ホントウの勇者

さとう

プロローグ

 ジリリリリ!
 やかましい目覚ましが鳴り今日も一日が始まる


「ふああァ・・・」


 漫画やアニメの世界ならかわいい妹や近所に住む幼なじみが起こしに来るが、
自分にそんな都合のいい存在はいない


 俺こと無月銃斗むつきじゅうとはいたって平凡な高校2年生。
身長175センチ、体重66キロの普通体型、顔もブサイクではないが特にイケメンでもない普通人。いつもと変わりない日常が、こうして始まる


 パジャマのまま一階へ降りるといいにおいがする…卵の焼けるにおいだ


「おはよう銃斗」 
「おはよう、もうすぐ朝ご飯できるわよ」


父親の無月信夫むつきのぶお 母親の無月祥子(むつきしょうこ)に朝の挨拶。眠いけど目をこすって背伸びする…まだ眠いや


「おはよう親父、母さん。あ、母さん目玉焼きは固めで」
「わかってる」


 母さんがほほえむ、いつもと同じ他愛のない会話だ
親父はリビングで朝刊を読みながら同時にテレビを見て、母さんは朝食を作りながら鼻歌を口ずさむ、そんないつもの光景を眺めながら冷蔵庫を開けてコップに牛乳をそそぎ、一気にのみほす。


「はあ…目が覚める」
「ふふ、ほらお父さん、銃斗、朝ご飯できたわよ」
「待ってました!祥子さんご飯は大盛りでおねがいね!」
「はいはい、ホラ銃斗も早く座って」
「はーい」


「「「いただきます」」」


 朝食のメニューは、ご飯大盛り・目玉焼き・鮭の切り身・野菜サラダ・みそ汁に漬け物と一般的なもの、どこの家庭にもありそうな一般的なもの。ザ・朝食
 ご飯を食べながら、今日の授業なんだっけと考えていると親父が


「今日、帰りが少し遅くなるかもしれないから、先にご飯食べてていいよ」
「あら…そうなの?」
「ああ。取引先に渡す資料を作らなくちゃいけないんだ、やれやれ」
「ふふ、頑張ってくださいねお父さん。おいしいもの作って待ってますからね」
「ありがとうね、祥子さん」


 なんだろう…朝からすごい暑苦しいし居心地が悪いな。俺のこと見えてる?
親父は一流企業のサラリーマンで課長クラス、母さんは専業主婦で特に生活に不自由はしていない。半年に1回は家族旅行に出かけてクリスマスや誕生日もきちんと祝い、お盆や正月田舎の実家に帰省する。今時珍しい仲良し家族だ


 朝ご飯を食べ終えて自分の部屋に戻り制服に着替える
自分が通っている高校は学ランなので着替えは簡単だ、俺はワイシャツを着ないでTシャツの上に直接学ランを着る
 時間を確認して充電器からスマホを抜きポケットに入れる。鞄を持って再び1階へおりてキッチンへ行くと、カウンターの上にお弁当が置いてある。母さんの方見るとにっこり頷いた。


「お弁当、忘れないでね」 
「うん、ありがとう。親父はもう出たの?」
「ええ、少し早めに出て仕事を始めればその分早く帰れるからって」
「なるほどね」


 そんな会話をしていると俺も家を出る時間になった。さて…ぼちぼちいきますか


「それじゃあいってきます!」
「いってらっしゃい」


 母さんが笑顔で手を振り、俺も軽く手を振り返す。
どこまでいっても当たり前の日常、いつもの光景が








 今日ですべてが終わるなんて思ってもいなかった。




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 通学路を歩いていると後ろから声を掛けられる。


「おっす、ジュート」
「おはよう、剣吾」


 後ろにいたのは同級生で同じクラスの金村剣吾かねむらけんご
身長185センチの細マッチョの剣道部所属のイケメンで、剣道の腕は全国クラスのすごいやつだ。俺とは小中高と同じ学校でクラスもずっと一緒だから一番の友達かもしれない


「いやー朝起きるのギリギリでさぁ、朝メシ食いそびれたんだよ」
「…それで?」
「すまん…何か恵んで下さい!!」
「朝一番で食べ物の催促かよ…」


 はぁ…とため息をつき、鞄からチョコスティックバーを取り出し剣吾に渡す


「サンキュー!さっすがジュートだぜ!」
「その代わり今日の昼飲み物オゴれよ」
「おっけおっけ」


 そんな風に話しながら歩いていると、学校についた
教室に入り、クラスメイトに挨拶をして自分の席に着く…あと10分ほどで朝のホームルームが始まる
 読書でもするか、と思い鞄から読みかけの文庫本を取り出し読み始めると剣吾が隣に来た


「まーた難しい本読んでんのかよおまえ、よく飽きないなぁ」
「飽きるわけないだろ、知識は心を豊かにするんだぞ、おまえもマンガばっかり読んでないでたまには文学に触れてみろよ」
「パス。俺は読書より運動してる方がいい」
「それなら朝の神聖な読書タイムの邪魔すんなよ」
「へーへーわかりましたよーだ」


