もののけモノノケOH!魔が通るっ!!
第無記:日ノ本妖怪保護組織・非伝院【一】
現在の時刻は午前十時。場所は大学の最寄り駅付近。
朝っぱら、と言うには少々遅い時間帯であると思うが、一限の講義を取っていない一人暮らしの大学生からすると、十分に早い時間帯だ。
「はぁー……」
しかし、そんな時間帯から俺は大きく溜息を吐いている。
原因はハッキリと分かっているのだが、だからといってすぐさま対応できるようなモノではない。
「オーッス! 幸成ッ! どうしたんだよ朝っぱらからそんなデケェ溜息吐いてさぁッ!」
「ああ、おはよう、聖生。ちょっと色々大変でさ……」
明るい声と共に後ろから肩を豪快に叩かれる。
炉 聖生。大学での唯一の友達だ。
その目つきの鋭さと体格の良さから得られる第一印象は率直に言って不良である。
明るい茶へと染め上げた髪を上げている事やピアスを付けている事など、他にも不良だと思われそうな個人的なポイントはあるのだが、一度話してみるとその話の面白さや人の好さによって好印象を抱く。そんな奴だ。
そもそも俺は彼のようなタイプの人物に話しかける事はないのだが、何らかの理由で仲が良くなったらしい。
どうしてもと言った用事で俺から話しかけたのか、同じような理由で向こうから話しかけてきたのか。
また、何時から仲良くなったという事すら、ぼんやりとしていて覚えていない。
まあ、今では彼と俺が友達だという事実があればそれでいい。
「色々大変って、何があったんだよ? オレでよかったら相談に乗ろうか?」
ああ、今はもっと考えなければならない事がある。相談に乗ってくれるというのならお言葉に甘えて話そう。
「それがさ、俺もお前と同じで一人暮らし生だろ? けど、大家さんから今日中にアパートを出ていくように言われてさ……」
そう、これが、俺の溜息の原因である。コレはハッキリとわかっているのだが、すぐさま対応するのは難しい。
「え、何かやったのかお前」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。何か『ワケ有り』って言った感じでさ……余程のワケがありそうで二つ返事で出ていく事にしたんだよ……」
大家のお婆さんの申し訳なさそうな顔を思い出す。アレは何か相当な事情があるに違いない。それならば俺が無理を言って居座らせてもらう訳にはいかないだろう。
「なるほどな……お前にとっちゃかなり酷い話だけど、まあ、家具を運ぶなら手伝ってやるよ。あ、いや、まずは住むところだな」
「ああ、そうなんだよ。住むところ、どうしようかなって……自分の家具とかは無いから引っ越しは楽なんだけどさ」
「え、家具無いのかよお前」
「ああ、自分のモノはこの鞄と中身だけだけど……?」
「は? お前の部屋に行ったとき、テレビとかパソコン、あったよな?」
「ああ、アレはアパートの家具なんだよ。俺のじゃない」
しかもあの部屋のパソコンに至っては使った事すらない。
「…………どうすんだお前」
しばしの沈黙の後、呆れたように目を細めながら聖生は言う。
ただでさえ目つきが鋭いというのに、今の表情を向けられたままだと何だか身体が縮こまってしまうような気分になる。
まあ、俺が素っ頓狂な事を口走ってしまったのかもしれないが。
「うん、だから悩んでてさ……講義が終わったら、今直ぐに住める賃貸探そうかなって」
「すっげぇパワーワードだな……そんなに焦らなくても、数日くらいなら俺の部屋に泊めてやるよ」
「……え? 本当か?」
「ああ、マジだよ」
流石聖生だ。名前の中に『聖』という漢字が入っているだけはある。名は体を表すって誰かも言っていたからな。
「それはありがたい……出来るだけ早く次の部屋を決めるけど、世話になってもいいか?」
「妖怪に興味のある方はいませんかーっ!」
「おう、遠慮するな。泊ってけよ」
……ん?
