異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…

茅ヶ崎 大翔

第2日目(4)〜何かがおかしい〜

「はぁー、着いたー」
「意外と遠かったねー」
「…」

会議室が案外遠かったため、俺と薫が音を上げているが、敦は何も話さない。恐らく敦は、これから行う作戦会議をどうしたらいいか、考えているのだろう。目が真剣だ。俺たちは黙ってみんなが来るのを待つことにした。

ーーーさらに5分後ーーー

がちゃ、と音がして誰かが入ってきた。お、もう生徒が来たのか!?そう期待したのだが、入ってきたのは麗馨だった。

「ごめん、遅れちゃって…って、これは一体どういう状況?」

俺が答える。

「他の奴らが来ないから待ってるだけだよ。麗馨が先でよかった」
「なんで私が先だといいの?」
「いや、深い意味はないけどさ」
「そっか。んじゃ私も大人しくしてるね」
「おう」
それっきり会話もなく、俺たちは他の生徒が来るのをただ待っていた。

ーーー30分後ーーー

「ねぇ、まだ来ないの?」

最初に口を開いたのは薫だ。

「確かにちょっと遅いよね…まだ昼食かな?」
「まさか…全員が俺らを欺いたのか…?」

あまりにも遅いので、俺も麗馨も疑いを隠せない。

「取り敢えずもうちょっと待ってみよう。来るかもしれないし」

薫の提案に俺と麗馨も頷く。

「しかし、さっきから敦は銅像のように動かんが大丈夫か?」
「いや、敦は本気出すとこんなもんなんだよ。あと、敦の肌の色は赤褐色じゃないよ」
「そっか…」

どうして誰も来ないんだろう。先ほどはしっかり全員同意してくれたのに。嫌な予感がする。

ーーーさらに30分後ーーー

「なぁ、これさすがにおかしいよな?」

俺はたまらず声を上げた。

「うん…もう一時間経ってるもんね…食堂見に行こうか?」

麗馨がそんな提案をしてくる。

「いや、それなら俺が行くよ。みんな俺が行くけどいいな?」
「うん」
「おっけ」
「おう」

返事が一つ多いと思ったら敦がもう固まっていなかった。

「んじゃ、また後で」

俺はそう言い残して会議室を後にした。

ーーー5分後ーーー

俺は再び会議室の扉を開けた。当然中には麗馨と敦と薫しかいない。

「どうだった?」

敦が聞いてくる。

「食堂には誰もいなかった。もぬけの殻だったよ。やっぱ、俺たちは全員に騙されたんだ。俺ら、頑張ったつもりだったんだけどな…」

俺は悔しさ混じりにそう言うしかなかった。

「なんでみんなこんな急に掌を返したんだ?俺が何か不味(まず)ったか?」

敦もお手上げ、といった様子でそう言った。考えれは考えるほど分からない。

「まぁ…倒せないって決まった訳じゃないんだしさ、その…二日だけでみんなが協力しないと倒せないって結論を出した敦はすごいし、その推測が正しいと思うけど、みんなからしたらそれが早合点だって思えたんじゃないかな?」

麗馨がそんな事を言う。

「そうか…そうだよな、みんなそのうち分かってくれるよな」

敦のそんな楽天的な言葉に、俺たちも頷いた。

「取り敢えず部屋に戻ろう」

俺がそう提案すると、みんなも首肯し、俺たちはそれぞれの部屋に戻ることにした。部屋に戻る途中、俺と麗馨は髙木諒磨に会った。先ほど俺たちの提案に一番最初に応えてくれた勇気ある我が友達だ。彼も結局会議室にはきてくれなかったのだが。

「おう、諒磨」
「よう、湊」

そのまま通り過ぎるのかと思ったら、諒磨がこんな事を言い出した。

「あ、桐山さん。俺、ちょっと湊と二人で話したいから暫く湊と俺を二人にさせてくれないかな?」
「うん、分かったよー。じゃあ湊、私先に部屋に戻ってるね」
「おう、俺も終わったら戻るよ」

麗馨はんじゃまた、と言って部屋に戻って行った。諒磨は会議室に来なかったというのに、麗馨は普通に受け答えしている。俺もその寛容さを見習い、その件については言及しない事にした。

「んで、話って何だ?」
「あ、この情報、本当は漏らしちゃいけない情報だからバラしてるのを誰かに見られちゃまずいんだよな。少し場所を変えてもいいか?」
「おう、いいけど…どこ行くんだ?」
「まぁ、ついてきてくれ」

俺は取り敢えず諒磨について行った。

「よし、この辺でいいだろう」
「ここ…トイレじゃんかよ」
「おう。このトイレは殆ど誰も使わないから安心だ。んで、お前に規則を破ってでも言いたいことってのは…お前ら四人を除く俺たち全員を、敦の提案に同意させないよう仕向けたのは…言いにくいんだが…桐山さんなんだ」

ん?彼は今何と言った?桐山さん…?

