異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…
第4日目〜賭け〜
目を覚ますと、隣で麗馨がすやすやと寝息を立てていた。
昨日は早起きして、早く寝たせいか、いつの間にか早寝早起きの生活リズムができている。時刻は五時半だ。さすがに昨日と今日の連続で食料が早く支給されるなんて事はないだろう。ずっと部屋にいるのも暇だし、麗馨を起こす訳にもいかないので、
"その辺で散歩してくる"
という旨の書き置きを残し、そっと部屋を出た。
散歩するという名目ではあるが、ドッペルゲンガーが見つかるかもしれないというのが一番大きかった。出来る事なら早く決着をつけたい。俺は麗馨と敦のドッペルゲンガーを見つけたテラスを覗き、監視室、会議室など色々な場所を巡ったが、ドッペルゲンガーは見つからなかった。
「やっぱり、そう簡単には見つからないよな…」
俺は独り言を呟き、傍らのベンチに腰掛けた。俺が立ち止まる場所に必ずベンチがあるのはどうしてだろう。知らない。
「どーなってるんだろうなー」
そもそも、解決への手がかりが少な過ぎだ。ドッペルゲンガーが存在する事自体は事実だとしても、そいつらを消す方法なんて分からない。お尻とお尻をごっつん、などというのは正直ギャグの世界だ。
「困ったなー」
ところで、どうして俺がこんな独り言ばかり言っているのかというと、麗馨のドッペルゲンガーなら出てきそうだと思ったからだ。ドッペルゲンガーとはいえ、元は麗馨なんだから好奇心旺盛なところは変わらないはずだ。
「お?湊?こんな所でどうしたの?」
聞き慣れた声が俺にかけられた。その瞬間、俺は確信した。こいつは麗馨のドッペルゲンガーだ。俺は散歩すると書き置きしてきたんだから、『こんな所で"どうしたの"?』と聞くのはおかしい。『こんな所まで来たんだ』とか、『もう部屋に戻ろう』と声をかけてくるはずだ。
「いや、散歩してただけだよ」
「そっか」
「いやぁ~それにしても、一昨日、麗馨が作ってくれた朝ご飯は"和風"で美味しかったなぁ」
「あー、でしょでしょ?私頑張ったんだよ~」
可愛い受け答えで巧みに話を合わせてくるが、こいつはやはりドッペルゲンガーだ。俺はそう確信した。
「んで、お前誰だよ?」
「え?いや、何年も幼馴染やっててそれはないでしょ。私だよ?桐山麗馨」
「確かに、お前の姿形は麗馨そのものだろうな。でも違うんだよ。お前は麗馨じゃない」
「いや、湊、どうしたのさ?気がおかしくなった?」
「そろそろ認めたらどうだ?麗馨のドッペルゲンガーさんよ」
一瞬、麗馨の顔が引きつったが、流石なもので、すぐ態勢を立て直してくる。
「やだなぁ~もう。それは湊の思い込みだって」
「じゃあ今から思い込みじゃない事を証明してやるよ。まず、俺は部屋から出る時に"散歩する"って書き置きしといたのに、お前は俺に会った時、『こんな所でどうしたの?』と聞いてきた。散歩するって言ってあるのにおかしいよな。もう一つ。お前が作ってくれた朝食は、和風じゃなくて洋風だったよ。パンとかサラダとかな」
その瞬間、麗馨の顔つきが変わった。
「ドッペルゲンガーと本体の間で、記憶の共有はねーのな。案外簡単に判別できそうだ」
麗馨のドッペルゲンガーは、観念したように口を開いた。
「どうして私がドッペルゲンガーだって疑ったのよ?」
「お前、俺たちを動揺させようと思って敦とラブラブしてたのは分かるけどさ、俺たちが不審がらない程度にやれよな。二人ともそんな事するような奴らじゃないんだからドッペルゲンガーと疑うのも普通だろ」
