赤いフェンリルとドラゴン

ザクキャノン

停戦と内部争い

 中国軍は宮崎県の防衛ラインを突破して都城駐屯地の自衛隊に降伏をするように呼びかけた。
 中国政府と高麗政府は九州半分を占拠して日本政府に降伏する様に呼びかけた。圧倒的な兵力と軍事力で九州民と九州に残っている自衛隊を人質に取ってわずかに占領されていない地域にいる自衛隊にも呼びかけが行われている。
 中高両国が山分け状態で出した賠償金と土地買収費用を日本政府に送り込み報復をしなければ何もしないという意思を伝えた。事実上、停戦を結び戦争は終結した。
 九州に潜入しているネイビーシールズ隊員に無線から作戦中止の命令が出た。
 「作戦中止ですって?ここまで敵の補給を叩いて任務も順調だったんですよ。」
    ネイビーシールズの隊長が口答えをする。
 「言いたいことは分かる。任務は中止して救出が来るまでどこか安全な場所で身を隠してくれ。」
    無線からはそう言われて途中で通信が途切れた。
 隊長にとって作戦中止の意味が理解できなかった。命がけで任務を遂行していく気でいたものの時はすでに遅く中止命令が出てくると言うことが。実際の現実問題として救出が来ることは当てにできない。
 近年、ヨーロッパでもNATO(北大西洋条約機構)軍に属している諸国も世界平和も守るために必要となる軍事費用をアメリカに上納していたが今では滞納していて軍備縮小もせざるを得ない国が増えていた。
 在日アメリカ軍も撤退の準備を進めてグアムやハワイに移動する準備まで始めている。
 東京のテレビニュースでアメリカ大統領であるトランポリンが会見をしていた。
 「我々アメリカ合衆国はアジアの仲間を見捨てたりはしない。」
   トランポリン大統領は最後にそう言い残した。
 高麗政府は核兵器開発を辞めるようにして対立していた諸国と少しずつ国交を回復しつつあった。イギリス、ノルウェー、アイスランド、フィンランド、ロシア、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリアなどヨーロッパ諸国と国交が結び東南アジアのラオスやカンボジア等も国交を回復している。
 植民地化された九州では抵抗を続ける自衛隊を残党と呼ぶようになり中国軍と高麗軍は残党狩作戦を始めていた。
 日本政府は中国と高麗の要求を呑むために九州にいる自衛隊に戦いを辞めるように命令を出したものの相変わらず生き残りによる戦いが繰り広げられていた。
 「俺たち日本政府に見捨てられたのか…関門橋は封鎖されて脱出できても逃亡罪か命令違反で捕まるのかもな。」
   生き残った自衛官が仲間に弱音気味に言った。
 日本国内には九州が占領されても自衛隊を一部しか動員しなかったことで国民から反発されデモ行進が行われたり外国人狩りが始まって治安が悪化しつつあった。
 九州に残った自衛隊は山奥や地下に潜伏して抵抗活動を行い地域住民の協力を得ながら破壊工作や妨害工作を行なっていた。
 作戦中止を言い渡されたネイビーシールズ隊員と秘匿部隊は中国軍に見つからないように行動して九州から脱出できる糸口を探している。
 九州の海洋は中国海軍と高麗海軍によって封鎖され関門橋には自衛隊と高麗軍が睨む合うように警備が付いていた。
 40レンジャー小隊にいた緒形は停戦したことを知らず高麗軍から逃亡する生活を続けてゲリラ戦を仕掛けていた。高麗兵は必死に緒形を追い、捕らえようと躍起になっている。
 M16自動小銃で武装した高麗兵を射殺して弾倉を奪って無線機を破壊した。
 北九州には日本の国旗が見られなくなりほとんどの建物に高麗旗が立って完全に占領されたことを悟った。
 小倉南区の田舎町では潜伏していた自衛隊残党による抵抗活動が活発化して高麗軍の機械化歩兵部隊に多大な被害が出ていた。
 北九州方面軍は残党狩りを辞めることなく自衛隊残党と交戦している。
 方面軍長は小倉北警察署に本部を置き自衛隊残党が目撃された場所を地図で示してマークしていた。
