ホントウの勇者

さとう

目覚め・黒猫





 『銃斗、起きなさい!朝ごはん出来てるわよ!』


 おはよう母さん……今起きるよ


 『おはよう銃斗、今日は遅かったな』 


 本を読んでたら日付が変わっててさ


 『読書もいいけれど、ちゃんと自己管理もきちんとしなさいね』


 はーい




 いつもの日常、いつもの朝、変わらない一日がはじまる。




───────────────


───────────


───────






 今のは………夢、か?


 目が覚める。俺は死んだはずじゃなかったのか?…起き上がろうとするが全く体が動かない。黒い粘つく雨がいまだに降り続いているため体が冷えきっている、なぜあの高さから落ちて生きているのかわからないが、こんな状態じゃ間もなく死ぬだろうな。死にかけているせいか痛みが全くないし、頭も冴えていた。死ぬまで少し時間があるし、いろいろ考えてみるか


 まず俺がこんなにも憎まれている理由は、シグムントの奴も何度も言ってた【銃神ヴォルフガング】とかいう神が俺の中にいるからなのは間違いない。この神様が金仮面のご先祖様と戦い、相討ちになってこの大陸が一度滅びた。そして何百年?か経って俺たちが異世界召喚されて、俺の中に初めて現れた。そしてこの大陸の生物全てが、遺伝子レベルで俺、というか俺の中の神様を恨んでいる。この大陸全てってことはもしかしたらクラスメイトたちも俺の事を恨んでいる? でもそんな何日かいただけでここまで憎まれるなんてさすがにおかしい。まさか……


 考えられる可能性はひとつ。あいつらが、何かしたんだ


 薬? 洗脳? そもそも俺たちを召喚して一体何をするつもりなんだ? 金仮面は『我らのために力を貸して欲しい』なんて言ってたけど、あそこにいた兵士は化物ゴブリンだし、どう考えても悪者サイドだ。じゃあ金仮面は魔王? もしかして俺たちは魔王の手先として呼ばれた?【銃神ヴォルフガング】が憎まれているのはこの大陸を滅ぼした?魔王を裏切って魔王をやっつけたから?でもこの大陸を滅ぼしてどうする? 


 そういえばあいつらが言ってた。この大陸……そうか、別の大陸…この世界はこの大陸だけじゃないはずだ!!




 ここまで考えていると、急激な眠気が襲ってきた




 ちくしょう。このままココで死んじまうのか……あのシグムントのクソ野郎だけはぶちのめしてやりたかった…………ん?


















《ニャーン》




















 猫の鳴き声が聞こえた気がした




───────────────


───────────


───────










 「あれ?」


 生きている? ここは……天国か?


 俺は起き上がり辺りを見回す、俺が寝ていた場所は太いツタのような木が絡まりあってドーム状になっている建物?の中だった。ツタのカマクラとでもいうべきか、中はそこそこ広くだいたい六畳間くらい、俺が寝ていた所に藁が敷いてあり、その上には葉っぱが敷き詰められている。藁布団のわきに、木をくり貫いた器が置いてあり、中には透明な液体が満たされている。天井を見ると、ガラスの器が吊るしてあり、中には光ビー玉みたいな物が入っていて、部屋の中を明るく照らしていた


 そこで気付いた、どういうことだ?……怪我が治ってる。切り傷も、折れた腕も剥がされた爪も、腫れ上がった顔も、どこも痛くない。それどころか体調が万全なくらいだ。そこで突然声が聞こえた。




 《起きたのネ、体は大丈夫?》




 びっくりして声のした場所───入り口を振り替える。しかし……誰もいない?




 《ココよ》




 また聞こえた……足元から。俺は視線を足元に移すと、そこには一匹の黒猫が俺を見上げて……喋った




 《元気になったみたいネ。〔治癒薬ポーション〕が効いたようネ〕




 俺はアホみたいに口をあけて目の前の喋る黒猫を見つめて叫んだ


 「ねねねね猫、猫が。猫が喋ったァァァァ!!」


 《猫じゃないわよ失礼ネ!! ワタシはクロシェットブルム。悠久の時を生きる魔猫よ》


 いやどーみても猫だろ、全身真っ黒の毛並みに長いしっぽ、瞳の色は紺色の50センチくらいの猫が普通に喋ってる。漫画やラノベの世界では美少女に変身するのがテンプレだが


 《言っておくケド、ワタシは変身なんかしないわヨ》


 心を読まれた残念です……ってちょっとまてよ


 「な、なぁ。お前さ……俺が憎くないのか?」


 シグムントの話が本当ならばこの猫も俺が憎いはずだ。しかし帰って来た言葉は


 《バカね、【銃神ヴォルフガング】の化身をこのワタシが憎むはずないでショ》


 

