異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…
第5日目〜変化〜
目が覚めると、隣に麗馨の姿は…無かった。
「やっべぇ寝過ごしたな…」
「お、起きたか湊。おはよー」
「おう、おはよ。今何時?」
「んー、今七時半」
「麗馨はいつから起きてたんだ?」
「私は六時くらいかなー。湊起こそうかなとか思ったけどさ、幸せそうに寝てるし、ドッペルゲンガーの事で精神削られてるだろうから起こさないでおいてあげたの」
「そっか…何から何までありがとな」
「いいんだって。私は、あなたの彼女だよ?」
少しはにかみながらそう言う麗馨は、天使のように可愛かった。
「はい、ご飯出来たよ」
「おう、ありがと」
俺のためにここまでしてくれる麗馨に、俺も応えなくちゃな…今日の戦闘も頑張るか。そう決意を固める俺であった。
麗馨の作る料理は美味しかった。
所変わって、舞台は戦場。俺たちは相変わらず皆に避けられ続けているが、戦闘を放棄する訳にはいかない。
その時、敦が叫んだ。
「今から俺が魔物を拘束するから、みんな攻撃してくれ!」
その数秒後、魔物の身動きが無くなった。麗馨も敦に加勢している。
しかし、現実とは無情なものだ。悲しい哉(かな)、攻撃する者はいなかった。
「みんな、そうやっていつまでも逃げて、命が助かるとでも思ってるの?相手はこんなに強いんだから、どうせ死ぬのが関の山じゃん!やる事もやらずに死ねるの?麗馨と敦に何か言われてるのかもしれないけど、そんな二人が今、死ぬ程頑張ってんだよ︎」
薫が急に叫んだ。拘束は尚も続いている。
「私は、何もしないで死ぬのは嫌だし、敦や麗馨に応えたい。だから、やる。やってやる」
薫はそう言って、棘(とげ)だらけの魔物の身体に、右手で触れた。
「うっ…」
幾(いく)つもの棘が薫の手を蝕(むしば)んでいるのだろう、薫は苦痛に顔を歪めた。薫の手からはもう、血が流れている。
その時、訪れるべき変化は訪れた。魔物の身体が小さくなり始めたのだ。徐々に徐々に、しかし、確実に。そして、20メートル程あった魔物の身体は、30センチ程になっていた。ここまで有利な状況が、かつてあっただろうか。拘束こそ続いていないが、元から短足だった魔物は小さくされたせいで余計に移動できる範囲が狭くなり、魔物から放たれる火球も、当たったところで痛くも痒(かゆ)くもない。魔物が一人芝居をしているようで、ひどく滑稽にさえ見えた。
「っしゃ、あとは任せろ!」
ここまできたらやるしかない。というか、余裕で勝てるだろう。俺は、たった三十センチの魔物を踏みつけた!
「やったか⁈」
横で敦が声を上げる。
「いや、やってない!右見て右!逃げてるよ!」
右を見ると、魔物が必死の形相で逃げていた。麗馨の動体視力は大したものである。俺は慌てて後を追った。
「湊!攻撃するのはいいけど、気を付けて!それ、一定時間経つと大きさが元に戻っちゃうんだ!もうそんなに時間はないよ!」
薫が俺の背中に警告をぶつける。
「なあに、大丈夫だって!」
返事をしている間にも、魔物との距離はどんどん詰められ、遂に追いついた。今度は魔物の正面に回り、そのまま蹴り上げる!
今度こそ完全にヒットし、魔物はどこかに吹き飛ばされていなくなった。
「よし!」
「やったぁ!」
俺と麗馨が歓喜の声を上げた。
「いや、ちょっと待て。多分魔物は死んでない」
そこに制止をかけたのは敦だ。
「え、でも攻撃はちゃんと当たったじゃんかよ」
「いいから魔物から離れろ!」
敦が喚いた、その刹那。
「ぐるぁぁあああ︎」
魔物がこの世の物とは思えない奇声ならぬ雄叫びを発し、巨大化し始めた!そのまま火球を吐く!
