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ソフトクリームと氷菓

Pman

ソフトクリームと氷菓

「今年の夏は、また一段と暑い」と呟いた。


画面の小鳥は涼しそうで、腹が立った。


近くのコンビニで買ってきたソフトクリームと氷菓を袋から出して、右隣にいる奴に差し出した。





「ありがとう」
と、お礼を言って棒についた氷をガリガリと奴は食べ始めた。


コンビニ裏の道を何分か歩いて、木陰のあるコンクリートの地面に直に座った。蝉のいる下に座ったのか、五月蝿かった。
木陰のお陰で、コンクリートはあまり熱を持っていなくて、尻まで我慢することはなかった。
ガリガリとペロペロ勢いよく食べ、一息ついたときに、


「なぁ、文哉は、この世に生きてる意味ってあると思うか?」


蝉がいる下でそんなことを言うなよ、と思ったけれどまぁどうでもいい。


「なんで、急にそんなことを聞くんだ?昂樹は、今の生活に満足じゃないのか?」


「満足かどうかは今は置いといて、俺たちが生きる意味ってあると思うか?」


「そんな急に言われても。それは、あるんじゃないか?子供を産むにしろ、夢を叶えるにしろ、意味はひとそれぞれにしても、生きる意味ぐらいは、あると思うけどな」


「俺は、生きててあんまり楽しくないんだ」


また急だな、とでかかった声に口を閉じた。その発しそうになった声に怒気が含んでそうで、怖かった。
昂樹は、勉強もできるしスポーツもできる。顔もそれなりに整ってはいるし、学校の友達後輩からの信頼も厚い。
一通り、持つべき者なのに、そんな世の中に文句を言う彼が少々腹立たしかったのだ。


「文哉は?」


氷を最後まで食べきった彼が僕に問う。
空は、青く、雲はわずかに浮かんでいたが快晴と言ってもいいほど。木の上で涼しく泣いている蝉も静かになった。


「まぁ、現実に文句はあるけど、生きてて楽しくないって訳じゃない……かな」


「そうか。お前は楽しいんだな」


「まぁ、そうも言う」


ソフトクリームのコーンを食べ終え、カップを袋に入れた。ガサゴソという音に同調したのか、蝉もミーンと音を出す。
その音に暑苦しい!と吠えた。


「昂樹も一人前に恋してみれば?きっと楽しいかもよ?」


「俺は、そういうのにあまり興味がなくてな」


「いつも女子に囲まれてるから、感覚が麻痺しちゃってんのか、なんて羨ましいことやら」


「別に嬉しくもなんともねぇよ。そういうのも含めて、人生に意味がないと思ってる人種だからな」


「昂樹はなんで、意味がないと思うんだ?」


「無意味。人生、何したって何も残らないからな」


「そうか。そう思いきって、行動すると最初から何も手に入らないと思うけど」


「だろうね。実際、今の俺には何もない」


「学力と体力だけはある癖に」


「お前も大概だろ」


「お前の劣化版にすぎないけど」


「女子にはモテてるくせに」


「はあ?誰にだよ?お前と違って、声かけてくれる女子いませんしー。てゆーか、大杉さんと最近、イチャイチャしすぎだろ」


「違うな。お前のことで相談されてるんだよ」

「はあ?マジで言ってんのかオメエ?嘘ついたら挽き肉にスッぞ」


「はい、マジマジ。話戻すぞ」


「マジか……」


頬が紅潮して、背中が暑くなる。昂樹にこれを見られるとなんか恥ずかしい。


「もうちょっと、教えてくんない?」


「嫌だよ」


目に力を入れて拒絶された。


「まぁ、お前が楽しければそれでいいや」


「でも、死んだら何も残らないって、今思ったんだけど、お前が死んで残される家族がいるわけだろ?そしたら、何も残らないって言うのはあっていませんねー」


「まぁ、家族を作れたらの話だがな、文哉。俺が言いたいのはな、死んでまた次の人生のときは前世の記憶も、金も家族もいないだろ?ほら、何も持ってない。死んで、天国があるかどうかもわからないし」


「お前がとことん現実主義者だってわかったよ」


「人間が特別視しすぎなんだ。そこら辺の生き物が死んでも、天国とか考えない癖に家族が死んだりしたときだけ、天国のことを考えて救われようとしてさ。自分達で燃やして骨だけにてるって言うのに。魂とか、どうとか考えて、人間だってただの生物なのにそれ以上の価値を見いだして。人間平等を掲げるなら、全生物平等だし。蟻一匹死ぬのと、人が死ぬことは同じようなもんだし」


「ああ、もういい、わかったよ!」


「ほんとか?」


「あー、うん。まぁ」


強制的に会話を止めて、間が持たなくなる。自然と、二人は目の前の道を走る車に目を走らせた。道路に面した家のブロック垪に隠れて、自転車や歩行者がいるのに車が気づきにくい。今も、危なかった。


「あれ、危ないね。気を付けないと」


ほら、そろそろ帰るぞと催促されて立ち上がった。陰を出れば、暑い日光と格闘しなくちゃいけないし、もう少しいたいのを引っ張られてコンビニにごみを捨てにいった。


二十分後に、「アイスをおいしかった」とどうでもいいことを呟いて、「じゃあね」と近くで別れて、その日は帰った。



嗚呼暑いよ。
もう一度ここに来たときは、時間帯か、日の角度が前と違ってコンクリートに日が射していた。


前と同じように、僕は、ソフトクリームと氷菓が入った袋から氷菓を取り出して彼に渡した。
今度は何も言ってくれなかった。
地面には、暑くて萎れた花束が手向けとして幾つかあって、添えるように地面に置いた氷菓が、熱を持ったコンクリに徐々に溶かされていくのを感じた。溶けるスピードに合わせるように、ソフトクリームを舐めた。持ち帰るのにどうしようか、と思ったのでソフトクリームを食べた後、コーンを残して、ほぼ液体となった、水色の液体を飲んだ。


ああ!!頭が痛いのを必死にこらえた。
キーンとなってから体が寒くなり、日光に当たろうと歩道に出た。体が熱せられる。


彼は、ここの通りで亡くなった。車側の飲酒運転で命を落としたのだ。彼は、この世にそもそも未練なんてないような性格だから、死因はなんでもよかったらしい。でも、彼のひきつった顔をみたときにやっぱり怖かったんだな、と思ったし、彼の唯一の心残りでもあろう、彼女のことが悲しくてしょうがなかった。死に化粧を施された彼の顔は、口角が無理やり上げられていた。残念だった。事故で死んだ人間に笑わせるなんて。頭のほうはずいぶん大変だったとか、そんなどうでもいいようなことだけを言ってくる。

画面の小鳥に、
「今年の夏は、また一段と暑い」と呟いた。






          

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