 秘匿部隊は非正規戦で中国軍の占領地域でレーダーを破壊して移動を始めた。未だに見つかっておらず集落の奥で動きを観察しているところに女性兵士が目の前に現れる。
 チャンが隠れているところに大きめのカエルが動きを止めており女性兵士がそれを見つめていた。そしてもうひとり女性兵士が現れてずっとチャン達が隠れている場所を見つめていた。
 ターは願うように見つめながら見つからないように祈る。
 女性兵士はずっとこちらを見つめてチャンと目があった。女性兵士が叫び出しもう1人の女性兵士の手を引っ張って向こうへ走り出した。
 「不味い。報告されたら厄介だ追うぞ!増援まで来られたらひとたまりもない!」
   チャンはそう言って仲間と女性兵士を追った。
 女性兵士が逃げて追った先には仲間の中国兵が分散するように集まっておりチャン達と遭遇した中国兵が慌てて銃に弾を装填しようとした。
 ダンがM4A1自動小銃を連発で撃って中国兵を射殺する。ターは死角でぶつかった中国兵をナイフで刺して拳銃を奪ってから駆けつけてきた兵士を射殺していった。
 秘匿部隊はそのまま銃を撃ちながら森林へ逃げてこんだ。
 「全くついてないぜ。おそらく増援が来る。遠くへ逃げるぞ。」
    レイは仲間にそう言って支援射撃をして退却をうながした。
 中国兵は追って来てジュンがMP5サブマシンガンで迎撃をする。中国軍の車両が現れて増援の兵士が降りて機関銃で攻撃して来た。
 機関銃の弾がジュンの肩と首に命中してしまった。ジュンは倒れて口から血を溢すように吐き出した。最後の力を振り絞りながら片手でMP5サブマシンガンを撃ちながら突撃してくる兵士を射殺して弾が切れた頃に幻覚を見始めた。
 目の前に派手な衣装を着て弓矢を持ったディズニー映画で見るような綺麗な女性が見えて弓を撃たれる寸前で手を差し出そうとしながら息を引き取った。
 中国兵は相互に連携して米軍秘匿部隊を追って山間部を取り囲む。元香港警察特殊部隊員のエディソンが手榴弾を中国軍の群れに投げ込み兵士を爆殺した。
 「数が多すぎる!」
    ターが叫びながら射撃して次々に来る中国兵を撃ち殺していく。
 獣道を通り越えて草花で生い茂った場所に逃げ込んで中国軍の射撃から運良く逃げ延びた。
 中国兵達はシュンの死体を回収して憲兵と共に車に乗せてから移動を始めた。
 「どうやらこれは西側のMP5短機関銃のようです。この銃を使うとすれば自衛隊か警察の精鋭部隊でしょう。」
    調査をしていた憲兵が銃の細部を見ながら説明をしている。
 「自衛隊の特殊部隊かどうかは分からんが様々な場所が撹乱されて部隊が混乱している。一刻でも早く奴を捕まえないと俺たちに未来はない。作戦を立て直すぞ。」
    中国軍の士官が下士官に言った。
 トランポリン大統領の決断で日本に駐留しているアメリカ軍はほとんど撤退して規模を減らしてから基地からは輸送機が飛び立ち残存の部隊もいつでも撤退できるように準備をすすめている。
 日本政府は中国政府と高麗政府の要求どおりに九州を譲渡した。日本本土の平和と安全のため九州を犠牲にするしか選択肢がなかったのであった。
 中国領と高麗領に分かれた九州では抵抗する自衛隊残党や市民団体をテロリスト認定して見つけ次第、逮捕して処刑すると中国政府によって宣言されたことがニュースになった。各空港は封鎖され便が来ないまま静けさで溢れかえっている。
    長い間、沈黙を続けていた陸上自衛隊水陸機動団が隠密作戦による攻勢に出てレンジャー小隊が中国軍の施設を制圧し始めた。長年に渡る過酷な訓練の成果が今一度、試される時が来たのだった。
 狙撃班が検問に当たっている中国兵の頭を撃ち抜いて無力化してレンジャー小隊要員が前へ進む。キャンプ場がある山の方向へ向かい暗視ゴーグルで前進方向の安全を確かめた。
 キャンプ場までの坂道は長くいつどこで敵と出くわすか分からない恐怖に翻弄されながらも道無き道を進んでいき目的地付近までたどり着いた。
 キャンプ場には中国軍の駐留野営地が展開されて敷地内には土嚢が多く積まれて近くには兵士が警戒に当たっている。
