異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…

茅ヶ崎 大翔

第1日目〜坂田とアンプル〜

放送で名前を呼ばれ、職員室に着くと、既に何人かの生徒がいた。暫く待っていると、俺たちの前に見慣れない人物が現れた。

「はいはいみんな静かにー、私は文部科学大臣の坂田健史(さかた けんじ)だ。勉強熱心なみんななら知ってるとおもうけど。今からみなさんには、死を運ぶ者(デス・ブリンガー)の討伐を行ってもらいまーす。」

途端にざわつきだすみんな。俺はこの坂田が言っている言葉の意味がわからなかった。他の三人も疑問の表情だ。

「なんで俺たちがそんなことしなきゃいけないんすか?」

誰かが言った。

「今日東京に突如現れた魔物、死を運ぶ者(デス・ブリンガー)は自衛隊を全滅させてしまいましたー。そこで仕方なく、あなたがたを徴兵するんでーす」

「はぁ?どういうこと?」
「わけわかんねーよ!」
「なんであんたここにいんの?」
「てか、他の先生は?どこにいんの?」

と、周囲からは次々に野次が飛ぶ。

「はいはい、みんな静かに静かに。これはもう国会で十分に議論されて決まったことだからしょうがないの。みなさん大人しく徴兵されましょうねー。ちなみに先生方は全員学校から排除しましたー」

「ふざけたことぬかすんじゃねぇよ!」

俺は坂田の顔面に向かって思い切りパンチした!「当たった!」と思った、その刹那。坂田があり得ない反応速度で俺の背後に回り、俺を羽交い締めにした。

「なっ…おい、離せ!」
「大人しくしないとこうだよ?」

坂田はガーターベルトから拳銃を取り出し、俺のこめかみにあてた。俺は抗うこともできず、坂田のなすがままになるしかなかった。みんなの怯えきった顔が見えた。敦も、薫も、麗馨も顔面蒼白だ。俺は情けなかった。

「こうなりなくなかったら大人しく徴兵されましょうねー」

その言葉に抵抗する者はいなかった。

「それではみなさんには防護服とナイフ、拳銃、替え玉2ケースを配布しまーす」

自衛隊を全滅させたような魔物を相手にこんな装備では不十分ではないかと思ったが、逆らえば今度こそ殺されるかもしれない。黙っているしかなかった。

「それから、何か一つ特殊能力を得られるアンプルを配布しまーす。これがみなさんの闘いを進める上でカギを握ることでしょう」

坂田が怪しげな錠剤をこちらに見せてきた。

「こちらに水があるので薬を飲みたい方はお使いくださーい。では失礼しまーす。十五分後までには生徒玄関前に集合してくださーい」

と言って、坂田はさっさとどこかへ行ってしまった。残された俺たちはというと。

「なぁ、もう逃げよーぜ」

俺はもう逃げ腰だ。

「逃げても捕まえられて殺されるのがオチだろ。それに坂田(あっち)は政府の人間なんだし、やろうと思えば何でもできる。ていうか体験したお前が一番よく分かるだろうけど、坂田のあの反応速度見たか?常人ができるような業じゃねえぞ。俺はどうせ死ぬなら逃げるんじゃなくて闘って死にたいけどな」

敦は、俺これにする、と言いながら錠剤の山からその一つを取り出し、錠剤を一気に飲んでしまった。

「…どうだ?」

思わず感想を聞いてしまった。

「別段異常あるってわけでもねぇな。どんな力が俺についたのかは分かんねぇけど、多分悪いモンじゃねぇよ。時間もうあんまりねえし、お前も飲むんなら飲めば?」

「お、おう…」

俺はしばし考えたが、横にいた麗馨が

「じゃあ私が飲むー」

と言いながら錠剤を飲んだのを見て、俺も決めた。

「んじゃ、俺も飲むよ」

麗馨が飲んだから。その言葉は心に仕舞っておき、錠剤を手にして一気に飲んだ。

「本当に何も起こらないな。坂田(あいつ)が言ってたこと本当なのか?」

「さあねー」

と答えたのは薫だった。

「あれ?薫も飲んだのか?」
「うん、敦が飲んだ後私もすぐ飲んだよー」

こんな時でもおめでたい二人である。

「んじゃ時間もないし、そろそろ行くか」

まるで散歩にでも行くような軽さだが、その言葉の奥には確かな重みがあった。
「そうだね!」
「おう」
「行こっか」
それぞれが思い思いの返事をし、俺たちは生徒玄関へ向かったのであった。

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