 俺はその言葉の意味を理解するのに10秒かかった。そして、今まであった数々の拷問、クラスメイトたちの罵声、死を覚悟して城から飛び降り死んだこと、それが全て胸から溢れて涙をこぼして嗚咽を漏らし、その場に崩れ落ちた


 「ううっウウァァっっ……おれ、死ぬ、かとおもっっ……モウ、だめかと、うあァァッ!!」


 黒猫は何も言わず、その場に居てくれた


 しばらくして俺は本来の調子を取り戻し、この猫にいろいろ聞いてみようと思った所で腹が盛大になった


 《話の前に食事にしまショ、それとアナタ匂うから外の川で服と体を洗ってらっしゃい》


 確かに匂う。かれこれ10日以上風呂に入っていないし、制服もボロボロ、血や糞尿がこびりついていた。外に出るとツタのカマクラのわきに、小さな川が流れていた。


 全裸になり体と髪の毛を徹底的に洗う、そしてそのまま制服をもみ洗いする。透き通るような小川の水が赤茶色に濁った。


 「それにしても、キレイな所だ」


 城の上から見た感じでは木々は黒く変色していたし、地面も紫っぽい感じだった。雨なんかコールタールみたいなねばつく雨だったのにここはまるで別世界だ。いや、強いて言うなら…同じ場所だけど、ここだけ時間が止まっているかのような……そんな印象だった


 全裸のまま服を持って、ツタのカマクラの中に戻ると、黒ネコがりんごのような果実を10個ぐらい用意していた。そして全裸の俺を見て呆れたように言った。


 《モウ、そんなだらしないカッコでうろつかないでヨ!!》


 そんなこと言ったってしょうがないじゃん。


 「なぁ、タオルかなんかない?」


 《タオル?…なにそれ?》


 この世界にはタオルはないのか、うーんそれじゃあ


 「えーと、体をふく布はないか?」


 《ナイわヨ》


 えーじゃあしょうがない。乾くまで裸でいるしかないか、と思っていたら


 《コンなの一瞬で乾くわヨ》


 と言う、黒猫がしっぽをくるんと回すと、青い紋章が一瞬浮かび上がった。そしてしっぽから青い光が飛んできて、俺と制服を包み込む


 「ななな……なんだぁ!?」


 マジでびっくりした。青い光が消えると俺の体と髪の毛、制服が乾いていた。制服なんて心なしかいいにおいまでする。


 《フフ…異世界人は【魔術まじゅつ】を見るのが珍しいようネ》


 魔術ってあの魔術か? ロープレで言う魔法だよな、すげえ……初めて見た。黒猫さんマジすげえ


 とりあえず乾いた制服を着てりんごモドキを食べてみる。なんだこれメチャクチャうまいぞ。味はりんごよりも甘く、蜜もたっぷり入っている。この果実だけで腹も満たされるし水分もとれるし今の俺にはピッタリだ。あ…やべ、また涙が


 《フフ、アナタ意外と泣き虫ネ》


 「うるせ、あそこの食事は思い出したくないんだよ」


 腹が一杯になり少し落ち着いた所で、黒猫───クロシェットブルムが話始めた


 《サテ、お互い聞きたい事がたくさんあるけれども、アナタのことを教えてくれない? 一体アノ城で何があったのかをネ》


 俺は城であった出来事を最初から全て話した。異世界転移したこと、【銃神】とかいう神様が俺の中にいること、金仮面のこと、シグムントのこと、拷問されたこと、クラスメイトが変わってしまったこと、処刑されることなり、城から突き落とされて今ここにいること、全てを語った。途中何度も泣いてしまって話が途切れたりしたが、黒猫はだまって聞いてくれた。俺の話が終わると黒猫は香箱座りのまま静かに言った


 《……辛かったわネ》


 「……うん」


 《安心なさい、モウ大丈夫ヨ》


 「うん……ありがとう」


 そう言って俺は静かに泣いた。黒猫のやさしさがとてもありがたかった


 もうかなり泣いたからだいぶ気持ちも吹っ切れてきた。今度は俺がいろいろ聞く番だ。何から聞こうか迷ったが、これから聞いてみるか。






 「【銃神ヴォルフガング】って一体何なんだ?」






 まずは俺の体にいる得体の知れない存在からだ。そう質問すると黒猫は語りだした




 《一言二言では語るコトは出来ないわネ、だから少し長い話になるワ》




 黒猫は一度だけ目を閉じる。そして




 《【銃神ヴォルフガング】はこのクローノス大陸を滅ぼした【魔神軍】最強の神にして最悪の裏切りをした神》


 











 《そして、この大陸を除いた8つの大陸を守るために戦った、ホントウの勇者よ》
 






「ホントウの勇者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く