 レンジャー小隊の隊員が匍匐前進して隠密に忍び込み銃剣で後ろから羽交い締めにして中国兵の首を切って息の根を止めた。
 「分隊長!見張りを制圧しました。」
    制圧した隊員が報告をする。
 バンガロー付近に集結して各小屋に5人で突入準備をしてからガラスを割って煙幕弾を投げ込んだ。
 「突入!」
    分隊長が合図の掛け声を出す。
 隊員は素早く突入して至近距離射撃を始めて中で慌てている中国兵を射殺してから制圧したことを確認した。
 「第一バンバロー、制圧を確認。異常無し。」
    レンジャー小隊隊員は他の隊員にそう言って外へ出た。
 後発が来るまで中国兵の遺留品や文書、武器装具を調べて必要になる資料は全て小隊長が把握して回収する。
 中国海軍と陸軍は港や軍施設となった建物に対空ミサイルやレーダー機器を配備して宮崎県の太平洋沿いには対艦ミサイルや対舟艇対戦車ミサイルの陣地を設置した。
 福岡県北九州市では生き残りの1人である緒形が相変わらずゲリラ戦を仕掛けて高麗兵を倒していき軍部からは「見えない暗殺者」と比喩されるまでになった。高麗軍の間でも緒形の存在を知らずただ仲間が殺されていることに恐怖と怒りを覚えていた。
 今日は九州高麗自治区開設祝福パレードが行われることになり軍隊や警察隊が小倉北区の復興に成功した街で行進するイベントが行われた。
 民衆が見ていたりする前では警察隊の護衛官が背広姿でテロ対策の警備や巡回を行っていた。緒形は自衛隊に味方する住民から貰った私服を着た状態で大きめのバッグに自動小銃を上手く隠して軍の将校を狙撃できるポイントを探した。
 「見えない暗殺者がいつどこで現れるか分からん。沢山の将校や高官がいるんだし殺すチャンスはいつでもあるからな。」
    護衛官の大男が仲間に話かけた。
 「俺の同期と先輩もそいつに殺されたさ。幽霊になって化けて出てくれりゃどんな感じだったか聞きたいぐらいさ。」 
    仲間と思われる護衛官が周囲を警戒しながら言った。
 緒形が狙撃ポイントから護衛官を眺めていたら雑談をしている警備と目が合いそうになった。とっさに隠れて上手い具合に姿を消して第二希望の場所へ移動する。
 高麗軍の機械化歩兵部隊、装甲車、対戦車ミサイル搭載車両、警察隊、警察隊緊急展開部隊が行進をして本格的なマスゲームが始まっていた。
 緒形は消音器付きのHK416で300メートル先から照準具で狙いを定めて息を吸って吐いて自分の気持ちを落ち着かせる。
 アクロバット機が飛行する音とともに引き金を引き制服姿の高麗軍大将の額を撃ち抜いた。
 民衆は騒然として逃げ出し護衛官が他の要人を伏せさせて拳銃を構えながら周囲を警戒する。
 「暗殺者を探し出して排除しろ!」
    護衛隊隊長が他の護衛官に強く言った。
 護衛官の1人が射程を確認して撃たれたと思われる場所を頭の中で割り出して部下を連れて緒形が撃ってきた場所に向かって行く。
 緒形は路地を早歩きで移動して遠くから来た護衛官を射殺した。
 「とうとうバレたか。捕まれば確実に公開処刑だな。」
    緒形はそう言って護衛官と警察隊による追跡から逃れた。
 あまりにも反政府活動をする自衛隊残党の攻勢が酷いことに堪忍袋の尾が切れた高麗政府は秘密裏に朝鮮系が多い大阪府に特殊工作員を送り込んで行くことを決意した。
 日本の漁船に見せかけた(五十土丸号)と言われる船に特殊工作員が乗り込んでとうとう出航した。
 目的地は京都府沿岸で在日中国人や高麗人がいる地域だった。
 ミリタリー色に近い私服を着た特殊工作員達は海上保安庁の警備を掻い潜り日本海を横断している。海上保安庁の立ち入り調査隊が来て彼らの船中を捜索し始めた。
 「君たちはこの日本海で何をしていたのだね?」
   立ち入り調査隊の隊長が工作員に聞き出す。
 「私たちは漁業をしていたんです。」
   工作員は質問に答えた。
 「どう見てもそのようには見えないんだが…」
    立ち入り調査隊長はしかめっ面をして言う。
