異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…

茅ヶ崎 大翔

第1日目(6)〜夜、ついに〜

腕の中で寝ている麗馨をじっと見つめ、俺はようやく決心した。

「よし、やろう」

こんなところで麗馨に風邪を引かれてはたまらない。抱っこしてベッドに運ぼう。と、その時。

「ん…どしたぁ?」

麗馨が目を覚ましてしまった…!俺のさっきの覚悟は何だったのだ。

「お、わりぃ、起こしちゃったな」
「うん…今何時?」
「十一時半くらいだな」
「あれぇ?全然時間経ってないね。私、もう朝かと思った」
「もう朝だとしたら、俺はこの体勢で何時間いたことになるんだよ…」
「ん~、7時間くらい?」

いや、真面目に答えさせようと思って聞いたんじゃないんだけど…

「まぁそんなもんだろうな、うん。つーかそれより、もう寝たら?」
「んー、寝たいけど、湊と話したら目が覚めちゃった」
「あぁ、わーったよ。お前が寝られるまで付き合ってやっから」
「やったー」

笑いながら麗馨は俺に抱きついてきた。

「おいおいまたかよ…お前、寝ぼけてんの?俺にこんな思わせぶりってか…そういう態度取って…俺期待しちゃうよ?」
「ん?何を期待する?」
「いや、麗馨って俺のこと、いい感じに思ってくれてんのかな~みたいなさ」
「?」

麗馨にはどうやら俺の意味するところが分かっていないようだ。ったく、鈍感な奴である。俺が意味の分からないことを言っているだけかもしれないが。

「だからさ、えっと…その…まぁ…俺らって結構ガキの頃から一緒に遊んだりしてるよな?」
「うんうん」
「それで…麗馨と接する機会も多かった訳で…今でもこうやって友達やってるしさ」
「うん」
「それで…何だろう…一緒にいる時間が長ければさ、相手の色々な面が見えてくる訳じゃん」
「…うん」
「そうこうしてると、魅力的なところがたくさん見えてくる訳ですよ」
「…」

先ほどまで相槌を打ってくれていた麗馨が遂に相槌をやめた。聞き入ってくれているといいのだが…。

「だからさ、麗馨は俺からすると、すっごい魅力的に映ったの。昔も、今も」
「…」
「ここまできたらもう分かるだろ、俺の言いたい事が」
「いや、全然…」

おいおい、ここまで言わせといてとぼけるのかよ…じゃあもう俺の口から言うしかないのか。
今まで、ひたむきに俺が想い続けてきた麗馨。ずっと、好きだった。それが今、叶うかもしれないし、叶わぬ夢になるかもしれない。
でも、ここまで言ったのだ。もう後戻りはできない。俺は意を決して口を開いた。

「俺はな、麗馨。お前が…すっ、す…」
「?」

やばい、ちょっとミス。テイク2。

「俺はな、お前の事が好きなんだよ。あ、もちろん恋愛的な意味でな」
「…!」

麗馨は驚きすぎてどうリアクションしたらいいか分からないようだ。

「そりゃびっくりするよな。何年も幼馴染やってて、今更好きなんて。正直、俺なんか眼中にないだろ?やっぱ敦くらい格好よくないと麗馨には釣り合わないか…」

刹那、麗馨は笑い出した。

「はっはっは、あーおかしい!おかしいよ!湊いきなりどうしたの?雰囲気重すぎ!もっと軽くいきなよ!まぁ返事としてはこちらこそってところだけど!」

はぁ、笑われた…軽くあしらうくらいに思っていたのに、まさか笑われるとは…

「お前、俺の真剣な気持ちを…」
「ごめん、悪かったって。大丈夫、多分私は君が私のことを好きって想ってる以上に君のこと好きだから」
「なっ…好き、だと…」
「うん好き!大好きだよ」

満面の笑みでその言葉は反則だ。

「でもこんな俺の…」
「はいはいそうネガティブにならない!好きなことに理由なんかいらないんだよ。そんなこと言ったら、湊は私のどこが好きなのさ?」
「ん?俺か?麗馨はやっぱ可愛いじゃん?あと性格いいし」
「私の性格をいいって言ってくれる湊の方が性格いいと思うけどなぁ」
「そ、そうか?」
「あー、湊照れてる~。顔赤いよ?」
「ちっ、違う!これは夕陽のせいだ!」
「はっはっは、冗談面白いね湊」
「なんか俺遊ばれてね…?」
「うん、ごめん遊んだ。…そろそろ寝よっか?」
「おう」

俺がベッドに入ると、麗馨も"俺が入ったベッド"に入ってきた。

「どうせならさ、同じベッドで寝ない?」
「なっ…いいけど…お前そんなにグイグイ攻めるやつだっけ?」
「うーん、どうかなー?だってさ、湊って消極的じゃん。湊がこうしてくれるの待ってたら、私おばちゃんになっちゃうよ」

それは言い過ぎじゃないか…と思ったが、あながち間違いでもないので黙っていた。

「んー、やっと寝られるー。あ、湊、電気消してくれる?」
「りょーかい」

俺は電気を消し、麗馨のいるベッドの中に入った。

「湊やっぱ大きいね」
「そりゃ男だからな」
「そだね」

その会話を最後に、麗馨は黙った。俺は、先ほど起きた出来事を整理してみることにした。前からずっと好きだった麗馨にダメ元で告白。まさかのオッケーをもらえた。
つまり、麗馨は俺の彼女。今隣にいる人が、俺の彼女なのだ。改めてそう認識すると、恥ずかしさが込み上げてきた。
ちょ、今思ったらこの状況やばくね?!俺、こんな可愛い麗馨と付き合ってるけど!心が訳の分からない悲鳴を上げている。いや、歓喜の声、とでも言うべきか。
麗馨の顔が見たくなって、顔を横に向けると、麗馨が同時にこちらを向いた。
顔を見合わせ、一瞬フリーズしたが、麗馨が笑いかけてくれたのを見て、俺も笑顔になった。やばいやばいやばいやばい。この顔はアウトだ。可愛すぎる。

「二人とも同じタイミングなんて、すごい偶然だね」
「あぁ、そうだな…あのさ、俺…寝られないんだけど」
「うん、私も同じ」

夜なので大きな声も出せず、俺たちはくすくすと二人して笑った。

「湊、その…ありがとね。私もずっと湊のこと好きだったけど、自分からいく勇気がなくて…片想いのまんま、終わっちゃうのかなって思ってた。だから私は今すっごい嬉しい。それが寝られない理由だと思うけど」
「俺もずっと片想いなのかと思ってたよ。思い切って言ってよかった」
「よかった、よかったね…」
「おう…」

寝られない、と言って数分、俺たちは眠くなってきた。数分前の俺たちは何だったのだ。ともあれ、幸せに包まれながら、俺たちはほぼ同時に眠りについたのであった。

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