「でも、ドッペルゲンガーなんて非現実的な発想は出てこないでしょ普通は」
「あいにく、俺は普通じゃないんだよ。…んで、今度は俺の質問に答えてもらおうか」
「何よ?」
「お前の目的は何なんだ?坂田と手を組んで俺たちを邪魔をしようとしてるけどさ、そもそもなんで邪魔する必要がある?死を運ぶ者(デス・ブリンガー)を倒すのを妨げるって事は、お前の本体である麗馨の命が危険に晒される時間も長くなる訳だろ?お前自身の存続にも関わるぞ」
「そうねぇ…私、壊したくなったの。何もかも、全部」
「︎…」
「だから、あんたにも消えてもらおうかしら」
麗馨のドッペルゲンガーはそう言いながら拳銃を取り出し、俺に照準を当てた。
「お、おいやめろ」
「死ぬ前に一つだけいい事教えてあげる。敦のドッペルゲンガーもあんた達を本気で潰すつもりよ。私が持ってる拳銃なんかより遥かに危険な物を持ってるだろうから注意するのね」
くっそ…何か打開策はないのか…俺が歯噛みした、その時。
向こうの角に、敦と麗馨の姿が見えた。たった今来たようで、肩で息をしている。一瞬だけでいいから、このドッペルゲンガーの注意を違う方向へ向けられれば…いや、ちょっと待て。俺が見た敦がドッペルゲンガーだという可能性はないだろうか。姿形は全く同じなのだから、俺たちに溶け込むのは容易な訳で…
「八方塞がり、だな」
「観念したか、湊…」
そのまま麗馨のドッペルゲンガーは、容赦無く引き金を引いた。
俺は一か八か、左にローリングした。
「観念するのはそっちの方だぜ?麗馨さんよ」
「はっ、離して!」
「嫌だね。これ以上俺達の邪魔をされたら困る。さっさと自分の本体へ戻るんだな」
敦がいつの間にか角から出て来ていて、麗馨のドッペルゲンガーを羽交い締めにしていた。
「麗馨!来い!」
麗馨は敦の声だけを頼りに後ろ向きに走ってそのままドッペルゲンガーに向かって飛び込んだ!二人が触れた瞬間、辺り一帯を閃光が包んだ。
ーーー5分後ーーー
「ちょっと敦、離してー」
「あ、わり」
羽交い締めにされているのだから無理もない。
「ドッペルゲンガーはどこだ?」
「見た感じ、周りには何もいないけど…」
「つーことは、やっぱ麗馨の中に戻っていったのか」
「だね」
因みに、この会話は全て敦と麗馨のものである。頼むから俺に気付いてくれよ二人とも。俺、弾丸避けたのに…
「湊、お疲れ様」
麗馨がやっと声をかけてくれた。
「おう…勝手に部屋から出てごめん」
「いや、書き置き見たから大丈夫だよ。ってか、湊すごかったねー!弾丸避けたじゃん!」
「勘で左に飛んだだけだけどな」
「にしてもすごいじゃんか!私、湊が死んじゃうのかと思って本当に泣きそうだったよ…」
そう言いながら、麗馨は俺を抱きしめ、そのまま顔を俺の胸に埋(うず)めた。
「怖かったよ…怖かったし、心配もしたけど…」
俺の胸の中でそれだけ呟いた後、俺から離れ、天使のような笑顔で一言。
「かっこ、よかったよ」
だめだ。可愛すぎ。
その時、向こうから敦がすすり泣く声が聞こえた。
「お前なんで泣いてるの⁈」
「いや、お前らのラブラブ見て感動した…」
「あのなぁ、ドッペルゲンガーの事が一つ解決した事に感動したなら分かるけど、俺達のラブラブ見て泣くって…」
「お前らも成長したな、って…」
「私達の親じゃないんだから」
麗馨も笑いながらツッコミを入れている。
「いつまでもその純粋な愛を貫けよ」
敦は遠くを見るような目で言った。
「…はい」
見事にハモった。