 調査中の海上保安官が隙を見せた瞬間に特殊工作員達は隠し持っていたナイフや拳銃で立ち入り調査隊員を射殺したり刺殺して着ている制服や装備品を剥ぎ取って死体を海に捨てた。
 「奴の制服に着替えるぞ!」
   特殊工作員のリーダーは部下に命令してフル装備の状態に海上保安官に変装をした。
 海上保安官に扮した工作員達は海上保安船に乗り込んで乗組員を殺害して京都府沿岸に向かった。特殊工作員は京都府を横断して大阪府に向かう目的で沿岸に登れば残りは大阪府まで行くつもりだった。
 京都府の地域である舞鶴市の沿海に上陸して土台人の用意したバンに乗り込んだ。
 そこから警察の検問を避けながら兵庫県を渡って大阪府に時間かけて到着して現地の浸透工作員と合流した。
 「これから県警本部庁舎を占拠する。日本人同志もおり元警察官や元自衛官も助っ人で来るそうだ。人種と国籍が違うだろうけど仲良くしてくれ。」
    浸透工作員のリーダーであるゼム少佐がメンバーに伝えた。
 元警察官の永松洋介は元警察官のメンバーを取りまとめ元自衛官の草凪謙二郎が元自衛官の面子を取りまとめた。
 永松洋介は元警察官で特殊部隊SAT隊員で草凪謙二郎は元自衛官で中央即応連隊の出身だった。
 永松は警察刑事部の不正と悪事を告発しようとして逮捕され懲役6年の刑期を終えて出所して草凪はいじめ、パワハラモラハラの事案を隠蔽する自衛隊組織に不満を募らせて2年前に退職していた。彼らに賛同した日本人の要員は世の不条理さは日本政府の責任にあるとして復讐心をつけ上がらせていた。
 アジトで武器や装備品の準備をしてゼム少佐の元で全員が作戦成功を誓って敬礼をする。
 大阪府警本部庁舎に清掃員を装った工作員が潜入して10人ほどの要員が銃器を取り出して近くにいる警察官や職員を射殺し始めた。後から黒いSUVから迷彩服やカーキ色の服を着た武装集団が降りて来て作業服姿の工作員と合流する。
 工作員と武装集団達は各階に上がってき抵抗する警察官を射殺していき武道場に手榴弾を投げ込んだ。
 官僚を人質にして官僚の伝令業務をしていた職員を殺害する。
 工作員達はM16自動小銃やMP5サブマシンガンで次々に武装した警察官を容赦無く射殺していき管制室を制圧した。
 府警所属のSAT隊員が急いで銃を出して先手を打とうとするも裏をかかれてIEDと言われる即席爆弾で逆襲されてほとんどの隊員が絶命した。
 警備課の警察官が工作員につかみかかるがもうひとりの工作員に蹴り飛ばされて射殺される。
 「これから貴様達は人質になってもらう。」
    草凪は官僚達に銃を向けて言った。
 電話線と通信線は切られ応援も一切呼べないようにされ携帯電話は全て没収された。
 「君達はいったい何が望みなんだ!金か!それとも我々に恨みでもあるのか!」
    官僚の1人が草凪に叫ぶ。
 偶然、車の物損事故を起こした住民が警察に電話が繋がらないため出頭して来た事で最寄り街の警察署から様子を見に内部観察室の刑事が府警本部庁舎に向かった。
 遠くから光が見えると同時に若手の相棒が狙撃されて死亡して早速、謎の武装集団に占拠されたことを悟った。
 「新道が狙撃されて死んだ。府警本部が占拠されてるようだ。」
   刑事は報告をした。
 大阪府警は騒然として現実を受け入れ難い雰囲気が漂っていた。
 各機動隊に所属しているSAT隊員と銃器対策部隊、機動隊が出動することになり各部隊で連携してトラックやバンに乗り込んだ。
 ゼム少佐は永松にUSBカードを渡した。
 「我が連邦の同志に協力していた刑事のリストも入っているし汚職データや裏金の情報もある。」
   ゼム少佐は永松に伝える。
 SATが到着して府警本部に潜入した。フロアを前進して2階に上がったところで過半数の隊員が同僚であるはずの隊員にMP5Jサブマシンガンの銃口を向け始めた。
 「おい、何のつもりだ!?頭おかしくなったか?きちがったのか!」
   他の隊員が混乱して銃口を向けて来た隊員に怒鳴った。
 銃口を向けていた過半数隊員は仲間であるはずの残りの同僚全員を殺害した。
 「そろそろ合流のお時間だ。」
