炭酸
第5話
文化祭、外からのお客さんも来る土曜日。
昨日友人と話して、今日、ここで、告白の判断をしようと思った。なんて上からなんだ、とは思うものだが、そう言ってられないくらい辛い。
「多田さん」
昨日、出店の手伝いを友人に頼まれて仕方なくした結果、それなりに話せるようにはなった。
「何?ひーちゃん」
「多田さん、それはやめてって」
クスクス、と多田さんが笑うので僕もそれに合わせて笑った。大分いい感じな気がする。
「それで……」
「うん」
多田さんが待ってる。早くしなきゃ。喉で突っかかってる。あとちょっとなのに。ゴホンゴホン、とわざとらしくもむせこんで、顔を十分に赤くしながら、
「今日、一緒に回りませんか?」
言っちゃった。もう、後戻りはできない。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
うーん、と数秒考え込んで、やっと多田さんは結論を出してくれた。この数秒が、有罪か無罪かの判決の緊張さに似ていてここで運命が決まるのかと思いながら、待っているのが怖い。……はよ!長い。多分、僕と行けない理由か、もしかしたらもしかしたら、スケジュールをなんとか埋めてくれているのかもしれない。
「────いいよ!一緒に行こう!」
そうか、とほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、
「でもどうしよっかな~」
と、危ない冗談をいってくれるもので、
「お金出してくれるなら、いこうかな」
え?僕が驚いた顔を見せた途端、
「嘘だよ!嘘!」
キャッキャと笑う。男を弄ぶのが好きらしい。
「じゃあ、行こうか~。私、昼過ぎには仕事入ってるから、それまででいい?」
「全然!構わないよ」
僕のクラスの模擬店は、簡易喫茶。コーヒーや、パン、クッキーなど手のかからないものを出す予定だ。彼女は、そのウェイトレスなのだ。
「ここよっていい?」
お化け屋敷。せっかくのデートだ、よらないわけがなかろう。
僕は、必死に耐えた。血塗られたゾンビや、切り刻まれたゾンビ、べちょべちょな死体。
「わっははは。あんなに、ビックリして、頼りないなぁ。わはははは」
「僕、怖いものそんなに好きじゃないんだよ」
「まぁ、楽しかったよ!次あそこ行こー」
そういって、彼女は僕の手を握って指差した方向へと進んでいった。かぁ、と熱くなる。その熱でいくらか手汗をかいた。心臓のおとが聞こえているんじゃないかって、怖かった。
二軒目は、女装男装カフェ。今となっては、やり尽くされてしまったネタではあるのだろうが、刺激的だった。
「チョコバナナパフェくださーい!」
「ご注文は以上になりますか?ご主人様!」
少し趣旨は違ったが。
それを男子がやるので、僕と彼女は、笑い堪えるのに必死だった。
「なんで、一つだけ頼んだかわかる?」
「まさか……」
「その通りでございます!店員さーん、スプーンもう一個ちょーだい」
さすがにあーん、はしなかったが、それなりに大きかったので、二人で食べても満足のいく量だった。
なにより、彼女との会話が楽しかった。
僕と笑いの好みも似ていて、彼女がその笑いに付き合ってくれている、と感じられるのが何より嬉しかった。
でも、何か僕には足りなかった。彼女との大切な時間を満喫しようと力んでいたのかもしれないが、なにか僕を常に不安にさせるのだ。その不安は、多分相手もわかっている。相手もわかっていて、それをわからない、と誤魔化しているのが何より溝は深いんだな、と感じさせた。彼女とは、昨日今日の仲なのだ。場の読める彼女に気を遣わしているに違いない。
そのあと数軒軽く昼食を取って、別れた。
今日の目的は達成できたので大満足だった。一抹の不安を残して、僕は、笹木さんに会いに行った。
「笹木さーん、いる?」
図書室には、人の気配はなく、この扉の中と外で別世界のように感じた。
笑顔で手を振ってくれたお陰で彼女の居場所を確認できた。
奥まった本棚の下にちょこん、と彼女は、座っていた。
「駄目だよ?大声だしちゃ」
「ごめん、ごめん。ところで、なに読んでるの?」
「秘密❗」
「そっか。笹木さんは、どっか見た?」
ううん、と彼女は首を振る。
「時間まで、結構あるけど、どう?いかない?」
「多田さんと楽しんできたんでしょ?今私が行っても二番煎じになっちゃうだけだよ」
「ま、たしかにそっか」
「そこは、否定しないんだ~」
「まぁねぇ~」
図書室に、静かな笑い声が混ざる。
「ほんと、いいよね」
とボソッと彼女がいった。僕は聞き取れなくて、
「え?何が」
と返したが、
「なんでもない」
で、答えてくれなかった。
二人の会話の間に笑い声が入る。
このほっこりした気持ちが僕は、好きだ。
笹木さん以外とは味わえない。友人とだって、こんなに和んだことはない。
これが、僕の好きな雰囲気。
理想とはまたちょっと違う。このだけは、二人は嘘偽りのない話ができる。普段の嘘で塗り固められた会話から抜け出して、本心を僕は言える。彼女が手櫛で彼女の髪をわしゃわしゃとした。シャンプーのレモンの匂いがその場に漂った。
その後も、たっぷり話し込んだら、結局どこにもいかずに時間が過ぎてしまった。