昨日は早起きして、早く寝たせいか、いつの間にか早寝早起きの生活リズムができている。時刻は五時半だ。さすがに昨日と今日の連続で食料が早く支給されるなんて事はないだろう。ずっと部屋にいるのも暇だし、麗馨を起こす訳にもいかないので、
"その辺で散歩してくる"
という旨の書き置きを残し、そっと部屋を出た。
散歩するという名目ではあるが、ドッペルゲンガーが見つかるかもしれないというのが一番大きかった。出来る事なら早く決着をつけたい。俺は麗馨と敦のドッペルゲンガーを見つけたテラスを覗き、監視室、会議室など色々な場所を巡ったが、ドッペルゲンガーは見つからなかった。
「やっぱり、そう簡単には見つからないよな…」
俺は独り言を呟き、傍らのベンチに腰掛けた。俺が立ち止まる場所に必ずベンチがあるのはどうしてだろう。知らない。
「どーなってるんだろうなー」
そもそも、解決への手がかりが少な過ぎだ。ドッペルゲンガーが存在する事自体は事実だとしても、そいつらを消す方法なんて分からない。お尻とお尻をごっつん、などというのは正直ギャグの世界だ。
「困ったなー」
ところで、どうして俺がこんな独り言ばかり言っているのかというと、麗馨のドッペルゲンガーなら出てきそうだと思ったからだ。ドッペルゲンガーとはいえ、元は麗馨なんだから好奇心旺盛なところは変わらないはずだ。
「お?湊?こんな所でどうしたの?」
聞き慣れた声が俺にかけられた。その瞬間、俺は確信した。こいつは麗馨のドッペルゲンガーだ。俺は散歩すると書き置きしてきたんだから、『こんな所で"どうしたの"?』と聞くのはおかしい。『こんな所まで来たんだ』とか、『もう部屋に戻ろう』と声をかけてくるはずだ。
「いや、散歩してただけだよ」
「そっか」
「いやぁ~それにしても、一昨日、麗馨が作ってくれた朝ご飯は"和風"で美味しかったなぁ」
「あー、でしょでしょ?私頑張ったんだよ~」
可愛い受け答えで巧みに話を合わせてくるが、こいつはやはりドッペルゲンガーだ。俺はそう確信した。
「んで、お前誰だよ?」
「え?いや、何年も幼馴染やっててそれはないでしょ。私だよ?桐山麗馨」
「確かに、お前の姿形は麗馨そのものだろうな。でも違うんだよ。お前は麗馨じゃない」
「いや、湊、どうしたのさ?気がおかしくなった?」
「そろそろ認めたらどうだ?麗馨のドッペルゲンガーさんよ」
一瞬、麗馨の顔が引きつったが、流石なもので、すぐ態勢を立て直してくる。
「やだなぁ~もう。それは湊の思い込みだって」
「じゃあ今から思い込みじゃない事を証明してやるよ。まず、俺は部屋から出る時に"散歩する"って書き置きしといたのに、お前は俺に会った時、『こんな所でどうしたの?』と聞いてきた。散歩するって言ってあるのにおかしいよな。もう一つ。お前が作ってくれた朝食は、和風じゃなくて洋風だったよ。パンとかサラダとかな」
その瞬間、麗馨の顔つきが変わった。
「ドッペルゲンガーと本体の間で、記憶の共有はねーのな。案外簡単に判別できそうだ」
麗馨のドッペルゲンガーは、観念したように口を開いた。
「どうして私がドッペルゲンガーだって疑ったのよ?」
「お前、俺たちを動揺させようと思って敦とラブラブしてたのは分かるけどさ、俺たちが不審がらない程度にやれよな。二人ともそんな事するような奴らじゃないんだからドッペルゲンガーと疑うのも普通だろ」
「でも、ドッペルゲンガーなんて非現実的な発想は出てこないでしょ普通は」
「あいにく、俺は普通じゃないんだよ。…んで、今度は俺の質問に答えてもらおうか」
「何よ?」
