異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…

茅ヶ崎 大翔

第2日目(7)〜夜〜

「無理ゲーじゃね?」
「だな」

俺が発した言葉に、素早く敦が応える。

「大体、ドッペルゲンガーの始末の仕方が分かんないんだからどうしようもないよな…」
「全部イチから、かぁ…」

麗馨も若干諦めに近い声を上げる。その時、俺は一つ閃いた。

「俺さ、この間小説でお互いの頭を思いっきりごっつんすると人格が入れ替わるっていうの読んだんだけど、そういう類じゃないのか?」
「あぁ、お前が前読んでたあの怪しげなエロ本な」
「エロ本じゃねーよ!れっきとした『ライトノベル』っていう…」
「だって最初のページにあったカラーの絵、すげーエロかったし」
「…」
「ま、まぁそれはさておき!湊のはいい考えだと思うよ?みんなどう思う?」

はぁ…俺の黒歴史が遂に麗馨に知られてしまった。もう俺死にたい…

「まぁアイディア自体は悪くないな」
「物は試しって言うしねー」

敦・薫ペアも快く受け容れてくれた。

「じゃあドッペルゲンガーと本物をごっつんさせてみるか」
「いや、ちょっと待て」

俺の提案を敦が止めた。

「ん?何だ?」
「ごっつんさせるのはいいけど、俺は俺のドッペルゲンガーを見たら死ぬんだぜ?頭ごっつんなんて出来ないじゃん」

あ、そういえば…敦に最初に言われた事を忘れていた。

「大体、ライトノベルとかいう小説に書いてある事なんて信用出来んと思うがな」

敦に一番痛いところを突かれた。

「確かにその通りだけど、だからって何か不味(まず)い事が起こるのを恐れて何もしない気か?あと、一つ言っとくがドッペルゲンガーが出現してるって事自体小説の世界でしか起こらないような事なんだ。寧ろ(むしろ)小説に書いてある事の方が参考になると思うよ」
「小説に書いてある事の方が参考になるという事に関しては同意しかねるが…何もしなくてもどうせ死ぬってのはその通りだしな。んじゃ本体とドッペルゲンガーをどこにごっつんさせればいいんだ?」
「んー、お尻とか?」

流石にこの提案はダメ元だ。

「それを決行するのはすっげー嫌だが…しょうがない、それでやるか…」
「いや、俺の考えを無理に実行に移そうとする必要はないぞ?」
「でも、他に思いつかねぇんだよ。薫と麗馨もそれでいいか?」
「んー、私のお尻とお尻が当たるのかぁ。未知の領域だし、面白そう!やってみよう!」

麗馨のポジティブさには感謝してもしきれない。

「私もいいと思うよー」

薫も快く受け容れてくれた。

「よし、んじゃそういう事で。明日からこの作戦を実行…っていっても、明日にはあの怪物との戦闘が待ってるしな。明後日にでもやってみるか」
敦の言葉に全員が首肯し今日の会合はお開きになった。
 
「はぁ、疲れた…」

敦と薫が去った瞬間、俺はどっと疲労を感じた。

「今日も大変だったね…」

麗馨も疲労感を隠せていない。今日は戦闘は無かったはずなのに、みんなから拒絶された事や、ドッペルゲンガー問題など、様々な事が起こった。

「そういえば、会議室に誰も集まってくれなかったのって、今日の昼だよな」
「そうだけど、なんか、遠い昔みたいに感じるね」

俺は麗馨に相槌を打ち、また思考の闇に落ちる。
状況は悪くなるばかりだ。そもそも、こんな状況に置かれてまで、戦う必要があるのだろうか。もう、みんなと同じでなあなあにやっていればいいんじゃないか。どうして魔物を倒そうとしなければならない?自分の安全だけを最優先して、隠れていればいいんじゃないか。俺は、そんな感情をぽつりと口にした。

「なんで…戦ってるんだろうな、俺たち」
「あれぇ?昨日の夜、私がそうやって言ったら、湊、偶然って言ってたじゃん」
「いや、そうじゃなくてさ。俺たちが選ばれたのは百歩譲って認めるとしてもさ、どうして他のみんなみたいになあなあにしちゃいけないのかなって」
「あぁ、そういう事か…正直な話、多分私たちがこんな事する必要は、どこにもないと思うよ。ただ…なぁなぁで戦っても、絶対に勝てないじゃん私たち」
「そうだけど…さ。なんで俺らがここまで傷ついて、みんなをまとめようとしないといけないんだろうなって」
「じゃあ湊は、勝ちたくないの?終わらせたくないの?この理不尽な戦いを」
「そりゃ終わらせたいさ。でも…みんな一緒だとは思うけどさ、結構心がやられてるってか、傷ついた」
「傷ついた、かぁ…私も今日は散々だったなぁ…」

まずい。このままでは雰囲気がどんどん暗くなっていく。一旦この問題は保留にして、明日からまた頑張るのが一番だろう。俺は会話を終わらせようと口を開…

「傷ついたけど、私たちがやらなきゃ何も変わらないんじゃないかなぁ?」
「どういう事だ?」
「だから、そのまんまの意味だよ。変わるのを待つんじゃなくて、自分が変わるの。湊に私が説教するなんて、釈迦に説法もいいとこだけどさ」

麗馨は苦笑した。更に続ける。

「みんなと同じようにしてるんじゃ人生面白くないよ。私も確かに、一昨日までは人と同じような人生しか歩んでこなかったけど、今この状況って人と違う事だし、もしこれで私たちがみんなをまとめて魔物を倒せたら、私たちヒーローじゃない?いや、私はヒロインか。んで、この武勇伝って一生語れるじゃん。面白い話になるよー。小説化するのもいいかもしれないし」

ここで一旦麗馨は、ふぅ、と一息ついた。

「まぁ、何が言いたいかっていうとね、どんなに苦しい事でも、いつかは笑って、こんな事もあったね、って語り合える日が来るんだって事。だから湊、弱気になるのも分かるけど、もうちょっと頑張ってみようよ、ね?」

そう言って麗馨は俺の顔を覗き込んできた。あぁ、俺は馬鹿だった。弱くなっていた。こんなに苦しい状況なのに、麗馨は希望を見出そうとしている。それなのに俺は何なんだ。ちょっとしたことですぐ弱気になって…

「ごめんな、麗馨。俺、こんなに弱くてさ…」
「もう、私に謝るくらいならもっと強くなって」
「はい…」
「まぁそこが湊のいいとこでもあるからいいんだけどさ」

麗馨は笑いながら俺に抱きついてきた。俺も抱擁に応え、そのままベッドに横になった。
暖かい暗闇が、麗馨の体温が、俺を眠りに誘(いざな)った。

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