「危ない!」
敦は薫、俺は麗馨を突き飛ばし、俺はそのままの流れでローリング、敦は前方倒立回転をして避け、何とかその場を凌(しの)いだ。
物陰に隠れると、薫がいた。
「おお、湊か…よく麗馨を守ったね」
やるじゃーん、と、背中をバシバシ叩かれた。
「痛い、痛いって…まぁ、その…なんだ。俺は全力でやっただけだよ」
「そっか」
それ以上の会話はなく、俺も薫も、魔物の動きに注目している。
こうやって冷静に周りを見てみて初めて気が付いたが、結構な人が物陰に隠れていた。その中には我が友人、髙木諒磨の姿もある。
「俺、他の人らの様子見てくるよ。そこで待っててな」
「え…」
「大丈夫だって。すぐ戻って来るから。んじゃまた」
尚も制止しようとする薫を振り切り、俺は諒磨らがいる集団に駆け寄ろうとした。こいつがいるなら説得できるかもしれないと踏んだのである。
ところが、集団まであと数メートル、というところで事件というか事故が起こった。魔物が俺に向かって火球を吐いたのだ。
「くっそ…!」
間に合え、間に合ってくれ!俺は渾身の力で疾走し、紙一重で火球を躱(かわ)して物陰に飛び込んだ。
「み、湊!こんなところでどうした?」
諒磨が俺に気付いたらしく、声をかけてくれた。
「どうしたもこうしたもあるか。お前らなんで戦わねーんだよ」
若干声色が怒りに染まっていたかもしれない。
「だって、桐山さんと津田くんが…」
「じゃあ聞くけど、麗馨と敦は今日の朝、何か言ってたか?戦うな的な事」
「いや、今朝は言われてないけど、少なくとも昨日の時点で言われてたし…」
「それは昨日の話だろ?言っても信じてもらえないだろうけど敢(あ)えて言うよ。彼等はドッペルゲンガーだったんだ」
「ドッペルゲンガー?」
「そうだ。二重存在とも称される。まぁ簡単に言えば、自分の分身ができて、そいつが色々と悪さをするんだよ。お前らが見てたのは、間違いなく麗馨と敦のドッペルゲンガーだ」
「お前のドッペルゲンガーは?いないのか?」
「俺のと薫のは確認されてない。お前らも知らないんだったら多分いないと思うけど」
「そうか…」
因みに俺と諒磨の会話の間、他の奴らは何一つ言葉を発していない。
「まずい!火球が飛んでくるぞ!」
見張り役でも任されたであろう男子が急に喚き、全員がパニック状態に陥った。火球が飛んで来るまでにそう時間はないはずだ。
「みんな落ち着け!俺が守ってやっから。ただ…一つだけ約束してくれ。俺がお前らを守れたら、全員が心を一つにして戦う事。いいな?」
誰からも返事は無いが、もう時間がない。火球を吐くための予備動作もそろそろ終わっているはずだ。俺は物陰から飛び出した。
「お、おい、本気でやる気かよ」
諒磨が俺を止めようとする。
「俺が死ぬのと全員が死ぬの、どっちがいい?」
「そんな…!」
諒磨は絶句した。
「諒磨も早く隠れろ!火球が飛んでくるぞ!」
俺は諒磨を無理矢理、物陰に押し込んだ。
「お前、バカじゃねぇの?」
不意に、横から声が聞こえた。
「自分一人でこの火球を止められるとでも思ってるの?」
「彼氏にこんなところで死なれる訳にはいかないからね」
「みんな…!」
「感動に浸るのはそこまでだ。もう火球が飛んで来るぞ」
直後、直径1メートルはあろうかという巨大な火球が飛んできた。
「よし、いくぞ麗馨!」
「うん!」
そうか!麗馨と敦は物体を移動させる能力を使って、火球を防ぐ作戦なんだ!
