恋愛の女神に会ってから俺の日常が暴走している

丸石 つぶ

2… 女神、宣戦布告する

    スマホのアラームで目が覚める。昨日は無駄に密度の高い1日だった。
    今日は金曜日。明日が休みなので、なんとなく気が楽になる日だ。
    いつもの流れでほぼ無意識に準備を済ませる。
    よし、行くか。俺は玄関の扉を開け───再び閉めた。
「ちょっと、なんで閉めるんですか。開けて下さいよー。」
    これは閉めてもしょうがないと思う。
    玄関目の前で正座待機されたら誰でも扉を閉めるでしょ?
    だがしかし、
「あなたが今日学校に行く必要がある以上、この扉を開ける以外の選択肢はないはずです。さあ、早く開けるにです。さあ、さあ!!」
    こいつはどうせ、俺が出てくるまでここに居座るつもりだろう。
    窓から出ようにもここは三階だ。
    諦めて扉を開けると、自称女神がどや顔で立っていた。
「さあ、返事を聞かせて貰いますよ。」
「それ、学校終わってからでいいか?」
「ダメです。」
「あっそ、ならNOだ。」
「そう言うと思っていました。」
    なら聞くなよ。
「なので、私は別の形で提案したいと思います。」
「・・・・・・その話、長くなる?」
「場合によっては…。」
「なら、やっぱり帰ってきてからだ。なんなら、家の中にいてもいいから待ってろ。」
「分かりました。ただし、ちゃんと聞いて貰いますからね。なんならOKも貰います。」
「じゃ、おとなしく待っとけよ。」
    さっさと行かないと、遅刻したことがないのが密かな自慢なんだよ。




    学校に着いてから知ったのは、仲のいいやつがことごとく休んでいることだった。
    それとなく相談とかしようと思っていたんだが… 、まあしょうがないか。
    インフルエンザとかじゃないといいんだがな。




    学校が終わり、ただいま下校中だ。いつもならこの時間、特に金曜日なら憂鬱とは無縁なのだが、今日はこれからが大変だ。
    どうするかを考えながら帰宅していると、あっという間に家に着いてしまう。
    鍵を開けて家に入ると自称女神は「おかえりなさい」と言ってくる。
    「ただいま」と言うと調子に乗りそうなので言わないでおく。
「ただいまぐらい言ってくれてもいいじゃないですか。まあいいです。約束通り話は聞いて貰いますよ。」
「はいはい、聞くから一旦荷物を片付けさせてな。」
    のんびりと片付けていると、自称女神の方から早く早くといった視線が飛んでくるので、さっさと片付けて話を聞く準備に入る。
「もう話してもいいですよね?」
「ああ、いいぞ。」
    どうせ聞くまで帰らんしなこいつ。
「では。私ですね、あの後いろいろと考えたんですよ。どうしたらOKを貰えるか。ちょっとやそっと条件を足してもいいと言ってくれなそうですし。」
「そりゃ当然だな。」
「それでですね。私はあなたを勝手に落とすことにしました。」
「へーなるh──!!?! え、お前今なんて。」
「だから、勝手に落とします。それだけが私が勝てる唯一の方法です。」
    許可うんぬんはどういうことだったんだよ。わけが分からねえ。
「ですが、見習いの女神は、勝手に他者の運命に介入できません。そこで朝に言った別の形の案が出てくる訳です。」
    許可がでなければ介入できないから許可をとりに来てたのか。とりあえず納得。
「その案って?」
「それはですね。私はあなたにラブコメの主人公になれとは言いません。ただ、許可だけだして欲しいんです。私があなたに彼女を作らせようとすることに。」
「それで、はいいいですよって言うわけないだろう。」
「分かってます。だから、許可さえ出してくれれば、今後あなたの2次元ライフを最大限サポートする事を約束しましょう。どうですか。」
    今後ってことは死ぬまでと考えて良いのだろう。この自称女神がちょっかいをかけてくるだけで、俺はいつも通りの生活を送れる。
    悪くないように聞こえる。
    だが、一つ疑問が残る。
「なんで俺なんだ? お前が本物に見習いの女神だとして、これは、彼女をつくらせる、もしかしたら彼氏の場合もあるかもしれないが、そういう試験か何かなんだろう?他を当たった方が楽なんじゃないか?」
「・・・・・・やりましたよ。」
「え?」
「んなこととっくにやってるんですよ。あなたで5人目なんですよ。あなたがラストチャンスなんですよ。」
「え、5人目?」
    他の人でもことごとく失敗したってことか?
「そうですよ。5人目ですよ。私が当たる相手って、何故か恋愛をしたがらないのですよ。よりもよってあなたも。これで失敗したら女神になれませんからね、こっちも必死なんですよ。分かりました?」
「分かった、分かったから。俺はいつも通りの生活をしていいんだろ? それなら許可をだすから、一旦落ち着けって。」
    やばい、普通に怖かった。必死すぎるって。
「・・・えっと、そうですね。あなたの方から彼女を作ろうとする必要もラブコメっぽくする必要もないです。」
「ならいい、交渉成立。俺はお前に許可を出して、お前は俺の2次元ライフをサポートする、これでいいな?」
「はい!! ありがとうございます!!」
    すっげー嬉しそうだ。ここまでの笑顔は初めて見たよ。
「まあ俺としては、お前が女神だって信じきってないがな。」
「ふっふっふ。明日から覚悟しておいてください。全力でいきますから。すぐに信じることになりますよ。まあ、見習いですけど。」
「はいはい、分かったよ。」
    この時俺は、こいつがどれだけ本気なのかを理解していなかった。
    俺は、この判断を後悔することになることも。

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