    迷彩ヤッケを着た工作員の男が覆面を脱いで携帯電話でSATの反乱部隊に連絡した。
 それぞれ部隊は整列をしてゼム少佐に敬礼する。
 「府警本部の警察官、職員を射殺。官僚と上層部の人間を人質に取ることに成功しました。しかし情報源となりえる警備課の要員と内部監査員は抵抗して指示に従わなかったのでやむなく殺害してしまいました。」
   迷彩ヤッケを着た工作員はゼム少佐に報告をした。
 「銃器対策部隊の隊員も我々が反乱起こす事は無いと思いずっと待機しているはずです。警察の上層部はバカですからね。」
    SAT反乱部隊の小隊長である虎丸隊長が元自衛官の草凪に言った。
 「それはどこも同じさ。近々、九州が陥落したことを機に闇雲に乗じてクーデターを起こすつもりさ。知人で九州がやられた事に出動命令を出されなかった事に不満を持った幹部がいるんでそいつをうまく利用してやるよ。」
    草凪は虎丸にニヤつきながら言った。
 一方、クーデターを起こす要員となってる自衛官が当直を終える頃の早朝に武器出しをすることを反乱部隊の幹部から申し受け別働隊は分屯地や駐屯地火薬庫から弾薬受領を始めていた。無理がある場合は廃棄工場から処分予定の残弾を盗み始めた。
 補給倉庫にいた陸士の自衛官を反乱部隊の隊員が脅し始める。
 「よお、新教でも陸教でも出来なくても頑張ってる奴を責めて潰したゴミ虫め!まだ自衛隊にいたのか。」
    反乱部隊員は銃剣を突きつけて文句を言い始めた。
 「人がいい奴が消えて人を蹴落とす悪い奴が生き延びる不条理な世だしな。お前みたいな奴が多いせいだよ。全ては。」
    他の反乱部隊員が陸士の自衛官を蹴っていびり続ける。
 「ここにある補給品の一部をよこせ!」
    反乱部隊員はそう言って物品を奪って私有車に積み込んだ。
 「お前はお金に困り高麗のスパイに官給品の自衛隊グッズを売った罪悪感で自殺したということにしておこう。これで少しはお前による仕打ちで潰れて辞めたやつや自殺した奴に対する贖罪になるだろうよ。」
   そう言って陸士の自衛官を後ろから遅いロープで首を絞めて殺害した後、空き部屋の天井で首吊り自殺したように見せかけて隠蔽をした。
 長い時間をかけて補給品を手に入れてクーデター決行の現在、総出訓練と称した名目で武器を持ってフル装備の状態、その他は売店で購入した装具を身につけて車両を出して大阪府官公庁舎に前進する。
 「不条理な理不尽さに立ち向かうとはいえ高麗軍に頼んでも大丈夫なんですかね?」
    反乱部隊の陸士隊員が先輩隊員に聞いた。
 「敵の敵は味方ってところだな。奴らの手を借りるのも一つの手なんだろうよ。」
    先輩隊員は陸士隊員の質問に答えた。
 官公庁舎に来た自衛隊車両から反乱部隊が降りてきて警戒態勢で待機している機動隊の集まっている場所へ個人携帯対戦車弾を撃ち込んで撹乱して道を切り開き抵抗して来る機動隊員を手際よく制圧して戦闘に最終の決を与えた。
 「警察に垂れ込んでも無駄さ。ほとんど機能しないからな。」
   反乱部隊の自衛官が9ミリ拳銃を構えて警備員を脅した。
 反乱部隊が発射した擲弾が一台の警察車両をすざましい勢いで爆発させる。
 「おお、さすがだぜ!自衛隊の飯食って服着てるだけはあるな!」
    反乱部隊の作戦実行役の高鍋俊司3曹が興奮して言った。
 政治家達は頭が混乱して知事も府警本部庁舎と官公庁舎が占拠された現実を受け入れることができなかった。
 「車両は部隊名を隠している自衛隊車両のようだがどうやら戦争の次は内乱が起こったようだな。」
   西国原知事は完全に頭を抱えていた。
 人質には警察庁官もおり庁官は1人だけ工作員の監視下における場所に隔離されている。
 他の警察署から機動隊が派遣されて人数が補えないところでは近くの県から増援が来ていた。愛知県からSATが送られてずっと車両の中で待機している。
 「二つの場所に同時多発的に占拠事件が起きるとはな。」
    警察署長は官公庁舎と府警本部庁舎の内部映像を見ながら何もできないことに劣等感を感じていた。