「……妖怪?」
「妖怪の保護を一緒にしませんかー!」
声は前方から聞こえてくる。
其処は、何時もならば宗教団体が無言で冊子を配布しようとしてくる場所の筈だ。
……いや、アレも宗教みたいなものなのかもしれないが。
「……チッ、何だありゃ。あんなもん相手すんなよ、行くぞ」
「あっ! 其処のキミッ! 妖怪に興味はないかいっ!?」
いや、何かこっちに来たんだけど!? 美人ではあるけれどさっきの言動的にあまり関わりたくないッ!
「んなもんねーよ。ほら、行くぞ。幸成」
幸いにも聖生が俺の手を引っ張って前へ進もうとしてくれたのだが、美女が俺達の行く手を遮るように仁王立ちする。
「はいザンネーン! キミには聞いていませーん! アタシが聞いたのはそっちの片目隠れの子でーす!」
片目隠れって……俺かッ!
「え、何で俺なんですか?」
「いや、ほらー? 何だかキミ、『今朝突然賃貸から放り出された』みたいな顔してたからさーっ! 心機一転、妖怪保護でもしてくれないかなーって思ってぇーっ!」
うわ、ヤバい人だ。
「いや、何でそんなピンポイントに人の事情を当ててくるんですか……というか、賃貸を探している事と妖怪保護? ってヤツは関係ないでしょ……」
「大方、オレらの話を盗み聞きでもしていたんだろ。コイツはどう考えてもヤバい。さっさと大学に通報しに行こうぜ」
「今キミとは話していないんだよ。さて、片目隠れクン。キミは『賃貸を探している事と妖怪保護』の関連性が無いって言ったね」
どうしよう。走って逃げた方がいいのだろうか。
しかし、この目の前の不審者が大人しく見逃してくれるとは考え難い。
「ええ、たしかに、そう言いましたけど……」
「キミが妖怪保護に協力してくれるんならウチの組織で住む場所を提供しようと思うんだ」
「!?」
おそらく今、俺の脳は大混乱状態に陥っているのだろう。
「しかも……タダでだっ! それになんとぉ! 妖怪保護の給料も出ちゃうんだっ!」
「詳しく話を聞かせてください」
きっとそのせいなのだろう。即答である。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいッッッ!!!」
聖生の咆哮はおそらく天まで届いている事だと思う。
朝っぱら、と言うには少々遅い時間帯であると思うが、一限の講義を取っていない一人暮らしの大学生からすると、十分に早い時間帯だ。
「はぁー……」
しかし、そんな時間帯から俺は大きく溜息を吐いている。
原因はハッキリと分かっているのだが、だからといってすぐさま対応できるようなモノではない。
「オーッス! 幸成ッ! どうしたんだよ朝っぱらからそんなデケェ溜息吐いてさぁッ!」
「ああ、おはよう、聖生。ちょっと色々大変でさ……」
明るい声と共に後ろから肩を豪快に叩かれる。
炉 聖生。大学での唯一の友達だ。
その目つきの鋭さと体格の良さから得られる第一印象は率直に言って不良である。
明るい茶へと染め上げた髪を上げている事やピアスを付けている事など、他にも不良だと思われそうな個人的なポイントはあるのだが、一度話してみるとその話の面白さや人の好さによって好印象を抱く。そんな奴だ。
そもそも俺は彼のようなタイプの人物に話しかける事はないのだが、何らかの理由で仲が良くなったらしい。
どうしてもと言った用事で俺から話しかけたのか、同じような理由で向こうから話しかけてきたのか。
また、何時から仲良くなったという事すら、ぼんやりとしていて覚えていない。
まあ、今では彼と俺が友達だという事実があればそれでいい。
「色々大変って、何があったんだよ? オレでよかったら相談に乗ろうか?」
ああ、今はもっと考えなければならない事がある。相談に乗ってくれるというのならお言葉に甘えて話そう。
「それがさ、俺もお前と同じで一人暮らし生だろ? けど、大家さんから今日中にアパートを出ていくように言われてさ……」
そう、これが、俺の溜息の原因である。コレはハッキリとわかっているのだが、すぐさま対応するのは難しい。