「くっ、結構強いな…」
「でも、負ける訳にはいかないよ!」
「「いっけーーー!」」
「やっべぇ寝過ごしたな…」
「お、起きたか湊。おはよー」
「おう、おはよ。今何時?」
「んー、今七時半」
「麗馨はいつから起きてたんだ?」
「私は六時くらいかなー。湊起こそうかなとか思ったけどさ、幸せそうに寝てるし、ドッペルゲンガーの事で精神削られてるだろうから起こさないでおいてあげたの」
「そっか…何から何までありがとな」
「いいんだって。私は、あなたの彼女だよ?」
少しはにかみながらそう言う麗馨は、天使のように可愛かった。
「はい、ご飯出来たよ」
「おう、ありがと」
俺のためにここまでしてくれる麗馨に、俺も応えなくちゃな…今日の戦闘も頑張るか。そう決意を固める俺であった。
麗馨の作る料理は美味しかった。
所変わって、舞台は戦場。俺たちは相変わらず皆に避けられ続けているが、戦闘を放棄する訳にはいかない。
その時、敦が叫んだ。
「今から俺が魔物を拘束するから、みんな攻撃してくれ!」
その数秒後、魔物の身動きが無くなった。麗馨も敦に加勢している。
しかし、現実とは無情なものだ。悲しい哉(かな)、攻撃する者はいなかった。
「みんな、そうやっていつまでも逃げて、命が助かるとでも思ってるの?相手はこんなに強いんだから、どうせ死ぬのが関の山じゃん!やる事もやらずに死ねるの?麗馨と敦に何か言われてるのかもしれないけど、そんな二人が今、死ぬ程頑張ってんだよ︎」
薫が急に叫んだ。拘束は尚も続いている。
「私は、何もしないで死ぬのは嫌だし、敦や麗馨に応えたい。だから、やる。やってやる」
薫はそう言って、棘(とげ)だらけの魔物の身体に、右手で触れた。
「うっ…」
幾(いく)つもの棘が薫の手を蝕(むしば)んでいるのだろう、薫は苦痛に顔を歪めた。薫の手からはもう、血が流れている。
その時、訪れるべき変化は訪れた。魔物の身体が小さくなり始めたのだ。徐々に徐々に、しかし、確実に。そして、20メートル程あった魔物の身体は、30センチ程になっていた。ここまで有利な状況が、かつてあっただろうか。拘束こそ続いていないが、元から短足だった魔物は小さくされたせいで余計に移動できる範囲が狭くなり、魔物から放たれる火球も、当たったところで痛くも痒(かゆ)くもない。魔物が一人芝居をしているようで、ひどく滑稽にさえ見えた。
「っしゃ、あとは任せろ!」
ここまできたらやるしかない。というか、余裕で勝てるだろう。俺は、たった三十センチの魔物を踏みつけた!
「やったか⁈」
横で敦が声を上げる。
「いや、やってない!右見て右!逃げてるよ!」
右を見ると、魔物が必死の形相で逃げていた。麗馨の動体視力は大したものである。俺は慌てて後を追った。
「湊!攻撃するのはいいけど、気を付けて!それ、一定時間経つと大きさが元に戻っちゃうんだ!もうそんなに時間はないよ!」
薫が俺の背中に警告をぶつける。
「なあに、大丈夫だって!」
返事をしている間にも、魔物との距離はどんどん詰められ、遂に追いついた。今度は魔物の正面に回り、そのまま蹴り上げる!
今度こそ完全にヒットし、魔物はどこかに吹き飛ばされていなくなった。
「よし!」
「やったぁ!」
俺と麗馨が歓喜の声を上げた。
「いや、ちょっと待て。多分魔物は死んでない」
そこに制止をかけたのは敦だ。
「え、でも攻撃はちゃんと当たったじゃんかよ」
「いいから魔物から離れろ!」
敦が喚いた、その刹那。
「ぐるぁぁあああ︎」
魔物がこの世の物とは思えない奇声ならぬ雄叫びを発し、巨大化し始めた!そのまま火球を吐く!
