ても優れているとはお世辞にも言えない


 身長は160センチと小柄だが体重は90キロの肥満体型、顔の肉付きはまん丸としており、髪型は天然パーマでごわごわしており長さも中途半端、目つきは一重まぶたで斜めにつり上がっていてとても愛嬌がある顔とは言えないかった


 実家は学校から徒歩10分と近く、彼がこの高校を受験したのもこの距離の近さが最大の理由だったりする。中学時代の彼に友達はいなかった。ならばどの高校を受けても彼にとってはどこでも同じ、自分の学力で受けれて一番近いところ……そんな理由で選んだ高校だった


 両親は父が会社員、母が専業主婦の普通の家庭で特に不自由はしていない。両親は特に彼に無関心ではない、まぁ勉強しなさいとか部屋を掃除しなさいくらいの小言は言う。見放してはいないが、期待してもいない…そんな家庭だった。ただ、彼には一つだけ趣味があった


 それは、鉄道関係全般


 彼は休日になると近所の駅の喫茶店に出かける。そこで甘めのカフェオレとフライドポテトを注文して、家からお気に入りの鉄道模型の本や時刻表などを読み、たまに電車の通過する音を聞き半日を過ごす。お昼はその喫茶店でオムライスを頼み、ゆっくり食べながら休みを満喫し、自宅に戻る


 そして作りかけの鉄道模型に手を伸ばす。彼は別に器用ではないがSL模型は好きなので時間を掛けて1つを作り上げる。月のお小遣いは1万円なので、だいたい5000円くらいの模型を1ヶ月掛けて1つ作る。お小遣いが入ったら模型屋に行き、新しい物を買う。中学からそんな生活をしていた


 高校2年になりクラス替えが行われたが、彼は自分には関係ないイベントだと割り切っていた。クラス替えの初日に学校へ行き新しいクラスに入り席に着く。周りの人たちは新しい顔ぶれに心を躍らせて楽しく談笑している、彼はこんな見た目なので誰も積極的に話しかけようとしない。彼はそれでいいと思ってたので、自分の鞄からお気に入りの本を取り出し読み始め、5分も掛からず本の世界に入る


 それは完全に不意打ちだった


 「鉄道模型、好きなんだ?」
 「…………え?」


 それが自分に向けられた言葉と理解するのにタップリ10秒は掛かった。その間も話しかけてきた少年はニコニコしながら自分を見ている。彼はこんな時どうすればいいか全くわからなかったので、曖昧な返事しかできなかった


 「え、ああ……う、うん。趣味……なんだ」


 「へえ~そうなんだ、実は俺も結構本読んでて少し興味あったんだ。じゃあさ~~~~ってさ~~~~ていうのわかる? 俺はさ~~~だと思うんだよ!!」


 それは専門用語の嵐だった
 きっとこのクラスの人間は誰も理解できないだろう、自分を除いて。彼はうれしかった……顔が自然とほころび笑顔が止まらず、自分も負けじと専門用語で会話し、彼も的確な答えを返してくれる。ずっとこの時間が続いてくれればいいのに、と思った。そして


 「あ、ごめん…名前」
 「あ、ごめん僕は達俣土丸たつまたつちまる、よろしく」
 「俺は無月銃斗むつきじゅうとだ、よろしくな!!」


 無月銃斗と出会ってから彼の人生は変わったかもしれない……下書きの絵のような人生に色を付けたような、そんな毎日だった




 休日に常連の喫茶店で一緒に本を読んだり、模型屋で一緒に買い物をしたり。自宅に招待して、自分の作った模型を見せたり、銃斗が作った模型の出来が悪くて、二人で笑ったり
 

 彼の中でそれはかけがえのない思い出だった






 異世界に召喚されるまでは




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 異世界に召喚されてから彼の生活は劇的に変わる


 もっとも仲のよかった親友が、もっとも憎むべき敵となる


 そして彼は出会う




 【魔神エルレイン・フォーリア】




 まるで、銃斗と初めて出会った喜びが再び胸の奥からせり上がってくる気持ちだった




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 それからの日常は充実していた。魔術の訓練では、自分の属性は【黄】と【緑】と【時】の3つで、これらを組み合わせることで【固有属性エンチャント・スキル】を作れるらしい……しかし彼にはその才能が無かったため、あきらめることにした


 武術や体術はやっぱり苦手だった。【王ノ四牙フォーゲイザー】の一人【獅子王レオンハルト】はとてもいい人(神?)だったがやっぱり大変だった


 そして【神の箱庭サンクチュアリ】と呼ばれる場所で彼の神の【神器ジンギ】を覚醒させる。【神器ジンギ】はクラスメイト全員が発動できたが、彼は最後の方でやっと覚醒した


 この世界に来て初めて彼の人生は輝いていた。クラスの仲間達と一致団結してこの大陸を守り抜く、力を合わせて戦い抜く。この世界では誰も彼を無視しない、彼を一人の戦士として平等に扱う……彼にはそれがうれしかった




 かつての彼の親友が全く同じことをしていたのに、彼はもうそのことを覚えてはいなかった




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 訓練にもなれてきた頃試験があった。総合評価順位を決めるという試験だが、彼には全く自信が無かった。自分より優れている人はたくさんいる(というかほぼ全員)……彼にとって重要なのは順位では無く、共に戦うということだ


 そして総合評価順位が発表されたが、当然彼は関係ない


 【魔神エルレイン・フォーリア】が【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】と呼ばれる異世界人の精鋭13人を発表したのだ


 彼は特に嫉妬などせずに、むしろ誇り高く感じた。クラスメイトみんなに混じって誇り高き13人を祝福した




 そして、無月銃斗が死んだが……別にどうでもよかった




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 それからは8大陸への進行準備が始まり、【英雄十三傑ヴァリアントサーティ】は単独任務へ、それ以外のクラスメイト27人は、それぞれの大陸に向かうことになる。しかし、ほかのグループはまだ準備がだいぶ掛かるため一番最初に彼のグループが【赤の大陸グランドレッド】へ向かうことになる


 彼らの任務は〔王都レッドキングダム〕の視察、可能ならば先発隊として第一アタックを仕掛けること。クラスメイトの全員が亜空間魔術を習得してるので、本人は移動できないがモンスターや城の兵士を呼び出すことが出来る


 彼のチームメンバーは女子二人。現実にいたときは喋ったこともなければ名前すら知らなかったが、今は共に戦う同士としてお互いに熱く信頼している


 彼らは3人で誓う、必ずこの任務を成功させると。このクラスメイト達の初陣を勝利で飾ると


 3人は【時の大陸クローノス】から魔道具船に乗り込む……見送りに来た仲間達の激励をその身に受けて、決意を新たにする




 船が出航して【赤の大陸グランドレッド】を目指す




 このときはまだ、あんなことになるなんて、思ってもいなかった





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コメント

  • ノベルバユーザー333647

    主人公に対する嫌悪と憎しみを持ち神には信仰の崇拝の気持ちを持つながらも人格には影響してない感じ?

    神の力が影響して潜在的に意識と認識を変えてしまってるんでしょうか?
    洗脳と言えば洗脳だけど、意識と認識を変えてしまっているなら神の力を失って洗脳解けても主人公に対して友好的にはなれないんじゃ?

    大丈夫か?

    0
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