竜と女神と

水無月六佐

つられる青年

 まあ、しかし、ここでダラダラと時間を浪費する暇はない。
 鍵を開けて家の中に入る。
「おかえりなさいですよ燐斗さん! お風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも……ぼ、く、さ、ま?」
 と、このように、ルナが目の前に立っているのは今日で四日目である。家に帰る度に毎日毎日このやり取りが始まるわけなのだが、さて……
 初日はご飯、二日目は風呂、三日目も風呂を選択した。まだ一度も選んでいないのは最後のアレなのだが……一体どうなるのだろうか。地味に気になる。しかし、竜子の件もあるので、軽はずみな発言は控えたほうがいいかもしれない。
「あ、じゃあ、ルナで」
 ……ま、冗談まじりに言ってみれば大丈夫だろ。できる限りの笑顔で、いかにも『冗談ですよー』という顔をしてみる。
「わっかりましたー!」
 ルナもにっこりと微笑む。さて、冗談はこの辺にしておいて……うん?
「どうしたルナ、俺の手首をガッチリと掴んで」
「へ?」
「え?」
 ルナは本当に訳が分からないという顔をしていた。


 ……まあ、結果だけ言うと、だ。冗談でも言って良いことと悪いことがあるということを学んだ俺だった。
「もー、ようやく僕様を受け入れる準備ができたと思ったんですよー?」
 と、頬を膨らませながらプンスカと怒っているルナ。
「いや、まさか本当にそういうことをやるなんて思わ……思わなかったし」
「なんですかさっきの間は! 薄々気づいていましたよね燐斗さん!」
 まあ、出会ってから幼女になるまでの短期間で何度も襲われそうになっているからな……
「まあ、ほら、幼女になったからあの溢れんばかりの性欲も少しは抑えられるようになったかと思ったんだよ」
 洗濯物とかは警戒してたけど。
「……燐斗さん、よく考えてください。僕様ですよ、僕様! 性欲は幼女になろうが衰えることを知らないんですよっ!」
「……ああ、そうッスか」
 ルナは性欲に関しては豪快に開き直っているのでどうしようもない。本人がそう言うのならもう諦めよう。
「寧ろこの一週間よく耐えたと僕様を褒め称えてほしいのですよっ!」
「ああ、うん、偉い偉い。たしかに、幼女化してからは割と大人しかったもんな。まあ、それが原因でちょっと油断したわけだけど」
「幼女と高校生の絡み合いはポルノ的に危なそうじゃないですかー」
 それが理由かよ! しかし、それだけの理由でよく一週間も耐えられたものだ。
「まあ、どこぞの18禁ゲーよろしく、『この物語に登場する人物は全員18歳以上です』的なフォローをいれればどうにでもできるんですけどねっ!」
 ……まあ、ルナの実年齢はウン千歳ウン万歳なのでそういうフォローもできなくはないが。
「ふむ、しかし、そういう注釈を入れておいて舞台が高校という謎エロゲもある」
 深々と頷く竜子。よりによってエロゲの話から会話に入ってくるんじゃねーよ。
「ってかお前ら、この一週間何やってたんだよ……」
 ルナは前から知っていたかもしれないが、竜子はそういう知識は皆無だったはずだ。
「家事をかんっぺきにこなした後にゲームですね!」
「吾輩は……うむ」
 俯く竜子。家事ができないことに負い目を感じているのかもしれない。早くバイトの事を話したほうがいいかもな……いや、今はそれよりも先に言う事がある。
 これは俺の命に関わる由々しき事だ。
「……と、いうか、二人とも」
「何ですか?」
「なんだ?」
「……降ろしてください」
 ルナの誘惑に負けた(?)俺は現在、竜子の制裁をくらい、天井からぶら下げられている。……脚がね、天井に突き刺さってるんですよ。俺、普通の人間なんでめっちゃくちゃ痛い上に割と意識が朦朧としてきているんですよ。
 二人は俺をじっと見つめた後に向き合ったと思ったら、『しかし、なんなんだろうな、あの設定は』とか、『抜きゲーは設定がぶっ飛んでいますもんねー』などと、再びエロゲ談義に花を咲かせやがっているので、俺は情けなく二人の様子を眺める事にした。

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