異世界転移して無双できるほどこの世は甘くなかったようだ…

茅ヶ崎 大翔

プロローグ〜魔物の登場〜

自室へ入り込む日差しを感じて、俺は目を覚ました。時計に目をやると、その針は午前六時を指している。いつもより少し早いが、俺はベッドから出ることにした。
下に降りて人気(ひとけ)のないリビングへ入る。俺はトーストを焼き、適当にサラダを作った。

そろそろ自己紹介をしておこう。俺は七木湊(ななぎ みなと)。地元の私立高校である零藍(れいらん)高校に通う1年生だ。父親とは幼い頃に死別し、母親も家を開けることが多い。姉もいるが、姉は今、大学生なので県外で一人暮らしをしている。つまり今、家にいるのは俺ただ一人だ。寂しい朝食と身支度を済ませ、暇つぶしにテレビをつけてみると信じられない文字列がそこにあった。

"未確認生物到来 首都圏は壊滅状態"

俺は目を疑った。全長は10メートルくらいだろうか。ゴジ○のような風貌をしていて、手当たり次第に焔(ほのお)を吐き、人や建物を襲っている。映画のような光景を目にし、俺は暫く唖然としていたが、何かの間違いだろうと思いチャンネルを変えた。しかし、チャンネルを変えてもまた同じ光景が映った。一体何が起こっているんだ。

しかし、考えても何も始まらない。俺は親友である津田敦(つだ あつし)にLIME(ライム)を送ることにした。LIMEとは、簡単なメッセージをやりとりできたり、無料通話やビデオ電話などを楽しめるソーシャルネットワーキングサービスの事だ。

"ニュースで、未確認生物が来て首都圏壊滅とか言ってるんだが今日学校あると思うか?"

と、彼に送り、またテレビに戻った。テレビでは相変わらずゴジ○の実況が続いている。そうしているうちに敦から返信が来た。

"まぁ首都圏は大変だけどこんなド田舎にそんなの関係ねぇだろw
学校はあるとおもうぞ"

ちなみにここは本当に超田舎で、信号がない交差点や舗装されていない道路がいくつもあるくらいである。

"やっぱり行かないとだよな
あ、俺暇なんだよw
お前ん家行っていい?w"

決して、寂しいからとは言えない。

"でも、俺ん家親いるしな…
あ、親今日遅番だわw
まだ寝てるw
いーよ、来いよw
ていうか、もうすぐ学校なのに俺ん家来て何するつもりだよw"

"いいからいいから!w
んじゃ、行きまーすw"

寂しいということを一応カモフラージュしつつ了解を取り、俺はすぐ自転車に飛び乗った。敦の家までは、飛ばせば5分で着く。

ーーー5分後ーーー

俺が敦の家に着くと、敦が出迎えてくれた。
「よう」
「おう」
「まぁ中入れよ。あんまり時間ないけど」
「おう、入らせてもらうぜ」
彼の部屋は綺麗に掃除されていた。敦はテレビをつけ、相変わらず実況されているゴジ○を見ている。と、不意に敦が喋り出した。

「なぁ、これってずっと変な怪物映してるけど、撮ってるカメラマンは大丈夫なのか?」
「お前、いきなり変なこと言うなぁ。大丈夫だろ」
と、その刹那。
おぞましい雑音がテレビから流れ、テレビが映らなくなってしまった。俺たちはただただ、顔を見合わせることしかできなかった。

「ほら…言ったじゃん…」

と、無感動に呟く敦。

「あ、ああ、本当だな。…ていうか、もう学校行こうぜ。そろそろ時間だろ?」

俺は暗い空気を払拭するような明るい声で言った。

「お前、来て数分じゃん。何しに俺ん家来たんだよ…まぁ少し早いが行くか」

こんな時でも、敦は応えてくれた。

…この決断が彼らの運命を大きく変えることになるのだが、彼らはそれに気付くよしもなかった。

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