「麗馨以外に桐山って苗字のやついたっけ?」
「いや、桐山麗馨だよ」
「お、おいちょっと待ってくれ。それ、冗談だろ?麗馨がそんなことするはずない」
「でも俺たちの目が、耳が、そのことを証明してるぜ?」
「いやいや、落ち着けって。何かの間違いじゃね?見間違い?」
「いや、それはねぇな。間違いなく桐山さんだった。彼女、お前らが会議室行く前に変わった様子とかなかったのかよ?急にどっか行ったとか」

諒磨に言われて俺ははっとした。そういえば麗馨はあの時、トイレに行くと言って俺たちの前から姿を消していた。しかも、トイレとは違う方向に行った。本当に麗馨がやったというのか。

「おい、どうした?思い当たる節があるのか?」
「いや、特にないかな…」

麗馨は確かにあの時トイレに行くと言って姿を消していた。違う方向に走っていた。でも、だからと言って…俺はそんな理由だけで麗馨を犯人だと思いたくなかった。少なくとも俺の知る限りでは、麗馨はそんな事をするような奴ではない。

「そっか。まぁお前ら以外の全員は、桐山さんが黒幕だと思っているがな。取り敢えず気をつけろ」
「お、おう…んで、規則破ってって言ってたけど、どういうことだよ?そんなの聞いたことないぞ」
「桐山さんが言ってた。絶対に外部に漏らすなって。漏らしたら殺すってよ」
「…そんなことまで言ってたのか?てか、それじゃあ諒磨の命が危ないじゃんかよ」
「俺は自分の命以上に、お前の命の方が大事だ。まじで気をつけてくれよな」
「お、おう…お前、自分の命より人の命が大事って…まじでいい奴なのな」
「んなことねえよ。で、気をつけてくれよな、まじで」
「解(わか)った」
 
諒磨はじゃあ、と挨拶すると、自分の部屋に戻ってしまった。
俺は、重い足取りで部屋に戻っていく。あいつが、あんなに可愛くて魅力的な麗馨が、そんな事をするなんて…やはり、麗馨が犯人だとは思いたくない。思えない。
そんな事を考えて歩いていると、前方に麗馨がいた。まだ麗馨は俺に気づいていないようだ。俺は声をかけようとして…やめた。まして、「お前何か悪いことしてんの?」なんて聞けないし…
俺は近くにあった掃除用具入れの陰に隠れて、麗馨をやり過ごした。彼女に見つからないようにする彼氏というのもなかなかに変なものだ。破局寸前、ともなれば話は別だが。
そして麗馨は、俺の眼前を通り過ぎていった。その瞬間、俺は違和感のようなものを感じた。
姿形は間違いなく麗馨のものなのだが、こう…何と言えばよいのだろうか。雰囲気?取り敢えず、麗馨のものではない異様な何かが今しがた通りかかったものには感じられた。
麗馨はそんな動揺している俺に気づくわけもなく、すたすたと歩き去っていく。それにしても彼女はどこへ行くつもりなのだろうか。ここは部屋から結構遠いのでトイレ、という線は考えづらい。
その時、俺には一つの考えが浮かんだ。そうだ。後をつければいいのだ。先ほど諒磨が言っていた、麗馨犯人説に関しても、何か分かるかもしれない。
そうやって考えている間にも、麗馨はどんどん遠ざかっていく。俺は慌てて後をつけ始めた。麗馨が振り返る気配もなく、どんどん先へ進んでいくため、後をつけるのは簡単だった。
暫く歩くと、麗馨の足は"監視室"といういかにも怪しい部屋の前で止まった。そして彼女は躊躇い(ためらい)なくその部屋の扉を開けた。

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