放課後、僕は告白をすることを決めた。
昨日友人と話して、今日、ここで、告白の判断をしようと思った。なんて上からなんだ、とは思うものだが、そう言ってられないくらい辛い。
「多田さん」
昨日、出店の手伝いを友人に頼まれて仕方なくした結果、それなりに話せるようにはなった。
「何?ひーちゃん」
「多田さん、それはやめてって」
クスクス、と多田さんが笑うので僕もそれに合わせて笑った。大分いい感じな気がする。
「それで……」
「うん」
多田さんが待ってる。早くしなきゃ。喉で突っかかってる。あとちょっとなのに。ゴホンゴホン、とわざとらしくもむせこんで、顔を十分に赤くしながら、
「今日、一緒に回りませんか?」
言っちゃった。もう、後戻りはできない。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
うーん、と数秒考え込んで、やっと多田さんは結論を出してくれた。この数秒が、有罪か無罪かの判決の緊張さに似ていてここで運命が決まるのかと思いながら、待っているのが怖い。……はよ!長い。多分、僕と行けない理由か、もしかしたらもしかしたら、スケジュールをなんとか埋めてくれているのかもしれない。
「────いいよ!一緒に行こう!」
そうか、とほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、
「でもどうしよっかな~」
と、危ない冗談をいってくれるもので、
「お金出してくれるなら、いこうかな」
え?僕が驚いた顔を見せた途端、
「嘘だよ!嘘!」
キャッキャと笑う。男を弄ぶのが好きらしい。
「じゃあ、行こうか~。私、昼過ぎには仕事入ってるから、それまででいい?」
「全然!構わないよ」
僕のクラスの模擬店は、簡易喫茶。コーヒーや、パン、クッキーなど手のかからないものを出す予定だ。彼女は、そのウェイトレスなのだ。
「ここよっていい?」
お化け屋敷。せっかくのデートだ、よらないわけがなかろう。
僕は、必死に耐えた。血塗られたゾンビや、切り刻まれたゾンビ、べちょべちょな死体。
「わっははは。あんなに、ビックリして、頼りないなぁ。わはははは」
「僕、怖いものそんなに好きじゃないんだよ」
「まぁ、楽しかったよ!次あそこ行こー」
そういって、彼女は僕の手を握って指差した方向へと進んでいった。かぁ、と熱くなる。その熱でいくらか手汗をかいた。心臓のおとが聞こえているんじゃないかって、怖かった。
二軒目は、女装男装カフェ。今となっては、やり尽くされてしまったネタではあるのだろうが、刺激的だった。
「チョコバナナパフェくださーい!」
「ご注文は以上になりますか?ご主人様!」
少し趣旨は違ったが。
それを男子がやるので、僕と彼女は、笑い堪えるのに必死だった。
「なんで、一つだけ頼んだかわかる?」
「まさか……」
「その通りでございます!店員さーん、スプーンもう一個ちょーだい」
さすがにあーん、はしなかったが、それなりに大きかったので、二人で食べても満足のいく量だった。
なにより、彼女との会話が楽しかった。
僕と笑いの好みも似ていて、彼女がその笑いに付き合ってくれている、と感じられるのが何より嬉しかった。
でも、何か僕には足りなかった。彼女との大切な時間を満喫しようと力んでいたのかもしれないが、なにか僕を常に不安にさせるのだ。その不安は、多分相手もわかっている。相手もわかっていて、それをわからない、と誤魔化しているのが何より溝は深いんだな、と感じさせた。彼女とは、昨日今日の仲なのだ。場の読める彼女に気を遣わしているに違いない。
そのあと数軒軽く昼食を取って、別れた。
今日の目的は達成できたので大満足だった。一抹の不安を残して、僕は、笹木さんに会いに行った。
「笹木さーん、いる?」
図書室には、人の気配はなく、この扉の中と外で別世界のように感じた。
笑顔で手を振ってくれたお陰で彼女の居場所を確認できた。
奥まった本棚の下にちょこん、と彼女は、座っていた。
「駄目だよ?大声だしちゃ」
「ごめん、ごめん。ところで、なに読んでるの?」
「秘密❗」
「そっか。笹木さんは、どっか見た?」
ううん、と彼女は首を振る。
「時間まで、結構あるけど、どう?いかない?」
「多田さんと楽しんできたんでしょ?今私が行っても二番煎じになっちゃうだけだよ」
「ま、たしかにそっか」
「そこは、否定しないんだ~」
「まぁねぇ~」
図書室に、静かな笑い声が混ざる。
「ほんと、いいよね」
とボソッと彼女がいった。僕は聞き取れなくて、
「え?何が」
と返したが、
「なんでもない」
で、答えてくれなかった。
二人の会話の間に笑い声が入る。
このほっこりした気持ちが僕は、好きだ。
笹木さん以外とは味わえない。友人とだって、こんなに和んだことはない。
これが、僕の好きな雰囲気。
理想とはまたちょっと違う。このだけは、二人は嘘偽りのない話ができる。普段の嘘で塗り固められた会話から抜け出して、本心を僕は言える。彼女が手櫛で彼女の髪をわしゃわしゃとした。シャンプーのレモンの匂いがその場に漂った。
その後も、たっぷり話し込んだら、結局どこにもいかずに時間が過ぎてしまった。
放課後、僕は告白をすることを決めた。
コメント