「え、何かやったのかお前」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。何か『ワケ有り』って言った感じでさ……余程のワケがありそうで二つ返事で出ていく事にしたんだよ……」
大家のお婆さんの申し訳なさそうな顔を思い出す。アレは何か相当な事情があるに違いない。それならば俺が無理を言って居座らせてもらう訳にはいかないだろう。
「なるほどな……お前にとっちゃかなり酷い話だけど、まあ、家具を運ぶなら手伝ってやるよ。あ、いや、まずは住むところだな」
「ああ、そうなんだよ。住むところ、どうしようかなって……自分の家具とかは無いから引っ越しは楽なんだけどさ」
「え、家具無いのかよお前」
「ああ、自分のモノはこの鞄と中身だけだけど……?」
「は? お前の部屋に行ったとき、テレビとかパソコン、あったよな?」
「ああ、アレはアパートの家具なんだよ。俺のじゃない」
しかもあの部屋のパソコンに至っては使った事すらない。
「…………どうすんだお前」
しばしの沈黙の後、呆れたように目を細めながら聖生は言う。
ただでさえ目つきが鋭いというのに、今の表情を向けられたままだと何だか身体が縮こまってしまうような気分になる。
まあ、俺が素っ頓狂な事を口走ってしまったのかもしれないが。
「うん、だから悩んでてさ……講義が終わったら、今直ぐに住める賃貸探そうかなって」
「すっげぇパワーワードだな……そんなに焦らなくても、数日くらいなら俺の部屋に泊めてやるよ」
「……え? 本当か?」
「ああ、マジだよ」
流石聖生だ。名前の中に『聖』という漢字が入っているだけはある。名は体を表すって誰かも言っていたからな。
「それはありがたい……出来るだけ早く次の部屋を決めるけど、世話になってもいいか?」
「妖怪に興味のある方はいませんかーっ!」
「おう、遠慮するな。泊ってけよ」
……ん?
「……妖怪?」
「妖怪の保護を一緒にしませんかー!」
声は前方から聞こえてくる。
其処は、何時もならば宗教団体が無言で冊子を配布しようとしてくる場所の筈だ。
……いや、アレも宗教みたいなものなのかもしれないが。
「……チッ、何だありゃ。あんなもん相手すんなよ、行くぞ」
「あっ! 其処のキミッ! 妖怪に興味はないかいっ!?」
いや、何かこっちに来たんだけど!? 美人ではあるけれどさっきの言動的にあまり関わりたくないッ!
「んなもんねーよ。ほら、行くぞ。幸成」
幸いにも聖生が俺の手を引っ張って前へ進もうとしてくれたのだが、美女が俺達の行く手を遮るように仁王立ちする。
「はいザンネーン! キミには聞いていませーん! アタシが聞いたのはそっちの片目隠れの子でーす!」
片目隠れって……俺かッ!
「え、何で俺なんですか?」
「いや、ほらー? 何だかキミ、『今朝突然賃貸から放り出された』みたいな顔してたからさーっ! 心機一転、妖怪保護でもしてくれないかなーって思ってぇーっ!」
うわ、ヤバい人だ。
「いや、何でそんなピンポイントに人の事情を当ててくるんですか……というか、賃貸を探している事と妖怪保護? ってヤツは関係ないでしょ……」
「大方、オレらの話を盗み聞きでもしていたんだろ。コイツはどう考えてもヤバい。さっさと大学に通報しに行こうぜ」
「今キミとは話していないんだよ。さて、片目隠れクン。キミは『賃貸を探している事と妖怪保護』の関連性が無いって言ったね」
どうしよう。走って逃げた方がいいのだろうか。
しかし、この目の前の不審者が大人しく見逃してくれるとは考え難い。
「ええ、たしかに、そう言いましたけど……」
「キミが妖怪保護に協力してくれるんならウチの組織で住む場所を提供しようと思うんだ」
「!?」
おそらく今、俺の脳は大混乱状態に陥っているのだろう。
「しかも……タダでだっ! それになんとぉ! 妖怪保護の給料も出ちゃうんだっ!」
「詳しく話を聞かせてください」
きっとそのせいなのだろう。即答である。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいッッッ!!!」
聖生の咆哮はおそらく天まで届いている事だと思う。
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