 と、適当な返事をして剣吾は自分の席に帰って行く。すると入れ違いで一人の少女が教室に入ってきて、自分の席の隣に座った


「おはようございます、無月くん」
「おはよう、静寂しじまさん」


 彼女、静寂書華しじましょうかは手探りで机に触れ、イスに触れると背負っていたリュックを机の脇に掛けて杖も一緒に掛ける


 「あ!! ごめん、気づかなくて」


 そう言ってイスを引き彼女を座らせる。そう…彼女は盲目なのだ。過去にあった出来事がトラウマになり、視力を閉ざしてしまったらしい…何があったかはしらないが


「ありがとうございます無月くん。でもだいじょうぶですよ、目は見えないけれどどこに何があるかはなんとなくわかりますから」


 彼女はそう言うと鞄から点字の教科書を取り出し、授業の準備を始める。


 静寂さんのとなりの席になって1年経つけど、彼女は本当に何でも自分でやる。歩くのはさすがに杖を使って歩くけれど、授業はきちんと理解してるし、テストもいつも高得点、目が見えないというハンデを全く感じさせないし、しかもとても美人だ。日本人形のような黒髪のロングストレートは背中の中程まで伸ばしてあり清楚さが感じられる、肌は白く、顔は小顔でまつげがとても長く、常に閉じられた目がその可憐さを引き立てている。しかもスタイルもかなりいい、制服の上からでもわかる大きな二つのかたまりに目がいってしまう…おっといかんいかん


 そんな彼女としゃべるきっかけは同じ趣味を持っていることだった、すなわち読書。1年前…授業が終わり、放課後に借りた本を返しに図書室へいくと、なぜか図書室にカギがかかっていて入れなかった。おかしいなと思い、図書準備室という名の本の倉庫へ入ると静寂さんがいたのだ。いきなり人が入ってきて驚いたのか、おびえたような声で


「だ…誰?」


 といった、まあいきなり扉が開けられたらびっくりするだろうなあ。彼女はあきらかに怯えていたので急いで名乗った


「静寂さん…だよね、同じクラスの…俺、無月、無月銃斗。図書室に本を返しに来たんだけど、扉しまっててさ、どうしよっかなと思ってたらここの扉あいてたからさ、誰かいないかなって思って開けたら君がいてさ、えっと驚かせてごめんなさい、邪魔だったかな」


 ここまで一気に言い終えると静寂さんはポカンとした表情で俺がいる声のした方を見ると、次はクスリと笑う。


「今日は図書室のエアコン工事で部屋には入れませんよ、ホームルームでいってたじゃないですか」
「そうだっけ…聞いてなかった。じゃあ静寂さんはこんな所でなにやってんの?」


 素朴な疑問をぶつけると、彼女はちょっと困った表情で言う


「点字の本を探してるんです。図書準備室にある、というのはわかっているんですけど…なにぶん量が多くて。ふう……」


 彼女は目が見えないというのはわかっていたが、そうじゃなくても一人で探せる量の本じゃない、しかも点字の本なんてそんなにないはずだ。この中から探すのはかなり時間がかかるだろう…というかこの状況で「そっかがんばってね、じゃあね」と言えるわけもない、俺の心は決まった


「一人じゃ大変だし、俺も手伝うよ」
「え…で、でも」


 ちょっと警戒してる、まあいきなりだし当然だよなあ。よし勇気を出してちょっとクサイセリフをいってみるか。


「いいんだよ、今日は図書室で読書する予定だったし、図書室使えないんじゃあ帰るしかないしな、それに困ってる女の子を見つけて事情知ってそのまま帰れるほど腐っちゃいないんでね」


 ど、どうだ!いってやったぞ。くっそめっちゃハズいぞ


「あ…ふふ、ありがとうございます、じゃあ手伝ってもらおうかな」
「よしきた!まかせとけ」


 とそんな感じで仲良くなっていった、図書準備室で一緒に本を読んだり、好きな作家の話をしたり、彼女が読めない普通の本の物語を俺がしゃべったりと1年かけて仲良くなった。今でも図書準備室で放課後一緒に過ごす間柄だ。差し詰め読書メイトといったとこだ。そんな風に静寂さんとしゃべっていると、一人の女子生徒が近づいてきた。


「おっはよー!書華ちゃん、今日もかわい~ねえ!」
「おはようございます、黎明れいめいさん」


 女子同士のそんなやりとりが聞こえると、この女子…弓島黎明ゆみしまれいめいは俺の方を見るとため息をつきながら言う。


「はあ…ジュート、おはよ」
「おう」
「朝のあいさつはおはよう、ですよ」
「おはよう弓島さん」
「べつに言い直さなくてもいいよーだ!! バ~カ!!」


 弓島はなぜか俺にきつく当たる。腰に手を当てて俺を見下ろして睨み付けてくる。理由は不明だがこんなやつでも一応図書準備室の読書メイトなので気にしないでおく。弓島黎明は俺の頭ひとつぶんくらい小さい女の子だ。長い髪をポニーテールにしてぱっちりとした大きな瞳、顔の輪郭は小さく間違いなく美少女といえる。スタイルもなかなかよく、スカートから伸びる足はとても細く上半身もとても細いが、出るとこは出ていてまるでモデルみたいだ。スポーツも万能でいろんな部活に誘われているが、なぜか放課後は図書準備室で一緒に読書している、正直変わったやつだと思う


「ホームルーム始まるぞ、早く席に着けよ」
「ふん。わかってる、いちいちいわないでよ」


 そう言って弓島は席に戻っていく、同時にチャイムが鳴り先生が入ってきた。


「規律!礼!着席」


 日直のあいさつが終わり、全員が席に着く






 次の瞬間…… 教室は闇に包まれた。






 日常が終わり、非日常が始まる






 これは、俺・・・無月銃斗むつきじゅうとの物語





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コメント

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  • ノベルバユーザー284016

    文書力がとても高いですね。
    読みやすいです!
    頑張ってください!

    2
  • カラ

    規律×起立○

    0
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