忘れし者と異世界姫の英雄譚
第一話 お仕事
どうも皆様、はじめましての方ははじめまして。
それ以外の方はお久しぶりでございます。私三浦涼桜と申します。
この小説は現在執筆中である【進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~】のリハビリのために書き上げた作品であり、完成度としてはお粗末なものになっているかもしれませんが、お読みいただければ幸いです。
いつも同じ夢を見る。
周りは火に包まれており、木の焼ける独特の匂いが鼻を衝く。
木の下敷きになっている男の人と、それを必死に救おうとする初老の男の人。
僕の手を引いてこの場所から必死に逃げようとする女の人。
僕は女の人に手を引かれながら、後ろを振り返る。
燃え盛る家の後ろに、炎で包まれた巨大な何か。
それが何なのか、この時の僕にはわかるはずもなく。
ただそれが、僕たちに悪いことをするものだと朧気ながらも理解した。
しかしながら残念なことに。
今の僕は、この記憶に登場する人物たちの顔も声も思い出せない。
何せ僕は。
この時のことを一切覚えていないのだから。
* * *
「…………」
また、同じ夢だ。
これでもう何度目だろうか。
相も変わらず、夢に出てきた人たちが誰なのか僕には全く分からない。
今更知ったところでどうすることもできないのだが。
「っといけない、もうこんな時間だ」
現在の時刻は午後9時。ここに来たのが大体3時ごろだったから、昼寝してから6時間も経っている。
「ちょっと寝すぎたかなぁ。さっさと用事済ませて帰らないと」
よっ、と活を入れて飛び降りる。
膝をクッションにして無事着地。
「やっぱり高いところで眠るのは気持ちがいいよねぇ」
僕は呟きながら空を見上げる。
空の約4割を占めるであろう巨大な赤い月が地上を照らしている。
「今日は満月か……いい夜になりそうだねぇ」
そうして僕は歩みを進める。
周りは木で囲われているためほとんど真っ暗であり、唯一の明かりは月の淡い光のみである。
しかも今日は”ブラッドムーン”。赤い光が照らす森は、非常に怪しげな雰囲気を醸し出している。
ブラッドムーン。その名の通り、地に濡れたような赤い月のことである。
なぜこんな現象が起きているのか、あらゆる説が提唱されているが実際のところは不明である。
別にブラッドムーンが起こることで天災が起きたりだとか怪奇現象が発現したりするわけではないのだが、非常に不気味である。
森の中をまっすぐに進むと、大きな屋敷が見えてきた。
「随分と大きな屋敷だなぁ。やっぱりお金持ちの人は格が違うねぇ」
そう言いながら、僕は手に持っていた髑髏のヘルメットを頭に被り、羽織っているコートでしっかりと体を覆ってフードを目深に被る。
さぁ、お仕事開始だ。
* * *
「やめて、やめてぇぇぇぇ!」
「もっとぉ、もっといい声でなけぇぇ!」
男が女に鞭を何度も振り下ろす。
叩かれるたびに女は体を跳ねさせていたが、力尽きたのか、もう鳴き叫ばなくなった。
「ちっ、もう死んだか……女はいい悲鳴をあげるが体が弱いのがなんてんだなぁ」
男は恍惚とした笑みを浮かべながらそう呟いた。
何を隠そう、この男こそが屋敷の主である。
この男はちょっとした資産家であり、国家議員とのパイプを使って貧しい人々を誘拐しては人体実験やら拷問を繰り返している。
本来なら許されざる行為なのだか、彼が資産家であることなど様々な要因によってこれを黙認している。
「明日は確か資産家同士で会食があったな……今日はもう寝るか」
そう言って拷問部屋から出て寝室に帰ろうとした時。
異変に気付いた。
静かすぎるのだ。
確かに時刻は午前一時を回っており、屋敷で働いているものもほとんどは就寝してはいるだろうが、それでも護衛や残業しているものも少なからずいるのだ。
「何かあったのか?」
そう呟いてみるも、その問いに答えるものは誰もいない。
男は誰かいないか、屋敷中を歩き回る。 
しかし誰も見つからない。
どうなっている?
なぜ誰もいない?
「一体何がどうなっている……?」
「さぁて、どうなっているんでしょうか?」
答える者がいた。
しかも、その声は自分の真後ろから発せられているのではないか?
振り返ろうとした瞬間、男の意識は闇に堕ちていった。
* * *
「一丁あがりっと」
僕は被っていたハードを脱いでヘルメットを外す。
やはり大きな屋敷だということもあり少し時間がかかってしまったのは否めないが、まあ許容範囲だろう。
僕はポケットから携帯を取り出す。ある人物を呼び出すためだ。
「やぁ、お仕事は終了したからもう出てきてくれて大丈夫だよ」
そう一方的に告げて電話を切る。
その直後、窓などないはずなのに生ぬるい風が頬に触れた。
のと同時に右前の柱から人影が生まれる。
「いつも通り、時間ぴったりに仕事を終わらせるのね」
ゆったりとした速度でこちらに歩み寄ってくる人こそ、僕が呼び出した人物。
通称、運び屋。
文字通り死体を回収して解体屋に運ぶ仕事をこなす者たちのことである。
「今日は少し時間がかかっちゃったから、いつも通りとは言えないけどね」
「たった5分程度の差なのね。そこまで凹むことでもないと思うのね」
そうは言うが、こっちだってプロ意識でやっているのである。
時間通りに仕事を完遂したほうがかっこいいだろう。
「そんな男魂みたいなのは知らないのね」
ところで、と彼女は続ける。
「今日は随分ときれいなのね。いつもはもっと汚くしてるのに」
そういわれて僕も周り見渡す。確かに周りには一切血が飛び散ってない。
「そうかな? いつもこのくらい綺麗でしょ?」
「嘘つくのね。いつもだったら周りに血が付着して掃除するのが大変なのね。こんなに綺麗にできるなら普段の仕事も綺麗にしてほしいのね」
「そう言われてもなぁ……」
僕は頬をかく。
普段の僕はともかく、仕事をしているときに僕はまるで別人のようだと仕事仲間にもよく言われる。
なんでも仕事をするときは、冷酷で残忍な目をするのだとか。
「確約はできないけど、善処はしてみるよ」
「そこは確約してほしいところなのだけど、まあ仕方ないのね」
さてと、と彼女は背中に背負っているリュックを下ろし、中から黒い箱を取り出した。
「『クロ』、お仕事の時間だよ」
彼女がそう言った瞬間、黒い箱は自らゆっくりと蓋を開き始めた。
いかがだったでしょうか。
リハビリ作品ではありますが、感想いただけると幸いです。
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