コップの中の漣
コップの中の漣
私が見つけたその写真は、私と彼とクラスの友達が映っている文化祭のときの写真だった。撮った人は、たしか……彼の学校違いの友達だったはず……。
「あなた!さっきの写真撮ってくれたのってあなただったの!?」
夫はニコッと笑った。
そうか、全て繋がった。
夫は、私の高校の生徒ではない。
夫は、彼の高校違いの友達で、彼の一番の親友だった。なぜ、覚えてくれてなかったのだろう。
「あなた、私わかったかもしれない」
夫が優しく微笑んだ
「彼に会わせて!」
「それは、できないんだよ」
「なんで?」
「あいつは、死んだ」
「いつ?」
「2年前」
「私たちが結婚した年じゃない。だから、来なかったのか……。どうして教えてくれなかったの!」
「あいつは、ずっと俺とおまえのことを考えてくれたんだ。ずっと、ずっと。心残りだったおまえをどうしても幸せにしてやりたいって。だから、あいつの苦労を壊したくなくて、ずっと黙ってた」
「だからって……」
夫は一息ついて続けた。
「あいつはもともと病気を持ってたんだ。あいつの病気は、あいつの身内以外は俺しか知らない。当然君にも黙ってたんだろう。甲子園に行けなかったのも、病気が悪化して、力を出せなかったって、言っていたよ。本当は、医者にも止められていたらしいんだ。無理を言って出させてもらったって言ってた。君が条件を破ってまで会いに来てくれることは、嬉しいけれど、日に日に弱くなっていく俺を見ていてほしくなかった。あいつは、いつも気丈に振る舞っていただろう?」」
涙をすすり上げる私を見て、
「今日はもうやめにするか?」
「嫌、ちゃんと話して……」
「うん。麦茶、覚えているか?ライムをいれた……」
「うん。私はそれで、彼と繋がったの」
「あいつは、あのとき嘘をついていたんだよ。俺は、あいつにおまえとのことをほとんど話していたから」」
「じゃあ、彼が高校生っていうのは、嘘なの?」
「そうだ。あの麦茶は俺たちだけの、大切なまじないだったんだ。俺たちだけでは、一回も成功したことないけど。それを君に教えていたとは知らなかったなぁ。恥ずかしいけどあいつは俺と君が結婚するか躊躇ってたってことも知ってたんだよ。それを知った上で、本気でくっつけようとしてたんだ」
もう、声もでない。のに、なぜか涙だけポロポロと落ちて、拭っても拭っても、それは落ちて、そらは、鬱陶しいんじゃなくて、ただただありがとうって言いたくて、それができないことがただただ悔しくて。
「俺は、あいつに一つだけ任されたことがあるんだよ」
「なに?」
押し入れの前で泣く私に夫は抱きついた。
「君を守れって」
私は、夫の腕のなかで優しく包み込まれた。
「落ち着いたかい?」
「うん」
私が落ち着くまで、ずっと夫は慰めてくれた。
「席座ろっか。ちょっと待ってて」
椅子に座って、グショグショになった服に顔を沈めていると、夫が冷蔵庫から麦茶を出してにきた。
「ほら」
「うん」
しょっぱかった。
子供の声に呼ばれて、私は母として現実に戻った。
あと17年はこいつの世話をしなくちゃいけないと思うと、なんだか少し不思議な気分になった。
夫が窓を開けた。
ベランダから、涼しい風が運ばれた。
ライムの匂いがした。
「あなた!さっきの写真撮ってくれたのってあなただったの!?」
夫はニコッと笑った。
そうか、全て繋がった。
夫は、私の高校の生徒ではない。
夫は、彼の高校違いの友達で、彼の一番の親友だった。なぜ、覚えてくれてなかったのだろう。
「あなた、私わかったかもしれない」
夫が優しく微笑んだ
「彼に会わせて!」
「それは、できないんだよ」
「なんで?」
「あいつは、死んだ」
「いつ?」
「2年前」
「私たちが結婚した年じゃない。だから、来なかったのか……。どうして教えてくれなかったの!」
「あいつは、ずっと俺とおまえのことを考えてくれたんだ。ずっと、ずっと。心残りだったおまえをどうしても幸せにしてやりたいって。だから、あいつの苦労を壊したくなくて、ずっと黙ってた」
「だからって……」
夫は一息ついて続けた。
「あいつはもともと病気を持ってたんだ。あいつの病気は、あいつの身内以外は俺しか知らない。当然君にも黙ってたんだろう。甲子園に行けなかったのも、病気が悪化して、力を出せなかったって、言っていたよ。本当は、医者にも止められていたらしいんだ。無理を言って出させてもらったって言ってた。君が条件を破ってまで会いに来てくれることは、嬉しいけれど、日に日に弱くなっていく俺を見ていてほしくなかった。あいつは、いつも気丈に振る舞っていただろう?」」
涙をすすり上げる私を見て、
「今日はもうやめにするか?」
「嫌、ちゃんと話して……」
「うん。麦茶、覚えているか?ライムをいれた……」
「うん。私はそれで、彼と繋がったの」
「あいつは、あのとき嘘をついていたんだよ。俺は、あいつにおまえとのことをほとんど話していたから」」
「じゃあ、彼が高校生っていうのは、嘘なの?」
「そうだ。あの麦茶は俺たちだけの、大切なまじないだったんだ。俺たちだけでは、一回も成功したことないけど。それを君に教えていたとは知らなかったなぁ。恥ずかしいけどあいつは俺と君が結婚するか躊躇ってたってことも知ってたんだよ。それを知った上で、本気でくっつけようとしてたんだ」
もう、声もでない。のに、なぜか涙だけポロポロと落ちて、拭っても拭っても、それは落ちて、そらは、鬱陶しいんじゃなくて、ただただありがとうって言いたくて、それができないことがただただ悔しくて。
「俺は、あいつに一つだけ任されたことがあるんだよ」
「なに?」
押し入れの前で泣く私に夫は抱きついた。
「君を守れって」
私は、夫の腕のなかで優しく包み込まれた。
「落ち着いたかい?」
「うん」
私が落ち着くまで、ずっと夫は慰めてくれた。
「席座ろっか。ちょっと待ってて」
椅子に座って、グショグショになった服に顔を沈めていると、夫が冷蔵庫から麦茶を出してにきた。
「ほら」
「うん」
しょっぱかった。
子供の声に呼ばれて、私は母として現実に戻った。
あと17年はこいつの世話をしなくちゃいけないと思うと、なんだか少し不思議な気分になった。
夫が窓を開けた。
ベランダから、涼しい風が運ばれた。
ライムの匂いがした。
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