 「たった今、犯人と連絡を取ることができました!」
    通信手が警察署長に伝達した。
 「我々は占拠した府警本部庁舎を統括している人民連邦軍のゼム少佐でる。まずは元自衛官の草凪からの要求を受け入れることと元警官の永松よ要求を聞いてもらうぞ。お前らの対応次第で人質の運命が決まることだろう。」
    ゼム少佐は警察署長に冷静な口調で言った。
 ゼム少佐の声明が終わると次は草凪が写っているビデオ通話に変わる。
 「見ているか?さっき言った通り官公庁舎を占拠させてもらった。要求は自衛隊内部の不正、汚職を全国に公表することだ。お前らもそうだし組織自体こすいところがあるからな。防大でのいじめの隠蔽のように迂闊なことすれば俺らが取ってる人質を殺すかもしれないし全国の工作員と反乱軍が武装蜂起することになるだろう。」
   反乱部隊の最高指揮官である草凪はカメラ越しに対面者を鋭い目つきで見ながら犯行声明を出す。
 陸幕二部の隊員が情報資料を持ってきて警察署長に全てを話し始めた。
 「反乱部隊のリーダーですが彼は草凪謙二郎。元陸上自衛隊中央即応連隊出身でレンジャー資格もありましたが3等陸曹を数年続けて退職しております。退職の動機はよく分からない状態ですね。」
    陸幕二部の隊員はみんなに分かるように話す。
 草凪の要求は全て防衛省や統合幕僚監部まで話が行き組織内は騒然としていた。
 「そんな馬鹿な!不祥事のことを全国に公開したら国民の心情がどうなるか!ただでさえ九州が高麗と中国共産党に占領されたと言うのに!」
   統合幕僚長は頭を抱えていた。
 「今、情報保全隊が内乱を起こした自衛官と草凪についてお調べしております。分かり次第、お伝えします。」
    伝令の隊員が統合幕僚長に伝える。
 「草凪と入隊同期で仲良かった奴をよこして欲しい。数人ぐらい交渉人として説得した方が良さそうだ。」
    統合幕僚長は伝令に言った。
 情報保全隊の要員が草凪の個人情報となる書類から交友関係を割り出し全自衛隊から仲良かった同期を探り当てた。
 「華咲、外山、徳丸、岩永、逢坂か。そいつらに頼もう。いや、華咲は反乱部隊の実行部隊だったな。てことは4人になるな。」
   情報保全隊は4人がいる駐屯地に問い合わせをした。
 反乱部隊は官公庁舎の屋上に対空機関銃を設置して出入り口に土嚢を積み立てて前方に向けて87式対戦車誘導弾を設置する。
 「直々、警察の機動隊と特殊部隊が来てもおかしくない頃だな。」
   ベテランの反乱部隊員が現場指揮官に話しかけた。
 「大阪府警のSATのほとんどは俺らの同志となるわけさ。他県から送り込まれたところでヘタに動けないわけだからな。」
    現場指揮官はベテラン反乱部隊員に言った。
 人質の1人となっている待機中の警察官達が上手い具合に拘束を解いて反乱部隊に掴みかかった。
 「この!何をする!」
   反乱部隊員が突き飛ばされた反動で89式自動小銃で警察官達を連射で射殺した。
 銃声を無線越しに傍受した草凪は驚く。
 「おい、勝手に射撃したやつは誰だ!許可した覚えは無いぞ!」
    草凪は怒鳴った。
 「すみません。大道曹候が人質の警察官に突進されたため、止む無く射殺しました。」
   反乱部隊員で大道曹候の同期である隊員が報告をした。
 「これ以上、殺害は許されんぞ。後々のことを考えろ!」
    草凪は注意した。
 実際、米軍はほとんど撤退しており残っていても内戦不干渉として介入はしてこない。総理大臣は自衛隊の1部隊でレンジャー有資格者もしくは特殊作戦群出身者を招集して人質救出と犯人確保又は排除を申し出た。
 「おい、起きろ!非常事態だ。」
    「高麗軍と中国軍の進撃か?現役の特戦を送れば最もだろ!」
    「つべこべ言わず準備しろ!クーデターだ!」
    「いったい、誰が敵なんだ!?」
    招集された精鋭自衛官は直ちに準備を始める。
 

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