「危ない!」
敦は薫、俺は麗馨を突き飛ばし、俺はそのままの流れでローリング、敦は前方倒立回転をして避け、何とかその場を凌(しの)いだ。
物陰に隠れると、薫がいた。
「おお、湊か…よく麗馨を守ったね」
やるじゃーん、と、背中をバシバシ叩かれた。
「痛い、痛いって…まぁ、その…なんだ。俺は全力でやっただけだよ」
「そっか」
それ以上の会話はなく、俺も薫も、魔物の動きに注目している。
こうやって冷静に周りを見てみて初めて気が付いたが、結構な人が物陰に隠れていた。その中には我が友人、髙木諒磨の姿もある。
「俺、他の人らの様子見てくるよ。そこで待っててな」
「え…」
「大丈夫だって。すぐ戻って来るから。んじゃまた」
尚も制止しようとする薫を振り切り、俺は諒磨らがいる集団に駆け寄ろうとした。こいつがいるなら説得できるかもしれないと踏んだのである。
ところが、集団まであと数メートル、というところで事件というか事故が起こった。魔物が俺に向かって火球を吐いたのだ。
「くっそ…!」
間に合え、間に合ってくれ!俺は渾身の力で疾走し、紙一重で火球を躱(かわ)して物陰に飛び込んだ。
「み、湊!こんなところでどうした?」
諒磨が俺に気付いたらしく、声をかけてくれた。
「どうしたもこうしたもあるか。お前らなんで戦わねーんだよ」
若干声色が怒りに染まっていたかもしれない。
「だって、桐山さんと津田くんが…」
「じゃあ聞くけど、麗馨と敦は今日の朝、何か言ってたか?戦うな的な事」
「いや、今朝は言われてないけど、少なくとも昨日の時点で言われてたし…」
「それは昨日の話だろ?言っても信じてもらえないだろうけど敢(あ)えて言うよ。彼等はドッペルゲンガーだったんだ」
「ドッペルゲンガー?」
「そうだ。二重存在とも称される。まぁ簡単に言えば、自分の分身ができて、そいつが色々と悪さをするんだよ。お前らが見てたのは、間違いなく麗馨と敦のドッペルゲンガーだ」
「お前のドッペルゲンガーは?いないのか?」
「俺のと薫のは確認されてない。お前らも知らないんだったら多分いないと思うけど」
「そうか…」
因みに俺と諒磨の会話の間、他の奴らは何一つ言葉を発していない。
「まずい!火球が飛んでくるぞ!」
見張り役でも任されたであろう男子が急に喚き、全員がパニック状態に陥った。火球が飛んで来るまでにそう時間はないはずだ。
「みんな落ち着け!俺が守ってやっから。ただ…一つだけ約束してくれ。俺がお前らを守れたら、全員が心を一つにして戦う事。いいな?」
誰からも返事は無いが、もう時間がない。火球を吐くための予備動作もそろそろ終わっているはずだ。俺は物陰から飛び出した。
「お、おい、本気でやる気かよ」
諒磨が俺を止めようとする。
「俺が死ぬのと全員が死ぬの、どっちがいい?」
「そんな…!」
諒磨は絶句した。
「諒磨も早く隠れろ!火球が飛んでくるぞ!」
俺は諒磨を無理矢理、物陰に押し込んだ。
「お前、バカじゃねぇの?」
不意に、横から声が聞こえた。
「自分一人でこの火球を止められるとでも思ってるの?」
「彼氏にこんなところで死なれる訳にはいかないからね」
「みんな…!」
「感動に浸るのはそこまでだ。もう火球が飛んで来るぞ」
直後、直径1メートルはあろうかという巨大な火球が飛んできた。
「よし、いくぞ麗馨!」
「うん!」
そうか!麗馨と敦は物体を移動させる能力を使って、火球を防ぐ作戦なんだ!
「くっ、結構強いな…」
「でも、負ける訳にはいかないよ!」
「「いっけーーー!」」
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