「お前の目的は何なんだ?坂田と手を組んで俺たちを邪魔をしようとしてるけどさ、そもそもなんで邪魔する必要がある?死を運ぶ者(デス・ブリンガー)を倒すのを妨げるって事は、お前の本体である麗馨の命が危険に晒される時間も長くなる訳だろ?お前自身の存続にも関わるぞ」
「そうねぇ…私、壊したくなったの。何もかも、全部」
「︎…」
「だから、あんたにも消えてもらおうかしら」
麗馨のドッペルゲンガーはそう言いながら拳銃を取り出し、俺に照準を当てた。
「お、おいやめろ」
「死ぬ前に一つだけいい事教えてあげる。敦のドッペルゲンガーもあんた達を本気で潰すつもりよ。私が持ってる拳銃なんかより遥かに危険な物を持ってるだろうから注意するのね」
くっそ…何か打開策はないのか…俺が歯噛みした、その時。
向こうの角に、敦と麗馨の姿が見えた。たった今来たようで、肩で息をしている。一瞬だけでいいから、このドッペルゲンガーの注意を違う方向へ向けられれば…いや、ちょっと待て。俺が見た敦がドッペルゲンガーだという可能性はないだろうか。姿形は全く同じなのだから、俺たちに溶け込むのは容易な訳で…
「八方塞がり、だな」
「観念したか、湊…」
そのまま麗馨のドッペルゲンガーは、容赦無く引き金を引いた。
俺は一か八か、左にローリングした。
「観念するのはそっちの方だぜ?麗馨さんよ」
「はっ、離して!」
「嫌だね。これ以上俺達の邪魔をされたら困る。さっさと自分の本体へ戻るんだな」
敦がいつの間にか角から出て来ていて、麗馨のドッペルゲンガーを羽交い締めにしていた。
「麗馨!来い!」
麗馨は敦の声だけを頼りに後ろ向きに走ってそのままドッペルゲンガーに向かって飛び込んだ!二人が触れた瞬間、辺り一帯を閃光が包んだ。
ーーー5分後ーーー
「ちょっと敦、離してー」
「あ、わり」
羽交い締めにされているのだから無理もない。
「ドッペルゲンガーはどこだ?」
「見た感じ、周りには何もいないけど…」
「つーことは、やっぱ麗馨の中に戻っていったのか」
「だね」
因みに、この会話は全て敦と麗馨のものである。頼むから俺に気付いてくれよ二人とも。俺、弾丸避けたのに…
「湊、お疲れ様」
麗馨がやっと声をかけてくれた。
「おう…勝手に部屋から出てごめん」
「いや、書き置き見たから大丈夫だよ。ってか、湊すごかったねー!弾丸避けたじゃん!」
「勘で左に飛んだだけだけどな」
「にしてもすごいじゃんか!私、湊が死んじゃうのかと思って本当に泣きそうだったよ…」
そう言いながら、麗馨は俺を抱きしめ、そのまま顔を俺の胸に埋(うず)めた。
「怖かったよ…怖かったし、心配もしたけど…」
俺の胸の中でそれだけ呟いた後、俺から離れ、天使のような笑顔で一言。
「かっこ、よかったよ」
だめだ。可愛すぎ。
その時、向こうから敦がすすり泣く声が聞こえた。
「お前なんで泣いてるの⁈」
「いや、お前らのラブラブ見て感動した…」
「あのなぁ、ドッペルゲンガーの事が一つ解決した事に感動したなら分かるけど、俺達のラブラブ見て泣くって…」
「お前らも成長したな、って…」
「私達の親じゃないんだから」
麗馨も笑いながらツッコミを入れている。
「いつまでもその純粋な愛を貫けよ」
敦は遠くを見るような目で言った。
「…はい」
見事にハモった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
37
-
-
4
-
-
6
-
-
63
-
-
157
-
-
125
-
-
1
-
-
124
-
-
439
コメント